DOWAエコジャーナル

本サイトは、DOWAエコシステム株式会社が運営・管理する、環境対策に関する情報提供サイトです。毎月1回、メールマガジンの発行と情報を更新しています。

文字サイズ

DOWAエコジャーナル > その道の人に聞く 記事一覧 > EU新循環経済行動計画のポイント その14 バリューチェーン ~食品・水・栄養素~

その道の人に聞く記事一覧 ▶︎

EU新循環経済行動計画のポイント その14
バリューチェーン ~食品・水・栄養素~

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
持続可能な消費と生産領域
主任研究員
粟生木 千佳(あおき ちか)様

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)

2016年から2017年にかけて、「EUのCE(Circular Economy)政策」について、お伺いしたIGES(Institute for Global Environmental Strategies)の主任研究員 粟生木 千佳 様に、2020年3月11日に発表されたEU新循環経済行動計画(Circular economy action plan(europa.eu))についてお伺いします。

【その14】主要製品バリューチェーン

3.7 食品・水・栄養素

日本で循環経済の話をする時に、「食品」や「水」はあまり対象にならないので、EUの循環経済行動計画に食品などが含まれている事にまず驚きました。食品はSDGsで食品ロスが課題として挙がっていますし、水については、ヨーロッパでは水よりビールが安いという話を聞いたりしますので、課題として挙げられるのはわかるのですが、「栄養素」というのはどういうことなのか、興味津々です。

今回も、よろしくお願いします。

日本で資源循環、というと金属資源やプラスチックなどを思い浮かべるかと思いますが、農林水産資源も関係してきます。栄養素という点は、行動計画上は明確ではありませんが、例えば、窒素、リン、カリウム、その他の栄養素、土壌有機炭素など肥料などに使われる物質が多いかと思います。
EUのグリーンディールの中で、食物を扱っているFarm to Fork戦略というものがありますが、そこでは、特に、窒素、リンが強調されています。

背景から、順を追って説明しています。

背景

  • 循環経済は資源採掘・資源利用の負の影響の軽減、生物多様性・自然資本の復元に貢献しうる
  • 欧州バイオエコノミー戦略・行動計画に基づく取り組みを通じ、再生可能なバイオベース素材の持続可能性の確保を目指す
  • EUでは、生産される全食品の20%が食品ロスもしくは廃棄されている

いきなりなのですが、

循環経済は資源採掘・資源利用の負の影響の軽減、生物多様性・自然資本の復元に貢献しうる

とあり、早速つまづいたのですが、
まず、「自然資本」というのは何を指すのですか?

2012年に国連環境計画ファイナンスイニシアチブが発表した「自然資本宣言natural capital declaration」を確認しました。ちなみにこの「自然資本宣言」は、自然資本への配慮を融資、パブリックおよびプライベート・エクイティ、そして債券や保険商品に自然資本への配慮を組み込む金融主導の取り組みとのことです。

そこでは、『自然資本とは、人間の生活を可能にしている地球上の自然資産(土壌、空気、水、動植物)と、それらに起因する生態系サービスのことで、自然資本からの生態系財・サービスは、生産性と世界経済を支えている。』とされています。

少し余談になりますが、同宣言では、『自然資本は、「グローバルコモンズ」の一部であり、主に無償の「財」として扱われているため、政府は、金融セクターを含む民間セクターが自然資本の持続可能な利用に関して責任を持って活動するよう規制し、インセンティブを与える枠組みを作るために行動しなければならない』とも指摘していますね。

(出典)自然資本宣言(UNEP-FI)

という事は、資源を循環させることで自然資本が復元する、つまり、破壊されてきた自然環境が回復する事に貢献する、という事でしょうか?

はい、若干私個人の思いも入った説明になりますが、資源採掘に関わる状況を想定していただければと思います。日本人では、やや想像しにくいかもしれません。遠い国の事であることが多いので。

資源採掘を継続するということは、いずれかの国の空間を開発するということになります。例えば、それまで、多様な植物が生育していた土地を採掘する、ないしは、開墾して単一の植物に植え替える、また採掘に至るまでの道路等も開発されるなどの状況が起きうるということが言えるかと思います。

循環が進むことにより、新たな資源採掘を行うことを回避する。それが、その土地の自然復元可能性も向上しうるということと理解しています。

「再生可能なバイオベース素材の持続可能性の確保を目指す」
のバイオベース素材とは、バイオプラスチックを指すのですか?

