DOWAエコジャーナル

本サイトは、DOWAエコシステム株式会社が運営・管理する、環境対策に関する情報提供サイトです。毎月1回、メールマガジンの発行と情報を更新しています。

文字サイズ

DOWAエコジャーナル > その道の人に聞く 記事一覧 > EUのCE(Circular Economy)政策 その8 〜政策のゴール〜

その道の人に聞く記事一覧 ▶︎

EUのCE(Circular Economy)政策 その8
〜政策のゴール〜

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
持続可能な消費と生産領域
主任研究員
粟生木 千佳(あおき ちか)様

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)

今回は2015年に欧州で発表され、海外で注目されている資源効率(Resource Efficiency)や循環経済(Circular economy:CE)に関する研究をされているIGES(Institute for Global Environmental Strategies)の主任研究員 粟生木 千佳(あおき ちか)様に「EUのCE(Circular Economy)政策」について、お伺いしました。

【その8】政策のゴール

これまで7回にわたり、循環経済(Circular economy:CE)政策パッケージ(行動計画)についてご説明頂きました。
今回は、政策のゴールとして資源問題、雇用対策、温暖化対策などとの関係性について、教えて頂きます。

■資源問題と雇用対策

今までお話を伺って、雇用と経済成長が目的である施策で、環境・資源に対する施策が盛り込まれているのに驚きました。日本では、手間がかかるとコストがかかる、費用負担が必要、マイナス要素と評価されているように感じますが、EUでは逆に、手間がかかる=雇用を創出するととらえているんですね。

そうですね。狙いとしているところが少し違う印象がありますね。低炭素・資源効率的経済を通じた競争力強化・ビジネス機会と雇用の創出が強調されています。

CE行動計画にも、循環経済の実現を通じたビジネス機会創出とともに、再使用・修理などの「労働集約型」産業の強化による雇用創出への貢献可能性が示されています。

CE行動計画ではありませんが、昨年(2016年)のG7富山環境大臣会合に提出された経済協力開発機構(OECD)による資源効率に関する政策ガイダンスや国際資源パネル(IRP)による統合報告書(政策担当者向けサマリー:SPM)では、低炭素・資源効率社会への移行によって、新たなビジネス・雇用が生まれることが期待される一方で、不利な状況となる産業に対する保護策の検討が必要といった長期的な対応についても議論されています。

かなり先の将来を見据えた議論なんですね。日本も資源小国ですが、50年先も日本で製造業を続けていくためには、資源を守らなければいけないという議論はなされていない気がします。

製造業の方とお話しすると、短期的な資源価格変動、つまり価格が下がった場合に循環資源ではなく相対的に安い一次資源を使わざるを得ない、中長期的なビジョンを描きにくいと言われる方もいらっしゃいます。

確かに資源は代替性もありますし、資源枯渇という点ではまだ不明な点も多く、気候変動と比較して明確な指針が持ちにくい課題です。
ですが、いくつかの文献(*)では、資源課題は資源枯渇以前に環境容量の限界の問題であるといった議論や、地域的なリスクを発生させるという議論もあります。

  • Bernice Lee, B., Preston, F., Kooroshy, J., Bailey R., and Lahn, G. (2012). Resource Futures, Chatham House report, the Royal Institute of International Affairs
  • Clapper, James R. (2016). Statement for the Record Worldwide Threat Assessment of the US Intelligence CommunitySenate Armed Services Committee February 09, 2016, Clapper, James R. Director of National Intelligence United States Intelligence Community (IC).
  • Jackson. T., and Webster, R., (2016) Limits Revisited – a review of the limits to growth debate, UK All Party Parliamentary Group on the Limits to Growth

2050年には90億を超える世界人口や中所得層台頭による資源需要急増、それに伴う環境影響を視野にいれた持続可能性を意識した長期的な経営ビジョンを検討する必要性が高まっているのかもしれません。

■温暖化対策とCE

COP21で定められた2度目標の達成には、エネルギーのみならず物質資源の消費が大きく関わってきます。2度目標という長期的ビジョン・ある種の制約条件を踏まえた資源消費のあり方を考えていかなければならなくなったわけであり、現在、資源効率と気候変動の関連、循環経済と低炭素社会の実現をより統合的に検討する必要があるとの認識が高まってきています。

先ほどのOECD資源効率政策ガイダンスや国際資源パネル(IRP)統合報告書政策担当者向けサマリーでも気候変動と資源効率の関連性が強調されていました。昨年12月に東京で開催されたG7資源効率アライアンスワークショップでも、資源効率と低炭素社会のシナジーやトレードオフ等に関する議論がなされました。
先日(2017年6月12日)発表されたG7ボローニャ環境大臣会合(イタリア)でのボローニャロードマップにおいても資源効率政策によるGHG排出効果の更なる検証の必要性が記載されていますので、国際的な共通理解になりつつあると思います。

【参考資料】
環境省ホームページ
G7アライアンス・ワークショップ-資源効率性と低炭素社会による機会と示唆-の結果について
G7ボローニャ環境大臣会合結果について

2度目標を達成するためには、凄いパラダイムシフトがないと難しい。

そうですね。抜本的に社会や経済の仕組みを変えていく必要があるということかと思います。そのため、資源効率や循環経済に関する国際的な議論の場でも、経済の移行(transition)や転換(transformation)といった言葉を聞くことが非常に多くなりました。先の気候変動と資源効率との関連性が新たな突破口になるのではないかと考えています。

