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EUのCE(Circular Economy)政策 その3
〜行動計画の構成と内容−2〜

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
持続可能な消費と生産領域
主任研究員
粟生木 千佳(あおき ちか)様

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)

今回は2015年に欧州で発表され、海外で注目されている資源効率(Resource Efficiency)や循環経済(Circular economy:CE)に関する研究をされているIGES(Institute for Global Environmental Strategies)の主任研究員 粟生木 千佳(あおき ちか)様に「EUのCE(Circular Economy)政策」について、お伺いしました。

【その3】行動計画の構成と内容−2

今回は、循環経済に向けた行動プラン(Closing the loop-An EU action plan for the Circular Economy)の8つの大項目のうち、皆さんにとって一番関心があると思われるものの1つである、廃棄物管理についてお伺いします。

今回もよろしくお願いします。

その1 〜CE(Circular Economy)とは〜 にて、CE政策パッケージは実現に向けた行動計画と廃棄物法制の改正指令案の2本立ての構成であるとご紹介しました。廃棄物法制に関する改正指令案の概要は、その1でご紹介しましたので、今回はもう少し詳しくご説明します。

【3】廃棄物管理(Waste Management)

廃棄物管理に関しては、埋立の削減、プラスチックリサイクルの促進、市町村の廃棄物のリサイクル強化が中心です。

背景として以下の認識があります。

  • 廃棄物対策は循環経済の中心であり、廃棄物階層(ヒエラルキー)が実現されているかどうかを決定づける重要な取り組みである
  • リサイクル可能なものが埋立・焼却となってしまう非効率なシステムは有害な環境影響や重大な経済損失の可能性がある
  • 物質回復(material recovery)を高いレベルで達成するために、長期的なシグナルを送ることが不可欠である

「埋立・焼却は有害な環境影響や重大な経済損失の可能性がある」の“可能性がある”は含みのある言い方ですね。

そうですね。あくまで、埋立や焼却を削減したい対象は、回復可能な非有害な廃棄物であるからだと思います。回復可能な非有害な廃棄物については、分別やリサイクルを通じて、可能な限り埋立などを回避し、環境・経済・社会的便益を得たいと考えているためです。

EU廃棄物枠組み指令における廃棄物ヒエラルキーでは、廃棄物管理の最終手段として、廃棄(disposal)が掲げられいます。そこに、埋立や焼却が該当するわけですので、埋立・焼却が完全に否定されているわけではありません。ただし、あくまで分別・リサイクル等を通じた回復(recovery)手段を尽くした後の最終手段であるという位置づけかと思います。

1)廃棄物法制に関する改正指令案

廃棄物法制に関する改正指令案をもう少し詳しく説明します。

リサイクル目標増強

  • 市町村廃棄物、容器包装廃棄物、最終処分量削減のための長期リサイクル目標を増強する
  • 市町村の廃棄物のリサイクル目標を2030年までに65%に増やす
  • 市町村の廃棄物の埋め立て率を2030年までに10%と徐々に制限する
  • 容器包装廃棄物の再使用のための準備を進め、リサイクル目標を増強する
  • 収集分別体制の構築、リサイクル率の向上に向けた中長期的目標の設定、技術支援

リサイクルの目標増強で示された目標値がかなり野心的であると話題になっていますので、目標値について教えて下さい。
日本のリサイクル法でのリサイクルの定義は、対象物によって、マテリアルリサイクル原料となったか、有価で買い取られたか、など考え方・計算の仕方が異なりますが、CEの「市町村の廃棄物のリサイクル目標65%」の“リサイクル”には、何が含まれているのですか?