とは、限りません。各種製品に様々に利用されている生物由来の物質の事を指すという理解です。

EUでは、生産される全食品の20%が食品ロスもしくは廃棄されている。
について、日本と比較しようとデータを調べてみました。

国民1人当たり食品ロス130g/日
出典:食品ロス(農林水産省)

国民1人当たりの供給量 1,245.7g/日
出典:平成22年度食糧需給量(概算値)(農林水産省)

という数字で計算すると、食糧供給量の約10%が食品ロス、という事になります。
EUよりも、日本の方が食品ロスは少ないという事でしょうか?

何とも言えませんが、EUの場合、lost or wasted と書いてあります。これのカバー範囲が日本で言うところの食品ロスなのか、食品廃棄物も含めたものなのか、そもそもその定義は何かで結果は違ってくるかもしれません。

なお、ここの130gという食品ロスの数値は、まだ食べられるのに廃棄される食品の事を指しており、食品廃棄物は含まれていません。ということで、計算を試みてみますと、、、

日本の食品廃棄物の発生量は平成30年度で2,531万トンとのことです。食品ロスはこの数値の内数になります。この食品廃棄物発生量を先の供給量の値を日本全人口の年間の数値にして割ると、約4%になります。他方で、こちらにある一人当たりの数値の国際比較をみるととっても低いというわけでもなさそうです。

ただ、国によって数値の把握の仕方は異なりますし、今回行った割り算の分母の整合性を見ているわけではありませんので、簡単に比較できるということでもないかと思います。

方針と施策

  • 食品廃棄物の削減目標を提案
  • 持続可能な食品流通と消費に向けて、食品サービスにおける使い捨て包装、食器、カトラリーの再利用に関する法律制定の対象範囲に関する調査実施を検討
  • 新たに発表された農業における水の再利用規制に基づく、産業プロセスも含む水の再利用・効率性向上の推進
  • 統合された栄養素管理計画の策定
    • 回収栄養素の市場促進
  • 排水処理及び下水汚泥に関する指令の見直しも検討
    • 藻類からの栄養素回収除去評価

食品廃棄物の削減目標を提案
について、日本だと事業系の食品廃棄物の削減目標が設定されていますが、EUでもそのような枠組みになるのでしょうか?

そうですね、行動計画では、フードバリューチェーン全体に包括的に対応するとあるので、事業者も対象になると思います。また、2018年廃棄物改正指令を確認すると、2023年までに有機性廃棄物(bio-waste)の分別回収も進められるとありますし、2024年12月31日までに、地方自治体のバイオ廃棄物のリサイクル目標の設定を検討するともありますので、家庭からの食品も対象になりそうですね。

また、先にお話したFarm to Fork戦略では、食品廃棄物削減のためのEUレベルの目標に関する提案を2023年に行う予定、また、すこし話がズレるかもしれませんが、日付表示(「使用期限」および「賞味期限」)に関するEU規則の改正案を2022年行う予定になっています。

使い捨て包装、食器、カトラリーについても言及されているのは、プラスチックの削減などと包括的に進めるためですか?

はい、おっしゃる通りかと思います。
ここでは、『食品流通・消費の持続可能性を向上させる。』事が念頭に置かれています。また、前の回でご説明した持続可能な製品イニシアチブにも言及しつつ、『食品サービスにおいて、使い捨て包装・食器・カトラリーを再使用可能なものに代替する。』ことになっています。食品サービス、食器、カトラリーという言葉から想像するに飲食関係が主な対象ではないかと想定されますが、特に限定はされておらず、包括的に取り組むことであろうとは思います。

また、包装と消費期限との関係は、非常に重要な観点ですが、全体としてこの行動計画の文脈ではあまり語られません。他方で、容器包装の回で触れましたが、包装素材の複雑性の改善検討という方向は打ち出されていますね。

新たに発表された農業における水の再利用規制に基づく、産業プロセスも含む水の再利用・効率性向上の推進
は、農業分野でも貴重な水を効率的に使おう、ということですか?

