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EUにおけるリサイクル制度および資源効率性(RE)政策の検討状況に関わる最近の動向について その2

公益財団法人 日本生産性本部
主任経営コンサルタント
喜多川 和典(きたがわ かずのり)様

公益財団法人 日本生産性本部

EUでは、省資源、省エネルギー経済を包括的な枠組みとして形成し、その中でEUの産業の付加価値と競争力を高める政策の検討が行われており、経済システムの大きな方向転換の波が訪れようとしています。

その取り組みは、廃棄物の削減・リサイクル・リユースなどを重点に進めてきた、日本の環境政策にも今後影響を及ぼすものと予想されます。

今回のインタビューは、廃棄物枠組指令の改正について、お話を伺いました。

【その2】廃棄物枠組指令の改正について

前回は、EUの廃棄物政策についてお話いただきました。廃棄物枠組指令は、EUの廃棄物の基本的な法制度として1975年7月に制定され、また、1999年に制定された埋立指令がヨーロッパの廃棄物制度の中で非常に重要な役割を担っていると伺いました。

廃棄物枠組指令の改正の一番大きなポイントは、家庭系廃棄物に対しリサイクルの強制的な目標値が導入された事なのですね。

そうですね、この廃棄物枠組指令についてもうひとつ特筆すべき事は、廃棄物の分類の違いです。廃棄物枠組指令の中で規定されている廃棄物の分類は、日本の分類と大きく違うのです。

具体的にご説明しますと、廃棄物枠組指令の中でヨーロッパの廃棄物のカテゴリーは、こんなふうに分かれています。

日本では、全体の廃棄物を一般廃棄物と産業廃棄物の2つに分けますけれども、ヨーロッパではまず、無害の廃棄物と有害の廃棄物に分けます。なぜこうなるのかと言いますと、ヨーロッパには廃棄物カタログというものがあり、この廃棄物カタログで非常に細かく廃棄物のカテゴリーを分けています。またヨーロッパにおける廃棄物とは、この廃棄物カタログと照合して該当する物質であるかどうかであり、有価・無価・逆有償は基本的に関係ありません。

日本では、有価か逆有償かで廃棄物かどうかが決まりますが、その様な考え方はしないのですか。

そうです。有価であっても、処理費が発生するものであっても、その点は関係ありません。EUの廃棄物カタログは、全ての廃棄物はいずれかのカテゴリーに入るものと考え、非常に細かく分類されています。廃棄物カタログによって分類され、有害か無害化により監視の度合が異なり、廃棄物が受ける規制も決まります。

その廃棄物カタログの最初の分類がこの有害廃棄物と無害廃棄物とに分かれています。より正確な言い方をすると「特別監視が必要な廃棄物」、「監視が必要な廃棄物」、「監視が不要な廃棄物」などに分かれます。
廃棄物は有害か無害かに分けられ、無害廃棄物の中でさらに利用(リカバリー)される廃棄物と処分される廃棄物に分けられます。有害な廃棄物についても同様です。

こういった廃棄物のカテゴリーに対し規制はどう働くのかというと、無害な廃棄物でリサイクルできるものは監視レベルが最も低く、かなり自由にEU全域を移動でき、認証されたリサイクル業者を目的地とすれば、より良い条件のリサイクル業者のところへその都度行き先を変えることも比較的容易にできます。

しかしながら、無害であっても処分する廃棄物であったり、有害廃棄物の場合には監視がきつくなり、移動が不自由になります。動きが不自由になるということは様々な申請をしなければならない、つまり、そこでは手間やコストがかかってくることになりますので、社会全体ができるだけ利用できる無害な廃棄物のみを排出するように持ってゆきたいと考えるように仕向けられています。

監視の高い方(有害・処分)から監視の低い方(無害・利用)へと、自然な形で無害+リサイクルされる廃棄物へと向かうよう制度設定がなされているということになります。

枠組みとして、非有害な廃棄物が増えるように、また、リサイクルが促進されるように、制度設計されているんですね。廃棄物処理法を根拠としてそれに合致するかどうかを考えていく日本とは、考え方が違いますね。
先月、廃棄物枠組み指令が、2008年に改正されたと伺いましたが、どのように改正されたのか教えてください。

改正された廃棄物枠組指令では自治体がとり扱う廃棄物について強制的なリサイクルの目標値が導入されました。

自治体がとり扱う廃棄物、日本で言うと一般廃棄物、つまり家庭ごみです。この家庭ごみの処理に関して、強制的なリサイクルの目標値が設けられたのは、世界で初めてではないかと思われます。
少なくとも日本では一般廃棄物に関する強制的な目標値はありません。

家庭ゴミの中にリサイクルの目標値が導入されたということで、どういう現象が現れてきているのか、一つの例を示しているのが下図です。

ヨーロッパは国によって制度設計は異なっていますが、ヨーロッパ全体の動向を知るためにも、ドイツの例でお話します。

御存知の方も多いと思いますが、ドイツには家庭でもアパートでもゴミ箱が二つあります。もちろん日本のように資源ごみを分けて出しているところもあるのですが、今回はこの二つのゴミ箱に対象を絞ってお話をしたいと思います。

「グレーのゴミ箱」は、処分される廃棄物。「イエローのゴミ箱」は、よく知られているドイツのDSDと呼ばれる、容器のリサイクルシステムが収集してリサイクルしているものです。ここに、容器包装の廃棄物を入れます。

イエローのゴミ箱に入れる容器包装ごみは、これまでEPRと呼ばれる生産者責任に基づいてリサイクルが義務付けられていました。つまり、容器包装ごみに対しては常にリサイクルのプレッシャーが働いていると言えます。
一方、グレーのゴミ箱に入れられたごみは自治体が処理を行なっており、リサイクルの義務はありません。

