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EUのCE(Circular Economy)政策 その6
〜行動計画の構成と内容−5〜

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
持続可能な消費と生産領域
主任研究員
粟生木 千佳(あおき ちか)様

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)

今回は2015年に欧州で発表され、海外で注目されている資源効率(Resource Efficiency)や循環経済(Circular economy:CE)に関する研究をされているIGES(Institute for Global Environmental Strategies)の主任研究員 粟生木 千佳(あおき ちか)様に「EUのCE(Circular Economy)政策」について、お伺いしました。

【その6】行動計画の構成と内容−5

今回は、循環経済に向けた行動プラン(Closing the loop-An EU action plan for the Circular Economy)の8つの大項目のうち、「5. 重点個別分野(Priority areas)」についてお伺いします。

【5】重点個別分野(Priority areas)その2

【5】−4. 建築物と解体

建設廃棄物も重点分野に挙げられています。

建築解体セクターの十分な廃棄物管理を確保し、価値ある資源の適切な回収、建築物の環境性能評価を促進する。

価値ある資源とは、どういう資源を指すのですか?

特に特定していないと思いますが、建設解体によって発生する再度資源として回収できるもの全般をさしているかと思います。ただし、後ほどご説明しますが、EUが昨年発表した建設解体廃棄物管理手順書での、建設・解体廃棄物の定義には、欧州廃棄物リストに含まれる①コンクリート、ブリック、タイル、セラミック、②木材、ガラス、プラスティック、③瀝青混合物、石炭タールおよびタール製品、④金属(それらの合金を含む)、⑤断熱材およびアスベスト含有建設材、⑥石膏系建材などが含まれていますね。

建設・解体はEU最大の廃棄物発生源でEUの全廃棄物発生量の約3割を占めます。EU加盟国に目標が設置されることによってリサイクルが促進されると考えられており、現行の廃棄物枠組み指令(2008/98/EC)では、建設・解体廃棄物の重量ベースのリサイクル率70%を2020年までに達成するという目標が設定されています。しかし、建設廃棄物のリサイクル率は、EU加盟国ごとに大きく異なります。

具体的な対策としては、以下の5点が挙げられます。

  1. 価値ある物質の同定・収集、分別・再生および有害廃棄物の処理に関するガイドラインを開発
  2. 廃棄物法制の改正指令案において、建設廃棄物の分別システムを促進
  3. 優良事例を普及
    各廃棄物ストリームに関する(EU加盟国全体での高い)共通基準に基づいた、優良事例や各種定義、実施者のためのチェックリストを含む、自主的なリサイクル手順が開発され、2016年9月にEU建設解体廃棄物管理手順書が公表されました。
    参考資料:欧州委員会ホームページ(EU Construction and Demolition Waste Protocol)
  4. 各種阻害要因・リサイクルのためのドライバー・優良事例を検証
    検証結果の概要が2016年5月に欧州委員会のHPにおいて、建設解体廃棄物に関するWSの背景文書として公表されています。
    参考資料:欧州委員会ホームページ(Workshop “Improving management of construction and demolition waste” Background paper)
  5. 建造物の全ライフサイクルにおける環境パフォーマンス評価の指標を開発
    大規模解体プロジェクトやGPP(グリーン公共調達)での指標使用を通じたそれら指標の普及促進を含みます。

また、建設物の長寿命化のために、建設材の耐久性とリサイクル性を向上させる、デザインの改善を促進することも不可欠としています。

「2. 廃棄物法制の改正指令案〜〜」についてですが、日本では2002年に建設リサイクル法が施行され、H24年の再資源化率は96%と建設廃棄物の分別は随分普及していますが、EUではこれから、という状況でしょうか?

先にも述べましたが、建設廃棄物のリサイクル率は、EU加盟国ごとに大きく異なります。リサイクル・物質回復率が、10%以下から90%を超える国まで様々で、十分な対応を取れている国もあれば、まったく取れていない国もあります。
このように国によってその状況が異なるため、結果、リサイクル材の質のばらつきやリサイクル材を使用する労働者の健康リスクの可能性があることについて欧州委員会は問題視しているようです。

【5】−5. バイオマス

バイオマスは繊維も含めて、やりますとされています。

欧州委員会は、生物由来物質(Bio-based material:木材、作物、繊維)を、様々な製品の原料としてだけでなく、エネルギー源として使用可能で、再生可能性、生物分解性、コンポスト可能性に優れており、バイオエコノミーは、化石燃料ベースの製品・エネルギーに変わる新たな選択肢となり、循環経済にも貢献し、生物由来物質には、新しい物質・化学物質・プロセスのイノベーションの可能性があるとしています。

ここでは、以下の事項が挙げられています。

  • バイオマスのカスケード利用に関する優良事例の共有のためのガイダンス作成と普及
  • バイオ経済のイノベーション支援などの様々な取組を通じてバイオ資源の効率的使用を促進
  • 廃棄物に関する法令改正案で、バイオ廃棄物の分別回収と木製梱包材のリサイクル目標を提案
  • 2012年のバイオエコノミー戦略の循環経済への貢献を検証、必要に応じて見直し
  • 革新的プロジェクトへの投資や研究の促進
    バイオマスや各種バイオ廃棄物の加工処理能力をもつ統合的バイオ精製への投資など

バイオマスというと、日本では木質チップなど、燃料利用が注目されていますが、同様のイメージですか?

