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地球温暖化をどう理解するか その2
〜地球温暖化の要因について IPCCレポート〜

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
理事長
浜中 裕徳(はまなか ひろのり)様

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
理事長挨拶:IGESが目指すもの

2015年11月~12月にパリで開催された気候変動枠組条約締約国会議(COP21)。この会議は、明確な長期目標の下で「待ったなし」の目標設定と温室効果ガスの削減実施が全ての国に求められることとなった歴史的な会議として注目されています。

今回のインタビューは、長年、日本の環境政策に携われてこられた IGESの理事長 浜中裕徳 様に「地球温暖化問題」について、お伺いしました。

【その2】地球温暖化の要因について 〜IPCCレポート〜

※IPPC(気候変動に関する政府間パネル)

「温暖化」自体を否定している方もいるし、温暖化という不確実性のある事をどのように理解していいのかわからないので、どうとらえたらいいのかをお伺いしたいと思っています。

お尋ねのことはすごく当然のことだと思います。
今回は、本題である地球温暖化についてお話しします。

私自身は科学者ではなく、行政の実務を長くやってきた人間ですから、そういう人間が科学そのものについて自信を持って語るのは難しいのですが、地球温暖化に関して科学者たちがどういうことを発信してきたかについては、IPCCの評価報告書として、この四半世紀ほどの間に5回にわたり公表されてきましたので、お話しさせていただきます。

1990年に当時の環境庁に地球環境部が設置されましたが、その少し前の1988年にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)という国連の組織ができ、最初のレポートが1990年に公表され、5回目の最新のレポートが2013年から14年にかけてまとめられ公表されました。このレポートは、地球規模の気候変動問題に関して調査・研究を行っている世界中の気象学をはじめとした様々な分野の数千人もの科学者が、30年近くに亘り積み重ねてきた科学的知見について、それぞれの時点で包括的に評価したものです。この意味で、今回の第5次レポートは科学的知見の集大成といっても良いものになっています。

■科学的根拠とその信頼性

IPCCは、3つの作業部会に分かれています。
まず第1作業部会は、気候システムや、気候変動の自然科学的根拠、つまり地球温暖化に関する観測された変化、その原因、今後の地球温暖化の予測について、科学的知見を評価しています。
第2作業部会は、気候変動がもたらすリスクや影響、地球の生態系や人間社会の脆弱性、影響に対する人類社会の適応策について、科学的知見を評価しています。
第3作業部会は、地球温暖化を防止する対策に関し、経済的、技術的な観点からの知見を評価しています。

1988年の第1次レポートでは、人間活動による地球温暖化への影響については、未だ明確には評価しきれていませんでしたが、1995年の第2次レポートでは「人間活動による地球温暖化が既に起こりつつあることが確認された」とされ、科学が進歩して温暖化の原因が解明されるとともにだんだん強い表現になり、第5次レポートでは「(人間活動の影響が)20世紀半ば以降に観測された温暖化の支配的な要因であった可能性が極めて高い」という言い方になっています。

こちらに、気象庁が中心になって翻訳した第5次レポート・第1作業部会報告書の政策決定者向けサマリーから、本当に人間活動が影響しているのか、という重要な部分抜き出しましたのでご覧ください。
なお、政策決定者向けサマリーは実質30ページくらいのもので読みやすいので是非お読みいただきたいと思います。レポートの原文(英語)は3つの作業部会報告書など全部あわせて5,000ページくらいあるんですよ(笑)。

気象庁、気象変動2013 政策決定者向け要約

この図表は、いろいろな要因別の放射強制力(地球の大気を温める力)を示しています。

IPCCによれば、太陽活動による放射照度変化や火山の噴火により生じた微粒子は、過去1世紀に亘る正味の放射強制力に対してわずかな寄与しかしていません。圧倒的に二酸化炭素、メタンなどの人為的排出の影響が大きいことが端的に示されています。

さらに、これら様々な要因別の放射強制力を考慮し、スーパーコンピュータを使って世界の気候をモデルによりシミュレーションし、その計算結果を、観測値とともに示したのが次の図です。ブルーの帯で示しているのが自然の太陽活動、火山活動等の影響だけで計算した場合で、ピンクの帯で示しているのはそこに人間の活動の影響も加えたものです。また、観測された値を黒の実線で示しています。

