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実務者のための土壌汚染対策法基礎 その1
土壌汚染対策法が制定された背景

1. 土壌汚染とは

土壌汚染とは、土壌中や地下水中に有害物質が基準を超えて存在する状態のことをいいます。土壌汚染対策法上は、有害物質は「特定有害物質」として26種類が指定され、規定された濃度以上に有害物質が存在することを「土壌汚染」といいます。

土壌汚染は、下記のような大気汚染や水質汚染とは異なる性質がいくつかあります。

  1. 特定有害物質は、過去には有害性は認識されていなかったものもあり、その有用性から産業界で特別に管理されることなく使用されていたものが含まれている
  2. フッ素やヒ素、ホウ素、鉛など元々土壌中に存在していた「自然由来」の汚染が存在する
  3. 大気中や水中と異なり、土壌中や地下水中では汚染物質の移動速度は非常に遅く、汚染物質が長くその場にとどまる(汚染物質が蓄積し、時間経過により濃度が減少しない)

上記の性質1)や2)から、土壌汚染には「汚染原因者側に法令違反等の悪意がないケース」や「複数の企業が使用した土地など汚染原因者が不明なケース」、「自然由来などで汚染原因者が不存在のケース」があります。
このため、その土地の土壌汚染は「土地所有者が」調査し対策しなければならないことの根拠を考えるうえで重要になります。詳しくは、本シリーズ記事で今後ご説明します。

性質3)から、土壌汚染は「対策を行わなければ土壌中・地下水中から拡散して消えていくということがない(非常に長い年月が必要)」、「対象範囲に拡散防止策を講じれば、ヒトが汚染物質に晒されることがない」と言う事ができます。これは、土壌汚染への対策措置を考えるうえで重要な性質です。詳しくは、本シリーズ記事の「5:土壌汚染対策措置とは」でご説明します。

2. 土壌汚染対策法が制定された背景

ここでは、土壌汚染対策法が制定された背景や経緯について説明します。

2-1. 汚染発覚件数の急増

土壌や地下水の汚染は外から見て分かることはほぼありません。平成のはじめごろより、企業の工場跡地や過去に規制がなく汚染物質を使用していた事業場の跡地の売買・再開発にあたって、土壌調査で汚染が発覚するケースが増えてきました。平成3年に土壌環境基準が設定されると、基準を超過する事例も多く発覚しました。

土壌汚染が発覚する件数は年々増加し、特に、平成10年ごろより土壌汚染が判明する件数が急増しました。(図1)最新の調査結果である平成30年度には、調査件数が2,362件(うち法の対象事例は1,051件)で、基準不適合だった事例は960件(うち法の対象事例での超過は601件)にものぼっており、土壌汚染は身近な存在であるといえます。


図1:年度別の土壌汚染調査事例

出典:環境省 平成30年度土壌汚染対策法の施行状況及び土壌汚染調査・対策事例等に関する調査結果

2-2. 健康被害の懸念

たとえ有害物質が存在していても、我々が触れることがなければ(土壌汚染対策法では「摂取経路がなければ」という言い方をします)健康被害は起きないので公害問題とはなりません。
大気汚染や水質汚染は、広く拡散し我々が体内に取り込む可能性の高い汚染です。では、土壌汚染や地下水汚染はどうでしょうか?

土壌汚染や地下水汚染は、汚染物質に直接触れる機会は少ないと言えますが、場合によっては我々が汚染物質に晒され、健康被害が出ることがあります。
土壌汚染で健康被害が生じた最も有名な事例としては、1978年に米国で起きた「ラブキャナル事件」が挙げられます。

◆ラブキャナル事件の概要

米国ニューヨーク州のナイアガラの滝近くにあるラブキャナル運河で、1930年代より産廃の投棄が行われ、1950年代には化学メーカーが大量に化学物質を投棄し埋め立てていた(当時は合法)。その後、運河は埋め立てられて土地は化学メーカーから市へ売却され、市はその土地へ住宅や学校などを建設した。

