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EU新循環経済行動計画のポイント その15
廃棄物削減と価値創造 ~無毒性環境での循環性向上~

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
持続可能な消費と生産領域
主任研究員
粟生木 千佳(あおき ちか)様

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)

2016年から2017年にかけて、「EUのCE(Circular Economy)政策」について、お伺いしたIGES(Institute for Global Environmental Strategies)の主任研究員 粟生木 千佳 様に、2020年3月11日に発表されたEU新循環経済行動計画(Circular economy action plan(europa.eu))についてお伺いします。

【その15】無毒性環境での循環性向上

廃棄物削減と価値創造の 4.1 廃棄物発生抑制と循環を支援する廃棄物政策の拡張 については、以前お伺いしました。

今回は4.2 無毒性環境での循環性向上についてお伺いします。

本題に入る前に、「無毒性環境」について教えてください。

はい、わかりにくい日本語ですね。Toxic-free environmentをそのまま訳したのですが、ようするに、環境や健康上懸念される化学物質などがない状況の事といえるかと思います。

なるほど。Toxicフリーな環境、確かに日本語にするのが難しいですね。

それでは、背景から説明していきます。

背景

  • REACHなどの化学物質に関する政策や規制を通じ、「安全設計化学物質」への移行を促進してきた
  • 禁止物質がリサイクル材に残るなど、安全性の懸念は残っている
  • 循環経済のために、化学物質、製品、廃棄物の法規制の関係性を強化する必要

EUは、世界に先んじてREACHやRoSHなどの化学物質規制を行ってきましたし、プラスチックに含まれる臭素系難燃剤についても早くから着目していました。資源を循環させる、つまり廃棄物を製品に戻すためには、化学物質に関する規制をもっと強化していかないといけないという事なのだと思うのですが、その規制は、「使用」に関する規制でしょうか?または、トレーサビリティを確保するような事なのでしょうか?

どちらかというと後者のトレーサビリティではないかと考えています。つまり、循環後に製造された再生材を用いた製品への懸念物質の混入を避けたいということが主旨になっています。

「化学物質、製品、廃棄物の法規制の関係性を強化する必要」とありますが、EPR(拡大生産者責任)の強化とか環境配慮設計を推進するという事でしょうか。

そうですね。
2020年10月に策定された「持続可能性のための化学物質戦略」での内容が分かりやすいと思うので、ここで触れたいと思います。この戦略もグリーンディールの一環という理解です。同戦略には、「安全な製品と無害な材料サイクルの実現」というセクションがあり、CE行動計画とも関連付けた内容になっています。

そこでは、クリーンな循環経済を実現するためには、2次原料の生産と導入を促進し、1次資源(バージン材)と2次資源(リサイクル材)および製品の安全性保証が不可欠であるとする一方、特に製品の化学物質含有量に関する情報不足が要因となり、2次資源市場が十分に機能し、より安全な材料や製品への移行が妨げられているとしています。

これを踏まえ、有害物質を含まない材料サイクルやクリーンなリサイクルを目指し、製品やリサイクル材に含まれる懸念物質の最小化、原則として、バージン材とリサイクル材に同等の有害物質の制限値適用、廃棄物中のレガシー物質の存在に対処するための革新的技術への投資と規制措置の連動を通じて、より多くのリサイクルを実施することを目指すとあります。

具体的には、以下の取組を進めることとなっています。

  • 持続可能な製品政策イニシアチブの一環として要求事項を導入し、製品含有懸念物質の存在を最小限とする。繊維、食品包装を含む包装、家具、電子機器・ICT、建設・建築など、脆弱な人々に影響を与え、循環の可能性が最も高い製品を優先する
  • 化学物質の含有量と安全な使用に関する情報の入手可能性を確保。持続可能な製品政策イニシアチブの文脈で情報要件を導入し、材料と製品のライフサイクルを通じて懸念物質の存在を追跡
  • REACHにおけるリサイクル材料の認可や制限の緩和が、例外的かつ正当であることを確認
  • 廃棄物フローを浄化し、安全なリサイクルを増やし、廃棄物(特にプラスチックと繊維)輸出の削減を可能とする持続可能なイノベーションへの投資
  • 物質、材料、製品のライフサイクル全体を考慮した化学物質リスク評価方法開発

したがって、これら取組にしめされているように、化学物質、製品、廃棄物、それぞれの政策において、それぞれの観点を反映させて、政策間の整合性調和をとっていくということかと思います。

方針と施策

  • 廃棄物の高度分別と汚染物質除去方法の開発を支援
  • リサイクル材に含まれる健康・環境影響物質を最小限にする方法の開発
  • 懸念物質、特に慢性効果を持つものやリサイクルのサプライチェーンで問題を起こすものを追跡管理・廃棄物中の物質を同定する調和型システムを産業界と共同して開発(ECHAデータベースとも連携)
  • ストックホルム条約のもと、科学技術の進歩に合わせて、残留性有機汚染物質の法規制を改正
  • 有害廃棄物の分類と管理を改善し、化学物質と混合物の分類と整合を取り、クリーンなリサイクルシステムを維持
  • 持続可能性のための化学物質戦略でさらに対応

「汚染物質」「健康・環境影響物質」「懸念物質」という言葉が使い分けられていますが、それぞれ、毒性(有害性)に対する影響度の違いで使い分けているのでしょうか?

