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フィリピン・マニラ首都圏のごみ処理事情

フィリピンの北部ルソン島に位置する首都マニラ。17の市町から構成されるマニラ首都圏は、東京23区とほぼ同じ面積に、約1.4倍の1,348万人が暮らしています。

都市部の人口拡大に伴い、家庭から出るごみは増加傾向にあります。国内最大の住民を抱えるマニラ首都圏では、家庭ごみと産業廃棄物の排出量が1日当たり1万トンを超え、フィリピン全体の廃棄物排出量の4分の1を占めています。

■ごみは「自然に戻るか」が焦点

フィリピンでは、大気汚染浄化法で一般ごみの焼却が原則禁止されており、大半のごみは最終的に埋め立て処分となります。そのため、微生物の働きで分解されて自然に戻る「生分解性(biodegradable)」か、自然に戻らない「非生分解性(non-biodegradable)」であるかが、分別の大まかな判断基準となっています。

マニラ首都圏にある複数の自治体では、非生分解性の使い捨てプラスチックの使用や販売を禁止しています。2013年からプラスチックの使用規制を実施しているマカティ市では、大型スーパーマーケットに陳列されているごみ袋すべてに生分解性または酸化型生分解性(Oxo-Biodegradable)の表示がありました。
自治体で非分解性プラスチックが禁止されていない場合、生分解性と非生分解性のごみ袋の使い分けのルールは特にありません。

ごみ袋は自然に戻る素材でできています。

日本の自治体の指定袋のように、ごみの種類ごとに色分けされたり、袋自体に印字されたりはしていません。中身を判別しにくい黒い袋の方が、白や透明な袋よりも安価です。それゆえ安さから黒い袋を選ぶ人が多く、中身が見えないために分別の意識も低くなり、家庭での分別が促進されない一つの要因になっている可能性があります。

■分別から回収は住居で違いも

2001年に制定された固形廃棄物管理法の下、ごみの管理は地方自治体が責任を負っており、ごみの種類によって分別や回収の管轄が異なります。

日本人が多く住むマカティ市の条例では、「住宅や商業施設、ビルなどの所有者・賃借者・テナントにおいて、ごみを生分解性と非生分解性に分別すること」が義務付けられています。
収集のための分別要件は以下の通り。

  • 一般家庭・・・生分解性と非生分解性が分かるようにごみ袋に表示する
  • 6戸以上の集合住宅・・・各家庭の義務に加え、責任者がごみ捨ての指定場所とごみの種類ごとに容器を提供する
  • 商業施設と産業施設・・・責任者は指定場所とリサイクル可能なごみの種類ごとに容器を提供する

(出典)2003-095ADOPTING THE MAKATI CITY SOLID WASTE MANAGEMENT CODE

ただし、一般家庭のごみ袋に生分解性のごみか、非生分解性のごみかを表示する義務はほとんどの場合守られていません。

自治体ごとに条例が存在するものの、実際の生活ごみの分別や回収方法は、住んでいる建物や住宅地のルールに準拠します。私が住むマカティ市のコンドミニアムでは生分解性と非分解性のごみ、ビンや缶、新聞紙などのリサイクル可能なごみ、その他の4種類に分けるよう指示されています。

都市部には超高層コンドミニアムが林立しています。ごみ捨てのたびに地上階に降りるのではなく、各階備え付けのダストシューター(写真)に投入する、各階のごみ捨て部屋に置く、または決まった時間に廊下に出して係員が回収する方法などが一般的です。

一方、住宅地のごみ出しは、生分解性と非生分解性でそれぞれ曜日が定められており、指定の収集場所に置くか、玄関の前に出しておきます。

商業施設の裏路地には、スーパーや飲食店から出たごみが次々と山積みにされていきます。

残念ながら、多くの家庭や施設で細かな分別は徹底されていません。上の写真は商業施設のごみ捨て場です。食べ残しや紙くず、プラスチックなどが一緒に入っている袋も複数見受けられました。

各施設で収集されたごみは路地裏などに置かれ、収集車に乗った民間の清掃員らが一軒ずつ回収していきます。マニラ首都圏のごみの回収率は2017年時点で85%にとどまり、15%は道端や河川、海に投棄されていると言われています。

住宅地を走行しながらごみを回収していきます。

■衛生的な処分を目指す政府

マニラ首都圏で回収されたごみは中継基地やジャンクショップを経て、郊外の最終埋め立て地に運搬されます。

埋め立て地といえば、従来はごみを分別せずに積み上げる開放投棄型の処分場(オープン・ダンプサイト=ごみ山)が主流でした。かつての「スモーキーマウンテン」や「パヤタス・ダンプサイト」をイメージする人もいるのではないでしょうか。

環境への悪影響が深刻なことから、政府はごみ山を違法と見なし、衛生的な処分場(サニタリー・ランドフィル)へと切り替えを進めてきました。

動きは2017年以降に本格化し、環境天然資源省は2021年5月、全国335カ所の違法なごみ山をすべて閉鎖したと発表しました。2022年末までに衛生的な処分場を300カ所に増設する意向を示しています。

■スラムに住む貧困層が分別の担い手

マニラ市トンドのハッピーランド地区でごみを運ぶ少年。(写真は2019年撮影、以下同様)

分別済みのリサイクル可能なごみはジャンクショップなどに運ばれますが、家庭や商業施設からはあらゆる種類のごみが混ざったまま捨てられます。専門業者やごみ収集車の補助員が仕分けする場合もある一方、大量のリサイクルごみを分別しているのが一部のスラムに住む貧困層です。

その一つがマニラ市トンドにあるハッピーランド地区とその周辺地域。表向きは最終処分前の中継基地がある場所です。拡大するごみの量に反して最終処分場は不足しているため、中継基地が受け皿となり、一角にごみが何年も放置されたままのケースも少なくありません。

居住区域へ車両は入れないため、入り口がある大通りにはごみ収集車がひっきりなしに到着します。

ごみは居住区域内に運ばれ、住民らが家の前に座り込み、素手で紙類やプラスチック、缶などに分けていきます。分別されたリサイクルごみは1キロ数十円程度で売られます。

生活ごみが大半を占めるため、一帯は悪臭を放っています。衛生上の問題だけでなく、医療廃棄物や感染性廃棄物も含まれることから感染症のリスクも常に隣り合わせです。

軒先で、生活ごみ(中央)から紙類やプラスチックなどを分け出している様子。

住民によって分別されたごみはまとめて運び出され、ジャンクショップへと売りに出されます。

住居や商業施設で有価物を漁って現金収入を得る個人や組織的なスカベンジャーも依然として多いのですが、これらの地区のように、ごみが各地から集まってくる地域も存在するのです。

■変わりゆく環境への取り組み

フィリピンのごみ処理が後れを取っている理由の一つが、政府の資金不足です。医療や公共事業が優先され、ごみやリサイクルを巡る問題は後回しにされてきました。最近は世界的な環境意識の高まりから、関連法の整備や持続可能な社会に向けた取り組みが進んでいます。衛生的な処分場への切り替えも重要な一歩となりました。

現在も最終処分場の数は限られているため、ごみに対する国民の根本的な意識改革や、適切な回収・処理の周知徹底は急務となっています。経済成長に伴い、環境に配慮したごみ焼却設備の導入が今後検討されていく可能性も大きいのではないでしょうか。


この記事は
元経済記者でマニラ在住のフリーライター
大堀 真貴子 が担当しました

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