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カーボンプライシングの現状と展望 その7
~「グッズ課税」「バッズ課税」~

前回は、炭素税の概要や導入の歴史、税収の使い道といったお話を伺いました。

Q)今回は税収の話になったところで、「グッズ課税」「バッズ課税」という、ちょっと聞き慣れない用語が出てきたので、そこからお伺いしたいと思います。


写真:小嶋 公史 様

A)では、ここで「グッズ課税」「バッズ課税」という考え方について紹介しておきたいと思います。「グッズ」(善いこと)とは、労働や企業活動によって収入を得ることで、それに課税する所得税や法人税は「グッズ課税」と呼ばれます。
一方、「バッズ」(悪いこと)とは、CO2の排出など悪影響を与えることで、炭素税は「バッズ課税」に当たります。一生懸命に働けば働くほど課税される「グッズ課税」よりも、環境への悪影響に課税される「バッズ課税」の方が、理にかなっていると思われませんか?
Q)確かにそんな気がします。でも、それほど広く普及していないのは、何か理由があるのでしょうか。
A)バッズ課税は税としての機能とバッズを抑制する機能が対立している点に留意が必要です。炭素税の例で言うと、CO2削減効果が非常に高かった場合、課税対象であるCO2が大幅に削減されますから、税収が大幅に減ってしまうのです。
また、炭素税には消費税と同じような逆進性もあります。炭素税を効果的に活用するためには、税収を比較的安定化させるとともに激変緩和の意味でも段階的な税率の引き上げを行うとともに、政策目的に応じた税収使途の検討、逆進性のような負の側面への対策まで含めた慎重な制度設計が必要でしょう。
Q)フランスの「黄色いベスト運動」は、炭素税の引き上げに反対するものでしたね。
A)ランスは、2030年までに約100ユーロ/t-CO2までの段階的な炭素税の引き上げを計画していますが「黄色いベスト運動」によって、2019年の引き上げは見送られることになりました。
黄色いベスト運動は、教育費の有償化や地方の公共サービスの低下など弱者切り捨ての傾向に不満が高まっていたところに、地方の車に頼るしかない人々など弱者への対策が不十分なままに炭素税を引き上げようとしたために不満が爆発したということだと思います。負の側面への対策が不十分な形での炭素税の引き上げが直接の契機となったとは思いますが、真の問題は弱者切り捨ての政治への不満と考えるべきでしょう。
Q)実際に炭素税はどれくらいの税率が想定されるのでしょうか。
A)炭素価格の予測には大きく分けて2つのアプローチがあります。1つは「限界削減費用」(一単位当たりの削減費用が、削減が進むにつれて次第に高額になるという前提でのシミュレーション)アプローチで、このアプローチで2050年にパリ協定の2度目標や1.5℃目標を達成するのに必要な炭素価格を推計すると、前提条件の違いによってCO2排出1トンあたり、数千円~数十万円といった幅広い結果が得られています。
もう1つは、炭素税や排出権取引に対して生産者や消費者がどのように反応するかをシミュレートするアプローチで、こちらのアプローチでそのような炭素価格を推計すると、概ね数万円程度になっています。IGESの研究でも、2050年にGHG排出を80%削減するために必要な炭素税は約5万円/t-CO2という結果になりました。
Q)すでに炭素税を導入している国も多い中で、実際のデータに基づく経済分析から炭素税の効果は予想することはできるのでしょうか。
A)なかなか難しいところです。景気変動などの影響を取り除いて炭素税だけの効果を取り出すためには多くのデータが必要になりますが、高額な炭素税を課した事例がまだほとんどないので、実際のデータに基づく手法ではパリ協定の緩和目標達成に必要な高い水準の炭素税の効果検証は難しいでしょう。将来を仮定したシミュレーションを活用した効果予測であればすでに行われています。
Q)これから世界的な動向はどのようになっていくのでしょうか。
A)2018年に公表されたIPCC「1.5℃特別報告書」は、世界に大きな衝撃を与えました。脱炭素を加速するための経済的ツールとして、排出権取引や炭素税といったカーボンプライシングの導入が進むのは不可避と言えるでしょう。
日本の議論が停滞している一方で、EUは「国境炭素税」の検討を始めています。これは、カーボンプライスを十分に課していない国からの輸入に差分を課税するというものです。これをWTOのルールと整合させるといった具体的な検討がすでに行われています。日本も、こうした世界の流れに遅れることなく、建設的な議論をして前に進めるよう、IGESとしてもその一助を担いたいと考えています。

ありがとうございました。

あとがき

ISAPでのセッションが「カーボンプライシングの建設的議論を行うために」と題されていたことが、お話しを伺ったお二人の思いを象徴されていたのでしょう。これから日本でも建設的な議論が進み、CO2の削減がスムーズに進むよう、私たちもできることを考えていかなければならないと思いました。
長い連載をお読みいただき、ありがとうございました。


西山 この記事は
DOWAエコシステム 環境ソリューション室
西山 が担当しました

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