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対談企画 サーキュラーエコノミーは誰のため? その3
サーキュラーエコノミーは顧客価値

細田 衛士(ほそだ えいじ)様
東海大学副学長、政治経済学部経済学科・教授
慶應義塾大学名誉教授
中部大学理事、学事顧問、名誉教授

1993年より国税庁中央酒類審議会 新産業部会リサイクルワーキンググループ座長、1995年通商産業省産業構造審議会廃棄物小委員会委員、2000年運輸省FRP廃船の高度リサイクルシステム・プロジェクト推進委員会委員、2003年環境省政策評価委員会委員、2011年中央環境審議会委員、2011年林政審議会委員、2023年「サーキュラーエコノミーに関する産官学のパートナーシップ」事業における総会、ビジョン・ロードマップ検討ワーキンググループの委員などを歴任

喜多川 和典(きたがわ かずのり)様
公益財団法人 日本生産性本部 エコ・マネジメント・センター長
上智大非常勤講師

長年にわたり、行政・企業の環境に関わるリサーチ及びコンサルティングにあたる。 経済産業省循環経済ビジョン研究会委員(2018年度~2019年度)、ISO TC323エキスパート(2019年~2023年)、NEDO技術委員などを歴任
おもな著書に、「サーキュラーエコノミー 循環経済がビジネスを変える」勁草書房、「環境・福祉政策が生み出す新しい経済 “惑星の限界”への処方箋」岩波書店 等がある。

■自動車を生まれ変わらせる

喜多川

ヨーロッパの自動車メーカーである、ルノーや、ステランティスグループが、中古車から車を製造し始めています。

イタリアに初のサーキュラーエコノミーハブを開設して、材料の回収と持続可能な再利用の産業化を目的としたセンターオブエクセレンスを構築し、同事業は前年比18%の売上成長を実現しました。
(出典)Stellantisが2023年通年で、記録的な純収入、純利益、 製造用フリーキャッシュフローを達成(Stellantisジャパン株式会社)

上田

ステランティスは、フランスの自動車メーカーとイタリアの自動車メーカーが合併して2021年に誕生した多国籍企業で、『アルファ ロメオ』、『シトロエン』、『DSオートモビル』、『フィアット』、『ジープ』、『プジョー』など複数のブランドを有しているのですね。

(出典)Our Brands | Stellantis

喜多川

彼らは、中古車と廃車のみをモノとしての経営資源として投入し、車、部品、素材を製造します。それらは、 メーカーレベルの品質保証がなされた製品となります。

細田

解体業者が担っている機能も取り込むんだね、自分たちの中に。

喜多川

現在EUで検討されているELV規則の法案に基づいて定められるEPR(拡大生産者責任)における生産者の責務(リユース・リサイクルによる資源循環)を、自分たちの工場の工程に取り込むことで、リユース・リサイクルが外部コストでなくなり、収益をあげるための内部価値に転換させたサーキュラーエコノミーの好事例と言えましょう。

【参考】欧州委、循環性の高い自動車設計・生産・廃車に向けた規則案を発表(独立行政法人日本貿易振興機構)

ルノーはこれまでのところ、サーキュラーエコノミー型の工場を欧州内のみで展開していますが、ステランティスは今後、欧州外にもサーキュラーエコノミーハブを設立する計画を示しています。計画通り実施されるのであれば、ステランティスグループのサーキュラーエコノミー戦略はグローバル展開ということになる可能性があります。

彼らは、サーキュラーエコノミー政策に基づいて自分たちを変えるつもりはない、常にマーケットベースで考えて、消費者がどういう考え方をしているかによって動いていると言っています。
しかしそうは言っても、1つ気になるのが、ELV規則で新車の製造に必要とされるリサイクル材利用量の算定が与える影響です。

例えば、中古車とか廃車だけを自分たちの工場に受け入れて、100%中古の部品を使ってリユースベースの車を造るとします。そうすると、車の再生材利用の割合は100%になりますね。