木質チップには限らず、様々な木材・作物・繊維などを利用した製品も含めた活用だと思います。廃棄物ヒエラルキーを適用して、最終的に環境影響がもっとも低い形での活用のあり方を検討するようです。例えば、家具・木製梱包材に対するEPR(拡大生産者責任)の適用や木材の分別収集は、よい影響を与えるとしています。
関連して、バイオエネルギーの持続可能性と循環経済のシナジーについても検証しています。

【6】研究開発と投資
(Innovation, Investment and other horizontal measures)

次の大項目は、研究開発についてです。
EU史上最大の研究・イノベーション資金助成プログラム“Horizon2020”の2016-2017年作業計画には、6.5億ユーロの超規模の”産業と循環経済“という大規模な取り組みが含まれていて、研究開発を推進し、政府系投資を積極的に循環経済の分野、特に中小企業向けに回していこうとしています。

<課題と対策>

  • 循環経済への移行は、システム的変化であり、イノベーションが鍵
    →イノベーションの障害となる規制を特定し対応するために、”innovation deals”のパイロットアプローチを立ち上げ、支援
  • 公共・民間資金の動員が必要
    →EU基金(特に結束政策基金)の様々な資金源向け循環経済プロジェクト開発を支援するEuropean Fund for Strategic investment(戦略的投資のための欧州基金)、European Investment Bank(欧州投資銀行)などを活用
  • 中小企業・社会起業家が循環経済に貢献する
    →社会起業家向けの資金アクセスを改善
    2014Green Action Plan for SMEsに基づき、中小企業を支援
  • 循環経済への移行は、質が高く、特定・新技術をもつ労働者と雇用者・社会対話が必要
    →Green Employment Initiativeのフォローアップの実施、New Skills Agenda for Europeでも言及
  • 持続可能な資源調達、海洋ごみ、食品廃棄物、グローバル化する2次資源市場等、循環経済におけるサプライチェーンのグローバル側面は重要
    →循環経済、特に行動計画実施のためのステイクホルダーを動員するための取り組みを進化させる。

中小企業という言葉が多く出てきます。欧州には売上1兆円を超えるような、環境メジャーと呼ばれるような企業がEU域内・外を含めてグローバルに活躍していますが、中小企業に注目するのはどうしてだと思われますか?

EUでは従業員250人以下の企業が中小企業と分類されますが、EUの統計でも示されている通り、企業の99%以上は中小企業、労働者の約7割が中小企業で勤務しており、中小企業が欧州経済の基盤であるからだと思います。

参考資料:欧州委員会ホームページ(eurostat statistics-explained /Statistics on small and medium-sized enterprises)

また、中小企業は、リサイクル・修理・イノベーションにおいて非常に活動的であるとしており、一方、リサイクルなどの取り組みに対する資金繰りや企業活動への循環経済観点の反映が困難な面もあるとしているため、そういった循環経済に関連する取組を支援したいと考えているようです。

『Green Employment Initiative』は、産業構造が変化することによる失業を防ぐような取り組みですか?

産業構造が変化することによる失業も含めたショックを緩和する取り組みと考えています。2014年に開始された取り組みですが、具体的には、

  • スキルギャップの解消(グリーンスキル開発と今後必要なスキルの予測)、
  • 変化予測・転換確保・移動促進(構造転換のための取組評価、労働市場政策の見直し、職業移動促進等のための公共雇用サービスとの協力)、
  • 雇用創出支援(EU基金の活用、労働から汚染への税対象の移転検討、グリーン公共調達・社会企業家支援)、(環境関連の雇用等の)データの質の増強、
  • 社会対話の促進(産業横断での対話や環境・資源管理への労働者の関与増加など)

などを進めるとしています。

【7】モニタリング
(Monitoring progress towards a circular economy)

最後の項目として、モニタリングがあります。

モニタリングというと、地下水の水質や大気の分析を連想しますが、たぶん、ここでの使われ方は違いますよね(笑)

そうですね。でも、状況を把握する、という点は同じです。
CEの中で様々な取組が挙げられていますが、その進捗を把握するための枠組みを開発して、進捗を5年ごとに報告し、それをSDGsの報告とも関連付ける、とされています。

それと、その進捗管理のための指標です。循環経済への進捗度合やEU・国家レベルでの行動の効果を測るためには、信頼できる指標が重要です。
開発するとされる指標枠組みには、食品廃棄物、重要原材料の供給保障、修理・再使用、廃棄物発生、廃棄物管理、2次資源貿易(EU内、EU外)、製品中のリサイクル材の使用に関する指標も含まれます。

現在は、Resource Efficiency Scoreboard、Raw Materials Scoreboardという指標一覧を作成して、各種指標の進捗が公表されていますが、新たな指標枠組みはこれらをベースにしたものになると考えられます。

資源効率や原材料の消費量について重視しているということですね。

国内物質消費量(Domestic Material Consumption:DMC)と、純粋な物質消費量にあわせEUに輸入・消費される製品の一次資源まで遡って物質消費量を計上した一次資源等価換算物質消費量(Raw Material Consumption:RMC)という考え方があります。
2014年に発表されたCE政策パッケージでは野心的に、RMCに関する目標値を作ろうとしていましたが、2015年に発表されたCE政策パッケージ(行動計画)では指標の枠組みを作りますという内容に変わっていました。EU内で目標設定に関する合意が取れなかったのではないかと思います。


ここまでお読みいただきありがとうございます。
今、経済的に成立していないものは「コストがかかる」「社会的にコストを負担しない(できない)」からできないのですが、それを「お金がかかる(負のイメージ)」ではなく、「進化するためのイノベーションの余地がある」「将来への投資」と、プラスな事としてとらえているのだなと感じました。
EUはどうして、このような政策に至ったのか、次回は、RE・CE政策の経緯についてお伺いします。


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