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その道の人に聞く

資源リスク評価と金属資源のクリティカリティ その4
〜レアメタルとクリティカルメタル〜

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
安全科学研究部門
社会とLCA研究グループ研究員
畑山 博樹(はたやま ひろき)様

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
社会とLCA研究グループ ホームページ
戦略的都市鉱山研究拠点「SURE」

「クリティカルメタル」という言葉をご存じですか。
産業を支えている鉱物資源の安定供給確保やリサイクルなどの資源問題を考える上で、世界的に最近よく使われている言葉です。レアメタルと似た印象のある言葉ですが、「クリティカルメタル」とはどのようなものなのでしょうか。

今回のインタビューは、「資源リスク評価と金属資源のクリティカリティ」について研究をされている畑山博樹様に、資源リスクを取り巻く最近の動向などの背景を含めお伺いしました。

【その4】レアメタルとクリティカルメタル

(1)そもそも「レアメタル」とは

DOWAエコシステムではエコプロダクツ展で、毎年レアメタルに関する展示をしていますが、「レアメタル」を聞いたことがある、という方は多いと感じます。

レアメタルという言葉が頻繁に使われはじめたのは1980年代で、国の制度として供給障害に備えた備蓄が導入されました。その後、レアメタルの需要が増加し、レアメタルを生産する中国をはじめとした途上国の影響力が大きくなるにつれて、その安定供給に向けた方策の必要性は一層高まっていきました。
2000年代に入ってからは、レアメタルという単語を含んだ多くの制度や指針、技術開発プロジェクトが政府および民間企業によって実施されてきました。数年前の中国によるレアアース(レアメタルの一部)の輸出制限で値段が高騰した時の報道や、携帯電話や小型家電に入っているレアメタルの価値に関する報道で興味を持たれた方も多いのではないでしょうか。

レアメタルと言っても、プラチナは価格が高いですが、ほとんどのレアメタルの価格は安くて、可採年数も長いものが多いので、エコプロで展示をしていると、「何でこれがレアメタルなの?」と一般の方から良く聞かれます。

可採年数が短いとか、埋蔵量が少ないというのもレアメタルの条件の1つではありますが、それだけではありません。レアメタルの最大の特徴は、「市場での流通量が少ない」という点です。

例えば、鉄であれば国内で年間約1億トンが流通しますが、レアメタルのプラチナだと数10トンの規模です。このように流通量が少ないと、サプライチェーンの各段階で寡占状態が起こりやすくなります。
また、ベースメタルにとってのLME(ロンドン金属取引所)のような国際的な取引情報を把握できる場が成熟しておらず、投資家の動きによって価格が大幅に変動することもあります。このように、一部のプレイヤーが世界全体に及ぼす影響が大きいため、レアメタルの供給や調達は不安定になりやすいのです。

その他の特徴としては、他金属の副産物(バイプロダクト)として生産されることが多い点です。例えば、インジウムはインジウム鉱石から生産するのではなく、亜鉛鉱石や鉛鉱石に含まれているものを副産物として生産するのがほとんどです。そうすると、インジウムが欲しくても、亜鉛と鉛の生産量が増えない限りインジウムの生産量は増やすことはできません。もちろん、インジウムのためだけに亜鉛鉱石を掘るのでは採算が合いません。
このように他の金属の副産物であるレアメタルは、生産量が主金属の需要動向に制約されてしまうので、需給バランスが壊れやすくなっています。レアメタルは可採年数や埋蔵量というよりは、より広く「供給が不安定になりやすい金属」と考えて下さい。

(2)クリティカルメタルとは

先ほど、クリティカリティ評価という言葉が出てきましたが、クリティカルメタルとレアメタルは、どう違うのですか?

クリティカルメタルの大まかな考え方は共有されつつありますが、クリティカリティを評価する際の詳細な部分は評価実施者に委ねられています。現状では、クリティカルメタルと位置づけられているもののほとんどがレアメタルとなっています。

クリティカルメタルの考え方としては、「供給リスクが高く、産業における重要性が高い金属」となります。供給が不安定となることで、多くの製品の生産に支障をきたす恐れの高い金属ですね。
この2つの要素は英語では“Supply risk”と“Vulnerability(to supply restriction)”(Vulnerability:脆弱性)と表されます。Vulnerabilityの代わりにEconomic importanceなども使われます。供給リスクが高い、産業にとって重要といった面は、レアメタルの考え方にも含まれているので、結果としてレアメタルの多くはクリティカリティが高く評価されます。

