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資源リスク評価と金属資源のクリティカリティ その6
〜クリティカリティ評価の今後〜

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
安全科学研究部門
社会とLCA研究グループ研究員
畑山 博樹(はたやま ひろき)様

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
社会とLCA研究グループ ホームページ
戦略的都市鉱山研究拠点「SURE」

「クリティカルメタル」という言葉をご存じですか。
産業を支えている鉱物資源の安定供給確保やリサイクルなどの資源問題を考える上で、世界的に最近よく使われている言葉です。レアメタルと似た印象のある言葉ですが、「クリティカルメタル」とはどのようなものなのでしょうか。

今回のインタビューは、「資源リスク評価と金属資源のクリティカリティ」について研究をされている畑山博樹様に、資源リスクを取り巻く最近の動向などの背景を含めお伺いしました。

【その6】クリティカリティ評価の今後(最終回)

(1)資源施策とクリティカリティ評価

クリティカリティ評価は、具体的にはどんな政策に反映されているのですか?

前にお話ししたとおり、1980年代前半の備蓄制度の導入において、クリティカリティ評価の考え方に基づいた検討がなされています。また、2012年に発表された「資源確保戦略」では、政府が重点的に確保に取り組むべき金属を戦略的鉱物資源と定めており、その選定においてクリティカリティ評価が活用されていることが読み取れます。

資源確保戦略では、「我が国産業にとっての重要性」「供給上の支障が生ずる可能性」に加えて、「日本企業および政府の参画による事業実施可能性」を考慮することで戦略的鉱物資源を選定したと述べられています。ちなみに、資源確保戦略は2009年のレアメタル確保戦略が元になっています。その後、ベースメタルの確保も力を入れるべきとの認識から、資源確保戦略と名前を変えたのだと推測します。これは資源施策の対象としての認識が、レアメタルからクリティカルメタルへと切り替わってきたポイントのひとつと言えると思います。資源確保戦略では、30種(レアアース17種と白金族6種をそれぞれ1種とカウント)の鉱種が戦略的鉱物資源として挙げられていますが、ここにはレアメタルだけでなく鉄や銅、鉛などのベースメタルも含まれています。

NEDOによる継続的な評価でも、近年はベースメタルも対象に含めて評価をしています。クリティカルメタルは世の中の情勢によって変わるので、評価対象を固定せずに見直すことは大切です。

鉱種が固定されていないという事は、状況に合わせて判断する、という事ですよね?

第4回でご紹介したヨーロッパやアメリカのクリティカルメタルのマトリックスでも、第5回でご紹介したNEDOの単一指標でも、閾(しきい)値のラインがそれっぽく設定されていますが、ここまでがクリティカルメタルで、ここからはクリティカルではないというはっきりした境目はありません。あくまで異なる金属の間での相対的な度合いが表されていて、それが状況によって変わっていきます。クリティカルメタルの閾値は相対的な評価であることを評価者が意識して、その時の情勢を見極めて判断するということになります。

相対的な評価であることを意識して決めるのは、難しそうですね。

そういう意味では、欧州委員会や米国学術研究会議のようにクリティカリティを単一指標に統合せず、マトリックスで表現する方が誤解が少ないかもしれません。順位付けされませんから、1番はこれで次はこれでという事ではなくて、「次のターゲットはマトリックス上のこのエリアの金属を注視しておくとよい」という絞り込みの資料と理解できます。

経産省のリサイクル優先5鉱種としてネオジム、ディスプロシウム、コバルト、タングステン、タンタルのリサイクル技術開発が推進されてきましたが、この選定においては、まずクリティカリティ評価の考え方に基づいて重要鉱種の絞り込みが実施されました。そこからより詳細な現状把握などを経て、5鉱種が決められています。