はい、水の再利用については、前の行動計画でも指摘されていました。こちらも日本では意識しにくいですが、水も貴重な限りある資源という認識は国際的には一般的かと思います。

先日私も初めて知りましたが、水が枯渇する日をさすDay Zeroという言葉も存在するようですね。南アフリカ共和国ケープタウンで水の枯渇に直面した際にうまれた言葉とのことでした。

参考記事:5月にケープタウンの水がなくなる、非常事態(ナショナルジオグラフィック)

・統合された栄養素管理計画の策定
栄養素管理計画について、教えてください。

プラネタリーバウンダリーに関する論文で、すでに窒素とリンの採掘がすでにバウンダリーを超える危険水域にあるものとして挙げられていることは皆さんご存知かと思います。

人間活動による地球システムへの影響を客観的に評価する方法の一例として、地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)という注目すべき研究があります。その研究によれば、地球の変化に関する各項目について、人間が安全に活動できる範囲内にとどまれば人間社会は発展し繁栄できるが、境界を越えることがあれば、人間が依存する自然資源に対して回復不可能な変化が引き起こされるとされています。

この研究が対象としている9つの環境要素のうち、種の絶滅の速度と窒素・リンの循環については、不確実性の領域を超えて高リスクの領域にあり、また、気候変動と土地利用変化については、リスクが増大する不確実性の領域に達していると分析されています。

出典:地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)(平成30年版 環境・循環型社会・生物多様性白書)

ですので、まず、新たに採掘せずに窒素リンを得るということ、それらの栄養素を効果的に回収し、新たに肥料などとして使用することは、プラネタリーバウンダリーの観点からも、資源安全保障上も重要ということが言えるかと思います。「回収栄養素の市場発展」と行動計画にもあるのは、そのような背景からかと思います。

下水汚泥からリンを回収したりするという事ですか?

そうですね。下水汚泥からの回収や、食品廃棄物、農畜産廃棄物・残渣などから回収できるかと思います。

また、Farm to Fork戦略でも『栄養素(特に窒素とリン)の過剰使用や、農業で使用されるすべての栄養素が植物に効果的に吸収されるわけではないことに起因する環境中の過剰な栄養素は、大気、土壌、水の汚染や気候への影響のもう一つの主要な原因』という指摘もなされています。

というわけで、回収栄養素を循環利用するのみならず、環境上影響を与えていないかも含めて統合的に栄養素の状況を管理する必要があるということではないでしょうか。農業用水の再利用もそういった観点に基づいた活動に含まれるかもしれません。

・排水処理及び下水汚泥に関する指令の見直しも検討
というのは、何を目的にして見直されるのですか?

詳細が行動計画上では書いていないのですが、水の再利用に関する観点と、栄養素回収に限らず、バイオガスなども含めて、効果的な循環活用を促進する観点からの見直しではないかと考えています。

・藻類からの栄養素除去評価
というのは、どういうことを指すのか教えてください。

私も、あまり詳しくなくて、少し勉強しましたが、藻類は窒素、リンなどの栄養塩類を高度に吸収濃縮することができるそうで、水中に排出された過剰な栄養素を藻類に吸収させて除去するということのようですね。なお、その除去した藻類を陸上で使うと自然な形態での循環になるということかと思います。

【参考サイト】

プラネタリー・バウンダリー:地球システムにおける9つの限界を再考すべきか[2020.10.14](東京カレッジ)
【連載】審議委員に聞く-新環境基本計画が目指すもの第1回 井田徹治さん(共同通信社) [2019年1月11日](国立環境研究所 社会対話・協働推進オフィス)


ここまでお読みいただきありがとうございます。


※ご意見・ご感想・ご質問はこちらのリンク先からお送りください。
ご氏名やメールアドレスを公表する事はありません。

▲このページの先頭へ

ページの先頭に戻る