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DOWAエコジャーナル

2024.07.01 国際動向

中央ヨーロッパ・ポーランドのゴミ処理事情

海外ごみ事情

ヨーロッパの中央に位置するポーランド。Eurostatが公表したデータ(2021年)では、一人当たりの年ゴミ発生量が362kgとEU諸国の中で2番目に少なく、隣国のドイツと比べると約半分も少なく、ゴミ処理の優等生と評価されています。

【出典】Municipal waste by waste management operations | Eurostat

今回は、約3,800万人の人口を抱えるポーランドの古都・クラクフを中心に、現地の生活ゴミの処理事情についてご紹介します。

ポーランドは、ゴミ発生量が低いがリサイクル率も低い

ポーランドの一人当たりの年ゴミ発生量は、362kgです。その数は、隣国ドイツの646kgと比べると約半分で、圧倒的にゴミの廃棄が少ないことが伺えます。

一方で、全廃棄物のうちリサイクル率は36.3%にとどまっています(2020年)。リサイクル率が83.2%のイタリア、74.1%のベルギー、54.2%のフランス、44%のドイツなどと比べると、EUの中で遅れをとっていることがわかります。

【出典】Italy, Belgium, Latvia: Which European countries are the best and worst at recycling? | Euronews

ポーランドのリサイクル率が他国と比べて低い理由には、ゴミ処理システムが改変される2020年以前は、リサイクル製品製造に関するマーケットが小さかったことが挙げられます。実際、ポーランドのリサイクルの歴史は浅く、今ではポーランドを代表する大手リサイクル業者である ML Polyolefinsも、リサイクル事業をスタートさせたのは2006年です。

【出典】From waste to treasure: the Polish recycling industry – News at Plastech Vortal

EUでは、各国が2025年までに都市ゴミの55%、2030年までに60%、2035年までに65%をリサイクルすることを義務付けているため、ポーランドでは少しづつリサイクルの取り組みを活性化させていくことが求められています。

ゴミ処理に関する新しい法律を施行

EUの新規則「Waste Framework Directive」に基づき、2020年、ポーランドの気候変動担当省はゴミ処理システムを改変することを発表しました。

まず、ゴミ分別に関する新しい法律が導入され、ポーランドの住民はゴミを5種類に分別しなければ罰金を科されることになりました。ただ、リサイクルと分別収集の一定の目標をクリアした自治体のみ、3種類の分別が認められることになっています。

また、公共の場でのゴミのポイ捨てした場合の罰金も500から5,000ズロチ(1,140ユーロ)に引き上げられ、私有地でのゴミのポイ捨てに対する罰金も同レベルに引き上げられました。

さらに、有毒物質や発火性物質などの危険廃棄物を不法投棄した場合は、最高懲役8年の刑に処されるようです。

ゴミのリサイクル率をEUの基準に合わせるため、ポーランド政府は法律による規制を強化しています。

では、この新しい規制によって、ポーランドの人々はゴミ処理のルールをきちんと守ることができているのでしょうか?

ポーランドのゴミの分別方法

ポーランドでは、街中のゴミ箱も住宅地のゴミ捨て場も、分別ゴミを5つに色分けされています。日本のように、「燃えるゴミ」や「燃えないゴミ」といった分別方法ではないのが面白いですね。

青色:紙ゴミ
紙、段ボール、段ボール包装、古い新聞、雑誌、紙袋、ノートや本(図書館に寄贈したり、親しい人にあげたりできない場合)など。
黄色:プラスチックと金属
飲み物のペットボトル(キャップは別途リサイクル)、飲み物の缶、缶詰など。
緑色:ガラス
ガラス瓶、割れた皿など。
茶色:生ゴミ(Bio)
卵の殻、コーヒーかす、ティーバッグ、腐った果物や野菜など。
黒色:その他
上記に分別できない廃棄物全てを捨てることができる。肉や魚、乳製品、揚げ油、衛生用品、タバコの吸い殻、皮革、油で汚れたプラスチック包装、使用済みのタオルなど。

【出典】Waste bin colours – what do they mean? | ALDA

※ただし、古い家具や大型おもちゃなどの「粗大ゴミ」は別途回収される。また、電化製品・電子機器類はCAS(Civic Amenity Site:家庭ゴミリサイクルセンター)施設に持ち込むか、各地区で開催される回収日に持ち込むことができる。
【出典】Warszawa 19115: Start

まちのゴミ分別の様子

写真と共に、街中のゴミ処理の様子をご紹介します。

こちらは、クラクフにある大型商業施設に設置されたゴミ箱。

「紙」、「プラスチック」、「ガラス」、「その他」の4種類に分別されています。街中に設置されているゴミ箱は、そのほとんどがこのように分別されています。

「ペットボトルはどこに捨てるの?」「缶はどこ?」など、ポーランドのゴミ分別に慣れていない初めのころはゴミ捨てに大変戸惑いました。

ペットボトルを捨てる場合は「プラスチック」、缶を捨てる場合も同じ「プラスチック」に捨てます。

こちらはマンションの下のゴミ捨て場。日本のように曜日ごとに捨てるゴミの種類が決まっているのではなく、いつでも好きな時にゴミ捨てができます。

ゴミ回収は、週に2回のペースで行われます。ゴミ収集車がマンションの敷地内に入り、ゴミを回収してまわります。

黄色が「プラスチックと金属」、青が「紙」、茶色が「生ゴミ」、黒が「その他」です。

各項目ごとに、何を捨てて良いかが箇条書きされていて面白いです。例えば、牛乳パックは「紙」ではなく、「プラスチック」のゴミ箱に捨てるようです(牛乳パックは紙ではなく多素材で作られているため)。また、肉類の食べ物やペットの糞などは「生ゴミ」として捨ててはいけないようですね。

ビンを捨てる場合は、マンションのゴミ捨て場ではなく、道端に設置されている大きな緑色のゴミ箱に捨てにいきます。

一軒家家庭の場合は、路上に設置されている大きなコンテナにゴミを捨てに行きます。コンテナも、黄色・青・黒・茶色と色分けされているので、分別しやすいです。

こちらが、ゴミ捨て場の中の様子です。左側の黄色のゴミ箱が「プラスチック」、右側の青いゴミ箱が「紙」ですね。
「プラスチック」ゴミ箱にピザの紙ゴミが入っているのが見えます。

「生ゴミ」のゴミ箱には、木くずや生ゴミなどの自然に還るゴミ以外にも色々なものが捨ててありました。

このように、見る限りでは住民のゴミ分別は適当な感じがします。分別を怠った場合の罰金に引っかかっている人も見たことがないです。

新しいゴミの分別方法が導入されたはいいものの、住民レベルまでゴミ分別の意識が浸透するにはさらなる時間と施策が必要のようです。

この記事は
ポーランド在住のフリーライター Hina が担当しました

2024.07.01 サーキュラーエコノミー

対談企画 サーキュラーエコノミーは誰のため? その4 目的主義と概念設計

対談

細田 衛士(ほそだ えいじ)様

東海大学副学長、政治経済学部経済学科・教授
慶應義塾大学名誉教授
中部大学理事、学事顧問、名誉教授

1993年より国税庁中央酒類審議会 新産業部会リサイクルワーキンググループ座長、1995年通商産業省産業構造審議会廃棄物小委員会委員、2000年運輸省FRP廃船の高度リサイクルシステム・プロジェクト推進委員会委員、2003年環境省政策評価委員会委員、2011年中央環境審議会委員、2011年林政審議会委員、2023年「サーキュラーエコノミーに関する産官学のパートナーシップ」事業における総会、ビジョン・ロードマップ検討ワーキンググループの委員などを歴任

喜多川 和典(きたがわ かずのり)様

公益財団法人 日本生産性本部 エコ・マネジメント・センター長
上智大非常勤講師

長年にわたり、行政・企業の環境に関わるリサーチ及びコンサルティングにあたる。
経済産業省循環経済ビジョン研究会委員(2018年度~2019年度)、ISO TC323エキスパート(2019年~2023年)、NEDO技術委員などを歴任
おもな著書に、「サーキュラーエコノミー 循環経済がビジネスを変える」勁草書房、「環境・福祉政策が生み出す新しい経済 “惑星の限界”への処方箋」岩波書店 等がある。