改正廃棄物枠組指令では、この2つのゴミ箱の両方、つまり家庭ゴミ全てを対象に2020年からリサイクルの義務付けがなされます。

そこでドイツでは「容器包装ゴミと非容器包装ゴミ」という区分から、「リサイクルできるゴミとリサイクルできないゴミ」に分けましょうとなりました。リサイクルできないゴミというのは生ゴミを中心としたゴミを指しています。

現状(図の上部)で容器包装ごみと非容器包装ごみに分かれている所の非容器包装ごみを、容器包装ごみ以外のリサイクルできるごみ、リサイクルできないごみに分けようかという議論もあったそうですが、結局、「リサイクルできるゴミとリサイクルできないゴミ」に分ける事で落ち着いたと聞いています。

リサイクル不可能ごみと可能ごみ、生ごみとそれ以外、という分け方は、日本のごみの分別回収に慣れている身からすると、あまりに簡単すぎて、これで良いのかなという気持ちになってしまいます・・・。

そうですね。日本では環境教育の観点から発生源で分別して収集する発生源分別方式を採用している場合が多いですが、経済的なコスト効率とより高いリサイクル率、廃棄物の収集・リサイクルに関わる経済コスト・環境負荷などを考えた場合、市民レベルで分けないほうがより良い成果が得られるとヨーロッパでは考えられています。

今、取り組んでいる日本の消費者の努力を考えると忍びないのですが、ヨーロッパが発生源で分別せず、ミックスで収集し機械選別する方式を選んだのは、それが最も優れた経済効率と高いリサイクル率を実現できるのがその理由です。

また、容器・非容器ではなく、リサイクル可能か不可能かで区分する事により、様々な現象が起こります。
例えば、今まで拡大生産者責任:EPR(Extended Producer Responsibility)に基づいてリサイクルしていた廃棄物品目、例えば、「容器包装ごみ」などの区分が不明瞭になってきます。つまり、一般的な意味において、EPRという考えに基づいたリサイクルシステムの区切りが不明瞭になってきます。これまで容器包装、自動車、家電などの分野ごとに設定されていたリサイクルシステムが統合されより包括的・総合的なリサイクルシステムへと移ってゆくという可能性が出てきているのです。

となりますと、日本がこれまでヨーロッパを見習ってきたことに様々なズレが出てきます。義務も責任もいろいろなことがズレてゆく可能性があります。

なにが言いたいかといいますと、ヨーロッパはより包括的・総合的なリサイクルの方向に流れていく傾向があります。これはある意味、特別の廃棄物品目を区分けして処理しているより効率がよくなる可能性が高いことを意味します。

他方、日本はヨーロッパの「拡大生産者責任」という思想を取り入れて、容器・自動車・家電などの品目について、メーカーに責任を持たせ、それぞれの品目別にリサイクルを促進させるようリサイクルシステムを構築してきましたが、その間、ヨーロッパではそうしたセグメントごとのリサイクルシステムからむしろ離れる傾向を示し、より総合的でしっかりとした社会インフラとしてのリサイクルシステム構築に取り組んできました。
日本がそうしたヨーロッパが舵を切った方向に進むには、現行の制度では様々な足かせもあり、両者の差が今後一層広がるのではないかとの懸念を感じています。

「目標値の設定」によって、様々な影響がでるのですね。リサイクルの目標値はどのようなものなのでしょうか。

具体的には、家庭ごみのうち、紙、ガラス、金属、プラスチックの50%以上はリサイクルするようにしなさいとされています。ここでの「リサイクル」は「材料リサイクル」を指します。
ドイツのリサイクル率はすでに60%を超えていますので、ドイツでは65%に設定されています。建設解体廃棄物については70%です。

こうして新しい目標値が設定されますので、自治体はこれらを目指してやらなければならなくなります。ところが、自治体はこれまでにおいて、リサイクルについてのノウハウを持っていませんので、自治体単独ではこのリサイクル目標値をクリアすることはできません。

ヨーロッパでは容器包装のリサイクルは、民間の色々な団体がやってきていますけれどもヨーロッパでも家庭の廃棄物については大半が埋立処分するか、あるいは焼却処分されていました。ですので、リサイクル率を設定され、リサイクルをしなければいけない状況では、自治体が民業のチカラを頼らないと実現できません。

EUでは、リサイクルを推進させるために、3つの政策を取ってきました。
それをまとめると、以下の図になります。

2本目と3本目の矢はこれから説明していきますが、1本目の矢では、EPR導入を機に家庭ごみ分野の自治体独占を壊し、家庭ごみのごみ処理を民営化する機会として利用しました。

民営化が促進される事で、民間の廃棄物処理業の経営規模拡大や利用可能な最新の技術を取り入れ、廃棄物処理における効率的な選別処理が可能になるなどの成果を生み出しました。

EPR政策にこのような経済政策としての一面があったことはあとになってわかったことですが、欧州の廃棄物産業を発展させ、近代化させることにおいて、大変有効な一矢を放ったものと言えるのではないでしょうか。

日本でも家庭ごみの処理は市町村の責務、として市町村が責任を持って処理を行なっていますが、そうではないやり方をしている国もある、というのは正直、驚きました。私たちが当たり前と思っていることも、世界的には当たり前ではなく、日本のガラパゴスなのかもしれません。国外に目を向け、海外の取り組みを学んでいくのも必要であると思いました。


ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回は、廃棄物処理の優先順位についてお話をお伺いしています。


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