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DOWAエコジャーナル

2021.06.01 法律

実務者のための土壌汚染対策法基礎 その10
指定区域の種類

土壌汚染対策法

前回、その9 区域の指定 では、汚染の状況によって「要措置区域」又は「形質変更時要届出区域」に指定される、と説明しました。
今回は、要措置区域と形質変更時用届出区域とがどのように異なっているのか確認していきます。

1. 指定の要件の違い

要措置区域と形質変更時要届出区域とで異なる点は、健康被害が生ずる恐れがあるかどうか、です。
形質変更時要届出区域には汚染の由来によって、複数の種類があります。

区域の種類 指定要件
基準値の超過 健康被害が生ずるおそれ 汚染状況の備考
要措置区域 超過 おそれあり
形質変更時要届出区域 一般管理区域 超過 おそれなし 人為的汚染
自然由来特例区域 超過(ただしシアン化合物を除く第二種特定有害物質による汚染で、第二溶出量基準に適合している) 自然由来の汚染のみ
埋立地特例区域 超過
(ただしシアン化合物を除く第二種特定有害物質による汚染で、第二溶出量基準に適合している)
埋立材由来の汚染のみ。または、自然由来と埋立材由来の汚染
臨海部特例区域 超過
(ただしシアン化合物を除く第二種特定有害物質による汚染で、第二溶出量基準に適合している)
公有水面埋立地であり、工業専用地域または工業専用地域と同等の用途規制が条例により行われている工業港区内であり、事前の申請を行った土地
埋立地管理区域 超過 人為的汚染あり
工業専用地域内

2. 区域による違い

要措置区域では、土地の形質変更が原則禁止されたり、汚染の除去などの指示が出されます。形質変更時要届出区域とはどのように異なるのか、表にまとめました。

要措置区域 形質変更時要届出区域
土地の形質変更 原則禁止 着手日の14日前までに届出することにより可能
(形質の変更に伴う汚染の拡散がないことが条件)※
汚染の除去等の指示
(法第7条1項)
「汚染除去等計画」の作成と都道府県知事への提出が指示される なし
措置実施命令
(法第7条8項)
上記の措置が実施されていない場合は、都道府県知事から措置を命令される なし
区域指定の公示 公示される
要措置区域として、各自治体が管理する台帳に記載され、ホームページから概要を閲覧することができる
公示される
形質変更時要届出区域として、各自治体が管理する台帳に記載され、ホームページから概要を閲覧することができる

※形質変更時要届出区域の中でも臨海部特例区域は、形質の変更着手の14日までに届出ではなく、1年ごとに、その期間中に行った土地の形質の変更の種類、場所等を届出をするのみで良い。

次回は、要措置区域について解説します。

この記事は エコジャーナルサポーター
コンサルタント、ライターとして活動中
 B&Gコンサルティング 藤巻 が担当しました

2021.05.06 法律

実務者のための土壌汚染対策法基礎 その9
区域の指定

土壌汚染対策法

1. 区域指定までの流れ

土地の所有者等は土壌汚染状況調査の結果を「土壌汚染状況調査」の結果を都道府県知事等に報告します。
自主的に調査した土壌汚染状況調査の結果についても、都道府県知事等へ報告するとともに、区域の指定を申請する事ができます。

詳しくは、実務者のための土壌汚染対策法基礎 その7 土壌汚染状況調査の流れをご参照ください。

都道府県知事等は、報告された「土壌汚染状況調査」の内容が、法で定めた土壌汚染状況調査方法と同等以上の方法で実施されたものであるかを審査し、汚染が確認された場合には、汚染の状況に応じて「要措置区域」又は「形式変更時要届出区域」に指定します。

※画像をクリックで拡大します

図1:土壌調査から措置のフロー

2. 健康被害のおそれの判断

汚染の状況によって「要措置区域」又は「形式変更時要届出区域」に指定されます。「汚染の状況によって」とは、その土壌汚染によって健康被害のおそれがあるかどうかによって判断されます。

健康被害の恐れがあるかどうかは、汚染物質を人が摂取する経路があるかどうかで判断されます。

※画像をクリックで拡大します

図2:区域指定の流れ

出典:「土壌汚染対策法のしくみ」(公益財団法人 日本環境協会)

摂取経路の有無を判断する際には、「地下水等を経由した摂取リスク(土壌溶出量基準)」と「土壌の直接摂取によるリスク(土壌含有量基準)」が根拠となります。

(1)地下水等を経由したリスク

「地下水等を経由した摂取リスク」の有無の判断では、以下の2点が重要です。

  • 土壌溶出量基準を超過している
  • 土壌汚染が存在する土地の下流域に飲用井戸等が存在している

図3 地下水等経由の摂取リスク

出典:「土壌汚染対策法のしくみ」(公益財団法人 日本環境協会)

