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環境格付融資と環境リスクについて―(その5)

株式会社日本政策投資銀行
事業開発部 CSR支援室長
竹ケ原 啓介 様


【DBJ】日本政策投資銀行
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今回は、竹ケ原啓介様インタビューの5回目です。
「金融と環境・政策と環境」についてお話しいただいています。

私は金融という言葉自体に縁遠かった事もあり、金融が私達の生活や仕事に関わっている事を理解し切れていないのですが、金融の世界から見て「環境」はどのようにビジネスにつながるのでしょうか?

金融というのは、ものすごく単純化すると、ものの価値と価格の差を見つけて「さや」を抜くビジネスですから、ものの価値を正しく見る力が要求されます。
本来の価値より不当に安く評価されているものがあれば「さや」がある。一方で不当に高い評価のものがあればそこでも「さや」を抜くということをしますね。要するに安く買って高く売るように頑張っているということです(笑)
それが色々と複雑な形態をとりだすと、だんだん大本の価値と価格の差がみえにくくなります。誰かが正確な価値を測ったんだろう、と安易に流して、いきつくところまでいくと、アメリカで起こったサブプライムのような問題になってしまいます。

環境という素材も、この視点からみれば他と大きく変わるものではありません。環境保全に関連したプロジェクトなり、プロダクツに対して投資や融資を行うことで利潤を追求するというのが金融からみた環境プロジェクトということになります。このため、本当のエコロジストからみれば、話が矮小化されてみえることも多いだろうと思います。例えば、地球温暖化問題を心底憂いている人からみれば、金融の関心は温暖化対策の各プロジェクトの経済性やそこから生じる「排出権」にばかり向けられているようにみえるでしょうし、「生物多様性」の問題も、金額で判断しようとすれば、手っ取り早くオフセットの話などに行ってしまいます。ミティゲーションといって、「あるところで問題を起こしたけれど、こちらで修復すればイイでしょう。」という考え方がありますが、修復したところの環境価値を商品化して金額を付け、その取引にビジネスチャンスはないか、という方向に流れがちです。純粋に金融という視点から環境を論じれば、環境保全の本来的な趣旨とは違う流れができてしまうのは、ある意味やむをえないところです。
とはいえ、本当に環境保全効果のあるものに投資をしたいという思いを持った投資家もたくさんいますから、きちんと環境に取り組んでいるところへお金が流れるようなパスを作ることが課題と言えます。

環境への投資を促すために、政府・政策ができること、役割というのはどんなことだと思われますか?

政策が担っている部分は大きいですね、環境への投資は政策によって促されることは確かだと思います。

金融は、リスクを回避するために、将来キャッシュフローの予測が付きやすい、いわゆる「ぶれ」の小さいものを選好します。「環境」への投資が進まなとすれば、その理由の一つは、この「ぶれ」が相対的に大きいことでしょう。

例えば、一時期のように、ガソリン価格が右上がりに高騰すれば、風力でも太陽光でも経済性が成り立ち、注目されます。また、近年のようにレアメタルが値上がりすると、アーバンマイニングも経済性の観点で注目されてきます。でも、ガソリン価格が急落すると一気に状況が変わってしまう。この「ぶれ」の大きさが環境プロジェクトには付きまといます。投資家の多くは、この不確実性を嫌います。

そこで、期待される政策の役割としては、こうした不確実性を弱め、投資を喚起する条件を整えることが挙げられます。再生可能エネルギーの固定買取制度(「フィードインタリフ」)や「拡大生産者責任」に基づくリサイクル制度の整備などがその典型です。ドイツは、失業問題など大きな問題を抱えてはいますが、環境政策に関しては、こうした取り組みを90年代から進めてきたこともあり、圧倒的な自信を持ってますね。事実、仕組みづくりは非常に上手だったと思います。
アメリカ、オバマ大統領が掲げている「グリーンニューディール」や「クリンテック投資」も「スマートグリッド (SmartGrid)」という上位概念が非常に柔軟なものですから、色々な要素が入ってくると思いますが、根底にあるのは、政策として下支えすることで市場の「ぶれ」をなくし、「環境への投資をしても大丈夫だよ」というメッセージだと思います。

環境政策の仕組み作りが上手とは、どのようにうまいのでしょうか?s

欧州の環境政策を先導してきた国の一つがドイツなのですが、そこで注目すべきキーワードが「エコロジカルな産業政策」です。
「エコロジカルな産業政策」は、環境マーケットを作るために法整備を行うという考え方です。
新たなマーケットを先んじてつくることで優位性を確保し、雇用などの諸問題も解決させようとしています。それも世界のトップに立つ戦略性に長けています。

ある程度の代償を覚悟の上で、世界標準を上回る厳しい環境基準を他に先んじて国内に導入し、イノベーションを促すとともに、経済合理性のある仕組みを作りこんで、マーケットをつくってしまう。他のEU諸国や後発国が同じ道を辿って来ざるを得ない流れをつくって、環境技術やシステムの覇権を握り、国内(EU)の産業に有利な状況を確保するという戦略です。
EUレベルの化学物質規制である「REACH」や「RoHS」などの基準や枠組みづくりも、相当の代償はあったと思いますが結果として彼らにとっては成功戦略と言えるのではないでしょうか。

日本は環境に関する戦略が弱いと言われる事もありますが、ドイツの例を聞くと確かにそう思いますね。日本だけが厳しい基準を作ろうとすると、世界的な競争力がなくなる、日本から工場が移転するぞ、と産業界が反対し、あまり強烈な法律というか縛りは作られない印象があります。

たしかに日本の法律の多くは、利害を調整しながらなるべく摩擦の少ない方向で整備をして、結果現状とそんなに違いのない丸い物を作って、それを使いながらレベルを高めていくという調整型が多いように思います。非常に優しい歩み方をします。一方、ドイツで感じたのは、合理的と判断したら、現状と全く合わない法律でも入れてしまって、時間をかけてでも強引にシステムを作り変えてしまうスタイルです。文化や歴史の違いでしょうか。
特徴的な例として、日本で焼却場から出るダイオキシンが問題になった99年当時、「燃やさないドイツは立派で日本はダイオキシンまみれ・・」のような報道がされていましたが、実はドイツでは着々と焼却処理を強化している段階だったのです。それまでは、中間処理をせずに埋めていたので処分場から出る処分場ガスが大問題になっていました。そこで、93年に無機化しないと埋めてはいけないという法律を作りました。機械式・生物式の中間処理も認められていますが、要は償却に舵を切ったということです。ただし、その時点で中間処理しようにもインフラがありませんので、適用猶予期間を12年(2005年発効)として「12年の間に現状を変えろと」言い切って社会を変えていきました。12年間の内に焼却施設が整備されていき、今やドイツは高効率の焼却大国です。

日本の「家電リサイクル法」が当初4品に限って入れ、徐々に品目を増やしていく流れに対し、EU の「WEEE(ダブリュートリプルイー)」が一気に問題が発生しているほとんどの製品を対象にして、網をかけ、各諸状件によりバッファを設けるというような違いにも現れていますね。

国が違うと、法律の作り方、つまり規制のかけ方も変わってくるんですね。ついつい、日本を軸に考えてしまうのですが、日本の常識・世界の非常識ということって、結構あるんでしょうね。おもしろいですね。

ここまでお読みいただきありがとうございます。
この続きは、竹ケ原様インタビューの(その6)として、次号のジャーナルでお届けします。
次回の主な内容は、「ドイツのその他の環境事情」についてのお話しをお届けします。

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