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EU新循環経済行動計画のポイント その16
廃棄物削減と価値創造 ~2次原材料のための機能的なEU市場創出~

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
持続可能な消費と生産領域
主任研究員
粟生木 千佳(あおき ちか)様

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)

2016年から2017年にかけて、「EUのCE(Circular Economy)政策」について、お伺いしたIGES(Institute for Global Environmental Strategies)の主任研究員 粟生木 千佳 様に、2020年3月11日に発表されたEU新循環経済行動計画(Circular economy action plan(europa.eu))についてお伺いします。

【その16】2次原材料のための機能的なEU市場創出

前回は4.2 無毒性環境での循環性向上についてお伺いしましたので、今回は、4.32次原材料のための機能的なEU市場創出についてお伺いします。 今回は、日本国内でも関心が高い分野です。

背景

  • リサイクル材は、1次材料と、安全性、性能、価格などの競争にさらされる

バージン材とリサイクル材を比較すると、「リサイクル材は使いにくい」と言われます。理由は、リサイクル材は高い。異物混入のリスクがある。品質が一定とは保証できない。等です。
そういうバージン材vsリサイクル材の比較は、日本もEUも同じなんだなぁと思った一方、EUはそれを政策でカバーしようとするのかと驚きました。

そうですね。元々、再生材、ここだと2次原材料と訳していますが、その2次原材料のためのEU市場を創出していくとタイトルにもある通り、政策などの手段を通じて市場を作り出していくという意思は明確に示されていますね。

また、循環産業を拡大し、それにより産業を活性化させていきたいという意思もあるので、そのための需要促進も重要だということかと思います。

方針と施策

  • 製品中のリサイクル材に関する要件を導入し、2次原材料の需給ミスマッチの解消、リサイクル材市場の拡大につなげる
  • 特定の廃棄物について、全EUレベルの「廃棄物の終了」基準を設定
    国境間協力を支援し、各国の「廃棄物の終了」・副産物基準を整合
  • 各国・EU・国際レベルでの標準化に関する評価に基づく標準化の役割の強化
  • 製品中の高懸念物質の使用の、タイムリーな制限と国境での管理の改善
  • 主要2次原材料市場観測(Market observatory)の導入を検討

最初にお伺いしたいことがあります。
リサイクル材、2次原料(2次原材料)、再生材、など複数の呼び方がありますが、どれも同じですか?微妙にニュアンスが異なるのでしょうか?

そうですね。私自身はおおよそ同じものと考えています。私の場合、日本語自体は、その時その時で英語が異なるため、それに合わせた訳にしています。定訳のようなものは、私個人としては把握していないです。

ただ、例えば、廃棄物からのリサイクルではない生産工程で発生する副産物等の考え方(書いている人の意図が)微妙に違うのかもしれませんし、1次資源・1次原材料(いわゆるバージン資源)との対比を強調したいとき等の使い分けはあるように思います。

■製品中のリサイクル材

「製品中のリサイクル材に関する要件を導入」とありますが、これはリサイクル材の使用割合を規定する、というような事ですか?

現状は、リサイクル材の使用割合の規定が主だったものですが、リサイクル材の使用割合のみに限定された書き方にはなっていません。あくまで今後の可能性ですが、個人的には、再生プラスチックの質のような議論もされていましたし、後々、リサイクル材の質などにも言及するのかもしれないと考えています。

製品にリサイクル材を使う事を規定するのは、まさに、リニア―なマテリアルフローを、サーキュラー(円)につなげさせる、という事につながると思います。つながれば、リサイクル材の需要が発生するので、リサイクル材とバージン材との競争の構図が変化しそうです。

そうですよね。ただ、使用義務化だけでは、十分ではないなと考えています。使用義務化をせずとも使用が促進されるような社会システムを作るというところまで考えないといけないと思っています。現状では、さっきおっしゃったような、価格、異物混入、品質の不確実性等の課題はあるわけですが、上流側の仕組みや製品デザイン、分別・収集の仕組み等の改善を通じて、それらの課題解決が容易になるような社会システムの創造まで持っていく必要があると思っています。

こういった規制は、日本では導入されにくいと思うのですが、それは日本とEUとでは、社会性とか政策立案の考え方など、ベースが異なるからでしょうか?