すみません、汚染物質はcontaminant、健康・環境影響物質はsubstances that pose problems to health or the environment、懸念物質は、substances identified as being of very high concernをそれぞれ多少略しつつ和訳しているものです。それぞれに意図するところは違いますが、有毒性の違いをもって、この行動計画の中で法的に使い分けられているということではないと思います。

なお、REACH規則の附属書ⅩⅣに収載される認可対象物質の候補になる物質のことは、高懸念物質(SVHC: substances of very high concern)と呼ぶということは承知しています。

廃棄物の高度分別と汚染物質除去方法については、今はできていないのでこれから開発して、リサイクル材に含まれる健康・環境影響物質を最小限にする、という事ですか?

はい、そうですね。先の化学物質戦略でもそうですが、全般を通して、循環を通じて含まれる健康・環境影響物質を最小限にするという主旨で議論が進んでいると思います。

懸念物質の追跡や廃棄物中の物質を同定するシステムを開発するというのは、廃棄物のQRコードを読み込めば、含有物質が分かる様なものですか?

はい、なお、ここでは「持続可能な製品政策枠組みとのシナジーおよびECHAデータベースを用いて」とあります。これら2つの取組を念頭に置くということかと思います。含有物質がすべてわかるようになるかはわかりませんが、持続可能な製品政策枠組みでは、各製品の環境情報が、デジタル化を通じて把握できるようにするという流れであったかと思います。

また、ECHAデータベースでは、高懸念物質を含む成形品に関するデータベースです。
したがって、それらを組み合わせて、何らかの方法で把握できるシステムを開発するということかと思います。「廃棄物のQRコードを読み込めば、含有物質が分かる」までは言い切れませんが。

EUのECHAというのは、2016年に開始されたんですね。

(参考サイト)欧州化学物質庁、化学物質の情報を容易に検索できるデータベースを公開(2016.01.20)(国立環境研究所ホームぺージ)

日本の化学物質データベースについて調べてみると、色々ありました。
国内外における化学物質の法規制・有害性情報等を提供しているNITE-CHRIP(ナイトクリップ)
NITE-CHRIP(NITE 化学物質総合情報提供システム)(独立行政法人 製品評価技術基盤機構)
既存化学物質毒性データベース(国立医薬品食品衛生研究所)

「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」に基づき化学物質の安全性情報の発信基盤の充実・強化を目指して化学物質の安全性情報を広く国民に発信するためのJ-CHECKというデータベースもありました。
J-CHECK(日本語)(独立行政法人 製品評価技術基盤機構)

はい、化学物質のデータや成形品中の化学物質含有状況については、日本にも様々な動きがあることは承知しています。例えば、製品中の化学物質に関連するデータに関わるツールとしては、他にも、アーティクルマネジメント推進協議会(JAMP:Joint Article Management Promotion-consortium)による製品に含有される化学物質を適正に管理し、サプライチェーンにおける情報伝達を可能にする情報伝達スキームchemSHERPAなどもありますね。
化学物質政策およびその取組の世界は、広く深いですし、私にはちょっと化学物質分野の専門性がないため、これ以上は、より詳しい専門家の方にお任せしたいと思います。

残留性有機物質の法規制を改正するというのは、具体的にはどういう事なのでしょうか?対象物質が増えるとか?廃棄の方法が厳しくなるとか?

はい、ここは少し説明が不足していました。すみません。正確には、「残留性有機物質の法規制の別添の改定」になります。つまりは、対象となる化学物質リストの改定です。この改定は、すでに実施されており、何が改定されたかというと、このリストに記載される化学物質が管理対象外となる一定の条件があるのですが、その条件の一部(Specific exemption on intermediate use or other specification)が変更されています。

具体的には、この改定で行われたのは、木材チップのリサイクルに関わるところです。先に示した改正のEU文書によると、欧州委員会は、輸入繊維やウッドパネル製造用の回収(recovered)木材チップを含む一部の物品に、不純物としてペンタクロロフェノールとその塩およびエステルが存在することを確認しました。もともとこれらの物質に限度値が設定されていなかったこともあり、木材チップのリサイクルの継続を可能にし、施行を容易にするために、対象外とする判断を行うための条件(UTC(Unintentional Trace Contaminant:意図しない微量汚染物質)限度値5mg/kg(0.0005重量%))を設定したということなります。

なお、科学の進展に応じて、このような変更は今後もありうると考えられます。

クリーンなリサイクルシステムとありますが、懸念物質(健康・環境影響物質?)が混入しないようにするというような事ですか?

はい、そうですね。行動計画では、化学物質と混合物の分類との整合性も取りつつ、有害廃棄物の分類と管理を改善することによってクリーンなリサイクルを維持するとあります。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


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