クリティカルメタルとレアメタルの大きな違いの一つは、クリティカルメタルにはベースメタルも含まれうる、という点です。ベースメタルでも、その供給に不安がある場合はクリティカルメタルとみなされます。例えば、インフラを支えている鉄が世の中から無くなると大変なことになるので、鉄の供給に不安があるようだと一気にクリティカルメタルに入ってくるわけです。
ベースメタルは古くから大量に利用されており、レアメタル以上に社会に欠かせない存在となっているので、その供給リスクは注意するべきです。日本の資源確保戦略が挙げる戦略的鉱物資源にも、多くのレアメタルに加えて鉄や銅などのベースメタルが含まれています。

レアメタルは海外ではマイナーメタルと呼ばれますが、その言葉が指す金属は世界共通です。それに対して、クリティカルメタルは国によって独自の金属がピックアップされる、という特徴があります。産業における重要度がクリティカリティのポイントですが、主要産業は国ごとに異なるからです。
また、供給リスクに関しても、例えばレアアースでは日本は散々困りましたけど、生産国である中国にとっては当然供給リスクは高くありません。生産国の集中や政情の不安定さも供給リスクの要因ですが、これらが改善されればクリティカリティは下がります。
このように、クリティカルメタルは評価対象として考える国・地域によって異なること、また需給動向や生産国の状況変化などによって刻々と変化することがレアメタルとの違いですね。

ちなみに、クリティカリティが高いと評価された金属群をクリティカルメタルと呼んでいますが、そこに明確な境界は無く、その括りは主観に過ぎません。クリティカリティ評価は金属ごとのリスクの相対的な高さを示すものであり、「この金属は危ない」「この金属は大丈夫」と明確に線引きするものではない点は意識すべきです。

(3)クリティカリティ評価の動向

「クリティカルメタル」という言葉は、いつ頃から使われるようになったのでしょうか。

国際機関や政府のレポート、学術論文などで多く使用されるようになったのは、2000年代後半でしょうか。クリティカル(Critical)という単語は“重大な/重要な/危機的な”という形容詞なので、大事な金属・材料のことを文脈に沿ってクリティカルメタル・クリティカルマテリアルと表現することは以前からされていました。それが、「供給リスクがどのくらい高いのか?」「この金属とこの金属のどちらのリスクが高いのか?」ということを考えるための資源リスクの定量化、すなわちクリティカリティ評価の動きが盛んになる中で、お話ししているような専門用語としての「クリティカルメタル」という使われ方がされるようになりました。

クリティカリティ評価の先駆けとして有名なのが、2008年に米国学術研究会議(National Research Council)が発表した「Minerals, Critical Minerals, and the U.S. Economy」です。この中で、クリティカリティを視覚的に理解できるcriticality matrixが紹介されました。このマトリックスがイメージとしてわかりやすかったこともあり、その後多くのクリティカリティ評価が実施されるきっかけとなったと思います。

それぞれの金属が、供給リスクと産業における重要性を評価して横軸、縦軸にとることでプロットされています。クリティカルメタルは「供給リスクが高く、産業における重要性が高い金属」と言いましたが、このようなマトリックスで示すことで、右上のエリアにプロットされる金属がクリティカルメタルだと判断されるわけです。このようなマトリックスでの表現が、現在のクリティカリティ評価の主流になっています。

アメリカが先行したんですね。ヨーロッパでは、どうだったのでしょうか?

ヨーロッパにとってのクリティカルメタルを評価したレポートが、欧州委員会より2010年に公開されました。下図のように縦軸を供給リスク、横軸を産業における重要度(Economic importance)としたマトリックスを示しています。

この図は2010年に出た最初のレポートのものですが、クリティカリティは年々変化することを認識しており、3年ごとに評価を見直すとしています。2013年時点での評価レポートも公開されており、その中で評価対象とする鉱種、材料の拡大や、3年前の結果との違いなどが述べられています。

このようにマトリックスの考え方は共有されている一方で、難しいのは「縦軸、横軸の位置をどのように決めるのか」という問題です。欧州委員会は縦軸の供給リスクについて、「生産国の集中度」を考えています。レアアース、タングステンの中国、ニオブのブラジルといったように生産国が1カ所に集中していると、そこで何か障害が起きた途端に供給が途絶えます。つまり、生産国の集中度が高いと供給リスクが高いと考えられます。また、供給リスクの別の要因として、「代替可能性」があります。その金属が手に入らなくなったときに、同じ機能を発現できる別の材料へ切り替えられるのであれば、リスクはそれほど高くありません。逆に、その金属が替えがきかない場合は、リスクが高いこととなります。
さらに、「リサイクル材の含有率(Recycled content)」も考えられています。ヨーロッパの需要のほとんどを地域内のリサイクルでまかなっている場合は、外からの天然資源の供給が多少滞ってもそんなに困りませんが、天然資源の輸入に頼っている場合は大きな影響が出ます。このような供給リスクの要因について、生産国の集中度をハーフィンダール・ハーシュマン・インデックス(Herfindahl-Hirschman Index, HHI)を用いて指標化したり、リサイクル材の含有率を推定したりと数値化して、最終的にそれらを統合することで供給リスクの大きさを決めています。