(2)土壌の直接摂取によるリスク

「土壌の直接摂取によるリスク」の有無の判断では、以下の3点が重要です。

  • 土壌含有量基準を超過している
  • 汚染が表層にあった場合に、汚染土壌がむき出しになっている(舗装されていない)
  • その土地に誰でも立ち入れる状況になっている

図4 直接摂取リスク

出典:「土壌汚染対策法のしくみ」(公益財団法人 日本環境協会)

この記事は エコジャーナルサポーター
コンサルタント、ライターとして活動中
 B&Gコンサルティング 藤巻 が担当しました

2021.04.01 リスク管理

PFOS含有廃棄物の処理で考慮すべきこと

PFAS

前回まではPFOSを取り巻く最近の動向と今後の懸念事項を紹介させていただきました。
今回はPFOSを含んだ廃棄物を実際に処理するにあたって考慮すべき事項について説明させていただきます。

PFOS含有廃棄物の処理

PFOS含有製品を廃棄する際は、適切に処理できる処理施設へ委託する必要があります。特に、PFOSはPOPsで難分解性の物質であるため、どんな方法でも処理できるわけではありません。

環境省は「PFOS含有廃棄物の処理に関する技術的留意事項」(2011年3月改訂)を示しており、実証試験を行って、適正にPFOSを分解処理できることを確認できた事業所においてPFOS含有廃棄物を処理すること、と定めています。もう少し詳しくこの技術的留意事項を見ていきましょう。

(1)「PFOS含有廃棄物の処理に関する技術的留意事項」

PFOS含有廃棄物の処理に関する技術的留意事項」は、PFOS含有廃棄物の取扱いについて廃棄物処理法等に従って具体的に解説されたものです。対象や保管、処理委託、収集運搬、処理方法等について示されています。今回は特に関係があると思われる処理委託と処理方法について取り上げます。

(2)処理委託

PFOS含有廃棄物の運搬や処分を委託する場合は、産業廃棄物についてそれらを業として行うことができ、委託するPFOS含有廃棄物の分類(例えば、廃アルカリや汚泥)がその事業範囲に含まれていることが必要です。もちろん、マニフェストの運用も必要となります。

(3)処理方法

PFOS含有廃棄物の処理方法は分解処理となります。
POPs条約はPOPs該当物質を含む製品及び物品の廃棄に当たり、含有量が少ない場合等を除き、POPsの特性を示さなくなるように破壊又は不可逆的に変換されるような方法で処分されることを規定しています。したがって、PFOS含有廃棄物は分解処理されるべきものであって、その他の廃棄物で実施されているような脱水等の分解処理を行わない性状で埋立処分されることはPOPs条約に照らして不適切と判断されるためです。

分解処理の具体的な要件としては、①PFOS及びその塩が確実に分解されること、②PFOS含有廃棄物の分解処理に伴い生じる排水、残さ中のPFOS及びその塩の濃度が目標値を超えないこと、③分解処理に伴い副生成される排ガス、排水中のフッ化水素の濃度が目標値を超えないこと、です。①~③の要件を満たす技術であれば、焼却以外の分解処理を排除するものではないとしていますが、現状では焼却処理が基本となると思われます。

要件の目標値は次表の通りで、分解率に至っては99.999%以上と非常に高い処理能力が求められています。

この要件については、処理開始前だけでなくPFOS含有廃棄物の性状や混焼条件などの変更によって投入条件が再設定される場合おいても確認する必要があります。また、処理期間中についても排出濃度が目標値に適合しているかどうかの確認が必要であり、処理期間の長短に応じて実施頻度が定められています。

この記事は
DOWAエコシステム 環境ソリューション室 山野 が担当しました

2021.02.01 廃棄物管理 法律

広域認定制度とは

廃棄物処理法

廃棄物の広域的な処理を行うことによりリサイクルを促進するための規制緩和として、廃棄物処理法第9条の9(一般廃棄物の広域的処理に係る特例)及び第15条の4の3(産業廃棄物の広域的処理に係る特例)で定められる特例です。

広域認定制度の目的

広域認定制度は、拡大生産者責任に則り、製造事業者等自身が自社の製品の再生又は処理の行程に関与することで、効率的な再生利用等を推進するとともに、再生又は処理しやすい製品設計への反映を進め、ひいては廃棄物の適正な処理を確保することが目的とされています。