また、資源消費なので当然のことながら、気候変動のみならずあらゆる分野と関連するわけですが、資源効率に関する統合的な取り組みや関連政策間調整の必要性は、先ほど申し上げたOECDによる資源効率に関する政策ガイダンスにおいても指摘されています。贅沢を言えば、日本においても、今後は、製造業のみならず、交通、インフラ、農業(食糧自給率など)・教育・貧困・少子高齢化などのその他社会課題との共便益を検討できればよいと考えています。ごくわかりやすい例をあげると、食品の寄付等による食品ロス回避・貧困緩和などでしょうか。

気候変動分野では、すでに国内でも「気候変動・経済社会戦略」として経済的・社会的課題の同時解決に関する議論がなされています。2度目標による物質資源制約の可能性を考慮すると、そのような議論に資源効率的観点が統合されていくことが期待されるところですが、それには、さらなる検証が必要なのかもしれません。

確かに貧困や、教育は日本の課題の1つなので、一緒に総合的に考えられたらいいですね。

【参考資料】
環境省ホームページ
気候変動長期戦略懇談会からの提言について

■特徴的な所

廃棄物指令の改正案でのリサイクル目標設定や埋め立て削減、エコデザイン指令のような規制的なアプローチもありつつ、情報共有や定義の見直し、指標による政策評価、エコラベル等、情報提供やインセンティブにより各主体の行動を促す、ソフトローといわれるアプローチも多い傾向にあると思います。
例えば、廃棄物の定義の見直し、耐久性などに関する情報入手の可能性検討、賞味期限ではなく消費期限のみの表示の促進や、原材料情報システムの開発等です。

私は、システマティックだなと思いました。目標はここ、このために必要なのはこれ、と羅列して、そのためにこういう作業しようねっていうリストを作って、実践していく感じが、日本とずい分違うと感じました。

そうですね。ビジョンと行動の関連付けが非常に理解しやすい仕組みになっています。CE行動計画の項目ごとに行動や目標・狙いが記載されており、その目標・狙いの達成のためにこのような具体的行動をいつまでに実施するという一覧(リスト)が附属文書として存在していますね。また、その実施状況についても発表されています。

【参考資料】
欧州委員会 コミュニケーションレポート:Closing the loop - An EU action plan for the Circular Economy
欧州委員会 コミュニケーションレポート:Closing the loop - An EU action plan for the Circular Economy

先進国では環境問題が公害問題である時代はほぼ終了し、経済と社会課題との統合が必要な課題になりつつあると感じます。そのような状況下では、より長期的なビジョンが、具体的行動、実施、各分野との連携や統合のための指針となりうるのではないでしょうか。


ありがとうございます。
これまでEUのCE政策について、踏み込んだ内容のお話をいただきましたが、粟生木さまがEUの環境政策を研究されているバックグラウンドやお考えをお伺いしたいと思います。

大学での専攻は、理系でしたか?

はい、理系です。衛生工学を学びました。
高校生の頃から、国際協力を志望しており、国際協力で貢献できそうな環境分野に焦点をあて衛生工学科を志願しました。上下水道、焼却炉、廃棄物管理等の研究室がある学科で、私は廃棄物関連の研究室に在籍していました。
衛生工学といっても社会科学的な研究も多くされており、私も卒業論文では、資源ごみのごみステーションでの当番経験の有無で、どの程度意識が変わるかということをテーマにしました。

大学院では、都市工学(都市環境工学コース)を専攻しました。ちょうどWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)のエコ・エフィシェンシー(環境効率)というコンセプトが発表された直後でしたので、環境効率の企業活動評価への適用方法に関する検討を進めました。工学系にもかかわらず、またも社会科学的な検討をしていました。

修了後は、シンクタンクに3年間勤め、主に政府の調査、民間企業の環境ビジネスなどの業務に従事しました。

その後にIGES へ移られたのですか?

いえ(笑)。アジアでの国際協力を志し、国際開発学に関する修士課程に行きました。その課程の一環で、タイ・バンコクにあるの国連機関でインターンシップも経験しました。そちらの修士課程修了後、タイミングよくIGESでのポジションの募集があり、今に至ります。今年で10年目になります。

IGESでは「持続可能な消費と生産領域研究員」とご紹介いただきましたが具体的にはどういうお仕事をされていますか?

入所当初は3R関連の国際会議支援や、E-wasteや中古電気電子製品の越境移動に関する政策調査研究などをしていました。その後UNEP国際資源パネル(IRP)の設立前後から、徐々に資源生産性等の物質フロー指標による政策評価や、持続可能な天然資源管理・資源効率という考え方が国内外で広まってきたことをうけて、欧州を中心とした資源効率関連の政策調査研究や国際会議支援業務を中心に取り組んでいます。資源生産性をはじめとした物質フロー指標の政策活用や持続可能性指標等に関する研究もしてきました。

近年は、ECによるCE行動計画の発表に加えて、G7、SDGsなどにおいて資源効率・循環型社会が取り上げられたため、ECのみならず各国そのた国際的イニシアチブ等の動きが大変活発化しており、日々動き続ける世界的議論に追いつくため必死になっているところです。結果、最近は欧州動向に関する業務が多くなっていますね。

しかし、アジアは全体として、資源を輸入し製品を輸出するという輸出加工型経済になりつつありますので、資源効率は今後も国際協力という意味でも重要なテーマであると思います。実際、アジア諸国での3R政策を検討するアジア太平洋3R推進フォーラムにおいても、資源効率や循環経済に関する議論がなされています。

【参考資料】
環境省ホームページ
UNEP国際資源パネル(IRP)
国連地域開発センターホームページ
アジア太平洋地域における第7回地域3Rフォーラム


ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回は、EU各国のCEへの取組状況についてお伺いします。


※ご意見・ご感想・ご質問はこちらのリンク先からお送りください。
ご氏名やメールアドレスを公表する事はありません。

▲このページの先頭へ

ページの先頭に戻る