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研究発表−1:多環芳香族炭化水素のオゾン酸化分解

第19回 地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会(2013年)

このオゾン酸化分解による浄化方法は、汚染地下水の拡散防止方法として、VOCや一部の重金属以外の汚染物質にも有効な透過性浄化壁(PRB)の検討をするなかで開発したものです。今回は、対象物質として石炭ガス製造工場跡地等で汚染物質として確認され、海外では基準値が定められている事の多い多環芳香族炭化水素を選び、その適用性を検討しました。

マイクロバブル-オゾン-PRB工法の特徴は、汚染源を拡散させるおそれがなく、ランニングコストが電気代のみと安価である事です。今後、地下水汚染の拡散防止を検討しているお客様に提案していきたいと考えています。

「多環芳香族炭化水素のオゾン酸化分解」

ジオテクノス株式会社 ○早澤敬一・友口勝

1. はじめに

揮発性有機化合物(VOCs)汚染地下水の拡散防止技術の一つとして、揚水法が普及している。これは地下水下流側の敷地境界付近に揚水井戸を設置して汚染地下水を回収・処理する手法である。本方法では、揚水量によっては、汚染源から汚染物質を敷地境界側へ引き寄せ、対象敷地内で汚染拡散を生じるおそれ、周辺の自然地下水流の向き、速さに影響を与えるおそれ、また、排水処理にかかる薬剤費等のランニングコスト及び、定期的なメンテナンス費が比較的大きい等の課題が挙げられる。

これに対して、地下水下流側の敷地境界に対象物質を分解または吸着する反応剤からなる透過性の反応壁を設置し、自然地下水の流れを利用して、拡散防止を図るPRB(Permeable Reactive Barrier)工法が適用される例もある。本工法の反応剤として、VOCsに対する鉄粉等が挙げられるが、鉄粉のPRB適用範囲は、VOCsや一部の重金属類のみである。

筆者らは他の反応剤としてマイクロバブル-オゾン(以下、MBO)に着目しており、これまでVOCs や油類について、MBOの適用性を検討してきた1),2),3)。MBO-PRBの利点として、1.汚染源の拡散がないこと、2.ランニングコストが少なく電気代のみであること、3.鉄粉が適用できない汚染物質に対しても適用性があること等が挙げられる。本報告では、石炭ガス製造工場跡地等で汚染のおそれのある多環芳香族炭化水素(以下、PAHs)についてもオゾン酸化分解の適用が可能かどうかを基礎的に検討した。

2. 試験方法

2.1 対象物質

種々のPAHsのうち、対象物質は地下水に溶出する可能性の高いと考えられる図1及び表1の10種類のPAHsを選定した。これらの水への溶解度は概ね0.1mg/L以上である。

2.2 バッチ式分解試験

500mLのデュラン瓶にイオン交換水300mLおよび攪拌子を入れ、マグネティックスターラーを用いて、水を攪拌した。引き続き、表2に示す条件にてオゾン曝気して水中にオゾンを溶解した(手順1)。その後、デュラン瓶を密栓し、シリンジを用いて所定量のPAHsを添加した(手順2)。その後30分撹拌して(手順3)、手早く採水し、200mLをPAHsの測定に、100mLはオゾン測定にそれぞれ供した(手順4)。

PAHs濃度は、環境省の「要調査項目等調査マニュアル」に従って、オゾン濃度は、ヨウ化カリウム滴定法(KI滴定法)にてそれぞれ測定した。リファレンス(以下、Ref.)として、空気曝気のみの試験も実施した。試験系および試験フローを図2および図3にそれぞれ示す。

2.3 連続分解試験

2.1の系において十分な分解が認められなかった物質に対し、連続的にオゾン曝気を実施し、分解の可否を確認した。連続オゾン曝気試験のフローおよび試験系を図4および図5にそれぞれ示す。内容積2000mLのデュラン瓶に、イオン交換水1000mLおよび攪拌子を入れて密栓し、所定量のPAHsを添加した(手順1)。
マグネティックスターラーを用いて2分間撹拌し、100mL採水してPAHsの初期濃度を確認した(手順2)。
引き続き、表3の条件にて連続的にオゾン曝気を実施した(手順3)。
所定時間毎に100mL採水を実施し、PAHs測定に供した(手順4)。
また、Ref.として、空気曝気のみの試験も実施した。

3. 試験結果及び考察

3.1 バッチ試験の結果について

試験系において溶存オゾン濃度は、表2の条件で60 mg/Lであった。対象PAHs10項目のC/Co(C:分解後の濃度、Co:初期濃度)を図6に示す。試験した範囲ではフルオレンを除く9項目全てが、本試験系でほとんど分解が可能であった。フルオレンのC/Coは、0.81であり、約2割程度が分解された。なお、試験終了時の残存溶存オゾン濃度は、10項目とも1.0mg/L以下であった。

3.2 連続オゾン曝気試験

バッチ試験において、フルオレンは十分な分解が達せられず、連続試験にて分解試験を実施した。図7に反応時間とC/Coの関係を示す。試験した範囲において、Ref.では完全に曝気に伴う揮発の影響が2割程度認められる程度であった。一方、連続オゾン曝気では15分程度で検出下限以下にまで分解された。フルオレンも、オゾン量を増せば比較的短時間で分解可能である事がわかった。

4. 考察

バッチ試験の結果より、下記式を用いて反応速度定数を算出した。
kO3 = -Ln(C/Co)/η・[O3]Δt
kO3:反応速度定数(M-1s-1)、C:PAHsの濃度(mg/L)
η:消費されたオゾンあたりのPAHsの除去係数(mol/mol)
[O3]:反応時間(Δt)内の平均オゾン濃度(mg/L)
Δt:反応時間(sec)

表4に各PAHsの反応速度定数を示す。ここでフルオレン以外は、分解試験後の濃度が検出下限となったため、参考値である。
今回試験した範囲では、フルオレンが最も分解し難い結果であった。フルオレンの水への溶解度、構造については、他のPAHsと比較すると特異な特徴がなく、分解し難い理由については、不明である。

5. まとめ

環境省の要調査項目等にあげられているPAHsのうち10項目について、オゾンによる酸化分解試験を実施し、以下の通り確認した。

ナフタレン、1-メチルナフタレン、2-メチルナフタレン、アセナフチレン、アセナフテン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、フルオランテンの9項目については比較的オゾンによる分解が容易であった。

フルオレンは他のPAHsよりも分解し難いが、オゾン量を増すことで、分解可能なことが確認された。本試験であげられるPAHs10項目に対しては、地下水拡散防止対策としてMBO-PRB工法が適用可能であると考えられる。
また、本試験のPAHs10項目はオゾン分解速度が比較的速いので、少量のオゾン量で分解可能であり、ランニングコストも低くできると考えられる。今後、実際のPAHs汚染地下水への分解可否および飽和帯(土+水系)における分解可否を明らかにし、PRBへの適用について検討を進めたい。

6. 引用文献・参考文献

1)日野成雄(2007):
微細気泡混合水の注入による油汚染土壌の浄化促進効果について、
第13回地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会講演集 pp.363-367

2)日野成雄ほか(2008):
オゾン酸化法によるVOCs汚染地下水の浄化効果について、
第14回地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会講演集 pp.577-581

3)日野成雄(2010):
オゾン酸化法によるVOCs汚染地下水の浄化効果の検証、
第16回地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会講演集 pp.80-83

4)日本オゾン協会:オゾンハンドブック(2004)

この記事は
ジオテクノス株式会社
早澤 が担当しました

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