※製造事業者等とは、当該製品の製造、加工、販売等の事業を行う者です。

広域認定制度の申請対象者

申請対象者は、主に製品の製造・加工事業者が想定されています。

  • 輸入製品などの販売のみを行っている事業者については、本制度の目的を達成できる場合に限って申請の対象となります。
  • 法人・個人ともに本制度の対象となります。
  • 製造事業者等で構成されていると認められる社団法人、組合その他これらに類する団体(法人であるものに限る。)も認定を受けることができます。

広域認定制度の対象

認定されたメーカーが製造した製品が廃棄物となったものが対象となります。

  • 対象の廃棄物がOEMによって生産された製品であっても、申請することは可能です。ただし、製造事業者等(委託元)が単独で申請する場合、製造事業者等(委託元)が製造受託者(OEM企業)に対して当該製品の設計等に関与しており、製造事業者等が当該認定に係る処理を行うことにより、再生又は処理しやすい製品設計へ反映させることが可能であることが必要です。

広域認定制度のメリット

広域認定制度として認定されると、

  • 産業廃棄物の収集運搬業
  • 一般廃棄物の収集運搬業
  • 産業廃棄物の処分業
  • 一般廃棄物の処分業

の許可が不要となります。

ただし、廃棄物処理施設の設置の許可は必要です(廃棄物処理法における施設の基準に適合する必要があります)ので、ご注意ください。

(出典)広域認定制度の概要(環境省HP)

詳しくは、環境省ホームページをご覧ください。

環境省ホームページ
広域認定制度関連
広域認定制度申請の手引き

上田 この記事は
エコシステムジャパン株式会社 上田 が担当しました

2021.01.08 法律

実務者のための土壌汚染対策法基礎 その7
土壌汚染状況調査の流れ

土壌汚染対策法

3. 土壌汚染状況調査の流れ

土壌汚染状況調査は、調査範囲や調査対象物質などをやみくもに決めるのではなく、資料に基づいて汚染リスクを判断しながら調査内容を決めていきます。

3-1. 資料調査

その土地の地歴などの資料調査、周辺への聞き込み調査、現地調査により、試料採取をする物質の種類の特定と土壌汚染のおそれの区分を行います。対象とする特定有害物質は、第一種特定有害物質の場合は、分解生成物が含まれる場合もあります。

土壌汚染のおそれの区分とは、試料を採取する範囲を決めるために行います。区分によって、試料採取の単位区画の大きさが下表のように変わります。土壌汚染のおそれが多い場所は細かく単位区画(メッシュ)を区切って試料採取を行うこととなります。

表:土壌のおそれの区分と単位区画

区分1:土壌汚染のおそれが「ない」 試料採取等の必要なし 山林、従業員居住施設、グラウンド等
区分2:土壌汚染のおそれが「少ない」 900m2の単位区画で試料採取等を行う 事務所、倉庫、中庭、有害物質使用特定施設と繋がっていない場所等
区分3:土壌汚染のおそれが「比較的多い」 100m2の単位区画で試料採取等を行う 有害物質使用特定施設、有害物質使用特定施設と繋がっている配管、(配管でつながっている施設含む)等


図:土壌汚染のおそれの区分と単位区画の例

出典:土壌汚染対策法に基づく調査及び措置に関するガイドライン(改訂第2版)(環境省)

図のピンク色の部分は土壌汚染のおそれが「比較的多い」と認められる土地を含む単位区画なので、10mメッシュごとに1点試料を採取します。
黄色の部分は、土壌汚染のおそれが「少ない」と認められる土地を含む単位区画なので、30mメッシュごとに1点(あるいは5点混合)で試料採取することとなります。

3-2. 試料採取による調査

3-1.の調査で決定した単位区画ごとに試料採取を行い、調査対象物質が含まれるかどうかを調べます。どの調査を行うかも特定有害物質の種類ごとに決められています。

表:特定有害物質と試料採取等の方法

特定有害物質 試料採取等の方法
第一種特定有害物質
(揮発性有機化合物)
土壌ガス調査
または土壌ガス調査を省略して行われる深さ10mまでの土壌溶出量調査
第二種特定有害物質
(重金属等)
土壌溶出量調査および土壌含有量調査
第三種特定有害物質
(農薬等)
土壌溶出量調査

出典:土壌汚染対策法に基づく調査及び措置に関するガイドライン(改訂第2版)(環境省)より筆者作成

「表層土調査」では、地表から50cm~1m程度の土壌を採取して調査します。これにより、土地のどこに汚染があるかの平面分布状況を大まかに把握します。

次に、汚染が判明した場所で、「詳細調査」を行います。詳細調査では、地表から10mまたは第一帯水層までの土壌をボーリング調査して、汚染の深度方向の分布を確認します。地下水があれば地下水汚染の有無も確認します。