EUのELV規則では、プラスチックは再生材を25%以上使用することが義務として設定される可能性がありますが、いくつかのサーキュラーエコノミー型工場で生産した車の再生材利用率が100%とカウントしてよいとなるならば、他の新車を作っている工場で生産する車は再生材利用率25%をクリアしなくても、OEMとしては義務をクリアした事になるんじゃないかという懸念です。

これと同じような考えが実際に、EUの容器包装及び容器包装廃棄物に関する規則では採用されようとしています。

【参考】EU、包装材のリサイクルや再利用、過剰包装禁止を義務付ける規則案で政治合意(独立行政法人日本貿易振興機構)

この規則案では、リサイクル材の利用率は個別製品ごとに目標値をクリアしなくてもよいとの方向で検討が進められています。

例えば洗剤のボトルには60%の再生プラスチック使わなきゃいけない、と規定されていても、個別に全部のボトルに再生プラスチックが60%以上含まれている必要はなく、洗剤品目に属する製品の平均として60%を超えれば法の要件を満たすことになるという意味です。つまり高級ブランドでは再生プラスチックが10%しか入ってないものがあっても、大衆ブランド製品では70%以上再生プラを使っていて、全体で押しなべて60%を超えればいいとなります。

だから自動車も、全体で平均した再生材利用率という事になれば、ステランティスやルノーのような再生工場を運営していれば、利用率がぐっと上がりますね。ただし、これまでのところ、ELV規則案ではリサイクルプラスチックのみを算定の対象としており、リユースのプラスチックは算定対象に認めていません。とはいえ、こうしたルールは現実的な事情によって変更されることもあるのではないかと一応気にかけておくべきではないかと思います。

逆に日本が再生材利用率25%を達成するのは至難の業です。これはヨーロッパの自動車メーカーにおいてもほぼ同じなのでこのあたりの動きが気になります。

細田

再生プラスチックなんか、まず集められない。

喜多川

日本にも再生プラスチックを作っている会社がありますが、到底間に合いません。
ヨーロッパでは、全ての製品、容器包装も、車も家電も、何に対しても再生プラスチック使うことが要求されてきています。高品質なプラスチックは取り合いになっているので、日本が高品質の再生プラスチックを輸入するのは、ヨーロッパに限らずかなり難しいと思います。

上田

今までは、再生材は見えないところに使われていた印象ですが、再生材利用率が上がると、使われる範囲が拡大していきそうですね。

喜多川

そうですね、僕が買った車、ルノーなのですが、ダッシュボード脇のプラスチックは再生プラスチックなのではないかと思いました。購入後、ダッシュボードとの隙間が変形してきて、最初は虫一匹通れるような隙間が小ネズミだったら通れるくらいにまで広がりました。最終的には部品交換してくれましたけど、最初の内はディーラーの整備部門に持ち込んでもドライヤーをかけて一生懸命直そうとしていました。

製品に対する要求水準が、日本人とフランス人などのラテン系の人とは随分違うのではないかと思いました。

細田

製品の要求水準も違うけど、自分の車だってEUの人達はちょっとくらい車をぶつけても全然気にしない。バンパーはそのためにあるんだって感じでしょ。

日本の要求水準が厳しいことはいいところでもあるんだけど、サーキュラーエコノミーはある程度許容度がないと難しいんじゃないかな。ただ、例えば日本も再生紙が普及し始めた頃は、真っ白じゃないと嫌だと言われたけど今はみんな普通に使っているし、変形したキュウリもお店で売られるようになってきたみたいに、少しずつ変わっていくのだろうけど、そういう市民の許容度というか、マインドセットは、EUやアメリカと日本は違いますね。アメリカはEUよりも、さらに許容度が高い。

喜多川

そういうところはカルチャーと繋がっていて、日本人は、分別はきれいにする、製品は綺麗じゃなきゃダメ、とかいろんな特徴があって、そこをどうやってサーキュラーエコノミーの方向に収束させていくかは、日本は日本のやり方で、ということになると思います。

