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IPCC(気候変動に関する政府間パネル)とは その1
〜IPCCの概要と報告書作成の現場〜

IPCCインベントリータスクフォース 共同議長
公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
上席研究員 / TSUシニアアドバイザー
田邉 清人(たなべ きよと)様

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
IPCC - Intergovernmental Panel on Climate Change

1997年に採択された京都議定書以来18年ぶりの国際的枠組みであるパリ協定をはじめ、気候変動に関わる国際条約や政策を検討する際には、IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change(気候変動に関する政府間パネル)の評価レポートが科学的根拠として用いられます。

世界で最も信頼できると言われるIPCCのレポートはどのように作られているのか、IPCCインベントリータスクフォースの共同議長をされている田邉清人様にお話を伺いました。

今回のインタビューは環境ソリューション室 三戸が担当いたします。

【関連ページ】DOWAエコジャーナル/そうだったのか!地球温暖化とその対策(7)

【その1】IPCCの概要と報告書作成の現場

【1】IPCC設立の経緯

1)IPCCとは?

私(三戸)が『DOWAエコジャーナル』で温暖化の記事を書いていたときに、内容についていろいろとご相談させていただいたのですが、当時は、IPCCはどういった組織で、何をしていて、田邉さんがどんな仕事をなさっているかなど、よく知らずにお願いをしており、いつかそれをしっかりとお伺いできたらいいなとずっと思っておりました。
そういう経緯もあり、今回はIPCCについて具体的なお話をお伺いします。よろしくお願いします。
まずは、IPCCとはどのような組織なのか、概要をお伺いします。

IPCCはIntergovernmental Panel on Climate Change、日本語では「気候変動に関する政府間パネル」といいます。

いわゆる温室効果ガスによる温暖化現象は、100年以上前から科学者の間では知られていた事実だったんですが、地球環境問題として認識されるようになったのは1980年代からです。

1980年代に、国際政治上の課題として温暖化が注目され始め、政策決定者が政策を考える上で、できるだけ科学的に正しい情報が必要になるという認識が高まってきて、温暖化の問題を各国政府の政治家・政策決定者たちが対応策を考えていく上で必要となる科学的なアドバイスをするための科学者のネットワークとしてつくられたのがIPCCです。

具体的には、1988年の国連総会で決定され、
 世界気象機関(WMO:World Meteorological Organization)と
 国連環境計画(UNEP:United Nations Environment Programme)
という二つの国連の中の機関が母体となって設立されました。

政府向けの機関ということですね。

そうですね。政府間の合意に基づく機関、ということですね。英語でも、International(国際的な)じゃなくて、Intergovernmental(政府間の) Panelとなっています。

Panelというのは、パネルディスカッションの「パネル」と同じ意味ですか?

同じような意味だと考えてもらってよいかもしれません。パネルディスカッションというのは、壇の上に専門知識を持った人たちが集まって議論をするのを聴衆が聞くっていう感じですよね。その壇上が世界中に広がるネットワークになっているというようなイメージでしょうか。

よく誤解されるのが、似たような組織にUNFCCCというのがあるのですが、こちらは国連の温暖化に関する条約で「気候変動枠組み条約」。United Nations(国連) Framework Convention on Climate ChangeでUNFCCC。
条約の加盟国が温暖化にどう対処していくか政治的な交渉をする場です。
そういうわけで、気候変動に対して、IPCCは科学的裏付け、UNFCCCは政治交渉を扱っている、ということになります。

■IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change
(気候変動に関する政府間パネル)

各国政府から推薦された研究者によって得られた研究成果・知見を定期的にまとめ、国際的な気候変動政策の決定に科学的な観点からアドバイスするためのネットワーク。
その科学的知見をまとめたものが評価報告書。

■UNFCCC:United Nations Framework Convention on Climate Change(国連気候変動枠組条約:1992年設立)

気候変動の脅威に各国が協力して
取り組むための国際条約で、
190か国以上の国とEUが締約している。

IPCCの科学的評価レポートを基に、UNFCCCという場で政治的な交渉が行われるのですね。

2)IPCCの構成員〜レポート製作に関わる専門家は数千人〜

IPCCの本部はどこにあるのですか?

IPCCの事務局はスイスのジュネーブにありますが、IPCCは、世界中の専門家や科学者が必要に応じてレポートを作る「科学者のネットワーク」なので、専従の職員が大勢いる本部施設のようなものはありません。IPCCの母体機関のひとつであるWMOの本部がジュネーブにあり、事務局はその中に置かれています。

さらに、IPCCは四つの大きなグループで構成されていて、それぞれの事務局機能が何カ国かに点在しておかれています。
あまり知られていないのですが、そのうちの一つが日本のIGESにあります。

IPCCの日本の窓口と思っていたのですが、4つの事務局機能の一つなんですね。
実際に執筆をしている人はどのようにIPCCレポートに関わっていて、何人くらいで執筆されているのでしょうか。

IPCCレポートにはいくつか種類がありますが、作成に関わった人は全て名前がそのレポートに掲載されます。IPCCレポートを出すまでには、ドラフト段階で、世界中の政府とか、専門家にレビューしてもらう機会があるのですが、そのときにコメントを出した人の名前も全部載ります。

そういう意味で関わった人数というと、一つのレポートを作るときに関わる人数は恐らく、小規模なレポートで300名くらい、大規模なものは数千人にのぼると思います。

【参考資料】
AR5の執筆者リストは下記にてご覧いただけます。
WG1AR5_AnnexV_FINAL.pdf
WG2AR5_AnnexV_FINAL.pdf
WG3AR5_AnnexV_FINAL.pdf

