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廃棄物処理と資源循環の現状と今後 その2

独立行政法人 国立環境研究所
資源循環・廃棄物研究センター
国際資源循環研究室
寺園 淳 博士

国立環境研究所ホームページ

資源循環・廃棄物研究センター オンラインマガジン(高校生も楽しめる資源循環・廃棄物研究情報誌)

DOWAでは国内はもとより中国、シンガポール、タイ、インドネシアにおいても、廃家電リサイクル、金属リサイクル、廃棄物処理事業を展開し、適正な処理、リサイクルを推進しています。
今回のインタビューは、廃棄物処理と資源循環の現状と今後について、独立行政法人 国立環境研究所で国際資源循環について研究をされている寺園淳博士にお聞きしています。

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今回は、「アスベスト対策」を中心にお話いただいています。

【その2】 阪神・淡路大震災と東日本大震災におけるアスベスト対策・廃棄物対策

DOWAではアスベストの処理は行っていないので、アスベストの処理についてもう少しお話をお聞きしたいのですが?

当時(1980年代後半)は建物の中にあるに吹付けアスベストが問題になっていて、まずはそれをどのように、飛散させずに取り除くかという技術を研究していたんです。
取り除いた後は、2重のプラスチックの袋に入れて埋め立てましょうということになっていたのです。

しかし、先ほどの話のとおり、取り除いたらそれで終わるわけではありません。埋め立てるというのは膨大な埋立地が必要になりますし、コンクリート固化してもさらに容量と手間が必要になってしまいます。また、間違って再掘削された場合に飛散する恐れがありました。そこで取り除いたアスベストをどの様に処理するかを研究していました。

どのような処理方法の研究なのですか?

具体的には、溶融処理ですね。
関西のガス会社様などとの共同研究をする機会を得まして、コークスベッド式溶融炉を用いた溶融処理の実験。それに加えて透過型電子顕微鏡(TEM)を使ってアスベストが確実に処理されているか、処理の途中で有害物質が外に漏れていないかを研究していました。

現在、アスベストの処理について国環研では別の研究員の方が主にやっています。コストがかかるので、必ずしも普及しているとはいえませんが、現在でもアスベストの無害化処理方法として環境大臣が認定されているのは溶融処理のみですから、当時は先端の研究であったとおもいます。

すこし話がずれるのですが、その研究の流れの中、阪神・淡路大震災が1995年に起き、その際にどこにどのようなアスベストがあってどの程度飛散したかを現地調査しました。その経緯もあって、有害物質の対策としては、「ここに、こういう風に有害物質が残っている」ということをしっかり把握することが重要と考えて、当時から学会などで発言しています。

アスベストは、よほど飛散しやすく危険な状態のものは処理が必要ですが、早急な処理の必要性が低いものは記録を残しておき、解体時に適切な処理を行えば良いと考えています。
しかし、建築物中のアスベストなどの有害物質の所在を調べたり、それを維持管理しながら使用することには抵抗があるようで、把握すること自体もなかなか進んでいないのが現状です。

一時期、アスベストは小学校などで問題になって撤去していましたね。たぶん、その他の建物にも使われていると思うのですが、一時的な対応で終わってしまっているように感じます。
問題になるとわぁ~~っと寄ってたかって問題にして・・と、極端ですよね。

そうですね。
一定の規模以上の建築物は吹付けアスベストの調査が義務づけられており、公共の建築物は対策が比較的進んでいるようですが、民間の建物までは中小のものほどなかなか把握が進んでいない実態があります。国土交通省の委員会ではアスベストマップを作る試みもあったようですが、まだ始まっていませんし、アスベスト含有成形板の情報はさらに不十分です。

そういう状況を続けているうちに阪神・淡路大震災や東日本大震災が発生し、解体などによってアスベストの一部飛散が生じてしまったことに忸怩たる思いを抱いています。平時からどこに有害物質があるかが把握できていないので、災害時も迅速な対策ができません。現在は大気汚染防止法を改正して、解体時の調査や対策をを強化しようとしていますが、平時の調査も進めてほしいです。

今回の東日本大震災でも当然、被災建物やがれき中のアスベストの問題があるということですね。
先生は今回の東日本大震災では、どのような対応をされたのでしょうか?