個別最適と目的主義

喜多川

今、海外で簡単に木を伐採できなくなりつつあり、バイオマスが取り合いになって、円安も進行しているため、バイオマス燃料が非常に高騰しています。そうしたことから、バイオマス発電所を運営する会社の経営は大変厳しくなっています。

以前、日本のある自治体の焼却炉が老朽化したため、発電効率が非常に優れた焼却炉に建て替えるという話を聞きました。その自治体の方に、例えば、燃えるごみに含まれる資源ごみを選別して回収するようなソーティングセンターを作るつもりはなかったのか聞いたのですが、「議論には少し出たけれども、実現には至らなかった」とのことでした。

一般廃棄物には、木くずや紙などのバイオマス系の廃棄物も多く含まれています。ですので、バイオマス系のものを選別して、比較的近くにある民間のバイオマス発電所の燃料にして使うという考え方はできませんかと聞いたら、「自治体が扱っているのは一般廃棄物だから、一般廃棄物の処理業の許可がないバイオマス発電所には持っていけない」と言われました。サーキュラーエコノミーではよく複数の事業者が連携するネットワークが重要と言われますが、そうした協力関係はなかなか難しそうです。

細田

仕組みとしては、現行の廃棄物処理法の枠組みの中でも実施できるのではないかと思うのですが、それをけしからんという人もいるし、リスクと思う人もいるし、いろいろな配慮が働いたりもして、なかなか実現しないのでしょうね。

喜多川

バイオマス発電所は、今つぶれる寸前というほど厳しいところもあるのですが、行政がバックアップできれば蘇る可能性がある。そういう可能性を見出せないのは非常にもったいない。

例えば、焼却炉を建て替える時に、複数のシナリオを準備して、市民参加型の議論を通し、そこで選択されたシナリオの1つが、ソーティングプラントで選別処理して、バイオマス系の廃棄物については、民間のバイオマス発電所の燃料とするというようなことがあれば、従来の慣例を少し乗り越えてでも実施するというようなことがあっていいと思うんです。

細田

日本は、廃棄物処理法に代表されるようなシステムがうまく機能してきただけに、そこにこだわってしまう感じがあるのかもしれないね。

喜多川

行政の担当者にとっては、行政が法律違反をして「違法」となるわけにはいかないという、すごいプレッシャーにさらされていると感じます。

例えば「おから事件」は、おからは有効利用できたとしても、取引が有償か逆有償か(買い取られているか、処理費を払っているか)ということが焦点になりました。処理費を受け取って無許可でおからのリサイクルをしていた業者は、産業廃棄物の無許可営業に該当すると判断されました。

廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反被告事件 裁判要旨
一 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(平成五年政令第三八五号による改正前のもの)二条四号にいう「不要物」とは、自ら利用し又は他人に有償で譲渡することができないために事業者にとって不要となった物をいい、これに該当するか否かは、その物の性状、排出の状況、通常の取扱い形態、取引価値の有無及び事業者の意思等を総合的に勘案して決するのが相当である。
二 豆腐製造業者から処理料金を徴して、収集、運搬、処分した本件おからは、廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(平成五年政令第三八五号による改正前のもの)二条四号にいう「不要物」に当たり、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平成四年法律第一〇五号による改正前のもの)二条四項にいう「産業廃棄物」に該当する。

(出典)最高裁判所判例集(最高裁判所)裁判例結果詳細 | 裁判所 – Courts in Japan

細田

廃棄物処理法は非常に堅い制度ではあるけれど、現行の廃棄物処理法の範囲内でも、色んなことができる余地はある。でも、リスクを冒してまでそれを超えようとはしないところはあるかもしれないね。

喜多川

例えば、街路樹の枝打ちをした剪定枝も、バイオマス発電所がぜひ欲しいって言っても、ほとんどは自治体の焼却炉で処理してしまうんです。

上田

剪定枝は木質なので、そのままバイオマス燃料になりそうですが、街路樹の剪定枝も、一般廃棄物に該当するからなのでしょうか。

産業廃棄物種類 内容
木くず
  1. 建設業に係るもの(工作物の新築、改築又は除去に伴って生じたものに限る)
  2. 木材又は木製品製造業 (家具の製造業を含む)に係るもの
  3. パルプ製造業
  4. 輸入木材の卸売業及び物品賃貸業に係るもの
  5. 貨物の流通のために使用したパレット(パレットへの貨物の積付けのために使用したこん包用の木材を含む)に係るもの
    (注:木製パレットは、排出事業者の業種限定はありません)
  6. PCBが染みこんだもの
建設業関係の建物、橋、電柱、工事現場、飯場小屋の廃木材(工事箇所から発生する伐採材や伐根を含む)、木材、木製品製造業等関係の廃木材、おがくず、パーク類、梱包材くず、板きれ、廃チップ等

(出典)産業廃棄物の具体例|産業廃棄物の概要|東京都環境局

細田

高速道路や飛行場の剪定枝は、結構な量発生しているそうですよ。バイオマス発電所に持っていけば発電の燃料として有効利用できるのに、自治体や民間の清掃工場で焼却されているものが殆どのようですね。

喜多川

バイオマス発電所に投入されたうちの何パーセントがプラスチックだったかをチェックすれば、発電された電力の何パーセントがバイオマス由来の電力なのかを算定できます。
自治体の廃棄物処理計画に盛り込んで、バイオマス発電の燃料にできている自治体もありますが、かなり少ないのが現状です。

自治体の担当者にとって、「『違法』かもしれないことを自治体はできない」という思いは相当強いとしても、市民の議論をベースとして決まったことであれば、一般廃棄物とか産業廃棄物とか処理業の許可といった廃棄物処理法の枠を超えて新しいことができるんじゃないかと思います。

細田

その点、プラ新法(プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律)ではフレキシブルにしようという事で様々な配慮がされているし、廃棄物処理法の例外規定として、広域認定や、再生利用認定を作って部分的にはうまくいっているのだけどだけど、全体としてはなかなかうまくいかない。

(参考)プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(プラ新法 )(環境省)

喜多川

例外規定をつくっていくと、どんどん分断されてしまい、シナジーが生まれないというか、規定がどんどん積上がって、コストも積上がってしまうんですよね。

上田

個別最適ということですか?

喜多川

そういうことです。効率性というものが分断されてると、全体最適化にならない。
1つ1つのそのセグメントごとの優等生ではなく、セグメントを超えた広い範囲の優等性になろうというのがサーキュラーエコノミーなんですけど、日本がそこに踏み出せないのは、大きなジレンマだと思います。

概念設計

細田

もう1つ、サーキュラーエコノミーに関して思うのは、前から喜多川さんと色々議論していることでもあるんだけど、EUは概念をきっちり政策としてまとめた「サーキュラーエコノミーパッケージ」を出して、それからEPR(拡大生産者責任)、それからIPP(包括的製品政策)、SPP(持続可能な製品政策)というように、実際機能しているかは別として、概念をうまく出して、それが市民の地域政策とうまく同期しているように見えます。

(参考)EUのIPPについて(経済産業省)
製品ライフサイクル全体で循環型経済を推進(EU)(日本貿易振興機構)

日本は、自動車リサイクル法、家電リサイクル法、容器包装リサイクル法など個々の法律はみんな優等生なのですが、統合的な製品政策はどうなんですかと言われると、手薄な感じがあるね。

喜多川

そうなんです。
サステビリティへ移行する際に、国民の経済的な負担を最小化してサステナビリティを実現していこうとしているところが、EUと日本の違いだと感じています。

細田

喜多川さんが論文に書いていましたが、EUは、議題別にEPR(拡大生産者責任)があって、IPP(包括的製品政策)があって、SPP(持続可能な製品政策)があるというように、非常にわかりやすく政策が概念にぶら下がっていて、地域政策としてサーキュラーエコノミーがちゃんと位置付けられているから、わかりやすい。

日本の場合は、個別のリサイクル法があって、サーキュラーパートナーズがあって、SDGs未来都市があってと、色々やっているんだけど、都市政策とサーキュラーエコノミーとがどう繋がるのか、少しわかりにくいところはあるね。

(参考)サーキュラーパートナーズ(経済産業省・環境省)
地方創生SDGs・「環境未来都市」構想・広域連携SDGsモデル事業(内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局・内閣府地方創生推進事務局)

喜多川

そうですね。EUは社会のグランドデザインをしっかり据えた上で、そこにそれぞれの技術をはめ込んでいくという手順になっている点が日本と違うんだと思います。

上田

日本も環境基本法が上位概念としてあって、その下に、廃棄物処理法や資源有効利用促進法がぶら下がっているので、同じ仕組みのように思うのですが?