そうですね、、、。社会的背景の違いは様々にあるということは、言えると思います。専門家ではないので、これ以上の細かい議論はできないのですが、もう一つ言えるとすれば、国家政府である日本と、国家政府の集合体であるEUとは、立場がやはり異なっているということかもしれません。どうしても国家的事情に左右される国家政府より、EUの方が、大方針を掲げやすいのであろうと思う時はあります。

■廃棄物の終了

「廃棄物の終了」は「End of Waste」ですよね。
End of Wasteは、鉄、アルミ、銅で既に規定されていて、最近ではプラスチックで規定される動きがあると伺いました。

EUにおけるリサイクル制度および資源効率性(RE)政策の検討状況に関わる最近の動向について その3 | その道の人に聞く | DOWAエコジャーナル
EUのCE(Circular Economy)政策 その3 〜行動計画の構成と内容−2〜 | その道の人に聞く | DOWAエコジャーナル

「全EUレベルで廃棄物の終了基準を設定」とあるのは、EU内で”廃棄物終了の判断が統一される”、という事でしょうか。

はい、EU域内レベルでの循環産業振興も目指しているので、統一的な基準があるとよいということかと思います。元々、End-of-Waste(EoW)基準については、2015年の行動計画でも触れられていて、それに基づき、2018年の廃棄物指令改正では、「欧州委員会は、加盟国における各国の廃棄物処理基準の策定状況を監視し、これに基づいて連合全体の基準を策定する必要性を評価する。」ということになりました。

現状は、特定の廃棄物(鉄、鋼、アルミニウム、銅のスクラップ、ガラスカレット)について、EU全体のEoW基準があり、EU全体のEoW基準がない場合、加盟国は、国別基準を国内レベルで決定できるとのことですが、今回での行動計画では、先の改正廃棄物指令にあるように、各加盟国での実施も踏まえて、さらなる特定の廃棄物に対するEU全体のEoW基準の開発のための評価を行うとあります。
つまり、上記以外の廃棄物に対するEU全体のEoW基準設定の可能性を探って、EoW(ないしは副産物)基準の調和のための国家間の協力活動を支援していくということのようです。

ちなみに、欧州連合の環境法の実施・施行のためのネットワーク(IMPEL)による各国でのEoW・副産物基準の実施状況レポート(2020年7月に発表)を見ましたら、国内法のEoW基準の実施例としては、オーストリアの、廃木材、堆肥、2次骨材、ごみ固形燃料の基準や、エストニアでの、生分解性廃棄物から製造された堆肥、バイオ燃料製造から生じる消化物、下水処理から生じる下水汚泥の基準などがあるとのことでした。

The European Union Network for the Implementation and Enforcement of Environmental Law
欧州連合の環境法の実施・施行のためのネットワーク(IMPEL)ホームページ
IMPEL circular economy guidance mentioned in EU Study to assess MS practices on by-products and end-of-waste

「国境間協力を支援し、各国の「廃棄物の終了」・副産物基準を統合」とあるのは、EU内の廃棄物終了・副産物基準をEU域外へも共通の基準として広げていくことを目指しているのですか?再生資源は、輸出される事も多いので、国際的に統一されることは必要な事だと思います。

はい、ここでの英語はCross border initiative for cooperation to harmonise national end-of-waste and by-products criteriaなので、域内にも域外とも読めるのですが、このセクションでは、EU域内の国境間協力の支援を充実させていくということを指していると思います。セクションの冒頭でも、EUにおけるリサイクルセクターの拡大ということも言及していますので。

ご参考までに、オランダ・フランス・イギリス・フランダース(ベルギー)でのNorth Sea Resources Roundabout(NSRR)という協力枠組みがあり、そちらでは、そういった2次資源と廃棄物の判断基準に関する議論が行われています。

とはいえ、再生資源の海外貿易は、グローバル市場での役割分担を踏まえると当然起こりうることなので、国際的な統一ということも将来的な議題として十分ありうると思います。これまでに私が参加した国際会合などでも企業からそういった再生材や修理/再製造品の越境移動に関連して廃棄物関連の基準に関する意見があったことを記憶しています。

■標準化

「標準化の役割の強化」というのは、ISOみたいなものを、資源循環の分野にも適用していくという事ですか?

はい、まずEUの政策レベルで言うと、エコデザイン指令が関わってくると思います。

2015年CE行動計画に基づき、エコデザイン指令の要件に関する、物質(資源)効率性基準の検討がCEN(欧州標準化委員会)及びCENELEC(欧州電気標準化委員会)において進められてきました。物質効率性とは、製品寿命の延長、使用済み製品の再使用・リサイクル可能性、製品中の再使用部品やリサイクル材の使用などを指します。

【参考】
EUのCE(Circular Economy)政策 その4 〜行動計画の構成と内容−3〜

CE行動計画→エコデザイン指令改正の方向性明示→物質(資源)効率性基準の検討 という流れですね。

この結果、耐久性、再製造能力、修理・再利用・アップグレード・能力・評価、リサイクル性及び回収可能性、再利用部品割合、リサイクル材料割合などの評価方法や重要原材料の仕様宣言及び物質効率性関連情報提供方法に関する基準が2019〜2020年にかけて決められました。この基準のお話は、エレクトロニクスの回でもさせていただいたかと思います。

