排出量取引制度(GX-ETS)の開始まで半年を切り、CO2などの温室効果ガス(GHG)が、お金と同様の経済価値を持つ社会の実現が、いよいよ現実味を帯びてきました。
そんな「脱炭素社会の歩き方」として、3回に分けて、企業のGHG算定にまつわる動きを取り上げていきます。今回は、CFPを説明します。
■CFPとは
CFP(Carbon Footprint of Product;製品のカーボンフットプリント)とは、製品・サービスの原材料調達から廃棄、リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通したGHG排出量を、CO2排出量として換算した値のことです。
例えば、下図の紙パック牛乳の例でみた場合、乳牛を育てて搾乳する/木を育ててパルプを生産して紙パックをつくるところから、消費者に消費された後、不要となった紙パックが廃棄・リサイクルされる(地球から来て、地球に戻る)までの地球温暖化に関する負荷を、合算したものとなっています。
■CFPの単位
地球温暖化の原因となるのは、赤外線を吸収して地表を温める温室効果ガス(GHG)で、二酸化炭素(CO2)以外にも、農畜産業からのメタン(CH4)や工業からのフロン類などが含まれます。
単位質量当たりの温室効果と大気中での寿命は、ガスの種類によって異なるため、地球温暖化への影響度を評価する指標としては、あるガスが⼀定期間に与える影響を、GWP(Global Warming Potential;地球温暖化係数)を用いてCO2に対する⽐率として表現した単位(kgCO2e、tCO2eなど;eはequivalent(当量)の意味)が用いられます。
このように、GWPを使って換算を行うことで、あらゆる製品・活動による温室効果を、一つの単位で表現し、比較・評価することができるようになります
(補足)GWP-20・100・500は、それぞれ評価期間を20年・100年・500年とした場合のGWP。大気中での寿命(Lifetime)が短いガス(CH4など)は、寿命を超えると温室効果が失われるため、評価期間が長いほどGWPが小さくなり、寿命が長いガス(PFC-14など)は、温室効果が持続するため、評価期間が長いほどGWPが大きくなる。一般的には、100年値が用いられており、これには、京都議定書やパリ協定では一貫して100年値が使われていること、ISO14067では100年値の使用が規定されていることなどが背景にある。
(出典)IPCC Climate Change 2021 The Physical Science Basis(Table 7.15)
■CFPが教えてくれること
CFPを使えば、みかんでも飛行機でも、同じ指標で温室効果への影響度を比較することができます。製品を選択する上で、「コスパ」(費用対効果)や「タイパ」(時間対効果)は重視されていますが、CFPは、いわば、「カボパ(筆者による造語)」(カーボンパフォーマンス;地球にかける温室効果に対してどれだけのパフォーマンス(満足や効能)が得られるか)を示すものと言えます。
カボパの高い製品が普及していけば、社会全体が受ける便益を損なうことなく、地球への負担を減らすことができることから、政府により、CFPを活用した「カボパ」の高い社会(≒脱炭素社会)を実現するための施策が、実施・検討されています。
■CFPを活用した施策① グリーン購入法
グリーン購入法(国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律)は、国等の機関にグリーン購入(製品やサービスを購入する際に、環境への負荷ができるだけ少ないものを選んで購入すること)を義務づけるとともに、地方公共団体や事業者にも、グリーン購入に努めることを求めています。
「グリーンであること」を示す指標には、リサイクル率やエコマークなど、様々なものがありますが、下表のとおり、多くの分野・品目において、CFPの算定・開示が指標となっており、今年度は新たに繊維製品を中心とした24品目が追加される予定です。このような国等の優先調達により、低CFP製品の需要が喚起され、普及していくことが期待されます。
■CFPを活用した施策② 建築物LCA制度
建築物については、これまでも使用時のGHG排出量の低減(省エネ)が推進されてきましたが、2028年からは、一定規模以上の建築物については、資材調達・施工・使用・解体を含むライフサイクル全体でのGHG排出量(LCCO2)について評価し、国等に報告する制度(建築物LCA制度)が開始される予定となっています。
(出典)建築物のライフサイクルカーボンの削減に向けた制度のあり方について(中間とりまとめ案)参考資料
LCCO2の評価には、共通の算定ルールと、建材・設備の排出量原単位、つまり、CFPが必要になります。このため、国土交通省は、建材メーカー等を対象としたCO2原単位等の策定に要する費用の支援(最大400万円/製品)を今年度より実施しており、建築分野においては、急速にCFPの整備が進んでいます。
排出原単位の整備方針は、下図のようになっており、当面は、個社が独自に算定し、第三者レビューを受けていないCFPであっても、LCCO2の評価に使用可能とされていますが、将来的には、EPD(Environmental Product Declaration;環境製品宣言;ISO14025に準拠するタイプIII環境ラベルで、製品別共通算定ルールに基づく算定と第三者検証が必須であるため、正確性・比較可能性・客観性が高い)や第三者レビューありのCFPが主体となっていく方向性が示されています。
このような客観性の高いCFP・EPDが求められるようになることで、低CFPの建材・設備が高く評価され、需要が拡大していくことが期待されます。
(出典)建築物のライフサイクルカーボンの削減に向けた制度のあり方について(中間とりまとめ案)参考資料
■おわりに
DOWAグループは、2050年カーボンニュートラルを目指しており、2023年5月には、カーボンニュートラルの実現に向けたロードマップを策定しました。省エネや再エネ等による削減のみならず、カーボンニュートラルに資する製品開発も積極的に進めており、2024年には、民間初となるバイオコークスの開発・製造・評価の一貫体制を構築しました。
次回は、DOWAグループのCFP算定の取り組みについてのご紹介を予定しています。
当社のバイオマス燃料開発の取り組みについては、以下についても併せてご覧ください。
> DOWAホールディングスHP
> 石炭の代替になるバイオマス燃料のご紹介
この記事は
イー・アンド・イー ソリューションズ 古屋 が担当しました