喜多川

そうなんですが、上位法が下位の法律に対し、十分包括的・有機的に機能していないのではないかと思います。
例えば、日本では廃棄物処理法の規制が完全に守られていますが、それはヨーロッパから見たら、違和感を感じるのではないかと。

上田

EUは過去の規則や指令を、フレキシブルに変えていきますね。

喜多川

ヨーロッパは目的主義なんです。どうやって目的に達するかは指定しない。仮に、目的を達成するための方法を指定したとしても、もっといい方法があればそれを尊重します。
一方で、日本は目的を達成する方法まで決めますね。

細田

法律に関していうと、個別法は個別法内で完結してる方がいいと思っていて、自動車リサイクル法や家電リサイクル法はそれぞれ完結しているんだけど、 じゃあ「素材ごとにどうやってサスティナブルにしますか」、と言われた時に、どうするのってなるんだよね。

喜多川

自動車のプラスチックは自動車リサイクル法の管轄で、家電のプラスチックは家電リサイクル法の管轄だから別に管理しなければなりません、という事ではなく、リサイクラーが分けて処理をしたいんだったら分けて処理してもいいし、一緒に処理したければ、一緒に処理してもいい。目的主義というのは、どちらの方法でもいいし、どう最適化していくかを選択できる、という事だと思います。

細田

EUの政策は、目的がはっきり示されていて、さらにそれを束ねる概念が「サーキュラーエコノミー『パッケージ』」として出され、さらにエコデザイン規則が出てきて、それから色んな規則が出てくる。そうしたら、あとは各国でやりやすい方法で動かして、常にPDCAを回して新しくしていく。

新電池規則とか、あるいはELV規則も、こんなに厳しいのは本当にできるのか、と思ったけれど、わかりやすい。こういう目的でこうやろうということが、文章見ても、非常によくわかる。
EU加盟国が国内法を作って実現していく時に、EUの方針がないと説得できない、というのもあるよね。

(参考)欧州委のELV規則案、自動車業界は懸念示すも、リサイクル部門は歓迎(日本貿易振興機構)
電池のライフサイクル全体を規定するバッテリー規則施行(EU)(日本貿易振興機構)

喜多川

EUは加盟国が27か国もあるので、1年先、2年先のことで議論していたらまとまらない。だから、10年先を見よう、というのもあると思います。そうすると、こんな社会がいいかもね、という話になるので、大体ヨーロッパの法律は10年先とか20年先という長いレンジでの目標が設定されているんです。

例えばヨーロッパでELV指令が2000年にできた時、すぐにELV指令が動き出してリサイクル率が高まる、とか、特別な施設ができるとか思っていたんですが、いつまで経っても何にもできなかったんです。だらだら、だらだらやりながら、なんとなく2015年になって、とりあえずここまでの目標値をクリアできたね、という感じでした。

日本だと、施行された日からやらなきゃいけないのですが、EUは設定した目標を達成するのに何年もかけるんです。

細田

家電リサイクル法ができた時、私の知ってるリサイクル業者が家電リサイクルのAグループにもBグループにも入れなかったんです。施行される前日の3月31日までは家電が入荷していたんだけど、施行した4月1日からは1台も入荷しなかったと言っていました。

日本はある種、完璧主義というか、やれることはキッチリやる。
だから、EUはなにをやっているのかね、と思ったりもするけど、長期的には動いてくし、新しい概念を見せてくれる。だから、EUのドキュメントは見ていると楽しいんだけど、日本の官公庁の書類は見ていても全然楽しくない。

喜多川

EUでは、10年先、20年先を見据えて、どういう社会がいいだろうか、こういう社会がいいよね、 じゃあそこを目指すっていうのは、いいかな?、いいんじゃない、という議論をしながら法律ができていきます。

10年先、20年先の目標を見据えて、どういうことをやったらいいのか、どこに投資したらいいのか、どういう技術を開発させていくのがよいのか、という風に、今できてないことを10年先、20年先に 実現させるという長期のレンジで考えるのが、EUにおける合意形成の手法なのだと思います。

この前、ある研究会で企業の人たちが、日本の政府がはっきりと言ってくれないので、どこに投資したらいいかが非常に不明瞭だと言っていました。

細田

長いレンジでものを考えると企業も動ける。

喜多川

そうなんです。
日本の行政は、「すぐにできないことを法制度に落とし込めない」と言うけれど、 ヨーロッパは10年先、20年先の目標を掲げるので、ちゃんと助走期間があるんです。

細田

EUは概念設計がしっかりしていて全体像を見せてくれる。だから10年後にこうするんだと言われた時に非常に説得力がある。

でも、日本の法律の構造はそうなってないんだよね。
先を見せてくれないと、民間企業としてはサーキュラーエコノミーって、どうすりゃいいんだよ、となってしまいます。
民間企業が、あ、ここには仕事があるな、と思えるように、10年先、20年先にこういうことを実現させようとしている、というのを、ある度見せてくれるといいんじゃないかな。

SDGs

上田

10年以上前になりますが、スウェーデンの方と、地球環境に対して市民として何ができるのかな、とポロッと言ったら、「それはあなた、ちゃんと買う時に気をつけなきゃダメに決まってるでしょ」と即答されました。

確かに、環境ラベルをみて消費に反映させていくことが市民としてできることなんだって思って、ラベルを見て選ぼうとしたのですが、どのラベルが何を表しているのかを知らないといけないし、選ぶためにはそれなりの知識が必要で難しかったです。

細田

SDGsの12番目は。日本語だと「作る責任、使う責任」でしょ。
でも、元の英語バージョンは、「使う責任、作る責任」なんですよ。

(出典)THE 17 GOALS(United Nations)
SDGs(エス・ディー・ジーズ)とは? 17の目標ごとの説明、事実と数字(国際連合広報センター)

喜多川

基本的には、1人1人が「資源」というものと、どういう向き合い方をするのか、どういうお付き合いをするのかを考えていった集積がサーキュラーエコノミーだと思っています。

細田

今の若者たちは、学校でSDGsを学んでいるので、 今の我々の世代とは意識が全然違いますよね。彼らが成長した時に、この国がどうなっていくのか期待していいんじゃないかなって思うんです。

子供の頃から作る側だけじゃなく、使う側にも責任があるということを知っている。それで、どうすればいいのか、行動に繋げていくかというところが大事ですね。

上田

娘の小学校の6年生の探求学習のテーマがSDGsで、持続可能な地球を実現するためにできることを考えて、発表していました。
電気をこまめに消そう、とかレジ袋をやめようとか、当たり前に思えるような内容でしたが、自分たちで考えていくうちに、深まっていくんだろうなと思いました。

細田

行政が法律を作って指導したり規制したりするだけでは、サーキュラーエコノミーは実現できない。ヨーロッパ的な市民の自治意識は難しいとしても、自分の地域をどうするのか自分たちで考えていく事が大事ですね。

2024年2月27日に実施したサーキュラーエコノミーに関するご対談の連載は今回で終了です。
最近サーキュラーエコノミーという言葉をよく聞くようになりましたが、EUの状況やサーキュラーエコノミーの背景をお話しいただいて、サーキュラーエコノミーについて理解が深まりました。ありがとうございました。

2024.07.01 リスク管理 廃棄物管理

マニフェスト記載時にミスしやすい箇所

廃棄物処理法

排出事業者が産業廃棄物を処理業者に引き渡す際には、産業廃棄物管理票(マニフェスト)の交付が必要です。今回は、マニフェストの記載時に注意すべき点についてご紹介します。

■マニフェスト記載時の注意事項

①法定記載事項があります!

マニフェストの交付は廃棄物処理法で決まっており、廃棄物の種類、数量など記載しなければならない項目が定められています(記事下部に該当条文を記載しています)。
そのため、マニフェスト引渡し前に法定記載事項の抜けが無いかの確認が必要です。

②「事業者(排出者)」と「事業所(排出事業場)」をお間違いなく!