ところで、今までクリティカリティを「危機的さ」と直訳で解釈していましたが、「重要性」なんですね。

その金属がなくなると致命的であるからこそ重要ということなので、頭で理解する分にはどちらでも大差はないと思います。ただ、あらためて日本語に直そうとすると難しいですね…。重要性だと、マトリックスの軸の片方、欧州委員会が言うEconomic importanceと紛らわしくなってしまいます。

欧米でクリティカリティ評価が盛んになった後でも、国内の資料では資源リスク、重要性といった言葉で表現することが多いです。「海外とは評価すべきリスク要素や注目すべき金属が異なってくるので、あえてクリティカリティという単語は使用しない」という意見を目にしたこともありますが、クリティカルメタルは国ごとに違うというのは共通認識なので、こだわらなくても良いと思います。ですので私は、クリティカリティ評価、クリティカルメタルと訳さずに使うことが多いです。

(2)産総研のクリティカリティ評価

産総研でもクリティカリティ評価はされていますか?

第1回で少し触れたSUREの個別課題プログラムとして、NEDOなどの事例をレビューしながら、評価方法の検討を進めています。NEDOは代替材料開発を進めるレアメタルの選定を念頭に置いていましたが、SUREではリサイクルの対象の選定ということで、出口が少し異なります。

過去の事例をレビューする際には、現在検討されている資源問題対策が反映される枠組みであるかという点を意識しています。日本の資源戦略は、海外資源確保、代替材料開発、リサイクル、備蓄の4本柱で長く進められてきました。特に鉱山権益の獲得を通した海外資源の確保は供給リスクに大きな影響を及ぼしますが、この点がクリティカリティ評価で考慮された例は世界でもありませんでした。そこで、金属ごとの権益獲得の十分度を示す指標を開発し、既存の評価に組み込むことによる手法の発展を実施しました。開発した指標は、日本企業が権益を有する海外鉱山の埋蔵量と出資比率をもとに算出され、権益資源の利用可能性を表すものとなっています。権益獲得の目安を示す指標としては自山鉱比率というのもありますが、私が開発した指標はより長期的視点での利用可能性を示すものと考えています。このように資源戦略の中のアクションに対応した指標をクリティカリティの構成要素として考慮することで、資源政策と整合した評価の枠組みとすることが政策的な議論のために重要と考えています。

政府の資源確保戦略と国際的な評価指標とに合致させたイメージですね。

資源戦略において海外の権益確保は重要視されていますからね。2010年のエネルギー基本計画では、日本の金属自給率を国内需要に占めるリサイクルと権益資源の輸入分の割合と定義して、2030年でレアメタルが50%、ベースメタルが80%という目標を示しています。

自給率の目標値が結構高いのですね。

非常に高いですね。レアメタルの多くはリサイクルされておらず、現状の自給率はほぼ0%と言えます。それを50%にしようとしていますので、国内の都市鉱山だけでなく海外の鉱山も依然として重要な調達先となるでしょう。
一方でベースメタルはリサイクルがある程度できているとはいえ、自給率80%は簡単ではありません。例えば、自動車で考えると日本で生産された自動車の半分は輸出されていますから、1,000万台作っても500万台が海外に出てしまいます。ということは、日本に残っているのは500万台で、その500万台から金属をすべて回収しても、1,000万台の車を作るのに必要な金属の半分、要するに自給率は最大50%にしかなりません。海外からの輸入に頼らざるを得ない残りの部分について、権益による確保が必要となります。自給率から考えると、貿易を含めた国内の産業構造も目標達成に向けたポイントとなります。

(3)クリティカリティ評価の成果を検証する

クリティカリティ評価を活用して、資源確保戦略などの政策が立案されたとの事でしたが、実際のところ、政策は有効だったのでしょうか?