4. 調査結果の報告

土壌汚染状況調査終了後は、調査結果をもとに報告書を都道府県知事等へ提出します。土壌汚染対策法に基づく調査命令が出された場合は、この報告はしなければなりません。また、法第14条により区域指定の自主申請をする場合も、調査結果の報告が必要です。

報告する内容も土壌汚染対策法で決められており、土壌汚染状況調査結果の他に、「土地所有者等について」「対象土地の所在地等について」「廃止した有害物質使用特定施設について」「指定調査機関について」などが含まれます。

指定調査機関は、法第3条第1項、法第3条第8項、法第4条第2項、法第4条第3項、法第5条第1項に基づいた土壌汚染状況調査と、法第16条第1項に基づく土壌の調査を実施する唯一の機関です。

【参考資料】

環境省ホームページ
土壌汚染状況調査の流れ

公益財団法人日本環境協会ホームページ
土壌汚染状況調査の実施方法について

この記事は エコジャーナルサポーター
コンサルタント、ライターとして活動中
 B&Gコンサルティング 藤巻 が担当しました

2020.12.01 リスク管理

PFOSってなに?

PFAS

1. PFOSとは

ペルフルオロオクタンスルホン酸(以下、PFOS(ピーフォス))は有機フッ素化合物であり、その撥水性、撥油性、耐熱性や耐薬品性等で優れた性質を有するため、様々な分野で使用されてきました。
しかしながら、化学的に安定であるため環境中に残留し易く、生物蓄積性、長距離移動性も認められたことから環境汚染物質として注目されました。

図:PFOS構造式

平成21年(2009年)には残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(以下、POPs条約)において「PFOS又はその塩」附属書B(製造、使用、輸出入の制限)に追加されました。

日本国内においても平成22年(2010年)に化学物質審査規制法(以下、化審法)の第一種特定化学物質に指定され一部の用途を除く製造・輸入・使用が禁止となり、平成30年(2018年)には全面的に禁止されました。

PFOSの処理に関しては、平成22年(2010年)にはPFOS含有廃棄物を適正に処理するために、環境省が「PFOS含有廃棄物の処理に関する技術的留意事項」(平成23年(2011年)3月改訂)を公表し、DOWAエコシステムグループでも平成23年(2011年)より処理を開始しています。

【関連記事】

DOWAエコジャーナル PFOS(ピーフォス)含有廃棄物の処理を開始しました。

2. PFOSの用途

様々な用途の中でもPFOS等は消火薬剤、特に泡消火薬剤に界面活性剤として多く使用されていました。製品中の含有率としては最大でも2%程度です。

PFOS含有泡消火薬剤は、化審法のエッセンシャルユース規定(例外的に認められる用途:代替物質がなく、健康影響がないことが条件)に該当しないため、本来は使用禁止となるものでした。
しかしながら、既に相当数量が全国に配備されていること、その使用方法から短期的な代替製品への交換は困難であることから、表示や保管等について技術基準に従って取扱えば、継続して使用できることが認められました。

そのため等、PFOSが化審法第一種特定化学物質へ追加されてから令和2年(2020年)で10年が経過するものの、日本国内においてはPFOS含有泡消火薬剤が依然として配備されています。昨年度、環境省が実施したPFOS含有泡消火薬剤の全国在庫調査によると、少なくとも338.8万L(PFOS量として17.82t)が全国に残存しています。

【関連記事】

環境省 PFOS含有泡消火薬剤全国在庫量調査の結果について

こういった状況に対して、環境省をはじめ関係省庁や関連団体が連携し、PFOS等を含まない消火薬剤への交換を推進しています。

来月は、PFOSの規制状況についてご説明します。
こちらもご覧ください。

PFOS処理はおまかせください(6.8MB)

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DOWAエコシステム 環境ソリューション室 山野 が担当しました

2020.12.01 法律

実務者のための土壌汚染対策法基礎 その6
土壌汚染状況調査について

土壌汚染対策法

1. 土壌汚染状況調査とは

「土壌汚染状況調査」とは、もちろんその土地の汚染状況を調べることですが、土壌汚染対策法における「土壌汚染状況調査」とは、法律上有効な調査結果であると認められたものを指します。「土壌汚染状況調査」の結果として認められるには、以下の条件を満たす必要があります。