「事業者(排出者)」には排出事業者の名称、住所を記載します。
「事業所(排出事業場)」は廃棄物が排出される現場で、廃棄物処理委託契約書に締結した排出場所を記載することとなります。

③交付日をお忘れなく!

交付日も法定記載事項です。
紙マニフェストに事前に印字して準備しておく場合もあると思いますが、交付日の記入漏れにご注意ください。

④「廃棄物の種類」のチェックが必要です!

文字が細かいので見落としやすいのですが、「廃アルカリ」、「廃油」などの廃棄物の種類のチェックも必要です。一般的なマニフェストでは、「産業廃棄物」と「特別管理産業廃棄物」を選択するチェック欄もありますのでご注意ください。
下の例では、「特別管理産業廃棄物」の欄と「強アルカリ(有害)」の欄の両方にチェックが付いています。

⑤運搬・処分受託会社の記載ミスにご注意!

マニフェストには排出事業者が委託する運搬業者(運搬受託者)と処分業者(処分受託者)を記載する欄があり、契約書の記載と一致している必要があります。

複数の業者へ運搬・処分を委託していてマニフェストに事前に記載事項を印字している場合、様々な委託業者が印字されたマニフェストから正しいものを選択して使用するように管理が必要です。

処分業者名が実際と異なるマニフェストを交付すると、マニフェストの虚偽記載となってしまいますので、ミスが無いようご注意ください。

⑥数量「及び単位」の記載が必要です!

廃棄物の数量を記載する欄がありますが、ここには単位の記入も必要です。右の例はドラム缶10本を処理委託するマニフェストの例ですが、もし単位の記載がないと、「10本」なのか「10kg(のドラム1本)」のなのかが分かりません。
※単位は、重量(kg・トン)や、個数(本・個)など、具体的に定められていません。

⑦「産業廃棄物の名称」はご契約内容に準じた形での記載をお願いします!

「産業廃棄物の名称」は法定記載事項ではありませんが、一般的なマニフェストには記載欄があります。
収集運搬業者や処分業者が、契約締結済の廃棄物かどうかを判断するために用いますので、契約内容に準じた名称の記載をお願いします。もし契約内容と大きく異なる名称が記載されていると、契約締結済の廃棄物とは異なるのではないか、マニフェストに記載間違いがあるのではないかなど、確認に時間を要してしまいます。

■さいごに

マニフェストは廃棄物の排出時に毎回交付するので、管理やチェックは大変ですが、排出事業者が廃棄物の適正処理を確認するための手段の1つであり、廃棄物処理法において規定や罰則がある等、排出事業者責任と遵法の観点で重要な業務です。

廃棄物の排出時には廃棄物そのものだけでなく、マニフェストについても合わせてご注意ください。

■参考:マニフェストの法定記載項目に関する廃棄物処理法/施行令の条文

廃棄物処理法
第十二条の三 その事業活動に伴い産業廃棄物を生ずる事業者(中間処理業者を含む。)は、その産業廃棄物(中間処理産業廃棄物を含む。第十二条の五第一項及び第二項において同じ。)の運搬又は処分を他人に委託する場合(環境省令で定める場合を除く。)には、環境省令で定めるところにより、当該委託に係る産業廃棄物の引渡しと同時に当該産業廃棄物の運搬を受託した者(当該委託が産業廃棄物の処分のみに係るものである場合にあつては、その処分を受託した者)に対し、当該委託に係る産業廃棄物の種類及び数量、運搬又は処分を受託した者の氏名又は名称その他環境省令で定める事項を記載した産業廃棄物管理票(以下単に「管理票」という。)を交付しなければならない。

廃棄物処理法施行規則
第八条の二十一 法第十二条の三第一項の環境省令で定める事項は、次のとおりとする。
一 管理票の交付年月日及び交付番号
二 氏名又は名称及び住所
三 産業廃棄物を排出した事業場の名称及び所在地
四 管理票の交付を担当した者の氏名
五 運搬又は処分を受託した者の住所
六 運搬先の事業場の名称及び所在地並びに運搬を受託した者が産業廃棄物の積替え又は保管を行う場合には、当該積替え又は保管を行う場所の所在地
七 産業廃棄物の荷姿
八 当該産業廃棄物に係る最終処分を行う場所の所在地
九 中間処理業者(次号に規定する場合を除く。)にあつては、交付又は回付された当該産業廃棄物に係る管理票を交付した者の氏名又は名称及び管理票の交付番号
十 中間処理業者(当該産業廃棄物に係る処分を委託した者が電子情報処理組織使用義務者又は電子情報処理組織使用事業者である場合に限る。)にあつては、当該産業廃棄物に係る処分を委託した者の氏名又は名称及び第八条の三十一の五第三号に規定する登録番号
十一 当該産業廃棄物に石綿含有産業廃棄物、水銀使用製品産業廃棄物又は水銀含有ばいじん等が含まれる場合は、その数量
十二 電子情報処理組織使用義務者が第八条の三十一の四各号のいずれかに該当して管理票を交付した場合には、その理由

この記事は
DOWAエコシステム 企画室 後藤 が担当しました

2024.07.01 その他

ベビタピって何? 〜娘・妻と一緒に原宿店へ〜

コラム

先日、娘(小学3年生)から「ベビタピトーキョー原宿店へ連れて行ってほしい」と言われました。まったく知らない言葉に対し、子供向けのジュリアナ東京みたいなものを想像しながら、「ああ、あのベビタピトーキョーのことね」と切り返しましたが、しばらく娘との会話が嚙み合わない状況が続きました。

なお、ベビタピトーキョーは、SNSで有名な店員がいるタピオカドリンク専門店。
購入したドリンクに、『べびたっぴ!』という掛け声とともにストローを刺すパフォーマンスが人気となり、SNSを通じて、子供たちの間で爆発的な人気のお店です(娘談)。

さて、話を戻しますが、そのベビタピトーキョー原宿店に妻と娘と3人で行ってきました。
お店は11時オープンです。社会人としてのマナーを叩き込まれている私は10分前にお店に到着。しかしながら、既に周囲には子供連れの家族が溢れており、スタッフさんから整理券を受け取っています。

こいつは様子がおかしいぞ・・・と怪訝な思いで整理券を受け取って見たところ、『16:00~16:30に並ぶための整理券』という文字が。

見間違い?読解力が低下した?解釈の仕方が間違っているのかも!という淡い想いは見事に打ち砕かれ、“購入5時間待ち”という事実が判明。あまりの衝撃に思考停止のステータス異常をきたしていた私でしたが、娘の「待つ!」という強い意志に応える覚悟を決め、5時間の原宿クエスト(散策)が始まりました。

しばらくぶりの原宿は、前衛的なファッションの若者が多いことに加え、海外からの観光客で溢れており、とても若々しく活気のある町でした。

竹下通りから表参道を散策した後、時間に余裕があるので他にも散策をしていたところ、学校らしき建物を発見。

同級生がクラスに一人しかいなかった田舎育ちの私からすると、都心部の学校ってどういう感じなんだろう?と興味が湧き、校門の方へ。
そこで見たものは、『東京都渋谷区立 原宿外苑中学校』という看板。漫画などで出てきそうな名前の学校が実在したことに衝撃を受け、妙にテンションが上がってしまった原宿散策となりました。

その後、16:00まで散策を続け、5時間待ちの疲労感を感じながらも無事にベビタピトーキョーのタピオカドリンクを購入。

子供たちにすごく人気のあるお店ですが、その理由がスタッフさんのサービス精神の高さだと感じました。子供たち一人一人に「べびたっぴ!」というパフォーマンスを行うだけでなく、スタッフさんが子供たち全員と楽しく会話をする接客態度に感心しました。

喜ばれるサービスを提供し続けることが、人気の維持(お客様に選ばれる)に繋がっているんだろうなと感じ、また、自分の仕事もそうだよなと改めて思い直す機会にもなり、多くの実りある休日を過ごすことができました。

娘は5時間の疲労感をものともせず、タピオカドリンクを飲みながらルンルン気分で家路につきまして、玄関で電池切れとなりました。

この記事は
DOWAエコシステム 環境ソリューション室 市原 が担当しました

2024.07.01 カーボンニュートラル サーキュラーエコノミー

バイオディーゼル燃料(BDF)とは?

