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EUにおけるリサイクル制度および資源効率性(RE)政策の検討状況に関わる最近の動向について その8

公益財団法人 日本生産性本部
主任経営コンサルタント
喜多川 和典(きたがわ かずのり)様

公益財団法人 日本生産性本部

前回は、リサイクル材について、お話を伺いました。
今回は、廃プラのリサイクルに関する欧州のスタンダードについて、お話をお伺いします。

【その8】リサイクルに関するスタンダード

リサイクルに関するスタンダードとは、どういうものなのでしょうか?

廃プラリサイクルの欧州スタンダードがに基づくリサイクラーの認証制度が2012年から始まりました。このスタンダードを満たしていないものについては、例えば、ドイツだと、環境ラベルであるブルーエンジェルマークがとれません。

ドイツでは、文房具などのプラスチック製品において、一定以上のリサイクル材が含まれていれば、ブルーエンジェルマークが取得できます。しかし、仮に同じ量、再生樹脂を使った文具であっても、その再生樹脂が欧州スタンダードが認めたプラスチックのリサイクラーが製造した材料でなければブルーエンジェルマークが取れないということになります。

とするとこの欧州スタンダードというものが盾になってブルーエンジェルマークが取得できないということが起こり得ます。

リサイクルのスタンダードがEUという市場への参入障壁になってしまう、とも考えられますね。

そうですね。さらに、EUの文書の中には、リサイクル材を購入したというだけでCO2排出権をつけることも考えたいということが、欧州理事会の文書において「リサイクル認証制度」という言葉で出てきます。
2次原料(リサイクル材)を購入した場合、温室効果ガス削減に係るクレジットがついてくるということが示唆されています。

実際の動きとして、例えばフランスの自動車メーカー、ルノーは同社のCSR報告書で、車の新しいモデルが開発されるたびに、車に使われる再生樹脂の含有量が大幅に増えていることを報告しており、今後さらに増やして行く決意も表明しています。例えば、同社のMeganeでは16kg、Modusは18kg、Lagunaは32kgというように再生樹脂の使用量をどんどん増やしてきています。

これは戦略的に増やしていると考えられます。
しかも、こういう再生樹脂が欧州標準もとで再生樹脂としてどんどん生み出されていくという可能性があります。

今年の3月、ベルギーで自動車のリサイクルに関する国際会議があり、自動車リサイクル関係者と話しをする機会がありました。

ルノーはリサイクル材の使用量を増やしているけれども、その他の会社はさほど取り組んでいないと思っていたのですが、ある人が言うにはその他の欧州系自動車メーカーもリサイクル材の使用を増やしたり、試験的にどの位までなら自動車の各部品に利用可能かなどを熱心に研究していると聞きました。ルノーのように積極的に発表する自動車メーカーもあれば、ひっそりとやって、政府から「リサイクル材の使用は何パーセント以上でなければならない」と定められたら直ちに、ウチは要求水準をきちんと満足できますよと言える準備をしているのではないでしょうか。

日本でも自動車メーカーのN社さんが水平リサイクルということをやりだしているバックグラウンドにもこういう欧州の事情が反映しているのではないかと思ったりもします。

いずれにしてもREというのは水面下でひっそりと潜水艦のように動いている政策といった印象があります。拡大生産性責任(EPR)だとか、リサイクル率95%というような具体的な政策であればわかりやすいので、日本としてもどのように対応すべきか見当がつきますが、REは基本思想から始め、包括的な制度的枠組みを構築した後、具体的な個別の政策づくりに進んでいこうとするプロセスなので、具体的な政策が出てくるまで、かなり長い期間を要するわけです。

この間、即物的な理解を求める人は、何も動いていないように見過ごしてしまいますが、新しい時代に見合う「制度構築の準備」を丹念にやっているわけです。特に今回の政策は包括的な循環経済政策をパッケージとして構築しようとしているために、基礎固めが終わるまで目に見える建造物はほとんど建ちません。

