フィンランドの最先端ごみ分別事情〜テクノロジーと環境意識が築く循環型社会〜
「フィンランドのごみ分別って日本と違うの?」「スマホでごみ管理って本当にできるの?」そんな疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
実はフィンランドでは、デジタル技術と環境意識が融合し、家庭ごみを効率的に管理する先進的なシステムが確立されています。私も2023年に環境問題に関心を持ち、家庭でのごみ分別を意識し始めた頃は、何をどう分別すべきか頭を悩ませましたが、2024年初めにフィンランドを訪れた際にそのシステムを体験し、その合理性に驚きました。
この記事では、フィンランド独自のごみ分別方法や具体的な最新技術をご紹介します。

■フィンランドと日本のごみ分別システム比較
日本では、自治体ごとに異なる複雑な分別ルールがあります。東京都内の例では、可燃ごみ、不燃ごみ、プラスチック、ペットボトル、缶・びん、紙類に分け、それぞれ指定された曜日に出さなければなりません。資源ごみは1~2週間に1回、粗大ごみは予約制という自治体が多く、次の回収日までしばらく待つという状況もよく発生します。
これに対しフィンランドでは、全国共通で以下の6種類に統一されています:
- 複合可燃ごみ(Sekajäte):ヘルシンキ市では週に3-5回回収
- 紙(Paperi):再生紙工場へ直送
- 段ボール(Kartonki):同じく専門工場へ
- ガラス(Lasi):ガラス製品製造へ
- 金属(Metalli):製鉄所などで再利用
- 生ごみ(Biojäte):バイオガス発電と肥料化
私がユヴァスキュラ市のアパートに住んでいた際、生ごみは専用の分解性バッグに入れ、アパートの各階に設置されている生ごみ専用のシュートに投入すると、地下の生ごみコンテナに直接投入されていました。生ごみは、収集後バイオガスプラントへ運ばれ、バイオガス発電に使われていました。毎日発生する生ごみを衛生的に処理できる工夫が随所に見られました。

■大型専用ごみ箱による24時間対応システム
フィンランドのごみ収集の核となるのが、アパート共用の大容量ごみ箱です。ヘルシンキ市内のマンションでは、地下や屋外に設置された500リットル以上の容量を持つ大型コンテナが並んでいます。あるアパートでは、6色に色分けされたコンテナが並び、青色は紙用、茶色は生ごみ用というように視覚的にも分かりやすく設計されていました。
これらのごみ箱は24時間いつでも利用可能です。各コンテナには重量センサーが付いており、80%以上の充填率になると自動的に回収依頼が発信される仕組みです。タンペレ市のシステムでは、ごみ箱内の状況をリアルタイムで監視し、最適な回収ルートを自動計算するシステムが導入されています。
回収方法も効率的です。フィンランドのごみ収集車は、車体側面に取り付けられた油圧式アームでコンテナを自動的に持ち上げ、車内に内容物を投入します。エスポー市では1人の作業員が30分で約15個のコンテナを回収できるため、作業効率が日本の約3倍と言われています。

■BinitのAIごみトラッカー:具体的な運用方法

フィンランドのスタートアップ「Binit」が開発したAIごみトラッカーは、家庭ごみの管理を革新しています。このシステムは、カメラ付きの小型デバイスとスマートフォンアプリのセットです。捨てたいアイテムをデバイスのカメラの前にかざすと、AIが素材を分析し、どのごみ箱に捨てるべきか即座に判定します。
2023年にヘルシンキのアパート100世帯で実施されたパイロットプロジェクトは大成功を収め、現在では市内の新築マンションの約20%に標準装備されるまでに普及しています。このシステム導入後に混合ごみの排出量が42%減少し、リサイクル率が36%から68%に向上しました。特に、輸入食品の包装など言語の壁があるアイテムの正しい分別に効果を発揮しています。
フィンランド環境省はこの技術を「持続可能な都市計画の重要な要素」として認定し、2025年までに主要5都市での導入を推進する計画を発表しています。ヘルシンキに住む友人によれば、「今や環境意識の高い人々の間ではBinitアプリを使うことが日常の一部になっている」とのことです。この技術の普及は、フィンランド社会全体に根付いている「ごみは廃棄物ではなく資源」という発想を支える具体的な形となっています。
フィンランドから学べる最も重要なポイントは、この「ごみは廃棄物ではなく資源」という発想です。この考え方が社会全体に浸透しているからこそ、効率的なシステムが実現できているのだと感じます。
この記事は
フリーウェブライター
永井 栄雄 が担当しました