DOWAの取組バイオ燃料リサイクル廃棄物処理

今回は、バイオディーゼル燃料(BDF:Bio Diesel Fuel)について、当社グループの製造事例を元にご紹介します。

■ディーゼル燃料とは?

ディーゼル燃料とは、ディーゼルエンジンで使用する燃料の総称で、車やトラックで使用するディーゼル燃料としては軽油が一般的です。

■BDFとは?

植物由来の油から作られるディーゼル燃料で、軽油代替品として使用されます。
他のバイオ燃料(液体)には、ガソリンの代替となるバイオエタノールや、ジェット燃料の代替となるバイオジェット燃料があります。

■BDFの用途

BDFは軽油の代替品として使われ、例えば車両(ゴミ収集車や路線バス)や建設機械、ボイラーの燃料として使用されています。

■BDFの原料

BDFは、植物性油を原料に製造されます。菜種油・パーム油などの他、使用済みの食用油(廃食用油)も原料となります。

DOWAグループのバイオディーゼル岡山(株)では、使用済みのてんぷら油などの廃食用油を集め、原料として使用しています。

■CO2削減効果

化石燃料の使用は、地中に蓄えられた炭素を放出することになるため、大気中のCO2濃度が増加します。一方、BDFの原料となるてんぷら油は植物油なため、燃料として使用して発生するCO2によって大気中のCO2を増加させることはありません。そのため、化石燃料の代わりにBDFを使用すると化石燃料をBDFに置き換えた分、CO2が削減されることになります。

バイオディーゼル岡山で製造したBDFをベースに考えると、例えばBDFを1,200kL使用すると、樹木約20万本分のCO2削減効果になります。

■BDFの市場

世界ではバイオディーゼルの利用が拡大しており、以下農林水産省の資料によれば、2031年に約560億tのBDFが消費されると推計されています。原料としてはパーム油や大豆油などの植物油に加え、約2割が廃食用油由来です。

(出典)2022年8月 食料安全保障月報(第14号)(農林水産省)

この記事は
DOWAエコシステム 企画室 後藤 が担当しました

2024.07.01 法律

第六次環境基本計画の概要

環境基本計画とは

環境基本計画は、環境基本法に基づき政府が定める環境の保全に関する基本的な計画です。

環境の保全に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、6年ごとに環境大臣が中央環境審議会の意見を聴いて計画案を作成し、閣議決定されるものです。

第六次環境基本計画が中央環境審議会の議論を経て2024年5月に閣議決定されましたのでその概要を紹介します。

第六次環境基本計画の閣議決定について | 報道発表資料 | 環境省
※環境省HP報道発表一覧

第六次環境基本計画の狙い・ミッション

第六次環境基本計画は、すべての環境分野を統合する最上位の計画として、目指すべき文明・経済社会の在り方を提示し、環境政策を起点として様々な経済・社会的課題をカップリングして同時に解決していくことをミッションとして掲げています。

(出典)第六次環境基本計画の概要(環境省)より抜粋

第五次環境基本計画からの発展の方向性

第五次環境基本計画は、環境・経済・社会の統合的向上を目指す持続可能な「循環共生型社会」(環境・生命文明社会)をビジョンとして打ち出し、「新たな成長」の概念を提唱しました。

第六次環境基本計画は、「ウェルビーイング/高い生活の質」の実現を目指すこと、地下資源依存から地上資源基調の経済社会システムへ転換することをビジョンとして打ち出し、基盤である自然資本とそれを支える資本・システムへの大投資、「環境価値」 を活用した経済全体の高付加価値化のためにスピード感とスケール感をもって「新たな成長」を実践・実装していくことを計画しています。

(出典)第六次環境基本計画の概要(環境省)より抜粋

6つの戦略の概要とキーワード

第六次環境基本計画では、環境・経済・社会の統合的向上の高度化のために以下6つの重要戦略を掲げています。

  1. 「新たな成長」を導く持続可能な生産と消費を実現するグリーンな経済システムの構築
  2. 自然資本を基盤とした国土のストックとしての価値の向上
  3. 環境・経済・社会の統合的向上の実践・実装の場としての地域づくり
  4. 「ウェルビーイング/高い生活の質」を実感できる安全・安心、かつ、健康で心豊かな暮らしの実現
  5. 「新たな成長」を支える科学技術・イノベーションの開発・実証と社会実装
  6. 環境を軸とした戦略的な国際協調の推進による国益と人類の福祉への貢献


(出典)第六次環境基本計画の概要(環境省)より抜粋

第六次環境基本計画の特徴と企業への影響

今回の環境基本計画では金銭換算出来るような市場価値だけではなく、生活の質といった金銭換算出来ないような非市場的価値も重要なものと捉え、「現在及び将来の国民一人ひとりの生活の質、幸福度、ウェルビーイング、経済厚生の向上」を図ることが大きな特徴のひとつです。

人々の幸福を実現するための経済社会活動は自然資本(環境)の基盤の上に成立しています。これまでの大量生産大量消費から、環境収容力を超えない経済・社会の発展(新しい成長)にシフトすることで将来の人々の幸福度も維持しましょうという計画です。

今後、再エネ活用や脱炭素の取り組みが益々求められるようになるでしょうし、例えば環境保全の取組みによって税金が優遇されたり(税制全体のグリーン化)、政府の支援によって最先端の環境・生命技術等の開発・実証と社会実装が推進されていくことが予想されます。

自然資本(環境)の維持をコストと捉えるのではなく、その需要の高まりをチャンスと捉えて上手くビジネスにつなげることも「新しい成長」なのではないでしょうか。

蔵石 この記事は
DOWAエコシステム 海外事業推進部 蔵石 が担当しました

2024.06.03 法律

改正省エネ法の報告義務について

カーボンニュートラル

「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律(省エネ法)」は、一定規模以上(原油換算で年間1,500kl以上使用する)の事業者等が、エネルギーの使用状況等について定期的に報告し、省エネ取組の見直しや計画の策定等を行うことを規定した法律です。

1. 改正の背景

2050年カーボンニュートラル目標や2030年の野心的な温室効果ガス削減目標の達成に向けて、徹底した省エネに努めるだけでなく、非化石エネルギーの導入拡大を進める必要があるため、2022年に「エネルギーの使 用の合理化に関する法律」から、「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」へ改正され、2023年に施行されました。

2. 改正のポイント

改正された省エネ法では、「エネルギー」の定義を拡大し、非化石エネルギーを含む全てのエネルギーの使用の合理化を求める枠組みに見直されました。そして以下のような措置が講じられています。

  1. エネルギーの使用の合理化
    非化石エネルギーを含むすべてのエネルギーの合理化が求められます。これに伴い、非化石エネルギーが報告対象に加わりました。
  2. 非化石エネルギーへの転換
    特定事業者は、非化石エネルギーへの転換の目標に関する中長期計画の作成及び非化石エネル ギーの使用状況等の定期報告を行うことなどが求められます。
  3. 電気の需要の最適化
    特定事業者等は、再エネ出力制御時への電力の需要シフトや、電力の需給ひっ迫時の電力の需要減少を促すため、電力の需給状況に応じた使用電力の抑制や増加の実績報告を行うことが求められます。

令和5年(2023年)度提出分から新しい様式に基づいて中長期計画書を提出することとなっていました。令和6年(2024年)度提出分は、中長期計画書に加え、定期報告書についても、新しい様式で提出することとなります。

3. 規制対象者

工場・事業場の設置者と貨物/旅客輸送事業者、荷主が対象とされています。
努力義務と報告義務、それぞれの対象者は以下の図をご確認ください。

(出展)改正省エネ法に基づく措置等について(資源エネルギー庁 省エネルギー課 令和5年2月)

4. 報告方法

報告の届出はEEGS(webサイト)から行います。

(出展)省エネ法がかわります(経済産業省資源エネルギー庁)

5. 各対象の報告義務

具体的な規制の対象者や報告義務の内容などは、それぞれ以下のパンフレットをご覧ください。

省エネ法の手引き 工場・事業場編
省エネ法の手引き 荷主編

以下に、各対象の報告義務について手引きを元にご紹介します。

5-1 事業者の報告義務

事業者の義務は、年間エネルギー使用量に応じて定められています。

(出展)省エネ法の手引き(工場・事業場編)~令和5年度改訂版~

5-2 貨物/旅客輸送事業者の報告義務

貨物/旅客輸送事業者については、輸送能力が規定の数値以上の事業者が、特定輸送事業者として指定され、報告義務の対象となります。

(出展)エネルギー使用の合理化等に関する法律 省エネ法の概要 【輸送に係る措置】
(国土交通省 総合政策局 環境政策課 令和2年3月)