過去と現在のクリティカリティ評価の比較から、資源政策の果たした役割を検証するという作業もおこなっています。日本ではNEDOやJOGMECが代替材料開発やリサイクルのプロジェクトを進めてきました。一方で、資源リスクの評価も10年近く継続されているので、そろそろその成果を検証できて良い時期になっていると思います。

ただ資源リスク評価に関しては、「結果」を評価するのが非常に難しいところがあります。例えば温暖化の場合では、結果として起こる温度上昇を観測することができます。この場合、CO2の排出量や大気中濃度の増加といった原因との因果関係を科学的にモデル化し、その妥当性を検証することが可能です。一方でリスクは「内に抱えている問題」であって、リスクが高まったからといって実際に影響が目に見える形で観測されるとは限りません。観測ができないということは、原因と結果の因果関係が証明できません。

地面の上の石を軽く押す時(リスクが低い時)は、摩擦力によって動かない状況で安定しています。リスクが高い状況とは、そこそこ強く押しているけれども踏ん張っているような感じで、なにか起こったときにドッと動いてしまう可能性は高まっているけれども、見た目は何も起こっていない、という状態です。
何かが起こってしまえば被害の大きさなどを使って議論ができるのですが、何も起きていない状況で内部に抱えているリスクが大きくなったことを観測し、何も起きていない状況の中で成果の有無を検証するのはかなり難しいことだと思います。

確かにそうですね。リスクが顕在化してしまったら、被害になってしまいますね。

また、過去との比較によって成果を検証しようとした場合、クリティカリティが過去に比べて下がったというケースでも、下がった要因は大きく2つ考えられます。ひとつは製造産業がその金属を使わない製品開発を進めたり、政府が権益獲得や備蓄をサポートするといった自主的な努力です。
このようなアクションでリスクは徐々に軽減していきますが、大きな変化はなかなか表れません。一方で、資源を取り巻く国際的な状況の変化といった外的要因により、翌年の評価がガラッと変わってしまうこともあり得ます。過去と比較する際は、外的要因と内的要因を理解して分析しなければなりません。

要因が多くて、難しいですね。

さらに、リスク評価とそれに基づいたリスク管理の考え方がなかなか理解されにくいという点があります。クリティカルメタルをリサイクルすれば儲かるのか、という聞き方をされたりもしますが、先に説明したとおり、リスクが高まったからと言って価格上昇という形で影響が見えるとは限りません。国際的な状況が将来どう変化するかもわかりませんし、クリティカリティの高い金属に技術投資をしたとしても、結果的に得るものが少なかったということも当然あります。だからクリティカリティ評価は無駄だという話ではなくて、有事の時に最小限の被害で済むように備えるという側面を理解していただきたいと思います。

最近は一時期に比べて資源価格が落ち着いている状況です。何も問題が起きないと危機意識が薄まって社会の協力が得にくくなりますが、何もないときに「リサイクルなんかしなくても大丈夫じゃないか」と言うのではなくて、「ちゃんとリサイクルを含めた資源リスク管理がなされていたんですね」という認識になるような資源戦略を構築しておきたいですね。そのために、資源リスク評価が行政や企業経営に役立つという実績を重ねて、大事な考え方だと認識していただくことが目標です。

(4)おわりに

クリティカリティ評価は、アメリカのエネルギー省や欧州委員会といった行政機関でも検討されており、過去のREACH※1)や紛争鉱物指定のような、日本も対応が求められる国際的な規制の根拠となる可能性が無いとはいえません。そのような事態を傍観するのではなくて、日本独自のクリティカリティ評価をもって、日本が必要な資源を適切に確保するために動ける準備が必要だと思います。

※1)REACH(Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals)
 化学物質とその安全な使用・取扱・用途(Use)に関する新しい欧州連合(EU)の法律

なるほど。金属の資源の問題は国の産業にとって、非常に重要だということですね。


ここまでお読みいただきありがとうございます。
今回で、インタビューは終了です。クリティカルメタルが分かっても、儲けにはつながらないかも、との事でしたが、製品にはたくさんの元素が使われている一方で、使用量や使用される物質は刻々と変化しています。しかも、海外の産出国の状況も変わります。そういった複雑な要因で構成される資源のトレンドを把握するための指標が、クリティカルメタルである事が分かりました。


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