一方の横軸の「産業における重要性」については、その金属が使われている産業のGDPの大きさを考慮しています。ニッチな少数の産業に使われいる金属よりも、自動車産業や電機電子産業といった大きな産業に不可欠な金属のほうが、経済に与える影響は大きいと判断するわけです。

シビアに、金属による影響を考えるんですね。

ただ、いくつかの評価事例を並べてみることでわかるのですが、criticality matrixの縦軸と横軸をどのように決めるかはバラバラなんですね。供給リスクと産業における重要性を2軸に据える考え方は共有されているのですが、それをどうやって計算するのかは、評価者の資源リスクに対する考え方に依存しています。

米国学術研究会議のケースでは、供給リスクの軸で、可採年数、輸入依存度、さらにヨーロッパでは考えていなかった副産物かどうかに関しても考慮されています。また、代替可能性について、欧州委員会は供給リスクの軸で考えていましたが、米国学術研究会議の場合は産業における重要性の軸で考えていたりします。また、エール大学が提唱している評価方法も有名ですが、彼らは供給リスク、産業における重要性とも、非常に多くの要素を考慮しています。幅広いリスクをカバーしているともいえますが、一方でそれらを少ない軸に統合した際に結果の解釈が難しくなるので一長一短です。

このように、供給リスクや産業における重要性の評価にそれぞれに何を考慮するかは統一されていません。むしろ、評価者の考え方や評価対象のニーズに合わせて、様々な方法によって評価されるのがよいという雰囲気です。

ちなみに、過去の資源リスク研究のなかで、「供給リスク」の要素として何がどれくらい考慮されたかというレビューがあります。こちらの表に抜粋しますが、最も多く考慮されていたのは「生産国の集中度」です。「可採年数」は利用される頻度が高い指標ですが、一方で批判されることも多いです。石油の可採年数が40年程度で変化していないのは有名ですね。ただ金属の場合は、探査により新たな鉱床が見つかっても鉱石品位が下がってきており、採鉱から製錬までのエネルギーコストの増大も懸念されます。地質学的な資源の入手しやすさを表す目安としては、そこまで悪いものでもないように思います。

いずれにせよ、リスクとして何を考えるかというのが様々であることは、この表からもご理解いただけると思います。

表:供給リスクの主な構成要素
(Achzet and Helbig, Resources Policy, 2013, 38(4), 435-447より抜粋)

供給リスクの構成要素 事例数
生産国の集中度 12
カントリーリスク 10
可採年数 9
副産物 7
資源開発会社の寡占 5
需要成長 5
リサイクル 3
代替可能性 3
輸入依存度 3
金属価格 2

先ほど話に出たエール大学は、3軸で評価しているんですね。2軸は「供給リスク」と「産業における重要性」、もう1軸に「環境に与える影響(Environmental implication)」を追加しています。2軸のcriticality matrixに対して、この3軸で構成される空間を彼らはcriticality spaceと名づけています。


図:Criticality Assessment of All Metals(エール大学)
(Graedel et al., Proceedings of the National Academy of Sciences, 2015, 112(14), 4257-4262より作成)

引用元URL:http://www.pnas.org/content/112/14/4257.abstract

鉱石を掘って金属を生産すると、採掘地の環境破壊や製錬でのエネルギー消費などの環境負荷が発生します。ニッケルの産出地であるニューカレドニアの生態系破壊などを耳にされたことがあるかもしれません。この3軸目は、このような環境負荷の大きさをLCAで評価して決められています。これは「環境負荷が原因で将来生産が規制される」というような資源リスクの観点というよりは、金属を使用する業界や製品設計者への啓発的な意味合いが強いようです。

欧州委員会や米国学術研究会議と同様の評価軸でXY軸にプロットした上に、エール大学はこれに奥行きのZ軸を置いて空間としています。そして、ベクトルの長さによって総合的な資源リスクの大きさを表す方法をとっています。

マトリックスにすると、状態を図示できて分かりやすいですが、どうやって数値化するか、今まさに世界で研究されているところ、なのですね。


ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回は、「日本でのクリティカリティ評価」についてお話しをお伺いしています。


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