5-3 荷主の報告義務

荷主については、輸送料が3,000万トンキロ以上の場合、「特定荷主」と指定され、報告義務の対象となります。

(出展)省エネ法の手引き(荷主編)~令和5年度改訂版~

【参考資料】

経済産業省 資源エネルギー庁
省エネ法がかわります
改正省エネ法に基づく措置等について(令和5年2月)

上田 この記事は
エコシステムジャパン株式会社 上田 が担当しました

2024.06.03 国際動向

スペイン・バルセロナの多様なゴミ収集事情

海外ごみ事情

バルセロナは、人口165万人(2023年現在)、穏やかな地中海気候とピカソやダリ、建築家アントニオ・ガウディを目当てに、ヨーロッパをはじめ各国からの観光客が絶えないスペインの地方都市です。
市中心部のショッピングエリアは、100年ほど前から整備された碁盤の目状の街区ですが、旧市街は迷路のような路地が入りくみ、新開発が進む高層オフィス街区や山間部など、多様な街並みを形成しています。

■街区に合わせた多様な収集システム

そんなバルセロナでは、2022年から2030年までの計画で、持続可能な未来に向けた新しいゴミ収集システムが始動しました。街路には新しいデザインの大型分別コンテナ(上の写真)が設置され、日中・夜間を問わずゴミを回収する廃棄物収集車両は66%が電動化され、周囲の人への安全機能も搭載されていて騒音も少なくなりました。

また、新しい大型コンテナだけではなく、道が狭く車両のアクセスが難しい街区、商店街で人通りが多い街区など、街区の事情に合わせて空気圧式収集ポストや、移動式プラットフォームなどを設置しています。一部では戸別収集の試みも始まり、商業地区では手動収集も毎日行われています。

上の写真は、2種のコンテナからのゴミ収集の様子です。右側は埋め込み型の小型ゴミコンテナを引き上げてゴミを車に積載しています。

空気圧式収集ポスト(下の写真)は、景観に配慮する場所に設置されている悪臭が発生しないコンテナです。コンテナは地下パイプのネットワークに接続されていて、投函したゴミ(一般ゴミと生ごみ)は中央の吸引ポイントに吸引収集されます。

街路の狭いエリアではこれまでの固定式コンテナが排除され、毎日定時(6時~11時、18時~23時)に新しく移動式プラットフォーム(下の写真)が広場などに設置されることになりました。一般ゴミや生ゴミは毎日、プラスチックや瓶、段ボールなどは週5日のみ、捨てることができます。

(参照)Plataformas móviles | Limpieza y Residuos | Ajuntament de Barcelona

また一部のエリアでは、新しくゴミの戸別訪問回収の試みが始まりました。収集カレンダーに従って該当する日に廃棄物を分別(有機物、包装、紙とボール紙、廃棄物とガラス)して戸外に置いておくと、定時に収集車が回収します。共同責任に基づいた消費と廃棄を推進するため、分別に責任を持たせることが狙いです。
昔に戻る施策のようにみえますが、調査結果では戸別訪問回収が最もきちんと分別してもらえる回収方法とのことです。

■ゴミの5大分別

(参照)Buscador de residuos | Ayuntamiento de Barcelona

バルセロナのゴミの分別は分かりやすく色分けされています。

  • 茶色-オーガニック(生ゴミ、コルク栓、汚れたキッチンペーパー、庭の廃棄物など)
  • 青色-包装材・紙・ボール紙・段ボール
  • 緑色-ガラス
  • 黄色-プラスティック・アルミ(ペットボトル、ビニール袋、飲料缶、シート、アルミホイル、発泡スチロール、小型スチールケーブルなど)
  • 灰色-その他一般廃棄物(タバコの吸い殻、掃除の残骸、使用済みの鉛筆、髪の毛など。おむつや動物の糞も捨てられますが、「衛生廃棄物」と書かれた黒い袋に入れること)

灰色のコンテナには、適切に分別されていない廃棄物が大量に混在するため、エコパークに運ばれてさまざまなプロセスを経てリサイクル可能な材料を分別し、リサイクルできない廃棄物は埋め立て地に送られるか、焼却されるそうです。

■壊れた電化製品や廃油などの収集施設グリーンポイント(punto verde)

コンテナに捨てることができない廃棄物(バッテリー・廃油・電球・電化製品・スプレー・インクカートリッジなど)は、地区ごとに設置されたグリーンポイント(上の右の写真)や移動式グリーンポイントへ持っていきます。

グリーンポイントは月曜から土曜日まで開いていて、管理者が施設内のゴミの分別を指示してくれます。移動式グリーンポイントは廃棄物収集車のことで、学校や広場に定期的に一定時間停車してゴミの回収を受け付けます。

このグリーンポイントへ廃棄物を年に15回以上持っていくと、水道料金と一緒に支払っているゴミ処理のための市税と環境税に対する最大14%の割引が受けられるグリーンポイントカードのサービスも始まりました。
2020年から、バルセロナ市民は家庭廃棄物の適正収集・処理のための市税と都市廃棄物処理処分料としての環境税を支払っています。このポイントカードも、分別収集を推進するための施策の一つです。

また、壊れた家具などの粗大ゴミは、週に1度に20時から22時までの間に自宅前の路上に出しておくと回収してくれます。

■協同組合と連携した衣類のリサイクル

衣類のリサイクルにも積極的です。
衣料回収用のオレンジ色のコンテナが、地区のグリーンポイントや公園脇などに設置されています。洗った不要な衣類を、汚れないように紙袋などにまとめて投入します。

コンテナの管理と古着の回収は、ロバ・アミーガ(衣類の友達)協同組合が行っています。収集された衣類は繊維処理工場に運ばれ、選別・分類後に再利用と繊維のリサイクルが行われます。再利用として、社会福祉の人々への寄付のほか、ロバ・アミーガの中古衣料品店で手頃な価格で販売されています。

協同組合の発表によると、2022年は、カタルーニャ州で 3,030個のオレンジ色のコンテナと、568の自治体と協力企業に配置された回収ポイントを通じて、1,390万4,774キログラムの衣類を回収したということです。

バルセロナでは、持続可能な地球環境を守る取り組みを様々な施策を通して行っていますが、その達成は、私たちひとりひとりの日々の行動、責任あるごみの分別と廃棄にかかっていますね。

この記事は
バルセロナ在住フリーライター MikWak が担当しました

2024.06.03 サーキュラーエコノミー

対談企画 サーキュラーエコノミーは誰のため? その3 サーキュラーエコノミーは顧客価値

対談

細田 衛士(ほそだ えいじ)様

東海大学副学長、政治経済学部経済学科・教授
慶應義塾大学名誉教授
中部大学理事、学事顧問、名誉教授

1993年より国税庁中央酒類審議会 新産業部会リサイクルワーキンググループ座長、1995年通商産業省産業構造審議会廃棄物小委員会委員、2000年運輸省FRP廃船の高度リサイクルシステム・プロジェクト推進委員会委員、2003年環境省政策評価委員会委員、2011年中央環境審議会委員、2011年林政審議会委員、2023年「サーキュラーエコノミーに関する産官学のパートナーシップ」事業における総会、ビジョン・ロードマップ検討ワーキンググループの委員などを歴任

喜多川 和典(きたがわ かずのり)様

公益財団法人 日本生産性本部 エコ・マネジメント・センター長
上智大非常勤講師

長年にわたり、行政・企業の環境に関わるリサーチ及びコンサルティングにあたる。
経済産業省循環経済ビジョン研究会委員(2018年度~2019年度)、ISO TC323エキスパート(2019年~2023年)、NEDO技術委員などを歴任
おもな著書に、「サーキュラーエコノミー 循環経済がビジネスを変える」勁草書房、「環境・福祉政策が生み出す新しい経済 “惑星の限界”への処方箋」岩波書店 等がある。