■サーキュラーエコノミーは顧客価値

喜多川

ヨーロッパでは顧客価値をベースに、サーキュラーエコノミーを考えようという姿勢が非常に強いんです。
例えば、ヨーロッパは、修理する権利を法制化しようとしており、修理するときに条件によりますが、メーカーにパーツがなくて直せないということを許さない方向で考えています。

例えば、ステランティスグループのサーキュラーエコノミー型の工場は他社の車も受け入れます。そして、他社の車を修理するためにどうしたらいいのかとその車を作った自動車メーカーに問合せた場合、その自動車メーカーはそれを修理するための情報を提供しなければならない可能性が出てきます。

上田

競合に自社の車の情報を渡さないといけないのですか?

喜多川

本来、各メーカーにとって知的財産権に当たるような知財であっても、それを修理して顧客にリーズナブルな形で価値ある製品を提供できる場合には、その情報を提供することが知的財産権よりも優先されるとの判断が適用されるケースが今後出てくるものと思います。

細田

それは法的にはもう合意されているんですか。

喜多川

かなり整備されつつあります。
知財などや企業にとっての秘密情報を、「出せない」と言える権利と、 「出さなければならない」義務とが交差することになるわけですが、そこで重要な概念として「顧客価値」優先が語られるようになってきています。

細田

少し話は変わるけど、EUというのは、既存の決まりにこだわらないところがあるよね。
例えば、アパレル事業者が売れ残った服や靴などの衣料品を廃棄できなくなるという規則ができてきているけど、「捨てちゃいけない」というのは所有権に対するすごい制約だと思うんですよ。

【参考】EU、エコデザイン規則案で政治合意、未使用繊維製品の廃棄禁止へ(独立行政法人日本貿易振興機構)

資源は捨てちゃいけないぞとなったら、節約して利用するか、 サーキュラーエコノミー的に高度な資源循環するかしかないじゃないですか。これはとても面白い。

■修理する権利

喜多川

アメリカでは、修理する権利に関する法案づくりに着手している州が増えているのですが、その修理する権利を1番求めているのは、車のユーザーなんだそうです。

【参考】修理する権利: 米国における最近の動向(The World Intellectual Property Organization (WIPO))

新車を買おうとしても、半導体不足などで納車は3ヶ月後とか6ヶ月後になる。ならば古い車を修理しようとしても、スペアパーツがないから直せないと言われてしまう。そこで修理する権利だ!ってことになるのだそうです。

細田

日本で「修理する権利」が整備されたら、安い電気製品が売りにくくなるだろうね。

上田

直すよりも買ったほうが安いですよ。

細田

それは経済システムの問題だよね。
作って壊すというシステムの中で修理しようとしても高くつくけど、 修理を前提にしたシステムを組んでおけば、修理するのが当然安くなる。それはもう経済システムの作り方の問題なんだけど、日本はとにかく、作って壊す、ということで経済成長してきたので、もうずっと日本人の、我々の頭にこびりついているんですよ。

日本はGDPが世界4位になりましたね。ICT投資をサボってきたとか、それが故のGDPの低下はまずいんだけど、 これだけ豊かな社会で、スーツは何着持っているんですか、何着着るんですか、靴は何足持つんですかって。
靴なんか修理して履き続けたらいいじゃないかと思うけど、作って捨てるビジネスモデルが頭にこびりついてしまっている。

喜多川

例えば家電も、多くの場合に去年のモデルは安くなるように、必要かどうかは別として、新機能や流行のデザインを施した新製品を出すことによって古いものを陳腐化させるようなビジネスモデルは多分、日本の家電メーカーぐらいだと思います。ヨーロッパでは、毎年新しい製品が出て1年前の製品を陳腐化させる売り方はやっていません。

