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IPCC(気候変動に関する政府間パネル)とは その3
〜IPCCの概要と報告書作成の現場「議長国が変わる理由」〜

IPCCインベントリータスクフォース 共同議長
公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
上席研究員 / TSUシニアアドバイザー
田邉 清人(たなべ きよと)様

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
IPCC - Intergovernmental Panel on Climate Change

1997年に採択された京都議定書以来18年ぶりの国際的枠組みであるパリ協定をはじめ、気候変動に関わる国際条約や政策を検討する際には、IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change(気候変動に関する政府間パネル)の評価レポートが科学的根拠として用いられます。

世界で最も信頼できると言われるIPCCのレポートはどのように作られているのか、IPCCインベントリータスクフォースの共同議長をされている田邉清人様にお話を伺いました。

今回のインタビューは環境ソリューション室 三戸が担当いたします。

【関連ページ】DOWAエコジャーナル/そうだったのか!地球温暖化とその対策(7)

【その3】IPCCの概要と報告書作成の現場

4)議長国が変わる理由

前回は、IPCCの組織について、ワーキンググループとタスクフォースがあると教えて頂きました。そして、その議長国が変わる、という事でした。

議長国が変わるのは、どういうタイミングなのですか?

IPCCは理事会のようなしくみがあって、その理事会のメンバーを数年おきに選挙することになっています。
IPCCの一番メインのレポート『Assessment Report:評価報告書』が数年おきに出されるのですが、5年から7年ぐらいかけて一つのレポートを作り終わると、次のレポートに向けた新体制にすることになっていまして、そのタイミングで選挙があります。

理事会は、30数人で構成されていて、すべてIPCCの195か国の代表が集まる総会での選挙で選ばれます。ただ、30数人が一回の投票で選ばれるわけではありません。何段階かの手順があります。
まず、IPCC全体の議長:チェアマンが最初に選挙で選ばれます。今の議長は韓国の人です。その次にIPCC全体の副議長3人が選ばれます。
IPCC全体の議長1人、副議長3人が決まった後で、ワーキンググループ1、2、3とタスクフォースのそれぞれの「共同議長:Co-Chair」の選挙が行われます。

共同議長2人というのは、原則として先進国から1人、途上国から1人というルールになっていて、2名(2カ国)が共同で議長を務めます。
そして、共同議長を出す国に、そのワーキンググループあるいはタスクフォースの事務局(テクニカル・サポート・ユニット)が設置されるルールになっています。事務局の設置には費用がかかるので、従来は共同議長国のうち先進国側がそれを引き受けるのが原則でした。しかし、2年前に始まった今期では、一部、途上国側にも事務局機能が置かれるようになっています。

2年前にあった直近の選挙では、ワーキンググループ1、2、3の先進国側の共同議長はフランス、ドイツ、イギリスの人が選ばれ、タスクフォースは日本の私が選ばれました。

表AR1~6までの議長国
評価報告書
完成時期
総会
議長国
副議長国
WG1
共同議長国
WG2
共同議長国
WG3
共同議長国
TFI
共同議長国
FAR
1990年
スウェーデン
サウジアラビア
イギリス ロシア 米国 なし
SAR
1995年
スウェーデン
サウジアラビア
ロシア
イギリス
ブラジル
米国
ジンバブエ
カナダ
韓国
なし
TAR
2001年
米国
日本
ケニア
インド
ブラジル
ロシア
イギリス
中国
米国
アルゼンチン
オランダ
シエラレオネ
日本
タンザニア
AR4
2007年
インド
ケニア
スリランカ
ロシア
米国
中国
イギリス
アルゼンチン
オランダ
シエラレオネ
日本
ブラジル
AR5
2013~
2014年
インド
スーダン
ベルギー
韓国
スイス
中国
米国
アルゼンチン
ドイツ
マリ
キューバ
日本
ブラジル
AR6
2021~
2022年(?)
韓国
米国
ブラジル
マリ
フランス
中国
ドイツ
南アフリカ
イギリス
インド
日本
ペルー

参照:IPCC - Intergovernmental Panel on Climate Change

今の理事会というか、メンバーは、次のAR6レポートに向けてのメンバーってことですね。

そうです。

先進国と途上国は、どういう定義がされているのですか?

先進国、途上国という分け方で言うと、中国含めBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国の4ヶ国)や、韓国、シンガポールも全部、途上国側です。

韓国は、昔から国連でも重要なポストをやっているので意外です。

例えば、韓国は途上国ではないんじゃないのかという話になると、じゃあ、中国は、シンガポールは・・となってしまい、議論がややこしくなります。政治的に微妙な問題でもあるので、総会の場などでこの区分の見直しを正面切って議論することは避けられています。このため、今でも、国連の制度上というか慣例上というか、中国、韓国は途上国側として扱われるのです。

もっとも、「途上国側」という言い方は適当でないかもしれません。国の区分は、正確に言うと、先進国、途上国、その中間に「市場経済移行国:Economies in Transition」という3つがあります。市場経済移行国とは、具体的にはロシアなど旧ソ連の国々や東欧の国です。これらの国も信託基金からの支援対象国になっており、その意味で先進国側ではない、つまり「途上国側」として扱われることが多いのです。

微妙なのが東欧の国です。次々とEUに参加していますが、EUに入ると先進国だという考え方もありますので、難しいところがあります。

東欧にも、貧しい国がありますから、EUに加盟すると先進国扱いをするのは厳しいかもしれませんね。一方で経済的な指標を重視すると産油国はどうなるのだという議論にもなりますね。
そうしますと、EU加盟国を除くと、先進国はアメリカと日本とカナダとオーストラリア、ニュージーランドくらいしかないということですか。

そうですね。ノルウェーやスイスもありますが。

話を戻すと、タスクフォースの共同議長として選挙で選ばれて、日本の田邉さんが、共同議長をされているということなのですね。

そうです、私は、2年前の選挙で共同議長になったのですが、それまでは現在IGESの参与の平石尹彦さんが、16年ぐらいやっていました。
多分、IPCCの中でも最長記録なんじゃないかと思います。

各ワーキンググループの議長国は、レポート後の選挙で替わるのに、何故日本はタスクフォースの事務局を長年続けているのでしょうか。

日本政府が、タスクフォースの事務局を続けることに意義を見いだしているということと、もう一つは、欧米じゃない所にも事務局があるほうがよいというエリアバランスがあると思います。

日本が議長に立候補して、議長を兼ねるということもあるのですか?

理事会は議長を含め、現在は34人で構成されているのですが、その34人の枠に1カ国1人ずつ、要するに、一つの国が複数入らないようになっています。
次回の選挙で、例えば日本が議長に立候補して承認されれば、議長になることはできますが、その場合は、タスクフォースの事務局(テクニカル・サポート・ユニット)は他の国に移ります。

所属としては、IGESの職員である田邊さんがIPCCへ出向していると考えればいいですか?

IPCCは、事務局のほんの数人以外は全部ボランティアです。
日本の場合は、IGESの雇用者がIPCCの仕事をする合意になっていますので、私も身分上はIGESの職員ですが、ほぼ専属でIPCCの仕事をやっています。

今の理事会というか、メンバーは、次のAR6レポートに向けて選挙で選ばれた各国の議長が事務局になっているということなんですね。
IPCCのしくみが分かりました。


ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回は、田邉さんの担当されている「インベントリータスクフォースの仕事」についてお伺いします。


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