  • 国が指定する「指定調査機関」が行ったものであること。
  • 土壌汚染対策法に規定する方法に則り、地歴調査・試料採取・試料分析がなされたものであること。
  • 公正な調査であること。(調査業務の発注者と指定調査機関との間に会社法の親子関係が成立している場合には、原則として、「公正」ではないと判断されます。

法第14条に則って指定区域の自主申請をする場合でも、調査結果が有効と認められるためには、同様に法に則った調査を行わなければなりません。

2. 調査対象となる土地

土壌汚染は地中に存在するので目に見えず、土壌汚染状況調査をしてみないと「どこに・どのような・どのくらいの」汚染が存在するのか分かりません。
しかも、土地は私有財産のため、他者がいつでも調査に入れる場所ではありません。また、住宅や工場として利用している場合には建物等があり十分な土壌調査は行えない場合もあります。

また、土壌汚染対策法では、“汚染物質が存在していること”が問題なのではなく、“汚染物質を人が摂取する経路が存在すること”が問題であるとしているため、むやみに土壌汚染状況調査を求めている訳ではありません。

土壌汚染対策法で定められている土壌汚染状況調査を行う「調査契機」は以下の5つです。

2-1. 調査契機

  1. 特定有害物質を使用している/していた施設(有害物質使用特定施設)がある土地・・・その施設を廃止する時に調査が必要(法第3条)。ただし、工場操業中などの場合は申請により調査を一時猶予する事が可能(以下、「調査一時猶予」)
  2. 調査一時猶予を受けている土地で、900m2以上の土地の形質変更をする場合・・・土地の形質変更前に届出を行い、調査命令が出される(法第3条)
  3. 有害物質使用特定施設が現存し、現在調査一時猶予を受けていない土地で、900m2以上の形質変更する場合・・・形質変更前に届出を行い、都道府県知事等が汚染の恐れがあると判断した場合、調査命令が出される(法4条)
  4. 有害物質使用特定施設がない土地で、3,000m2以上の土地の形質変更(切土や盛土など)をする土地で、かつ都道府県知事等が汚染のおそれがあると認めるとき・・・土地の形質変更時に届出を行い、都道府県知事等が汚染の恐れがあると判断した場合、調査命令が出される(法第4条)
  5. 土壌汚染による健康被害が生ずるおそれがあると都道府県知事等が判断した場合・・・都道府県知事等から調査命令が出される(法第5条)

2-2. 自主調査

土壌汚染対策法による調査契機とは別に、自主的に土壌汚染の調査をするケースを、自主調査と呼びます。
自主調査は、主に土地取引に関連して調査が行われることが多くあります。

  • 土地売買時に、買主が調査を求める。または、売主が汚染のないことの証明として調査をする。
  • 工場跡地等の地歴から、汚染がないか確認のために調査をする。
  • 開発中などに汚染がないか確認のために調査をする。
  • 会社の資産計上にあたり、土地の価格調査の一環として汚染の有無を調査する。

なお、法第14条に基づいて自主調査結果を報告し、区域の指定を受けることもできます。

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2020.11.02 法律

実務者のための土壌汚染対策法基礎 その5
土壌汚染対策法の概要

土壌汚染対策法

1. 土壌汚染対策法の目的

土壌汚染対策法は、土壌中の有害物質(特定有害物質26物質)による人の健康被害を防止することを目的としています。そのために必要な内容を、大きく以下の項目に分けて法に規定しています。

土壌汚染の状況を把握する 土壌汚染状況調査を行う契機、調査方法、調査結果の報告について規定。また、自主的に調査した場合の取扱いについても規定
発覚した土壌汚染を管理する 土壌汚染が発覚した土地の区域指定や管理について規定
発覚した土壌汚染の措置対策をする 土壌汚染への措置の方法について規定
汚染土壌を運搬・処理する 土壌汚染を運搬したり処理したりする場合について規定

土壌汚染が存在しても、汚染物質を人が摂取する機会(摂取経路)がなければ問題はないというのが法の立場であり、必ずしも汚染を浄化・除去する事が求められるわけではありません。

ただし、敷地内での封じ込め等の対策措置を選択した場合は、継続的な計測など土壌汚染の状態管理が必要となります。

摂取経路とは

土壌汚染対策法の特定有害物質の「摂取経路」とは、以下の2つを想定しています。

(1)地下水経由の摂取

有害物質が土壌から地下水へ溶け出し、その地下水を飲用等で摂取するリスク

図1 地下水等経由の摂取リスク(出典:土壌汚染対策法のしくみ

(2)土壌の直接摂取

有害物質を含んだ土壌を直接口や肌から摂取するリスク

図2 直接摂取リスク(出典:土壌汚染対策法のしくみ

2. 対象となる有害物質と濃度

土壌汚染対策法では、人への健康影響がある汚染物質を「特定有害物質」として規制対象に定めています。特定有害物質に人が触れる機会(摂取経路)の観点から、2種類の基準値が定められています。(この他、対策措置の選択をするための「第二溶出量基準」も定められています。)