定番の冷蔵庫とか洗濯機を出し続けながら、必要に応じてきちんとメンテナンスして、故障しても修理して使い続けられるようにしていくようにすることで、単に売れなくなったから儲からない、のではなく、それ自体がビジネスモデルとしてきちんとマネタイズできて成立するようなビジネスモデルを開発していく、という風に展開していくことが、サーキュラーエコノミーです。

細田

そして、それを評価する消費者がいないとダメなんだよね。消費者がそれを選ばないと、そうなっていかない。
例えば、イギリスのアクアスキュータム(Aquascutum)に行くと、10年前に買ったのと全く同じコートが売っているし、修理もできるんです。

上田

アクアスキュータム(Aquascutum)は、トレンチコートが有名なイギリスの老舗ファッションブランドですね。

(出典)STORY(アクアスキュータム)

細田

高度経済成長の時の私たちの幻想ですよね。豊かになることを目指して、作って・作って・作ってしまった。当時は耐久消費財がどんどん入れ替わる時でもあったので、やむを得ないところもあるんだけど、今はいろんなものが普及しているので、この先もっともっとはないでしょう。大事に使うことをユーザーが評価して、豊かな精神性、果実を積み取っていかないと。

上田

精神性ですか?

細田

今日はちょっと早く仕事を終わって、シアターに行きましょうよとかね。
そうやってエンジョイしているのが、EUの羨ましいところだと思うんだよね。
せせこましくみんな残業しない。

上田

残業、、、しないように頑張っていますが、仕事をしても、仕事をしても終わらないのです。

細田

僕の教え子がフランスに行っていましてね、フランスはバカンスが4週間なんですよ。さらにバカンスの前に仕事をしようと言うと、嫌な顔をするそうなんです。「俺、 2週間後にバカンスだから、そういう話はやめてくれ」って。
それで、バカンスから帰ってきたら、今度は、「バカンスから、帰ってきたばかりだ」って。
バカンス前後の2週と2週とバカンスの4週、合わせると8週間ですよ。でも、フランスの生産性は日本より高い。

喜多川

フランスの生産性の方が高いということは、日当たりでは日本の倍以上の生産性になりますね。

細田

1つには、日本は無駄な時間を過ごしているということありますよね。海外は時間で終わりますから。

上田

私自身、無駄な仕事をしている認識はないのですが、外資系の会社に勤務している友達と話をした時に、日本人は完璧を求めるから完成度を上げるための時間がかかってしまうのではないか、という仮説に至りました。

細田

経済学的に言うと、何かの取り組みをした時に、最初の方は生産性が高いけど、その後、生産性はだんだん下がってくる。

EUでは、まず概念設定があって、目的は何で、それを達成するためにこういう規則を作る、という風に動いていきますよね。だから、規則に多少穴があっても、全体的に動いていって新しい経済を作る方向になっていくじゃないですか。でも、日本人は、神は細部に宿るじゃないけど、細かいところにすごく時間かけるから、生産性は上がらない。
例えば、ごみを資源として細かく分別するとか、それも大事なことだから、この折り紙の文化をどう変えるかは難しいんだけど、でもやっぱり改善の余地はものすごくあるよね。

喜多川

日本だけじゃなくて、ドイツ人も完璧主義者ですよ。日本の100点主義とはちょっと違うかもしれないですけど。

細田

日本とドイツは、ちょっと違うね。ドイツ人は、理性があってその理性で理詰めて解いていったことをベースに完璧を求めるというカントの世界じゃないかな。

例えば茶道のお手前というのがあります。お茶はどう飲んだって構わないんだけど、理性は関係ない精神性の世界というか、美意識ですね。

一方ドイツの場合は、ロジカルに詰めていって正確性を求める。
結果は同じだったとしても、そこに至るまでの精神性の違いがあるんじゃないかな。

上田

精神性が違うとやり方も違ってくる、という事なのですね。

【参考記事】

Stellantis Fosters Circular Economy Ambitions with Dedicated Business Unit to Power New Era of Sustainable Manufacturing and Consumption | Stellantis(October 11, 2022)
SUSTAINera: Circular Economy for a Sustainable Automotive Future


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