自動車を生まれ変わらせる

喜多川

ヨーロッパの自動車メーカーである、ルノーや、ステランティスグループが、中古車から車を製造し始めています。

イタリアに初のサーキュラーエコノミーハブを開設して、材料の回収と持続可能な再利用の産業化を目的としたセンターオブエクセレンスを構築し、同事業は前年比18%の売上成長を実現しました。
(出典)Stellantisが2023年通年で、記録的な純収入、純利益、 製造用フリーキャッシュフローを達成(Stellantisジャパン株式会社)

上田

ステランティスは、フランスの自動車メーカーとイタリアの自動車メーカーが合併して2021年に誕生した多国籍企業で、『アルファ ロメオ』、『シトロエン』、『DSオートモビル』、『フィアット』、『ジープ』、『プジョー』など複数のブランドを有しているのですね。

(出典)Our Brands | Stellantis

喜多川

彼らは、中古車と廃車のみをモノとしての経営資源として投入し、車、部品、素材を製造します。それらは、 メーカーレベルの品質保証がなされた製品となります。

細田

解体業者が担っている機能も取り込むんだね、自分たちの中に。

喜多川

現在EUで検討されているELV規則の法案に基づいて定められるEPR(拡大生産者責任)における生産者の責務(リユース・リサイクルによる資源循環)を、自分たちの工場の工程に取り込むことで、リユース・リサイクルが外部コストでなくなり、収益をあげるための内部価値に転換させたサーキュラーエコノミーの好事例と言えましょう。

【参考】欧州委、循環性の高い自動車設計・生産・廃車に向けた規則案を発表(独立行政法人日本貿易振興機構)

ルノーはこれまでのところ、サーキュラーエコノミー型の工場を欧州内のみで展開していますが、ステランティスは今後、欧州外にもサーキュラーエコノミーハブを設立する計画を示しています。計画通り実施されるのであれば、ステランティスグループのサーキュラーエコノミー戦略はグローバル展開ということになる可能性があります。

彼らは、サーキュラーエコノミー政策に基づいて自分たちを変えるつもりはない、常にマーケットベースで考えて、消費者がどういう考え方をしているかによって動いていると言っています。
しかしそうは言っても、1つ気になるのが、ELV規則で新車の製造に必要とされるリサイクル材利用量の算定が与える影響です。

例えば、中古車とか廃車だけを自分たちの工場に受け入れて、100%中古の部品を使ってリユースベースの車を造るとします。そうすると、車の再生材利用の割合は100%になりますね。

EUのELV規則では、プラスチックは再生材を25%以上使用することが義務として設定される可能性がありますが、いくつかのサーキュラーエコノミー型工場で生産した車の再生材利用率が100%とカウントしてよいとなるならば、他の新車を作っている工場で生産する車は再生材利用率25%をクリアしなくても、OEMとしては義務をクリアした事になるんじゃないかという懸念です。

これと同じような考えが実際に、EUの容器包装及び容器包装廃棄物に関する規則では採用されようとしています。

【参考】EU、包装材のリサイクルや再利用、過剰包装禁止を義務付ける規則案で政治合意(独立行政法人日本貿易振興機構)

この規則案では、リサイクル材の利用率は個別製品ごとに目標値をクリアしなくてもよいとの方向で検討が進められています。

例えば洗剤のボトルには60%の再生プラスチック使わなきゃいけない、と規定されていても、個別に全部のボトルに再生プラスチックが60%以上含まれている必要はなく、洗剤品目に属する製品の平均として60%を超えれば法の要件を満たすことになるという意味です。つまり高級ブランドでは再生プラスチックが10%しか入ってないものがあっても、大衆ブランド製品では70%以上再生プラを使っていて、全体で押しなべて60%を超えればいいとなります。

だから自動車も、全体で平均した再生材利用率という事になれば、ステランティスやルノーのような再生工場を運営していれば、利用率がぐっと上がりますね。ただし、これまでのところ、ELV規則案ではリサイクルプラスチックのみを算定の対象としており、リユースのプラスチックは算定対象に認めていません。とはいえ、こうしたルールは現実的な事情によって変更されることもあるのではないかと一応気にかけておくべきではないかと思います。

逆に日本が再生材利用率25%を達成するのは至難の業です。これはヨーロッパの自動車メーカーにおいてもほぼ同じなのでこのあたりの動きが気になります。

細田

再生プラスチックなんか、まず集められない。

喜多川

日本にも再生プラスチックを作っている会社がありますが、到底間に合いません。
ヨーロッパでは、全ての製品、容器包装も、車も家電も、何に対しても再生プラスチック使うことが要求されてきています。高品質なプラスチックは取り合いになっているので、日本が高品質の再生プラスチックを輸入するのは、ヨーロッパに限らずかなり難しいと思います。

上田

今までは、再生材は見えないところに使われていた印象ですが、再生材利用率が上がると、使われる範囲が拡大していきそうですね。

喜多川

そうですね、僕が買った車、ルノーなのですが、ダッシュボード脇のプラスチックは再生プラスチックなのではないかと思いました。購入後、ダッシュボードとの隙間が変形してきて、最初は虫一匹通れるような隙間が小ネズミだったら通れるくらいにまで広がりました。最終的には部品交換してくれましたけど、最初の内はディーラーの整備部門に持ち込んでもドライヤーをかけて一生懸命直そうとしていました。

製品に対する要求水準が、日本人とフランス人などのラテン系の人とは随分違うのではないかと思いました。

細田

製品の要求水準も違うけど、自分の車だってEUの人達はちょっとくらい車をぶつけても全然気にしない。バンパーはそのためにあるんだって感じでしょ。

日本の要求水準が厳しいことはいいところでもあるんだけど、サーキュラーエコノミーはある程度許容度がないと難しいんじゃないかな。ただ、例えば日本も再生紙が普及し始めた頃は、真っ白じゃないと嫌だと言われたけど今はみんな普通に使っているし、変形したキュウリもお店で売られるようになってきたみたいに、少しずつ変わっていくのだろうけど、そういう市民の許容度というか、マインドセットは、EUやアメリカと日本は違いますね。アメリカはEUよりも、さらに許容度が高い。

喜多川

そういうところはカルチャーと繋がっていて、日本人は、分別はきれいにする、製品は綺麗じゃなきゃダメ、とかいろんな特徴があって、そこをどうやってサーキュラーエコノミーの方向に収束させていくかは、日本は日本のやり方で、ということになると思います。

サーキュラーエコノミーは顧客価値

喜多川

ヨーロッパでは顧客価値をベースに、サーキュラーエコノミーを考えようという姿勢が非常に強いんです。
例えば、ヨーロッパは、修理する権利を法制化しようとしており、修理するときに条件によりますが、メーカーにパーツがなくて直せないということを許さない方向で考えています。

例えば、ステランティスグループのサーキュラーエコノミー型の工場は他社の車も受け入れます。そして、他社の車を修理するためにどうしたらいいのかとその車を作った自動車メーカーに問合せた場合、その自動車メーカーはそれを修理するための情報を提供しなければならない可能性が出てきます。

上田

競合に自社の車の情報を渡さないといけないのですか?

