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環境格付融資と環境リスクについて―(その4)

株式会社日本政策投資銀行
事業開発部 CSR支援室長
竹ケ原 啓介 様

竹ケ原様は、株式会社日本政策投資銀行で、土壌汚染やリサイクルなど環境ビジネス動向に関する調査、環境格付け融資制度の創設などに従事し、2005~2008年秋まで2度目のドイツ勤務をされて現職に付かれています。
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今回は、竹ケ原啓介様インタビューの4回目です。
「環境の今後とリスクファクター」についてお話しいただいています。

「環境格付」はまだ耳新しい言葉ですが、今後はどのようになっていくとお考えですか?

今、多くの銀行や投資家が、「環境」というキーワードで評価し、企業の実力を見ようとしています。

今や大企業ではISO14001認証取得は半ば当然の前提になった感があり、また、カーボンディスクロージャープロジェクトや資産除去債務などが入ったりして、情報公開がどんどん進んできています。
以前に比べると、企業の価値を環境という目線で評価する情報は多くなりましたが、それで差がつけられるようになったかというとそうではないんです。
見るところが増えれば増えるほど、「見えないところ」「見せたがらないところ」が問題になってきてそこにフォーカスせざるを得ないことなっています。

2007年、経済産業省のプロジェクトで、日本の企業の強みは環境分野であるから「環境力」というキーワードで企業をセレクトできないだろうか? その切り口って何だろう?‥‥という議論をしていました。
まだ、実務に使うには、色々と工夫が必要だとは思いますが、そこで出てきた色々な評価リストを並べたら、環境格付けの評価軸と大きくは変わらないものが精緻にできあがったんです。

そして、この経産省のプロジェクトでは、「たぶん、今公表されている情報だけでは真の力はわからないだろう」そして、「「環境力」の評価のための切り口は大きく2つある」という2点がコンセンサスとして得られたのではないかと思っています。
評価のための切り口の一つは「プラスの評価軸」で、R&D(研究開発)のパイプライン‥つまり、その会社が持っている環境技術なり、エコプロダクツを生み出す力がどうかという点。当然のことながら、これは企業競争力の源泉だから企業秘密です。ですが、何らかの形でそこを見ていかなければならない。
もう一つは、「マイナスの評価軸」で、見えないところに隠れているだろう「環境債務」の問題。まさに「土壌汚染」もそうですね。そのほかにも、質の良くない産廃処理業者に出してしまうことによる不法投棄リスクなど、キャッシュフローをマイナスに落としてしまいかねない要因を探そうとしています。
これらは、それこそ、「普通に外から眺めているのでは解らない」ポイントですが、そこをどうしていくか、金融・投資家サイドとして腕の見せ所になるのだと思います。

マイナスの評価に、環境債務が入っているのですか。「環境」というと「温暖化ガス(CO2)削減」と「省エネルギー」への取り組みが主だとばかり思っていました。土壌浄化や廃棄物処理は、利益を生まないお金だからできるだけ抑えたいんだ、とお客様から聞く事も多いのですが。

企業の環境対策というと、最近の傾向として「CO2削減」や「省エネルギー」に目が向いていて、「土壌汚染浄化」とか「産業廃棄物適正処理」は企業価値に影響を及ぼさないと認識している会社が少なくないですね。とはいえ、CO2削減を進め「環境に優しい企業」のように唱っていても、土壌や廃棄物への対策がおざなりになっている企業はリスクを抱えていると思っています。
また、金融サイドにしてもみんなが「環境」について語り出していることは良いことなのですが、こちらも「CO2削減」と「省エネルギー」にばかり目が向いてしまっていて、廃棄物をどのように処理しているか、土壌汚染リスクにどう対峙しているか等に関する意識が薄れているように思います。
やはり、総合的に環境対策をみていかなければいけないのだと思いますが、どんな軸で評価すればいいのか、取り扱いにくい課題であることも事実です。

しかし、最初に申し上げたように、どの銀行・投資家も「会社の実力」を見るために、環境債務のようなマイナス要因となる情報把握の必要性について認識は持っていますから、今後は土壌汚染や廃棄物などに関しても、より情報公開を求められる様になってくるのではないでしょうか。
そういう時代がもうすぐ来るように思います。

先ほどもおっしゃっていましたが、「土壌汚染」や「廃棄物」のような、外からは見えないものを評価する事はとても難しいと思いますが、どのように評価を進めていくのですか?企業の側が自主的に公表している事例が多いので、という事は、何を公表するかは企業の側が選択できると言う事ですよね。

先ほど申し上げた銀行取引と一体的に行う評価の強みが発揮できるのが、ご指摘の点です。土壌汚染に関していえば、評価に先立って守秘義務契約を結ばせて頂いたうえで、面談の際に「土壌汚染調査はどのようにされてますか」とお聞きして初めて実態を見る事ができます。
情報開示が企業の自主的な判断に基づくべきだというのはその通りだと思います。徒な情報開示がもたらす混乱などを考えれば当然ですが、現在開示されている情報は、多くの場合、完了しているか、既に社会的に知れ渡っているものに限定されることが多いです。したがって、それ以上の情報を得るためには、やはり直接お教え頂く他ないわけで、その場合に間接金融モデルは有効だと思っています。もちろん、それにも限界があるのは事実ですが‥‥。

で、実際に伺ってみると、「実はこういう事があって‥‥」と自治体との間で慎重に進めている対策の話があったり、公表こそしていないものの、全サイトに緻密なリスクアセスメントを実施済みで対策のロードマップをもっていたりと、このリスクに正面から取り組んでいる企業の素顔を知ることが出来ます。その一方で、「臨海部なので関係ない」、「会社の歴史からして考えられない」、「地歴レベルの調査はしているが・・・・」などといった反応も少なくありません。多くは、汚染情報を隠そうとしているのではなく、土壌汚染リスクが企業価値に影響を及ぼすという認識が薄いだけなのだろうと思いますが、時々心配になるケースもあります。

資産除去債務は、有形固定資産の除却に際してという限定がついているため、土壌汚染に関して言えば、その効果は限定的と思われますが、将来の環境債務をバランスシートに計上し、費用化させる点で画期的なことです。こうした「見える化」の認識が広がれば、土壌汚染リスクをきちんと管理できていないことが、企業価値の算定をどれだけ不安定にさせるかということが理解されるようになってきます。企業評価のプロセスを通じて、こうしたメッセージを企業にお伝えするのも金融の役割といえると思います。

ここまでお読みいただきありがとうございます。
この続きは、竹ケ原様インタビューの(その5)として、次号のジャーナルでお届けします。
次回の主な内容は、エピソードを交えてドイツの環境政策についてのお話しをお届けします。

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