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その道の人に聞く

ライフサイクル設計 その2

大阪大学 大学院工学研究科
機械工学専攻
ライフサイクル工学研究室
梅田 靖 教授

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持続可能社会の実現に向けて世界中で様々な研究や取り組みが行われています。
今回のインタビューは、「環境に配慮したものづくり」の研究を設計学、モデリング、メンテナンス工学、知識工学などを基礎技術とした広い視点から研究をされている大阪大学の梅田靖教授にお話を伺っています。

【その2】 持続可能社会シナリオ(3S)シミュレーター

「持続可能社会シナリオ(3S)シミュレーター」というのは、とても面白そうですね。もう少しお聞きしたいのですが。

持続可能社会に向けたシナリオというとその代表例として、IPCC(気候変動に関する政府間パネル: Intergovernmental Panel on Climate Change)発行の温暖化ガス排出シナリオや2050年日本低炭素社会プロジェクトチームによる2050日本低炭素社会シナリオなどがありますが、それらを一般の人が読むと、将来に向けたイメージが湧くのですが、本当にそれを信じていいのかよく解らなくなったりするじゃないですか。
そういうモノを合理的に理解して、いろいろな人が容易にシナリオを描けるツールがあったらいいのではないかという発想で研究開発しています。

実際に、様々な場で公表されている将来シナリオでも、仮定をあたかもできることのように書いていて、それを前提にして明るい未来がひらけていたり、すごく悲惨な結果になっていたりするのですが、この研究は本当にそのシナリオが成立していくのかと言うことを論理的に分析・把握し、シミュレーションによる評価を行って、将来のものづくりのあり方を示すことを目的にしています。

図は卒業生が描いた概念の漫画ですが、科学者と経営者と一般市民と政策担当者がいて、みんなでシナリオのブロックとシミュレーションのブロックを組み合わせて将来の姿が画面に現れてくるというようなイメージなのです。シムシティのような世界観ですね。

例えば、市民生活というブロックならば、一般市民はアメリカ型の生活を望んでいるのか、高齢化社会を迎えたときに「トトロ」にでてくる「さつき」と「メイ」の世界のように里山里海生活のような生活を望んでいるとか、ドラえもんの世界のような都会的生活を望むのか、それぞれの要素のシーンを用意しておいて、それらを入れ替えることで様々な将来像が描ければ良いと思っています。
そして、その描いているブロックを組み合わせていくと社会全体が見え、その社会ではCO2の排出量がどうなるかとか、エネルギーはどれくらい不足するかと言うようなことをシミュレーションできるようになると我々の将来像に対して社会的な合意が得られるようになるのではないかと考えています。

具体的にはどのようなモノなのでしょうか?

3S シミュレーターで行っていることは、まず、シナリオの文章構造を論理的に解析して、前提となる条件や仮定、根拠が何であるかというようなことを把握します。
そして、前提条件とシナリオの結論の論理的な繋がりを明確化することで、前提条件が変わったときに結果がどのように変わるかを計算する・・・というようなことです。

発表されているシナリオを理解するだけではなく、その文脈に基づいて、それぞれの立場の人が描いている将来像に近づけるために、前提の設定や変数となる文章を変えることで、目標になる結果にしていくためのシナリオを作ることができます。

下図はハイブリッド車の普及に関するシミュレーションです。
これは、産総研の松本光崇さんが中心になって作られた「将来クリーンエネルギー自動車がどの程度普及するか」を記述したシナリオを分析してみたモノなのです。まずは、文章を細かなセンテンスごとに小分けにしながら、ここの部分は仮定で、ここの部分が事実であるというようなことを色分けしてその論理関係を結んでいきます。
そうすると、このシナリオの大前提が何で、その根拠が何であるかという関係性(構造)が見えてくるようになります。

さらに、このシナリオを作成するために開発された「製品普及シミュレーター」が繋がれています。
シミュレーターを動かすと下図のように計算結果が返ってきます。
このシミュレーション結果を解釈してシナリオ文章を作ることで、シナリオの根拠が明確になると同時に、その前提をおきかえることでシミュレーション結果が変わってきて、結果を確認しながら、新たな将来シナリオができあがるということになります。

「シナリオ文章」ということは、文章として読むことができるのですか?

そうです。最終的にはシミュレーションの数値グラフなどの「絵」がついたシナリオの文章を作ります。シナリオの内容については100%シナリオの作成者に依存していて、シナリオ作成を手伝うだけと言う意味では、マイクロソフトワードに近いですね。

文章構造を把握するというのが難しそうですね。

確かにそこが一番大変な作業です。
どの言葉が本当の大前提になっているか、その根拠は何なのか、事実なのか、仮定なのか・・・などの文章を色分けしながら構造を分析していくというのが、結構大変な作業で、家内制手工業的作業の積み重ねです。エレガントな方法ではないですね。

その作業の後にできあがった文章構造で、その前提条件のなっているいくつかの文章を書き換えることによって、シミュレートされてくる社会状態などの結果が変化するというイメージです。

アウトプットを文章として読むことができて、さらに文章の入力によって結果が変わってくるというのなら、私たちでも、シナリオが書けるという気がしますね。

まさしくそこが目標ですね。
最終的には、このシミュレーターを用いたシナリオの利用方法を提案して、シナリオ研究者、政策決定者、一般市民に利用してもらって様々な将来像を描くことで持続可能社会の実現に貢献したいと考えています。

【参考資料】

温暖化ガス排出シナリオ
2050日本低炭素社会シナリオ

ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回は、「ライフサイクル設計・ライフサイクル戦略」についてお聞きしています。

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