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環境格付融資と環境リスクについて―(その3)

株式会社日本政策投資銀行
事業開発部 CSR支援室長
竹ケ原 啓介 様

竹ケ原様は、株式会社日本政策投資銀行で、土壌汚染やリサイクルなど環境ビジネス動向に関する調査、環境格付け融資制度の創設などに従事し、2005~2008年秋まで2度目のドイツ勤務をされて現職に付かれています。
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今回は、竹ケ原啓介様インタビューの2回目です。

前回は、「日本政策投資銀行」の概要についてお話しいただきました。
今回は、「日本での間接金融における「環境」へのアプローチの創出」と「「環境格付」の目的と立ち上げ」についてお話しいただいています。

ドイツ勤務を通して「環境」というのは政策と表裏一体で進んでいること、そして、それがビジネスになると気づかれて金融と環境を結びつける事ができたのですね。

ドイツでの体験があって、そこから私にも「環境の“色”」が付いてきてしまったんです(笑)。
日本に帰ってきてからは、産業調査的なところから入って、投融資メニューを作る企画をしましたが、土壌汚染問題との関わり合いもちょうどその頃です。
当時の規制改革会議などでも、土壌汚染は典型公害なのに、農用地を除いて規制がないことの得失が問題になり始めた時でした。

DOWAさんにもアドバイスをいただきながら、この分野にどのようなアプローチが可能なのか、いろいろと考えていました。土壌汚染の世界でリスクをコントロールをしようと思えば皆さんのようなプロがいらっしゃるし、また、再生可能エネルギーならその道のプロがいらっしゃる。この辺の問題を突き詰めていくと、環境問題への対応で銀行が果たすべき役割は何なのだろうかという問題に行き当たります。

資金を余らせている個人・企業がいて、資金の足りない企業がいて、その間の橋渡しをするのが金融です。当時、すでにエコファンドがブームになっており、環境に配慮した企業をセレクトして投資したいという投資家の存在が表に出てきていましたし、企業も、地球環境問題の解決や循環型社会システムの構築に向けた取り組みが活発になっていました。
問題は、両者を取り持つ金融で、「環境への取り組み」が一番弱いのではないかと思いました。もちろん、「お金の流れを変えることで、環境保全に資する」的な一般論はありましたが、考えてみれば、金融市場の持つ効率性は、下手をすれば環境保全とは逆の方向にも働きかねないわけです。

ストックが生み出す再生産分だけを大事に消費していくことが持続可能性だとすると、再生産/ストックが金融市場を十分に満足させる水準なら良いのですが、そうでなければ、ストックを全て刈り取って市場価格で売却、そこで得られた資金を運用した方が「効率的」になることは十分にありえます。
これは、環境に配慮することの価値が十分に価格に反映されていないために起こる問題です。

「金融が主体になってできる仕事は何なのか?何ができるのだろう?」と試行錯誤をしていた自分としては、この観点から、環境への取り組みを市場に正しく反映するためのシグナリング効果を発揮することこそ、環境金融の本質だろうと考えるに至ったわけです。

これが、「環境格付」につながってきます。
そして、その開発をして今に至るという状況ですね。
ただ、そうはいっても、銀行ができる事は、環境に配慮した経営を進めている企業を総体として評価し、その情報を市場に伝えることでよりよい資金の流れを作る契機とすることがせいぜいです。

でも、金融の影響力は大きいと思いますけれども。

確かに、影響が大きいというのは事実です。でも、その割に意識が低いというのが金融セクターの特徴であった訳なんです(笑)。

最近になってやっと金融の世界でも「環境」が流行っていますが、今の主題は「CO2」なんです。これも、温室効果ガスの排出余力という貴重な資源を効率的に配分するという本質的な議論ではなく、流行の「CO2」を手っ取り早く商品化するための「排出権」的な議論になってしまうところがあります。
もちろん、環境問題の解決に向けて経済的手法として「排出権取引」が有効なことには全く異論ないのですが、排出権がコモディティとして、単純に「安く買って高く売る」というような、わかりやすいけれど本質的ではない扱われ方をされる傾向があります。
確かに、少し前に比べればずいぶんと変わってきたものの、金融が本当の意味で「環境金融」の世界に入っていくのには、まだ時間がかかると思います。

「環境格付」はどういう経緯でつくられてきたのですか?

「環境格付」というのは、融資の際に、通常の財務審査と平行して、環境経営のレベルを測定するという意味で用いられています。
これを理解するためには、投資の世界の先達をみるのが良いと思います。

もともと「SRI(社会的責任投資/持続可能性投資)」という考え方が欧米にあります。要は企業の環境や社会的側面に注目して、投資対象企業を選別しようというアプローチです。
特に米国にその傾向が強いそうですが、始めは、宗教上の宗旨や禁忌などを根拠に、運用対象から特定の業種や企業を排除する「ネガティブチェック」の色彩が顕著でした。
これは、あるセクターが駄目だとなったら、これに属する企業の個別事情には斟酌せず全て排除するという、いわば大胆な「切り捨て」の論理です。それが徐々に変化して、もう少し細かく個別企業に着目して評価していこうということになってきます。
つまり、セクターを丸ごと排除するのではなく、その中のA社、B社、C社の個別事情に着目して、相対的に頑張っている会社を評価して投資対象にしていこうというわけです。
これが90年代の終わりにわが国でもブームを巻き起こした「エコファンド」につながる流れですね。

エコファンドは、投資家が企業の株式や債券に直接投資する「直接金融」の世界のプロダクツです。これに対して、「環境格付」とは、預金者等から預かったお金を原資に銀行が融資等を行う「間接金融」の世界のものです。

企業の環境経営度を評価して投資や融資の選定に反映させるという点で両者は相通じるものがありますが、やはり間接金融に特有の性格というものを併せ持っています。
その一つが、企業をモニタリングできるという点です。
銀行は融資している間は常に融資先をモニタリングしています。
投資信託のように、業績が悪ければ対象から外して「縁切り」という事ができません。貸したお金を回収しないと困りますから定期的に決算報告を頂き、また、営業マンがお邪魔して経営状況をモニタリングし続けています。
この「モニタリングが効く」という点を活かせば、企業の環境経営レベルを誘導することもできるのでは、という考えが「環境格付」の発想には含まれています。

もう一つが情報量。融資に伴う高度な守秘義務の中で環境経営に関する情報を収集しますので、なかなか表には出てこない企業の「環境力」を計るうえでポイントになるような情報、すなわちR&Dのパイプラインですとか、土壌汚染など表面化していない環境リスクへの備えですとか、をも踏まえた評価が可能になるのです。
「環境」に対する企業努力は長い期間かかるものですから、短期には結果が出にくくても「モニタリング」のメリットを活かし、長いおつきあいの中で企業の環境レベルを誘導することができるという考え方なんですね。

その機能に環境省を始め政策サイドが着目し、CO2削減や環境対策の具体的目標を設定し、その実現を誓約する代わりに利息を減免するような仕組みが導入されるようになりました。このような経緯で「環境格付」にいよる融資立ち上がりました。
こうした施策が打てるのも、銀行がそれをモニタリング・誘導しているという機能が働いているからです。だんだんとやりがいのある事業になってきていると思います。

ここまでお読みいただきありがとうございます。
この続きは、竹ケ原様インタビューの(その4)として、次号のジャーナルでお届けします。
次回の主な内容は、「これからの環境金融の方向」についてのお話しをお届けします。

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