ここは、原典にもどって正確に申し上げると、「再使用のための準備とリサイクル」の目標です。
その1でも申し上げましたが、再使用のための準備(Preparation for re-use)とリサイクル(recycling)については、それぞれ、廃棄物枠組み指令にその定義が載っています。

  • 再使用のための準備(Preparation for re-use):廃棄物となった製品や部品を、特に前処理なしで再使用されるよう確認・洗浄・修理すること(なお、改正指令案では、「廃棄物となった製品や部品」について「再使用のための準備を行う事業者もしくはデポジット・リファンドスキームによって収集された廃棄物・製品・部品」という文言への修正が提案されています)
  • リサイクル(recycling):製品や材料・物質に、廃棄物質が当初の目的もしくは別の目的で再加工されること(ただし、燃料・エネルギーへの再加工は含まない)

この2つの取り組みが目標に含まれているといえると思います。

市町村の廃棄物の埋め立て率を2030年までに10%に制限するとありますが、EUでは日本とは違い、家庭系廃棄物の直接埋立も多いそうですね。

そうです。国によって違いがありますが、家庭廃棄物の埋め立て率は、20年ほど前は60%近くありました。年々減少し、2014年現在EU全体で27%程度です。日本の平成26年度(2014年度)一般廃棄物の直接埋立率は1.2%なので、定義や廃棄物管理の内容の違いがあるので単純な比較はできませんが、それに比べると、ずいぶんと多い印象です。

埋立量を削減するために、リサイクル率を上げる必要があります。ただし、リサイクル率の向上は、行政能力、収集やリサイクル施設への投資不足、経済的手法の導入が不十分など、様々な要因によって制限されてしまうので、リサイクル率を上げるために、何をおいても、まずは、収集と分別の改善が必要であると考えられています。

容器包装廃棄物に関しては、ヨーロッパは先進国というイメージがあるのですが、それは、ドイツやフランスなど一部の国はすでに取り組んでいるけれども、そうでない国もあるのでしょうか。
または、現行のやり方(リサイクル)から、再使用に舵を切ろうとしている、という事なのでしょうか?

前者の考え方が中心かと思います。欧州委員会としては、まだ、多くの加盟国が十分な廃棄物管理インフラを構築できていないと考えています。そこで、明確な政策目標を設定することで、容器包装を含むリサイクル可能なものが埋立などのヒエラルキーの下位に回ってしまうことを避けたいという思いがあるようです。

経済的手法の活用促進と拡大生産者責任(EPR)

  • EPRスキームの透明性とコスト効率性に関する最低限の実施要件を提案する
  • EPRを繊維や家具分野にも適用する

EPRスキームを活用して、という事に関して、メーカーは難色を示さないのですか?

これも、やはり加盟国間で実施状況およびその効果が大きく異なるという背景からの対策で、EPRスキームを各国が実施する際に最低限これだけは要請しましょうという内容が提案されています。

やはり、製造企業への収集分別等にかかわる金銭的負担等に関する内容なのでなんらかの反応はメーカーからあるとは思います。ただ、ECの狙いとしては、メーカーへの要求事項のEU内での共通性を高めることによって、(特に中小企業にとっての)公平性の確保、EU市場内での混乱の回避にあるようです。

加えて、廃棄後コストの内部化や製品のリサイクル可能性・再使用可能性など設計面の改善も期待しています。

定義、計算手法の調和と単純化

  • 廃棄物に関する定義を各国間で調整する
  • 副産物や廃棄物の終了(end-of-waste)に関する法的枠組みの調和と単純化

以前、EUのフォーラムでも、EUの加盟国における統計データの取り方が異なることが、課題として挙げられていました。
廃棄物の終了(end-of-waste)という概念は、リサイクルを回すために有効な考え方だと思いますが、これを「調和させる」というのは、どういう事なのでしょうか?

EU市場内で二次資源が有効に循環するように、廃棄物でない(end-of-waste)と考えられる基準をより詳細にして、加盟国間での廃棄物の終了(end-of-waste)基準のばらつきを少なくしたいということのようです。関連して、二次資源(特にプラスチック)の質に関するEU全体の基準を検討したいとあります。

現場での廃棄物管理向上のための加盟国の取り組み向上(残渣廃棄物の過剰処理回避を含む)

  • 特定の重要廃棄物(e-wasteやプラスチック)の処理施設の自主的な認証を促進
  • 抑制・リサイクル・再生が不能な場合、埋立よりもエネルギー回収が好ましい方法として確認
  • エネルギー・気候政策と再使用・リサイクル目標の達成との矛盾回避を模索

「“エネルギー・気候政策”と“再使用・リサイクル目標の達成”との矛盾」は、日本でも検討されていますが、こういう文章に出てくる事はないので、驚きました。

環境省ホームページ
プラスチック製容器包装の再商品化に伴う環境負荷の削減効果について
国立環境研究所地球環境研究センターホームページ
リサイクルって温暖化対策になるの?