  • 土壌溶出量基準/地下水基準……地下水経由で摂取した場合の健康影響の観点から設定
    (土壌から汚染物質がどれくらい溶け出すか)
  • 土壌含有量基準……土壌を直接摂取した場合の健康影響の観点から設定
    (土壌を食べた場合、胃の中でどれくらい有害物質が溶け出すか)

表:土壌の汚染状態に関する基準及び地下水基準

特定有害物質の種類 土壌溶出量基準 土壌含有量基準 地下水基準
(mg/L) (mg/kg) (mg/L)
第一種特定有害物質(揮発性有機化合物) クロロエチレン 0.002以下 0.002以下
四塩化炭素 0.002以下 0.002以下
1,2-ジクロロエタン 0.004以下 0.004以下
1,1-ジクロロエチレン 0.1以下 0.1以下
1,2-ジクロロエチレン 0.004以下 0.004以下
1,3-ジクロロプロペン 0.002以下 0.002以下
ジクロロメタン 0.02以下 0.02以下
テトラクロロエチレン 0.01以下 0.01以下
1,1,1-トリクロロエタン 1以下 1以下
1,1,2-トリクロロエタン 0.006以下 0.006以下
トリクロロエチレン 0.03以下
※0.01以下
0.03以下
※0.01以下
ベンゼン 0.01以下 0.01以下
第二種特定有害物質(重金属等) カドミウム及びその化合物 0.01以下
※0.003以下
150以下
※45以下
0.01以下
※0.003以下
六価クロム化合物 0.05以下 250以下 0.05以下
シアン化合物 検出されないこと 50以下(遊離シアンとして) 検出されないこと
水銀及びその化合物 水銀0.0005以下かつ、アルキル水銀が検出されないこと 15以下 水銀0.0005以下かつ、アルキル水銀が検出されないこと
セレン及びその化合物 0.01以下 150以下 0.01以下
鉛及びその化合物 0.01以下 150以下 0.01以下
砒素及びその化合物 0.01以下 150以下 0.01以下
フッ素及びその化合物 0.8以下 4,000以下 0.8以下
ホウ素及びその化合物 1以下 4,000以下 1以下
第三種特定有害物質(農薬等/農薬+PCB) シマジン 0.003以下 0.003以下
チオベンカルブ 0.02以下 0.02以下
チラウム 0.006以下 0.006以下
ポリ塩化ビフェニル(PCB) 検出されないこと 検出されないこと
有機りん化合物 検出されないこと 検出されないこと

※令和3年4月1日施行より基準値が改正されます

次回は、「実務者のための土壌汚染対策法基礎6:土壌汚染状況調査について」です。

【参考資料】

e-GOVホームページ
「土壌汚染対策法」条文

公益財団法人日本環境協会ホームページ
土壌汚染対策法のしくみ
土壌の汚染状態に関する基準及び地下水基準

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2020.10.01 法律

実務者のための土壌汚染対策法基礎 その4
平成29年の改正について

土壌汚染対策法

4. 平成29年の法改正について

ここでは、平成29年に公布、平成30年と平成31年に段階施行された平成29年の法改正について説明します。

4-1. 背景

平成22年の改正土壌汚染対策法施行以降、「土壌汚染状況調査」と「土壌汚染対策措置」の実施状況は以下の通りでした。

①法第3条対象のほとんどが一時調査猶予

土壌汚法に基づく状況調査は、法改正により自主調査の申請と一定規模以上の土地の形質変更時の調査により件数が大幅に増加しました。(図1参照)


図1:土壌汚染状況調査 結果報告件数

(出典)環境省「土壌汚染対策法の施行状況と改正法のポイント」(平成30年12月)

法第3条による有害物質使用特定施設の廃止時の土壌汚染状況調査は、廃止件数の約2割にとどまり、ほとんどが一時免除(調査猶予)となっています。また、改正で新たに規定された法第14条の自主調査による申請件数は、全体の調査件数の約5割を占めており、一定の効果があったことがうかがえます。(表1参照)

