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その道の人に聞く

資源リスク評価と金属資源のクリティカリティ その2
〜産総研と畑山さまの経歴〜

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
安全科学研究部門
社会とLCA研究グループ研究員
畑山 博樹(はたやま ひろき)様

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
社会とLCA研究グループ ホームページ
戦略的都市鉱山研究拠点「SURE」

「クリティカルメタル」という言葉をご存じですか。
産業を支えている鉱物資源の安定供給確保やリサイクルなどの資源問題を考える上で、世界的に最近よく使われている言葉です。レアメタルと似た印象のある言葉ですが、「クリティカルメタル」とはどのようなものなのでしょうか。

今回のインタビューは、「資源リスク評価と金属資源のクリティカリティ」について研究をされている畑山博樹様に、資源リスクを取り巻く最近の動向などの背景を含めお伺いしました。

【その2】産総研と畑山さまの経歴

(1)産総研について

産総研は「研究開発法人」ということですが、研究所全体では研究や開発をされている方は何人ぐらいいらっしゃるのでしょうか。

研究職員が約2,300人と、事務職員が約700人います。その他にもポスドクやテクニカルスタッフに加えて、企業や大学との産学官連携で受け入れている多くの方々が研究に取り組んでおり、全体では1万人近くになります。安全科学研究部門には、50人ほどの研究職員が所属しています。

産業技術を総合的に扱う研究所という名前の示す通り、非常に幅広い分野にわたって研究がおこなわれています。研究分野は「エネルギー・環境」「生命工学」「情報・人間工学」「材料・化学」「エレクトロニクス・製造」「地質調査」「計量標準」の7つの領域・総合センターに大きく分かれており、各領域の中に部門やセンターと呼ばれる研究ユニットがいくつか属しているという形が研究組織としての基本構造になります。

産総研組織図

SUREの中心となっている環境管理研究部門や私の所属している安全科学研究部門は、エネルギー・環境領域に属しています。SUREの活動もそうですが、部門や領域を横断した連携研究が数多く進められています。

安全科学研究部門では「安全で持続性の高い社会の構築」への貢献を目指して研究を進めており、7つの研究グループが存在しています。
私が所属する「社会とLCA研究グループ」では8人の研究職員が中心となり、多様な環境問題の解決に向けた適応策や技術のシステム化を実現するための研究を実施しています。例えば、近年注目されている水資源消費や土地利用の評価を進めています。また、これらの新たな側面を従来議論されてきた温暖化などに加えて評価可能な、LCAのデータベースおよびソフトウェアの開発をおこなっています。他にも、持続可能な社会に向けたエネルギーシステム分析や市場制度設計に取り組んでいます。

「社会とLCA研究グループ」はLCAという名前が付いていますが、LCAありきではなく、環境影響に関する評価の手段の一つとしてLCAを活用しているということでしょうか。
畑山さんの所属する安全科学研究部門と「社会とLCA研究グループ」についてもう少しお聞かせください。

安全科学研究部門は、人間の健康や環境・安全に関するデータの集積や影響のモデル化と、それらを用いたシミュレーションによる評価研究が中心です。
日本の産業活動に伴うCO2排出や資源消費は、地球規模で影響を与えます。また、これら影響が引き起こす結果は重大なので、例え問題が顕在化していなくても、現状が抱えるリスクを適切に評価して早急に対策を講じることがもとめられます。このような目に見えない、あるいは見えにくい事象を評価するために、様々なデータやモデルを用いた合理的な推計を積み重ねていきます。

CO2などの環境負荷物質は、製品の製造時だけでなく、製品の使用や廃棄の段階でも発生します。ですので、トータルで見たときに環境負荷が小さくなるにはどうすれば良いか、というライフサイクル思考に基づいた評価すなわちLCAの視点が大切です。
ちなみにLCAと言うとCO2評価というイメージが強くなっていますが、本来CO2に限定されるべきものではありません。温暖化問題の解決を探るためにCO2の評価が盛んに行われたわけで、水資源や生物多様性など新たに取り組むべき問題に対しても、LCAのアプローチが欠かせません。一方で、多面的な評価をおこなうことで、「製品AはCO2発生量が大きい。製品BはCO2発生量は小さいが生物多様性を損なう。」というようなトレードオフに直面することがあります。このような場合、持続性の高い社会に向けてどちらをとるかは難しい判断ですが、「社会とLCA研究グループ」には前に述べたとおり様々な分野の専門家がおり、議論に適した環境となっています。

(2)畑山さまの経歴

なるほど。価値観を比較するような・・・難しい問題ですね。
ところで、畑山さんはどのような経歴で現職に就かれたのですか。

学生時代に在籍していたのは東京大学のマテリアル工学科でした。つまり材料工学です。

マテリアル工学科の研究室では、材料の組織や組成の制御、TEM(透過電子顕微鏡)やSEM(走査電子顕微鏡)による観測、強度などの材料性能測定といった実験が中心です。その中で私が選んだ研究室は異色で、材料、特に鉄鋼を中心とした金属材料を社会で使っていく中で、環境負荷がどのくらい発生して、どんな技術がその低減に貢献するのかということを分析していました。それこそLCAの視点に基づいた研究ですね。