今時点では適切な解が見つかっていない事も明示して、それを模索することを掲げる事で、みんなのモヤモヤが少なくなるような気がします。

そうですね、そういった認識も共有して、エネルギー・気候課題の解決と資源効率・循環経済の解決のバランスを図ろうということは非常によいアプローチかと思います。

なお、行動計画で、どのような説明がなされているかというと、「どうしてもリサイクル等がかなわなかった場合は、埋立よりはエネルギー回収が好ましい。また、これはEUのエネルギー・気候政策ともシナジーを生む。とはいえ、それによって再使用やリサイクルを回避することにならないよう、それぞれのエネルギーポテンシャルを検討すべき。」とされていますね。

それぞれの課題は、各組織・企業等で担当者が異なることも多いので、認識を共有するということが、持続可能な社会に向けた最適解を探る第1歩ではないかと思います。

関連で、気候変動と資源効率分野の関連性・シナジーについては、2016年12月に環境省・国連大学・IGESの共催で、G7アライアンスの取組の一環としてWSや公開シンポジウムを開催しました。会合では、資源効率分野と低炭素分野のコミュニケーションを促進するとともに、資源効率性と低炭素化のシナジーを追及し、課題を克服すること、さらに、パリ協定の達成を念頭に、資源効率的な社会のあり方を明らかにすることの重要性について、参加者間で認識が共有されています。
WSの議長サマリーは環境省のサイトで、公開シンポジウムの発表資料の一部はIGESのHPからダウンロード可能ですので、ご参考になさってください。

2)結束政策投資

結束政策投資とは、EU内の地域間格差を是正したり、不利な条件に置かれている加盟国や地域の発展を奨励するためのものです。これを、廃棄物分野で行う事により加盟国と地域を支援します。

埋立や焼却、機械的生物学的処理へは例外ケースのみ資金提供し、基本的には、新リサイクル目標に沿ったものだけに資金を提供することで、廃棄物管理や廃棄物ヒエラルキーの適用のための投資ギャップを解消します。
(例外ケース:非再生可能有害廃棄物や十分な理由付けがあった場合)
廃棄物管理分野に55億ユーロが提供予定とされています。1ユーロ=120円換算で6,600億円です。

EUの加盟国間の差を埋めるために、6,600億円!

そうですね。大きい額だと思います。EU全体で足並みそろえて、EUで循環経済市場を作り上げていく、EUの経済を循環経済型・資源効率型に移行していくという意思の表れではないかと思います。

3)廃棄物の不法移動

  • 経済協力開発機構(OECD)以外の国への有害廃棄物の輸出を全面的に禁止している改正廃棄物輸送規制(2014年)を適切に実施するための措置を講じる(特に価値が高い車両などをターゲットとして、原材料の漏出防止に取り組む)

廃棄物の不法移動というと、日本だと中国やアジアへの不法輸出が問題視されていますが、ヨーロッパの場合はどうなのでしょうか?

ヨーロッパでも、地理的に近いアフリカ、そしてアジアへの低廃棄物処理コストを前提とした廃棄物の不法移動が問題視されてきました。行動計画では、不法移動による環境・社会・経済的悪影響の解決とともに、たとえば使用済み自動車など、高価格の原材料を含む製品の不法移動を、原材料のEU市場外への流出とみて問題視しています。

今回の行動計画を受けた新しい動きとしては、昨年(2016年)の7月に、税関担当官が廃棄物の移動の可能性をより容易に発見できるよう関税品目分類コード(CN codes)と廃棄物コードの対照表を作成したという取組があります。


ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回は、行動プランの8つの大項目のうちの1つ、「再資源化」についてお伺いします。


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