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IPCC(気候変動に関する政府間パネル)とは その5
〜田邉さん(TFI共同議長)の仕事〜

IPCCインベントリータスクフォース 共同議長
公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
上席研究員 / TSUシニアアドバイザー
田邉 清人(たなべ きよと)様

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
IPCC - Intergovernmental Panel on Climate Change

1997年に採択された京都議定書以来18年ぶりの国際的枠組みであるパリ協定をはじめ、気候変動に関わる国際条約や政策を検討する際には、IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change(気候変動に関する政府間パネル)の評価レポートが科学的根拠として用いられます。

世界で最も信頼できると言われるIPCCのレポートはどのように作られているのか、IPCCインベントリータスクフォースの共同議長をされている田邉清人様にお話を伺いました。

今回のインタビューは環境ソリューション室 三戸が担当いたします。

【関連ページ】DOWAエコジャーナル/そうだったのか!地球温暖化とその対策(7)

【その5】TFI(インベントリータスクフォース)の仕事(2)

前回はインベントリータスクフォース(TFI)の仕事の全体についてお聞きしました。
今回は田邉さんのお仕事(TFIの共同議長)について具体的にお伺いしたいと思います。

2)田邉さん(TFI共同議長)の仕事

田邉さんから返信いただくメールが@ナイロビとか、@ケープタウンと書かれているので、世界中飛び回わられていると察しているのですが、今はどれくらい海外を回られていらっしゃいますか。

1年の3分の1ぐらい出張しています。ちょっと前に、どれぐらい飛行機の中にいるのか計算をしたのですが、1年間で2週間ぐらい空の上にいるという計算になりました。半月は空を飛んでるってことですね。
個人レベルのカーボンフットプリントという考え方をすると、私が排出しているCO2はめちゃくちゃ多いので、罪悪感を覚えます。(笑)

テレカンファレンスとか、ウェブでの会議も最近は多用するようにはなってきていますが、やっぱり会って話さないと、突っ込んで議論できないところがありますし、IPCCが多国籍ですから、地球を網羅した参加者がいるので時間帯が合わない人たちがどうしても出てしまうということもあり、誰かが動かなければならなくなります。

確かに、世界中にメンバーがいると、時差が調整しきれない人が出てしまいますね。
いろいろな国、特に途上国も視られて、例えば、知識とか、情報収集のシステムとか、CO2の計算のしかたとか、国によってさまざまなレベル差というか違いがあると思いますが、どのようにまとめられているのでしょうか。

そうですね。CO2の計算方法とか、測定技術とか‥、それはやっぱり差がありますね。
われわれの仕事で言うと、例えば、CO2排出量は直接測るのではなく、推計をします。そのための計算のガイドラインをわれわれIPCCのTFIが作っています。

でも、そのガイドラインで計算するためには、各国とも基礎的なデータを持ってないと計算できないんですね。先進国と途上国、特に低開発国みたいな所では、基礎的な統計が整備されていないケースがあり、そこが国によってすごく違います。

例えば、石油・石炭を使って出るCO2の計算には、石油・石炭の消費量のエネルギー統計がないと正確に把握できません。国のエネルギー安全保障のためにある基礎データなので先進国は当然持っていますが、そういう基礎的なデータすらちゃんと統計化できていない国もまだあって、そういう国はCO2排出量の計算もなかなか厳しいですね。

全世界で1割ぐらいは、そういう国があるかもしれません。ASEANの国の中にも、数年前はそれがなくて苦労していた国があった覚えがあります。
国が全くデータをもっていないわけでは無いのですが、ちゃんと統計が作れてない。
エネルギー統計もそうだし、農業統計だとか、森林に関する統計だとか、そういうものですね。

こういった基礎的な統計ものがない国がCO2排出量を推計するのはやっぱり難しいですが、何とかサポートしてあげないといけません。
そこで、そういう途上国向けには、GEF:Global Environment Facility(地球環境ファシリティー)というところの資金を利用して、能力開発プログラムとか、トレーニングプログラムが提供されています。私自身も、そのような活動に、IPCCの立場ではなく個人的に協力することがあります。

今までで一番、ご苦労された事は何ですか。

本業であるレポート作りは、色々な国の様々なバックグラウンドを持った専門家(執筆者)を集めて書いてもらうので、当然、意見の対立があります。たいていの意見の対立は、妥協点というか、落としどころというのを見つけて、レポートとしてまとめられるのですが、1回、もうレポートが崩壊しかねないぐらいの感じの激しい対立になったことがありました。最終的にはまとまったのですが、そのときは、とても大変でした。

その対立の内容は、まとめる際の文言のようなことですか。

われわれのレポートには、色々なデータをいわば「標準的なデータ」として載せることが多いのですが、ある研究方法で出してきたデータと、別の研究方法で出してきたデータが全然違っていて、どちらを「標準的なデータ」とすべきか判断が難しいという状況でした。それぞれ専門の研究をされてきた方たちですから、自分の研究方法が絶対正しいと思うのが当然で、折り合わないんですよ。どうしても折り合わず、危機的な状況になってしまったということがありました。

そうなったら議長がまとめていくのですか。

それはもう話し合いに話し合いを重ねるしかないんです。
そのときは、共同議長とその他中立的な執筆者たちが中に入って、冷静に科学的な議論を重ねられるよう努めました。その過程でオンラインでの議論や、その議論のためだけの小会議を2回ぐらい急きょ開催するなどして、ようやくまとめることができました。私も、十何年もこの関係の仕事をやっていますけれど、あれは一番難しい状況でしたね。

ここまで、TFIのレポートとTFI共同議長の役割などについてのお話でしたが、ここでもう一度、話を『評価報告書』に戻したいと思います。

評価報告書作成のプロセス

まず一つの評価報告書が終わった時点で、次の評価報告書に向けた新しい理事会が開かれてIPCCビューロー(理事会)メンバーが決まって、そこから次の報告書の作業が始まる。

まず、各ワーキンググループの共同議長及び理事会が、専門家の意見を聞きつつ目次構成を決めて、それをIPCC全体で承認してもらう。

目次構成が決まったら、それに従って評価報告書を作成するためにこういう研究者・専門家が必要だと、各国に依頼して推薦してもらう。
その結果集まった専門家リストの中から、IPCCビューロー(理事会)で、執筆者を選任する。
共同議長は、その執筆者選定のプロセスも仕切り、また、執筆者が集まる会議も議長役になって仕切る。

各ワーキンググループごとにこのプロセスが行われるんですか。

そうですね。

それを今度AR6が2022年に向けてというと、7年、8年続けていく・・・。

はい。2022年ですかね。2021年から2022年にかけて7年ぐらいはかかりますね。

共同議長としての責任も重大ですし、これは本当に膨大で多岐に渡るお仕事だというのがよくわかりました。


ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回は、「報告書の信頼性」についてお伺いします。


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