えっ!数千ですか? そんなに。多くの方が関わられているんですか。

はい、レポートの種類にもよるので、幅があるのですが非常に沢山の人の意見をまとめて作成します。この間の第5次評価報告書(AR5:Fifth Assessment Report)だと、5,000~6,000人ぐらいです。このうち、レビューしてコメントするだけの人を除き、レポートの執筆に関わった人だけに絞っても、2,000人くらいはいたと思います。ただ、そういう人たちは、特定のレポートを作るときに一時的に参加するだけです。

一方で、事務局のスタッフはごく僅かです。ジュネーブの事務局でも10人強しかいませんし、日本のIGESにあるIPCCインベントリータスクフォースの事務局(テクニカル・サポート・ユニット)も、アシスタントさんを含め10人ぐらいですね。

数千の人が関わるとなると、その費用もすごいことになりますね。

実際にレポートの執筆を担当する人は小規模なレポートでは100人程度、大規模なレポートでは2,000人ぐらいですが、そういう人たちは、IPCCからお金を出して書いてもらうわけじゃなくて、基本的にはボランティアなんです。

ボランティアということは、どうやって関係者を募るのでしょうか?

まず、IPCC加盟国の各国政府やオブザーバーの国際機関などから、関係する専門家を推薦してもらいます。
その中から、先進国や途上国、アジア、アフリカ、ヨーロッパなどの地理的バランスとか、ジェンダーバランス(男女のバランス)とか色々な角度から偏りがないように配慮しながら執筆メンバーを選びます。

そうして選ばれた人たちは、ボランティアで活動してもらいます。ただ、そういう人たちは政府から推薦されていますから、政府のバックアップは多分あると思いますが、IPCCではそれは一切関知しないんです。

ボランティアでも多くの人が参加してくれるのは、IPCCが世界で唯一の組織で、IPCCの作るレポートは世界中で信頼され知名度も高いため、その作成に参加すること自体がステータスになっているという面はあると思います。

また、全くの無償というのではなく、発展途上国の人に会議に参加してもらうための旅費等をIPCCが出すようなことはあります。他の国連の組織も似たようなことをしているはずですが、そういう予算は母体となっているWMOにIPCCのための信託基金が設置されていて、毎年、各国政府が寄付することになっており、それで活動費を賄っています。

各国から専門家を推薦してもらうというお話ですが、日本では環境省が推薦するのですか。

環境省だけでなく、経産省や、文科省、気象庁(国土交通省)など、関連する省庁から推薦していただいているはずです。

具体的には、IPCCから各国政府に「専門家の推薦をお願いします」という内容の文章(レター)を出して依頼するのですか。

そうです。IPCCの事務局から、加盟国政府のフォーカルポイント(窓口)に文章(レター)で依頼をします。
日本だと外務省の気候変動課がフォーカルポイントです。「今度、こういうレポートを作るので、こういう専門性を持った人が必要なので推薦してください」というレターが来ると、そこが窓口になって各省庁に連絡がいって、それで関連する専門家をリスト化してもらって、そのリストをIPCCに返す、という流れです。

ちなみに日本が推薦した人は何名ぐらいですか。

現時点では、5、6種類ぐらいのレポートの作成が動いていて、作成が始まったものは、今のところ、4つです。それぞれに推薦される人は違うわけですが、その4つのレポートを全部足して・・何人ぐらいだろう・・概ね100人弱かと思います。レポートの種類によって30人くらい推薦されたり、10人ちょっとだったりというバラツキはあります。
例えば30人推薦しても、最終的に選ばれるのは3人とか4人というのが普通です。

IPCC側からは何人という指定はないので国によっては、1人か2人しか推薦してこないような国もあります。各国から推薦された人を全部まとめたリストの中からバランスを見て選んでいきます。

IPCCでは、送られてきた履歴書や推薦用フォーム情報などを、一人ずつ見て、同じ国から何十人も出ないようにするなど偏りがないように配慮しながら選出していきます。選んだ結果は、選ばれた人にはもちろん通知が行きますが、選ばれた人のリストが、ある段階で公表されます。IPCCのホームページでも公表されています。それで、世界中の人が、誰が選ばれたのか分かるようになっています。

【参考資料】
現在作成中のレポートの構成と執筆者(選ばれた専門家)のリストは下記よりご覧いただけます。
1.5℃気温上昇に関する特別報告書:1.5℃気温上昇に関する特別報告書:Special Report on Global warming of 1.5°C (SR15) IPCC Athors(beta).pdf
海洋と雪氷圏に関する特別報告書:Special Report on the Ocean and Cryosphere in a Changing Climate (SROCC) IPCC Athors(beta).pdf
土地に関する特別報告書:Special Report on Climate Change and Land (SRCCL) IPCC Authors(beta).pdf
温室効果ガスインベントリーの2019年改良ガイダンス:2019 Refinement to the 2006 IPCC Guidelines for the National Greenhouse Gas Inventories IPCC Author_list_2019_Refinement.pdf

推薦される側からも同意を取るのですか。

国によって異なるとは思いますが、推薦するにあたって履歴書などを提出しなければいけないので、勝手な推薦はしにくいのではないでしょうか。日本の場合は、準備の段階で自然に本人に確認を取ることになるのだと思います。


ここまでお読みいただきありがとうございます。
IPCC組織の成り立ちが理解できました。次回は各WGの役割についてお伺いします。


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