全ての大陸、海洋や、陸域全体、海洋表層全体で比較すると、明らかに20世紀後半からの急激な温度の上昇が観測されており、これがピンクの帯とまさに一致しています。自然起源の影響だけではこの温度の急激な上昇を説明できないということになります。

IPCCは、以上を総合して人間活動の影響が観測された温暖化の支配的な要因であった可能性が極めて高いと言っています。しかも、気温を上昇させる要因がどんどん大きくなっていることも示しています。

去年、常総市を中心に鬼怒川が氾濫した洪水災害がありましたが、このような異常な気象現象は世界中で起こっています。昨年5月下旬にインドが熱波に見舞われ、年末のアメリカで巨大な竜巻が発生し、多くの方が亡くなりました。いままでなかったようなことがいろいろな所で次々に起こってきており、皆さんも、どこか変だ・・と気づかれていると思います。

IPCCのレポートでは、地球温暖化が進むと異常な気象現象の強度や頻度が高まると言っています。

一つ一つの出来事について、「これは地球温暖化が原因だ」と完全に証明するのは科学者にとって難しいかもしれませんが、全体としてみると、そういう異常な気象現象の頻発の根底に温暖化の影響があると言っているのです。

実際、農家の方に話を聞くと、今までのやり方では農業はできないと心配される方もいます。高温障害でミカンの着色が遅れ、あるいは阻害されるという影響が現れていますし、主食の米でも、白く濁った米が混入するという問題が発生しています。特に一次産業に従事されている方々は温暖化の影響を一番はっきり感じられていると思います。

今年も東北地方で数十年ぶりの雪の無い正月を迎えたり、その数日後には沖縄で観測史上初の降雪が確認されるなど、異常気象が起こりました。
温暖化に懐疑的な人の主張に対してはどう思われますか?

懐疑的な人に対しては、これまでお話しした科学的な根拠をみていただきたいとおもいます。
IPCCの評価には数千人もの科学者が貢献していると先ほど申しましたが、レポートの採択にあたっては各国政府の代表も入って、どういう表現が良いのか調整をして合意されたものが公表されるのです。

政策的観点も含めて表現が丸められてしまっても、先ほど紹介したような強い言い方をしているということが非常に重要だとおもいます。

世の中には人為的な温暖化に対する反対など、いろいろな見解の本があり、それらは刺激的なタイトルだったり面白おかしく書いていて、影響されている人もいることは知っています。
しかし、1988年から足掛け四半世紀年以上に亘り世界中の何千人もの科学者が研究成果を積み重ねて集大成された結論について、頭から否定したり信じないというのはおかしいですね。

ご存じかもしれませんが、学術の世界で価値がある論文と認められるためには、同じ専門分野で研究している人たちに予め原稿を読んでもらうピアレビュー(査読)という厳しい相互批判を経なければなりません。いろいろなコメントをもらい、それにちゃんと答えないといけませんし、反省して書き直すこともあります。
そういうピアレビューを経て学術誌に掲載された研究論文に示されている科学的知見を評価し、四半世紀をかけて集大成したのが累次のIPCCレポートです。

科学の世界ではリスクが0か1かなどということはありえないのですが、地球温暖化のリスクについて1に近いところに来ていると世界のかなりの人が思い始めていることが重要だと思います。

一番懐疑論の政治的影響が強いと言われたアメリカですら、世論調査を見ても、趨勢はここ数年でかなり大きく変わってきています。
共和党系を中心に強い懐疑論や批判があることは承知の上で、オバマ政権が2期目になって温暖化対策に強い行動を取り始めた背景には、国民の認識の変化があり、そのような政策を実施することが、国民から支持されるという強い確信があったようです。

IPCCは御用学者の集まりだから、その報告書も信用ができない、という方もいますが。

「御用学者」という言葉は、そのままそう言われる方にお返ししたいと思います。

アメリカは、御用学者が懐疑派と言えるのではないでしょうか、石炭など、化石燃料ビジネスでお金を儲けたビリオネアと言われるような人たちがいて、政治家に資金を出しています。彼らは自分のビジネスを続けられなくなるような動きに対しては、懐疑論派の科学者やロビイストにお金を出し、都合が悪いことは潰す。そのために必要なお金は幾らでも投入しています。それに群がる学者がいることも確かですね。

1997年の京都議定書(COP3)の削減目標に批准しなかったアメリカも国民意識が大きく変わって来たというわけですね。


ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回は、昨年開かれたCOP21(パリ合意)についてお話しをお伺いしています。


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