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食品の原産国

スーパーなどの食料品売り場に行くと、様々な食品が売られています。皆さんはその食品に貼られているラベルを見たことがありますか。

ラベルには品名、消費期限、加工日、加工者などのほかに、原産国名が記載されています。日本の食料自給率は低いため、ラベルを見てみると実に多くの食品が日本国外で生産・製造されていることが分かります。

図1:日本における⾷料⾃給率の⻑期的推移

(出所)農林水産省 平成30年度 食料・農業・農村の動向、令和元年度 食料・農業・農村施策

今回はエビを事例に食品が海外でどのように生産されているのか見てみたいと思います。
エビフライや天ぷらなど、子どもから大人まで大人気の食材であるエビですが、その90%以上はベトナムやインドなど国外からの輸入に頼っています。現在はランキング外ですが、近年注目を集めているのはインドの隣国であるバングラデシュで、新たな生産地として日本のバイヤーが注目を集めている国のひとつです。
では、バングラデシュでどのようにエビがどのように生産されているのでしょうか。

図2:えびの国内生産高と輸入量

(出典)財務省貿易統計:統計品別表、e-Stat:平成30年度食料需給表より作成

注:1)エビについては、このほかエビ調製品(744億円)が輸入されている。

図3:我が国の主な輸入水産物の輸入相手国・地域

(出所)水産庁 令和元年度 水産白書

まず問題となるのが養殖池の確保です。バングラデシュから日本に輸出されるエビは、養殖エビです。ですので、エビを養殖する池が必要になるわけです。養殖池を作る際には、元々農業であった土地を地元の富裕層や企業が買い取ります。農地を手放す人々はお金に余裕になく、発言力も小さな貧困層です。土地を手放す際に一定程度のお金を貰えますが、土地を手放すことで農地という生計を立てる手段と食料を入手する手段を失ってしまいます。

そこで、貧困層は賃金を得るために、エビの養殖池で働くことになるのですが、現地で聞き取りをしたところ、養殖池での仕事は日雇いであったりするため収入を得られない日もあり、得られたとしても1日に約390円程度です。バングラデシュ農村の世帯での平均所得が約17,100円であることを考えても、この所得は少ないと言えるでしょう。また、養殖池に入って掃除を行ったり、エビの収穫作業を行ったりと肉体労働であるため労働環境は良いとは言えません。このような状況で、養殖池の所有者と労働者間の貧富の格差が拡大してしまいます。

写真1:エビの漁獲作業

(出典)筆者撮影

次に問題となるのが塩水の使用による影響です。エビは淡水ではなく塩水で養殖されます。そこで養殖池には海から汲みあげた大量の塩水が注がれます。日本では塩水が漏れ出さないように遮水シートを張ったり、コンクリートで池を作ったりするなどの管理がなされているいますが、バングラデシュの養殖池は素掘りです。ですので、塩水が土に浸透して隣にある農地や、地域一帯で農作物が生育不良となってしまう、という現象を引き起こしています(1)
また、多くのバングラデシュの農村では水道が通っていません。そのため村人は飲料水用の池に水を汲みに行って飲料水を得ている場合が多いのですが、現地での聞き取りなどからもこの飲料水用の池の水にも塩分が浸透することで場合によって飲めなくなってしまうそうです。

写真2:村人が飲料水を汲む素掘りの池

(出典)筆者撮影

最後に問題となるのが抗生物質などの薬品の使用による影響です。エビは非常にデリケートな生物です。病気にもかかりやすく、すぐに死んでしまいます。そこで大量の抗生物質などの薬品を投入します。実際にエビの養殖池に行ってみると数多くの薬品の袋などが置いてあり、必要に応じて使用しているとのことでした。
また、このような抗生物質などの薬品と塩水が混ざった水が大量に海に放出されることによって、マングローブ林などの生態系にも悪影響を与えていることが指摘されています。

写真3:マングローブ林(世界遺産のシュンドルボン)

(出典)筆者撮影

写真4:水揚げされたエビ

(出典)筆者撮影


さて、このようなエビの養殖を皆さんはどのようにお考えになったでしょうか。安く販売されている食品の裏では様々な人たちの苦労があります。もちろん、バングラデシュで生産されたすべてのエビが問題だというわけではありません。しかし、食品ラベルの原産国を見て、その食品が生産・製造された国、その過程を調べて考えていることで、エコ・環境問題・貧困問題など、様々な問題を考えるきっかけになるのではないでしょうか。

例えば「食品名」と「生産国」でインターネット検索してみるのもひとつの手段かも知れません。さまざまな記事がヒットすると思いますので、気になったものを少し読んでみると、食品について知らなかったことを知る機会になると思います。また、「海のエコラベル」というものもあります。このラベルがついた食品は資源や環境に優しい方法で生産されたことを証明するものです。

(出所)水産庁 令和元年度 水産白書

皆さんもぜひ次回にスーパーなどの生鮮食品コーナーに行かれた際には、食品ラベルの原産国や「海のエコラベル」がついているかなどを見てみてください。

(1) Haque, A. K. M. M., Jahan, M. S. and Azad, M. A. K., “Shrimp Culture Impact on the Surface and Ground Water of Bangladesh”, Iranian Journal of Earth Sciences, 2010, No. 2. pp. 125-132.


この記事は 立命館大学大学院 国際関係研究科
バングラデシュの飲料水問題と開発援助の調査研究中
山田 が担当しました

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