表1:土壌汚染状況調査件数の内訳

②指定区域の大幅な増加

要措置区域等の「指定区域」指定件数は法改正後大きく増加し、平成21年度以降の累計指定件数は3,210件となっています。(要措置区域は約2割、形質変更時要届出区域は約8割。図2参照)


図2:区域の指定・解除件数の推移

(出典)環境省「土壌汚染対策法の施行状況と改正法のポイント」(平成30年12月)

また、区域指定された後に汚染の除去等の措置を行い、指定が解除された区域の割合は法改正後に減少しています。(表2参照)法改正前は解除の割合が53.6%、改正後は要措置区域が61.5%、形質変更時要届出区域が38.0%となっています。対策が必要な要措置区域では解除割合が増加し、対策が不要な形質変更時要届出区域では解除割合が低下しており、法改正により過剰な対策が抑制され、法による適正な管理が進んだことを示しています。

表2:区域の指定・解除件数の推移

要措置区域で行われた対策も、掘削除去の割合がやや減少しました。(平成18年度85.5%→平成22年~28年度77.6%)

4-2. 平成29年法改正のポイント

~土壌汚染状況調査に関する改正~

改正前 改正後
<法第3条関係>
有害物質使用特定施設の廃止時であっても、工場が操業中等の理由があれば、土壌汚染状況調査が一時免除される。
調査が一時免除されている土地であっても、土地の形質変更を行う場合は、事前に届出をさせ土壌汚染状況調査を行うものとする。
(900m2未満の軽易な工事は対象外)
(平成31年施行内容)
<法第4条関係>
土地の形質の変更時は、土地所有者等による届出→都道府県等による汚染のおそれの判断→調査命令発出→調査結果の報告→工事着手という流れであった。(手続きに時間を要する)
土地の形質変更の届出時に、実施した土壌汚染状況調査結果を報告することができるものとする。その場合、調査に不備がなければ調査命令は出されない。

<ポイント>

  • 形質変更がある場合は、土壌調査が一時猶予される土地においても一時猶予中の土地の土壌汚染状況を把握できるようになった
  • 土地の形質変更時の手続きの簡素化

上記の改正により、土壌汚染の可能性が高いにも関わらず汚染状況の把握が難しかった、調査が一時猶予される土地についても情報を把握することができるようになりました。また、土地の形質変更時の届け出や調査、都道府県等による汚染の確認プロセスが効率化され、迅速で正確な汚染のおそれの判断ができるようになり、土地の所有者等にとっても工事計画が立てやすくなりました。

~汚染の除去等の措置に関する改正~

改正前 改正後
措置に関する内容の届出・確認なし
  • 要措置区域内の措置内容の計画について、都道府県知事等が提出命令を行う。
  • 提出された措置計画の内容が技術的基準に適合しない場合には、都道府県知事等より変更命令を行う。
    (平成31年施行内容)

<ポイント>

  • 要措置区域における措置内容の計画提出義務
  • 都道府県等が措置計画の是正命令を行える

上記の改正により、要措置区域において実施する措置の内容が適正かどうかを、都道府県等が確認することができるようになりました。

~自然由来等の汚染の場合のリスクに応じた規制に関する改正~

改正前 改正後
人為的な汚染も自然由来等の汚染も区別なし
  • 健康被害のおそれがない(一般住民等への汚染の摂取経路がない)土地の形質変更の場合は、予め施工方法等の方針の確認を都道府県知事に受ければ、年1回程度の事後届出でよいものとする。(工事ごとに事前届出の必要がない)
  • 自然由来等による土壌汚染の場合は、都道府県知事へ届け出れば、同一の自然由来等による土壌汚染がある他の区域へ土壌を移動することを可能とする。
    (平成31年施行内容)

<ポイント>

  • 健康被害のおそれがない自然由来等の汚染地での規制緩和
  • 自然由来等の汚染土壌の同一汚染地への仮置き可能に

上記の改正により、自然由来等による土壌汚染かつ健康被害のおそれがない土地で、届出の手続きが合理化され、土地の有効活用等がスムーズに進められるようになりました。

【参考資料】

環境省ホームページ
改正土壌汚染対策法について 平成31年
土壌汚染対策法について(法律、政令、省令、告示、通知)
中央環境審議会「今後の土壌汚染対策の在り方について(第一次答申)」平成28年12月12日
中央環境審議会「今後の土壌汚染対策の在り方について(第二次答申)」平成30年4月3日

この記事は エコジャーナルサポーター
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 B&Gコンサルティング 藤巻 が担当しました