喜多川

本来、各メーカーにとって知的財産権に当たるような知財であっても、それを修理して顧客にリーズナブルな形で価値ある製品を提供できる場合には、その情報を提供することが知的財産権よりも優先されるとの判断が適用されるケースが今後出てくるものと思います。

細田

それは法的にはもう合意されているんですか。

喜多川

かなり整備されつつあります。
知財などや企業にとっての秘密情報を、「出せない」と言える権利と、 「出さなければならない」義務とが交差することになるわけですが、そこで重要な概念として「顧客価値」優先が語られるようになってきています。

細田

少し話は変わるけど、EUというのは、既存の決まりにこだわらないところがあるよね。
例えば、アパレル事業者が売れ残った服や靴などの衣料品を廃棄できなくなるという規則ができてきているけど、「捨てちゃいけない」というのは所有権に対するすごい制約だと思うんですよ。

【参考】EU、エコデザイン規則案で政治合意、未使用繊維製品の廃棄禁止へ(独立行政法人日本貿易振興機構)

資源は捨てちゃいけないぞとなったら、節約して利用するか、 サーキュラーエコノミー的に高度な資源循環するかしかないじゃないですか。これはとても面白い。

修理する権利

喜多川

アメリカでは、修理する権利に関する法案づくりに着手している州が増えているのですが、その修理する権利を1番求めているのは、車のユーザーなんだそうです。

【参考】修理する権利: 米国における最近の動向(The World Intellectual Property Organization (WIPO))

新車を買おうとしても、半導体不足などで納車は3ヶ月後とか6ヶ月後になる。ならば古い車を修理しようとしても、スペアパーツがないから直せないと言われてしまう。そこで修理する権利だ!ってことになるのだそうです。

細田

日本で「修理する権利」が整備されたら、安い電気製品が売りにくくなるだろうね。

上田

直すよりも買ったほうが安いですよ。

細田

それは経済システムの問題だよね。
作って壊すというシステムの中で修理しようとしても高くつくけど、 修理を前提にしたシステムを組んでおけば、修理するのが当然安くなる。それはもう経済システムの作り方の問題なんだけど、日本はとにかく、作って壊す、ということで経済成長してきたので、もうずっと日本人の、我々の頭にこびりついているんですよ。

日本はGDPが世界4位になりましたね。ICT投資をサボってきたとか、それが故のGDPの低下はまずいんだけど、 これだけ豊かな社会で、スーツは何着持っているんですか、何着着るんですか、靴は何足持つんですかって。
靴なんか修理して履き続けたらいいじゃないかと思うけど、作って捨てるビジネスモデルが頭にこびりついてしまっている。

喜多川

例えば家電も、多くの場合に去年のモデルは安くなるように、必要かどうかは別として、新機能や流行のデザインを施した新製品を出すことによって古いものを陳腐化させるようなビジネスモデルは多分、日本の家電メーカーぐらいだと思います。ヨーロッパでは、毎年新しい製品が出て1年前の製品を陳腐化させる売り方はやっていません。

定番の冷蔵庫とか洗濯機を出し続けながら、必要に応じてきちんとメンテナンスして、故障しても修理して使い続けられるようにしていくようにすることで、単に売れなくなったから儲からない、のではなく、それ自体がビジネスモデルとしてきちんとマネタイズできて成立するようなビジネスモデルを開発していく、という風に展開していくことが、サーキュラーエコノミーです。

細田

そして、それを評価する消費者がいないとダメなんだよね。消費者がそれを選ばないと、そうなっていかない。
例えば、イギリスのアクアスキュータム(Aquascutum)に行くと、10年前に買ったのと全く同じコートが売っているし、修理もできるんです。

上田

アクアスキュータム(Aquascutum)は、トレンチコートが有名なイギリスの老舗ファッションブランドですね。

(出典)STORY(アクアスキュータム)

細田

高度経済成長の時の私たちの幻想ですよね。豊かになることを目指して、作って・作って・作ってしまった。当時は耐久消費財がどんどん入れ替わる時でもあったので、やむを得ないところもあるんだけど、今はいろんなものが普及しているので、この先もっともっとはないでしょう。大事に使うことをユーザーが評価して、豊かな精神性、果実を積み取っていかないと。

上田

精神性ですか?

細田

今日はちょっと早く仕事を終わって、シアターに行きましょうよとかね。
そうやってエンジョイしているのが、EUの羨ましいところだと思うんだよね。
せせこましくみんな残業しない。

上田

残業、、、しないように頑張っていますが、仕事をしても、仕事をしても終わらないのです。

細田

僕の教え子がフランスに行っていましてね、フランスはバカンスが4週間なんですよ。さらにバカンスの前に仕事をしようと言うと、嫌な顔をするそうなんです。「俺、 2週間後にバカンスだから、そういう話はやめてくれ」って。
それで、バカンスから帰ってきたら、今度は、「バカンスから、帰ってきたばかりだ」って。
バカンス前後の2週と2週とバカンスの4週、合わせると8週間ですよ。でも、フランスの生産性は日本より高い。

喜多川

フランスの生産性の方が高いということは、日当たりでは日本の倍以上の生産性になりますね。

細田

1つには、日本は無駄な時間を過ごしているということありますよね。海外は時間で終わりますから。

上田

私自身、無駄な仕事をしている認識はないのですが、外資系の会社に勤務している友達と話をした時に、日本人は完璧を求めるから完成度を上げるための時間がかかってしまうのではないか、という仮説に至りました。

細田

経済学的に言うと、何かの取り組みをした時に、最初の方は生産性が高いけど、その後、生産性はだんだん下がってくる。

EUでは、まず概念設定があって、目的は何で、それを達成するためにこういう規則を作る、という風に動いていきますよね。だから、規則に多少穴があっても、全体的に動いていって新しい経済を作る方向になっていくじゃないですか。でも、日本人は、神は細部に宿るじゃないけど、細かいところにすごく時間かけるから、生産性は上がらない。
例えば、ごみを資源として細かく分別するとか、それも大事なことだから、この折り紙の文化をどう変えるかは難しいんだけど、でもやっぱり改善の余地はものすごくあるよね。

喜多川

日本だけじゃなくて、ドイツ人も完璧主義者ですよ。日本の100点主義とはちょっと違うかもしれないですけど。

細田

日本とドイツは、ちょっと違うね。ドイツ人は、理性があってその理性で理詰めて解いていったことをベースに完璧を求めるというカントの世界じゃないかな。

例えば茶道のお手前というのがあります。お茶はどう飲んだって構わないんだけど、理性は関係ない精神性の世界というか、美意識ですね。

一方ドイツの場合は、ロジカルに詰めていって正確性を求める。
結果は同じだったとしても、そこに至るまでの精神性の違いがあるんじゃないかな。

上田

精神性が違うとやり方も違ってくる、という事なのですね。

【参考記事】

Stellantis Fosters Circular Economy Ambitions with Dedicated Business Unit to Power New Era of Sustainable Manufacturing and Consumption | Stellantis(October 11, 2022)
SUSTAINera: Circular Economy for a Sustainable Automotive Future

ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回の記事もお楽しみに!

2024.06.03 サーキュラーエコノミー 廃棄物管理

シュレッダーダストとは?

DOWAの取組リサイクル廃棄物処理

シュレッダーダストについて、処理の流れや制度の背景などを踏まえてご紹介します。

●シュレッダーダスト(SD)について

①シュレッダーダスト(SD)とは?

廃棄物から有価物を取り出した残りを破砕した破砕くず、又は、破砕した後に有価物が取り除かれた破砕くずのことです。自動車や家電のリサイクルなどで発生し、プラスチック、ゴム、残った金属など様々なものが含まれているのでマテリアルリサイクルが難しいものです。

エコペディア:シュレッダーダスト

写真:シュレッダーダスト

②車の処理で生じるシュレッダーダスト(ASR)

自動車から発生するシュレッダーダストはASR(Automobile Shredder Residue)と呼ばれます。
自動車からは、以下のような処理フローでASRが発生します。

鉄やアルミ等の金属を取り外す破砕する鉄、ステンレス、銅、アルミ、SDが発生

ASRは年間約57万トン発生(2019年度実績)しており、比重を0.26とすると、約219万m3発生していることになります。
※比重はJWNETの重量換算係数の表を参考にした

出典:経済産業省・環境省 自動車リサイクルの現状

●SD処理の制度

・各種リサイクル法で定められた処理方法

現在、車は年間で約360万台が廃車になっています。

かつて、シュレッダーダストは埋立処分場において埋立されるのが主流でしたが、埋め立てる土地にも限度があり、埋立容量がひっ迫してしまうという問題を抱えていました。そのような背景からシュレッダーダスト等の適正な処理・リサイクルが求められ、2005年から自動車リサイクル法が施行されました。

自動車リサイクル法では、自動車の製造業者が破砕業者からASRを引き取り、再資源化可能な施設(指定引取場所)でリサイクルを行う仕組みになっています。法施行後、ASRのリサイクル率は95%を超え、埋立処分場や焼却場に直接搬入されるASRは大幅に減少しています。

出典:自動車リサイクル促進センター ホームページ

家電については、その適正処理、リサイクルのため、家電リサイクル法が制定され、有価物の回収が行われるとともに、残渣として発生したシュレッダーダストのリサイクルも進められています。DOWAグループでもリサイクル施設を有しており、シュレッダーダストの再資源化を実施しています。

この記事は
DOWAエコシステム 企画室 後藤 が担当しました