しかし、基礎ができると途端に建物がどんどんと建ち始めるということも考えられ、その時になってようやく、「これまでなされてきた議論とはこういうことだったのか・・」と気づくようなことになりかねません。
ですので、今から注意深くこれら一連の動きをウォッチしていく必要があります。

一方、日本はこうした時代が大きく転換していく時期にあっても根本的な社会変革を見据えた政策議論というのはなかなか進みません。しかし、そうであると今後の国際的な議論において、再びEUに多くの場面でイニシアチブを奪われてしまうことになるのではないかと少し心配です。

知っている企業は、ちゃんと準備をしているんですね。EUは戦略的な政策を立てるので、注視する必要がありますね。

このような動きを見ても分かるように、EUではEPRという考えが、今後、静脈の使用済み製品のリサイクル率を何パーセントにするかということだけでなく、製品にどれだけのリサイクル材を使用するかという問題が問われることになると思います。製品にリサイクル材の使用を促進することで、リサイクル材のマーケットを牽引していく方向に政策を転換させていくものと考えています。

この新しいREという政策の流れの中で、先ほどの樹脂もそうですが、すべての自動車ということにはならないと思いますし、自動車のタイヤやバッテリーも新車からいきなり再生バッテリーやリトレッドタイヤを載せてくるということも考えられるのではないかと個人的には思っています。
バッテリーやタイヤというのは重量がかなりありますし、リサイクル材のトレーサビリティも比較的やりやすい。そうするとタイヤやバッテリーをリサイクル製品に変えることで結構な重量をリサイクル材に仕立てられます。また、これらの再生製品はこれまでにおいても新品同等の性能が実績として出ているので取り組みやすいのではないかと思います。こうした動きが本格化すると再生材は引っ張りだことなるのではないでしょうか。

製品にリサイクル材を使うことを促進することで、マテリアルリサイクルの出口を作り、マテリアルリサイクルに誘導するのは、合理的な気がします。

REに関するもうひとつの動きは、製造業のサービス化です。
例えば車だったら、車を売り切るんじゃなくて、カーシェアリングだったり、レンタカーにしたり、カーリースにしたりしていくという方向に持って行くということを言っているわけです。
これもいろいろな意味で、今後の日本の製造業にインパクトを与える可能性があります。ここで述べられていることとして、これまでの製造業がコストとして1番意識してきたのは製品を作る「製造コスト」であったと。
しかしREになってから何を意識すべきかというと、製品の「ライフサイクルコスト」に重点が移るであろうと言っているわけです。

例えば、仮に自動車メーカーがサービス業へと姿を変えたとしたら、今乗っている車が、明日は違う車になっているかもしれない、そういう可能性があります。
つまり新しい車に買い替えるのではなく、技術革新した新しい動力系ユニットを載せ替えて、昨日までのカローラが今日プリウスになっているということが考えられるのではないかと思います。EUはそういうのをアップグレーダビリティーという概念で表現していますが、最近言われるリサイクラビリティと同じように法的にこれを定義するということも考えてくるのではないでしょうか。

つまり製品は、これまで製造コストと製品の売り上げで捉えてきたけれども、これからはライフサイクルコストが重要であるというふうになっていくだろうと言っているわけです。しかもここまでをEPRという枠の中で議論しているところがなかなかすごいと思います。

そしてさらにこのような売切りからシェア・レンタル・リースへと移行させるインセンティブを税制を変えてまでやろうという案が出ています。つまり、カーシェアリングだったら非常に安く車が使えるけれども、売り切りで車を所有しようとするとそっちの方がずっと高くなる、そういうことも起こり得るかもしれません。

EUはRE政策の一環として、このような政策へと舵を切ってきており、それはEU域内だけでなく、EUへ製品を輸出する日本企業にも大きな影響を及ぼす可能性があります。


ここまでお読みいただきありがとうございます。
RE政策は、新しい時代に見合う「制度構築の準備」を丹念にやっているので、基礎固めが終わるまで目に見える建造物はほとんど建たないけれども、基礎ができると途端に建物がどんどんと建ち始めることも考えられるとのお話でした。
次回は、とうとう最終回。リサイクルに関するEUと日本の考え方の違いについて、お話をお伺いします。


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