ところが、その後、その土地では大雨が降るたびに悪臭が発生し、流産・死産・住民のがん発覚など様々な健康被害が発覚し始めた。調査の結果、過去に大量に埋められた有害物質が雨によって滲みだし、土壌・地下水・大気を汚染して住民の健康に影響を与えていることが分かった。

米国では、住民の避難や学校の閉鎖などを行い、その土地は国家緊急災害区域に指定されて立ち入り禁止となった。この事件をきっかけに、米国では1986年に汚染状況および緊急性に応じて、汚染サイトを管理し、浄化工事を進める趣旨のスーパーファンド法が施行された。スーパーファンドとは、
有害物質対策信託基金を意味し、環境保護庁(EPA)が浄化する場合には、この基金が使用され、浄化後に潜在責任当事者に求償する。

ラブキャナル事件は、かなり高濃度の有害物質に住民が直接晒され、重大な健康被害が生じた事例です。ここまで重大な被害とならなくても、平成10年以降の土壌汚染の発覚件数の増加とともに、土壌中・地下水中の有害物質に対する健康被害への懸念が日本でも大きくなりました。

2-3. 有識者による検討

上記のように、土壌汚染の発覚とそれに伴う健康被害への懸念が大きくなったことから、土壌汚染に関する法制度を整備するべく検討が始まりました。環境省によって、平成12年より「土壌環境保全対策の制度の在り方に関する検討会」が設置され、学識経験者を中心に、土壌汚染対策と土壌環境保全に必要な内容について検討が進められました。
この検討内容をとりまとめ、平成13年の中央環境審議会へ諮問が提出され、調査検討やパブリックコメントを経た答申をふまえて法案が作成され、平成14年の通常国会へ提出されました。

2-4. 法の施行や改正

土壌汚染対策法の成立から施行、改正については、下記のような変遷を経ています。

時期内容
平成12年12月環境省が「土壌環境保全対策の制度の在り方に関する検討会」 を設置
平成13年10月環境大臣から中央環境審議会に対して「今後の土壌環境保全対策の在り方について」を諮問
平成14年1月中央環境審議会より答申
平成14年2月第154回通常国会へ法案を提出
平成14年5月土壌汚染対策法 成立(22日)、公布(29日)
平成15年2月土壌汚染対策法 施行
平成21年4月土壌汚染対策法の一部を改正する法律 公布(第1回改正)
平成22年4月土壌汚染対策法の一部を改正する法律 施行
平成29年5月土壌汚染対策法の一部を改正する法律 公布(第2回改正)
平成30年4月土壌汚染対策法の一部を改正する法律 施行(第1段階施行)
平成31年4月土壌汚染対策法の一部を改正する法律 施行(第2段階施行)

重要となる経緯は、1.「平成15年の土壌汚染対策法施行」、2.「平成22年の改正土壌汚染対策法の施行(第1回改正)」、3.「平成30年の改正土壌汚染対策法の施行(第2回改正・第1段階施行)」、4.「平成31年の改正土壌汚染対策法の施行(第2回改正・第2段階施行)」です。

土壌汚染対策法は、施行後の実施状況や浮かび上がった課題を基に見直しが行われ、平成22年と平成30年・平成31年に改正法が施行されています。法の施行後5年ごとに課題整理と法の見直しが検討され、まとめた後に改正法が施行されています。

法改正の詳しい経緯と改正ポイントは、次回の記事でご説明します。

次回は、「実務者のための土壌汚染対策法基礎2:土壌汚染対策法改正の経緯」です。

【参考資料】

環境省ホームページ
「土壌汚染対策法について(法律、政令、省令、告示、通知)」(※旧法)
「土壌汚染対策法について(法律、政令、省令、告示、通知)」(※現行法)
「平成30年度土壌汚染対策法の施行状況及び土壌汚染調査・対策事例等に関する調査結果」
「土壌汚染対策法の一部を改正する法律(平成29年5月19日)について」
「改正土壌汚染対策法について(平成31年4月1日施行)」

公益財団法人日本環境協会ホームページ
土壌汚染対策法の概要


この記事は エコジャーナルサポーター
コンサルタント、ライターとして活動中
 B&Gコンサルティング
藤巻 が担当しました

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