廃棄物資源循環学会では3月18日に災害廃棄物対策・復興タスクチームを立ち上げ、4月末に「災害廃棄物分別・処理戦略マニュアル」というのを公表しています。

この中で私は、アスベストの部分を担当しました。
内容は、極力、アスベストの拡散・曝露防止の措置を図ることが大事なこと、そのために、解体前にアスベストの事前調査をして、できるだけ災害廃棄物からアスベストを除去・分離し、分別保管を徹底することなどを強調しました。
また、仮置き場や破砕処理作業現場の付近ではアスベストを含む粉じんの飛散を防ぐため、散水をする、マスクをして防塵対策をとる必要があることも指摘しています。
今回は津波被害が多いという違いがありますが、当然ながら、これらには阪神・淡路大震災の教訓も含まれています。

現地視察もされたのでしょうか?

はい、私を含む国環研のメンバーで、2011年4月に宮城県仙台市・名取市に、また、7月以降に岩手県内各市の被災地に赴き、災害廃棄物にどの程度アスベストが含まれるかの簡易的な調査をしました。

現地では津波の被害を受けた構造物を中心に吹付け材の状況を見て回りました。
調査した建物では、天井に施工されていた吹付け材の大半が津波で洗い流されているところもありましたが、幸いにも洗い流された吹付け材にはアスベストが含まれていないか、ごく微量だったことがわかりました。
また、数十%の含有率となる吹付け材は津波浸水区域でも洗い流されていないケースも見られ、全体的にアスベストを含む吹付け材は想像していたより多くないと感じました。

ただ、破砕されたアスベスト含有の判別が困難な成形板が多数見られたことや、寒冷地なので煙突や断熱材にアスベストが使われていた可能性もあり、それらをふまえて解体前の調査は進められるべきと感じました。

「解体前の調査」をする際に、見ただけでは分からないアスベスト使用の有無や含有量はどのようにして調べるのでしょうか?

今回の震災において、環境省は2007年に作成した 「災害時における石綿飛散防止に係る取扱いマニュアル」
を参考にするよう求めています。

このマニュアルでは事前の書面調査や現地調査においてアスベスト含有の疑いがあれば必要に応じて分析確認をしなさい・・となっています。
分析の場合、JIS法によるX線回折法と位相差・分離顕微鏡法というのを用いることとなっていますが、これは結果がでるまで2~3日かかり、現場での判断には使いにくいものです。

今回の現地調査では、現場で1検体15分程度で定性分析ができる偏光顕微鏡法がかなり有効ではないかと感じました。ちなみに、偏光顕微鏡法以外にも、持ち運びできるX線回折装置と実体顕微鏡を組み合わせた迅速分析を行っている被災市もあるようです。

出典:寺園淳・遠藤和人・山本貴士:東日本大震災とアスベスト対策,廃棄物資源循環学会誌, Vol.23, No.1, pp.47-59, 2012

国環研では先生の担当されたアスベストの問題以外にもどの様な分野から、東日本大震災の環境問題に取り組まれているんですか?

今回の大震災に関連したことですと、まず災害環境研究としてあるべき全体像を俯瞰した上で、私たち循環センターが廃棄物の問題についても取り組んでいる以外にも、放射性物質の多媒体環境中の挙動やそのリスク削減に取り組んでいるグループもあります。

福島第一原発から放射性物質が大気中に広がった訳ですが、まずはどこにどう拡散したのか、どこに集中しているのか、降り注いだものが、排水溝や下水を通してどのように移動していくのかという挙動や、その場合の人や生態系のリスクはどうなるのか・・・というような非常に大きなプロジェクトとなっています。

廃棄物については、発災後半年間程度は災害廃棄物処理全般の問題などに取り組んでいましたが、その後は放射性物質汚染廃棄物への対応という問題にシフトしています。そして、「放射性物質汚染廃棄物に関する自治体担当者・専門家向け技術情報等」をホームページでわかりやすく紹介しています。

放射性物質については、東日本大震災の前までは、原子力分野として文部科学省や経済産業省の担当扱いでした。また、廃棄物処理法でも「放射性物質は除く」とされていましたが、東日本大震災以降は、「特別措置法」や「ガイドライン」が公表されて、法律も変わってきています。

我々廃棄物処理に携わる者としては、今後は放射性物質も扱っていかざるを得なくなってきた状況です。

【参考資料】

国立環境研究所ホームページ
東日本大震災 関連ページ
災害廃棄物や放射性物質に汚染された廃棄物の適正な処理・処分
放射性物質を含む廃棄物の適正な処理処分(技術資料:概要版)

ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回は、「国際資源循環の問題点」についてお聞きしています。

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