【参考】
EU新循環経済行動計画のポイント その8 バリューチェーン ~エレクトロニクスとICT~

その決められた基準の中で2次原材料に関わるものとしては、

  • EN 45555:2019エネルギー関連製品のリサイクル性及び回収可能性を評価するための一般的方法
  • EN 45556:2019エネルギー関連製品における再利用部品の割合を評価するための一般的方法
  • EN 45557:2020エネルギー関連製品に含まれるリサイクル材料の割合を評価するための一般的方法

あたりかと思いますが、このような欧州基準の設定を通じて、どのように2次原材料を生産し、活用していくかについての指針・共通言語ができますので、企業の規模に関わらずそれに基づいて活動が進められやすくなります。したがって、欧州経済(サプライチェーン)全体のリサイクルの活動を底上げでき、2次原材料の生産効率化にもつながるのではないでしょうか。それがつまり標準化の役割と考えられます。

●その他の規格

すこし、2次原材料の市場やその標準化の役割の議論から外れるかもしれませんが、CEに関する規格についてご参考までにお話します。

●イギリス・フランス

すでにイギリスとフランスでは、CE関連の取組やプロジェクトを実施する組織に向けたガイダンスのような内容の規格が存在します。

●ISO

また、ISOでもISO/TC 323と呼ばれる技術委員会でCEに関する規格が議論されています。どのような内容が議論されているかについては、詳細は公開されていませんが、ISOのサイトを確認すると、ISO/TC 323関連では、おおよそ6つのテーマが議論されているようです。

  • 用語、原則、フレームワーク及びマネジメントシステム規格
  • 循環経済の開発と実施のための実践的アプローチ
  • 循環性の測定と評価
  • サーキュラー・エコノミーの実践:経験のフィードバック
  • 製品循環性データシート
  • 2次物質(secondary materials)

ISOホームページ
ISO/TC 323 Circular economy
ISO/TC 207/SC 5 Life cycle assessment

ちなみに、製品循環性データシートはルクセンブルグ政府が主導して開発に取り組んでいる、製品の循環性に関する情報をサプライチェーン全体で共有する方法で、例えば、リサイクル材の含有率や製品のメンテナンス・修理可能性・分解性・再使用可能性などの情報が含まれるようです。

Product Circularity Data Sheet (PCDS) LUXEMBOURG ホームぺージ:
PRODUCT Circularity Dataset Initiative

仕組みとしては、化学製品や混合物の安全な使用方法を説明するために標準化された記述を提供するMSDS(Material Safety Data Sheet/ SDS(Safety Data Sheet:安全データシート))を参考にしているとのことです。

ISOについては、まだ開発段階で、公開されている情報も限られているため、この規格がどのようにCEの促進に貢献するかまでは私自身まだ議論できないのですが、CEがどういうものか理解が難しい企業にとっては指針になりうると思います。

それが、例えば、企業のCEに関する取組の促進や一定の質の担保、国際的にCE関連事業を実施したときの海外企業との共通理解を深めるための支援になるような内容になればよいと考えます。国際規格として確立されることによりCEの可能性を狭めないようにすることが重要ではないかと思います。

「高懸念物質の使用をタイムリーに制限する」というのは、リスクが分かったらすぐに使用禁止にする、という事なのでしょうか?

そうですね、ここは、2次原材料の議論なので、そこに絞って考えてみますと、以前は禁止されていなかったが、現在は禁止されている物質が、廃棄物からの2次原材料の場合には含まれうるのですが、そのような2次原材料に含まれうる高懸念物質についても適宜対処するということかと思います。

「高懸念物質の国境での管理の改善」 というのは、EU域内に輸入される製品に高懸念物質が含まれていないか、国境で検査する、という事でしょうか?

検査するというよりは、英語では、improve enforcementとあるので、EUに輸入される製品には、EUで禁止される高懸念物質が含まれうる製品を域内に入れないよう徹底するということかと思いますし、このセクションの文脈を考えると、それは、2次原材料を使用する製品も含むということかと思います。

「主要2次原材料市場観測(Market observatory)」とはどういう事なのか、例えば、2次原材料の何を観測するのか等、教えてください。(高懸念物質が混入していないかを監視するとかでしょうか?)

EUサイトの食品に関するMarket observatoryのページを確認したところ、価格やマージン(粗利益)、生産・貿易等の市場データと短期的分析を行うということのようです。ですので、2次原材料についても市場観測を行って、適切な市場運営また2次原材料の使用促進につなげるようにしたいということではないかと考えます。


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