2020.09.01 法律

実務者のための土壌汚染対策法基礎 その3
平成21年の改正について

土壌汚染対策法

3. 平成21年の法改正について

3-1. 背景

平成15年の土壌汚染対策法施行以降、「土壌汚染状況調査」と「土壌汚染対策措置」の実施状況は以下の通りでした。

①自主調査が91%

土壌汚染状況調査のうち、環境省調べでは87%(平成18年度)が、(社)土壌環境センター調べでは91%(平成19年度)が、土壌汚染対策法や自治体の条例に基づいたものではない「自主調査」でした。(図1、図2参照)


図1:土壌汚染の調査契機(環境省調べ)

(出典)環境省「今後の土壌汚染対策の在り方について(答申)参考資料2-2」(平成20年)


図2:土壌汚染の調査・対策契機((社)土壌環境センター調べ)

(出典)環境省「今後の土壌汚染対策の在り方について(答申)参考資料2-2」(平成20年)

②掘削除去が87%

土壌汚染対策方法は、土壌汚染事例499件のうち437件が「掘削除去」でした。(図3参照)


図3:土壌汚染対策の実施内容

(出典)環境省「今後の土壌汚染対策の在り方について(答申)参考資料2-2」(平成20年)

③汚染土壌のトレーサビリティが取れていない

土壌汚染対策工事で搬出される汚染土壌約300万トンのうち、40%強の約129万トンは土壌汚染対策法や自治体の条例に基づいた対策ではないため、搬出後の追跡管理が明確ではありませんでした。(図4参照)また、汚染土壌の不適切な処理が行われた事例がいくつも発覚しました。


図4:土壌汚染対策により搬出される汚染土壌の全体的な流れ

(出典)環境省「今後の土壌汚染対策の在り方について(答申)参考資料2-2」(平成20年)

3-2. 平成21年法改正のポイント

~土壌汚染状況調査に関する改正~

改正前 改正後
  • 有害物質使用特定施設の使用の廃止時
  • 土壌汚染により健康被害が生ずるおそれがあると都道府県知事が認めるとき
左記にプラスして、
  • 一定規模(3,000m2)以上の土地の形質の変更の届出の際に、 土壌汚染のおそれがあると都道府県知事等が認めるとき
自主的な調査について規定なし
  • 自主調査において土壌汚染が判明した場合、土地所有者等が都道府県知事等に区域の指定を申請できる(法第14条)

<ポイント>

  • 3,000m2以上の土地を改変する場合には、30日前までに都道府県知事等に届け出が必要
  • 自主調査で土壌汚染が判明した場合、区域の指定を申請できる

土地所有者等にとっては、自主調査であっても区域の指定を受けることで、法に基づいた管理を受けている土地であることを示せるようになりました。
社会全体にとっては、自主調査結果も自治体が把握することで、より広く土壌汚染に関する情報の収集が可能となりました。

~区域の指定に関する改正~

改正前 改正後
「指定区域」のみ
  • 「要措置区域」・・・土壌汚染の摂取経路があるため、健康被害のおそれがある土地。都道府県知事より土壌汚染の除去等の措置の実施が命令される。土地の形質変更は原則禁止。
  • 「形質変更時要届出区域」・・・土壌汚染の摂取経路がないため、健康被害のおそれがない土地
    土壌汚染の除去等の措置は不要。土地の形質変更は時には都道府県知事へ届け出が必要

<ポイント>

改正前に1種類だった「指定区域」が、汚染の摂取経路を考慮して要措置区域と形質変更時要届出区域に分けられました。

~汚染土壌の搬出に関する改正~

改正前 改正後
規定なし
  • 汚染土壌の搬出前に、都道府県知事等へ運搬計画の届出が義務付け
  • 「汚染土壌管理票」の交付と保存の義務付け
  • 汚染土壌の処理業が許可制に

<ポイント>

  • 汚染土壌を搬出する場合は、搬出する14日前までに、届け出が必要
  • 汚染土壌管理票が義務付け
  • 汚染土壌処理業が許可制に
  • 汚染土壌運搬基準が示される

掘削除去による汚染土壌の搬出は「汚染の移動」であるため、適正に処理されるかどうか管理する必要があります。改正法では、汚染土壌の搬出届出制、運搬の際の管理票の交付義務、処理業の許可制が規定され、汚染土壌のトレーサビリティ確保ができるようになりました。

次回は、平成29年の法改正について説明します。

【参考資料】

環境省ホームページ
土壌環境施策に関するあり方懇談会 平成19年度
中央環境審議会「今後の土壌汚染対策の在り方について(答申)」平成20年12月19日
改正土壌汚染対策法の概要と留意点 平成22年5月18日
土壌汚染対策法について(法律、政令、省令、告示、通知)

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