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金属回収をするポリマー開発 その3

群馬大学大学院工学研究科
応用化学・生物化学専攻
永井 大介 助教

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群馬大学工学部応用化学・生物科学科 ホームページ

金属を高効率で吸着する水溶性ポリマーを合成し、ポリマー研究の第一人者である群馬大学大学院助教、永井先生にお話をお聞きしています。

今回は、「金属吸着の仕組みをデザインする」についてお話しいただいています。

ファイブロバイオプロセス研究会:レアメタル(希少金属)を効率良く回収できる吸着・水溶性ポリマーを開発
http://www.gunma-u.ac.jp/sb/log/eid24.html

学会で発表してアドバイスをいただいたことからのレアメタル吸着研究のきっかけであったとのことですが、この時点で、硫黄は白金族を吸着しやすいということをご存じだったのですか?

いいえ、この段階では知りませんでした。
学会での発表後に前の上司のアドバイスをいただいてからですね。これをやってみましたら選択性がスゴク良かったのです。

例えばパラジウムと原子半径の小さい元素との混合物で吸着を試したところ、原子半径の小さい物質は吸着せずに、パラジウムだけを吸着できることがわかったのです。

すごい「相性の良さ」ですね。

しかし、当時合成したポリマーが水に溶けないので、これまでの吸着ポリマーに比べて回収量の増加は難しい状態でした。
水と固体を接触させるとどうしても、接触効率が制限されてしまいます。
選択性は高いが、回収量が少ないといった課題は一般的にもあったのです。

それで、最初から水に溶けるようにすればよいのではないかと考えました。
先ず、金属を吸着する硫黄のユニットはそのままにして、水に溶解するユニットを付けたんですね。
ここが機能から考えた有機化合物のデザインです。

これらを合成すれば、とても溶けやすく吸着しやすくなります。しかしながら、溶けたままでは回収できません・・・。

やはり、簡単には行かないですよね・・・色々大変ですね。

そうなんです。
それで、硫黄とメタルを架橋させて溶媒に溶けないような仕掛けにしました。
吸着剤は水に溶けていて、効率よくパラジウムを吸着して、架橋構造ができて、そして沈殿してくるといった現象がおきるのです。
硫黄一原子に対してメタル一原子ではなく、複数の原子が絡み合ってネットワーク構造が出来上がります。そうしますと水に溶けなくなって沈殿してくるということになるのです。

液体から固体へと、変幻自在ですね

ポリマーの鎖とポリマーの鎖が金属を介してネットワーク構造を形成すれば沈殿してきます。そうすれば簡単に濾過・分離できるというシステムなのです。

このポリマーを用いたパラジウムの吸着について、もう少し教えてください。

この写真を見てください。左側の吸着前という写真はパラジウムが塩酸水溶液に溶けた状態なんです。オレンジ色なのは、パラジウムイオンの色です。1mol/ℓ塩酸水溶液にパラジウムが溶けています。

ここに含硫黄ポリマーをポタポタとパスツールで落としてゆくんですね。そうしますと・・・、落とした直後から、パラジウムを吸着したポリマーが沈殿してゆきます。
濾過をする事で、簡単にパラジウムを吸着したポリマーを分離できるということがこの実験でわかりました。吸着量も1gあたり0.208gの吸着が確認できました。

パラジウムを吸着したポリマーは、ろ過をすると剥がれてしまったりしないのですか?

このポリマーのネットワーク構造はかなり強いです。
なぜ強いのかと言いますと、硫黄とパラジウムは相性がイイからなんです。

パラジウムは吸着されてもイオンのままですか?

そうです。二価のイオンのままで吸着されています。還元されない限りにはですね。
パラジウムの二価を0価にするためには、還元が必要です。

ぽたぽたと滴下した直後に沈殿するとは、速い反応なんですね。

あまりに速くて、私もびっくりしました。
含硫黄ポリマーをぽたぽたと落とすと、一旦溶けますが、パラジウムを吸着したポリマーがスーッと現れてくる様子は、飛び魚が海の上を飛んでいるようでした。

面白いですね。

そこで、含硫黄ポリマーのPd吸着速度を測定してみました。
吸着時間に対して吸着量(ポリマー1gあたりの吸着量g)を測定した結果、5分以内に吸着が完了することが分かりました。
不均一系で吸着するポリマーと比べても非常に吸着速度が速いことが分かったのです。

吸着速度が速い事がわかったので、次に吸着量について調べました。

実験の方法は、吸着実験に用いるパラジウムの濃度を高くしていって、ポリマー1gあたりの吸着量が極大に達したところが最大吸着量になります。
その結果、ポリマー1gあたり0.33gのパラジウムが吸着されていることが分かりました。ポリマー1gあたりの1/3くらいを金属で占めていることになります。

ポリマー1gあたりの1/3くらいを金属で占めているって、すごい比率ですね。

重さを量った場合に、ポリマー3に対して、金属が1吸着しているので、すごく多く感じます。

簡単に分離できて、吸着速度が速く、尚且つ吸着量が多い、この3つがポリマーの特徴なのです。

他のレアメタルはどうなんですか?

金と白金においても、同じように吸着して回収できることが分かっています。
含硫黄ポリマーを滴下した直後から、金や白金を吸着したポリマーが沈殿してきました。吸着量も非常に多くて、どちらもポリマー1gあたり0.5g以上吸着できることが分かりました。

すばらしい数値ですね。

  • 吸着量が非常に多い → これまで吸着剤の10倍の高回収
  • 簡単に分離できる → 濾過により回収が可能
  • 反応速度が速い → 1分以内に吸着完了

さらに回収量が非常に多いことから高回収レアメタル精製方法として有効という特性が理解出来ました。

ここまでお読み頂きありがとうございます。
次回は、「ポリマー開発の将来」を予定しています(最終回)。

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