例えば日本は毎年1億トンほどの鉄鋼を生産しており、鉄鋼業は日本の主要産業です。一方で、日本が排出するCO2の約10%が鉄鋼業由来といわれていおり、特に鉄鉱石の還元プロセスで大量のCO2が発生します。ですので、鉄をリサイクルして鉄鉱石からの生産を減らすことは、環境負荷の低減に大きく貢献します。そのためには、不純物元素への対策など、リサイクルを進めるための技術開発が必要です。

どうしてマテリアル工学科を専攻されたのですか。

私は広島出身なのですが、小さい頃から自然が多い地域で暮らすうちに、「何か環境に良いことをしたい」と思うようになりました。
東京大学では、最初の2年間は教養学部に全員が所属して、その後専門とする学部・学科を選びます。 1年生と2年生の間はいろいろな分野の講義を受けたうえで、どの学科に入るか決めることができるのです。当時の自分は生分解性プラスチックに興味があり、化学系の学科に進もうかと考えていました。

そんななか、あるオムニバス形式の講義で、気候変動をはじめとした様々な環境問題やLCAについて説明してくださった先生がいて、強い興味を持ちました。調べてみるとマテリアル工学科の先生ということで進学を決め、その先生の研究室に入りました。
材料工学に興味があったというよりは、環境問題に興味があって選んだところが材料工学科だったという感じです。2年間の猶予期間は、私の場合は専攻の選択に大きな影響を与えました。

材料工学というと、新しい合金を作りたい人が多いというイメージがあるのですが、材料工学科でマテリアルフロー分析というのはすごい異色ではないですか。

そうですね。先ほども言いましたが、材料工学科では材料開発がメジャーだと思います。

マテリアルフロー分析で博士号を取った人は国内にほとんどいないですね。そもそも私より上の世代では、環境をシステムで捉えての評価が盛んではありませんでした。個別の環境技術の開発はおこなわれていましたが、「環境」が「社会」「システム」「マネジメント」という言葉とつながって学部や学科の研究内容の説明に用いられるようになったのは比較的最近ではないでしょうか。その前は、材料や化学、建築など特に工学系の学科の中の一研究室がLCAをしているような形でしたので、それぞれの学科の中では異色でしたね。その異色な人たちが集まってLCAやシステム評価のコミュニティを作り、研究と成果の発信を続けてきました。一方で社会でも、地球温暖化を皮切りにローカルではないグローバルな環境問題が意識されるようになり、最近では環境を冠する学部や学科ができています。

(3)マテリアルフロー分析について(その1)

大学の時に研究されていた、マテリアルフロー分析について教えて下さい。

大学時代は、鉄鋼とアルミニウムを対象として、例えば日本でどれくらい生産されてどのような用途に使われ、どの使用済み製品に含まれて社会から排出されるのかを定量的に分析していました。このような分析を、日本だけではなく世界各国を対象に、また単年ではなく将来推計も含めて時系列でおこなっていました。
鉄鋼の場合、自動車や建築物、飲料缶といった製品の製造に使用されており、各用途でどれくらい鉄鋼が消費されているかというのは統計で報告されています。一方で、リサイクルを考える場合、鉄がどんな製品としてどれだけ廃棄されてくるかが重要な情報なのですが、これは統計にはでてきません。「使用済み製品から結果的に回収された量」はわかるのですが、「回収されずに埋め立てられたり環境中に散逸してしまった量」はわからないのです。
もし廃棄されている量が大きければリサイクルのメリットも大きいですが、逆に小さい場合はリサイクルの促進は非効率的です。天然資源消費の抑制やCO2の削減に向けたリサイクルの貢献度の大きさを示すためには、廃棄される量が大きいのか小さいのか、それらはリサイクルしやすいかどうかを把握するのが重要なポイントと考え、分析・評価する研究をしていました。

リサイクルのメリットの一つは天然資源の代替です。金属の天然資源、つまり鉄鉱石などの鉱物資源は非再生資源と言われます。森林などと違って人間が増加させることができないので、今ある限られた資源を大事に使っていくしかありません。また、日本は金属資源供給の大部分を海外に依存しています。そこで、海外から輸入する天然資源をできるだけ使わずに国内で原料を確保するためにリサイクルが重要です、という話はよく聞かれます。
ただ、そもそも天然資源の入手に困らないのなら、リサイクルの必要性は低くなります。なので、天然資源へのアクセスのしやすさを分析して、その結果に基づいてマテリアルフロー分析の結果を示さなければ、適切な資源循環戦略は提案できないと考えました。

金属資源を利用する上では、鉱石が存在する鉱山とリサイクルが期待できる都市鉱山のふたつの可能性があって、その両方をうまく使っていくことが金属の資源管理、リソースマネジメントです。ですから、マテリアルフロー分析やリサイクルだけを研究していては、適切な資源管理に向けた議論が不十分です。リサイクルを語るには、都市鉱山の話だけではなくて天然資源の利用可能性も勉強しなくてはならないと思ったのが、資源リスクやクリティカリティについて研究し始めたきっかけですね。

それで、産総研では天然資源のリスクの方の評価を軸に研究されているわけですね。

天然資源の評価と並行して、マテリアルフロー分析もレアメタルを中心に継続して実施しています。天然資源側とリサイクル側の両方を考えることが必要です。


ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回は、「マテリアルフロー分析」についてさらに詳しくお話しをお伺いしています。


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