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EU新循環経済行動計画のポイント その24
グローバルレベルでの取組主導(後半)

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
持続可能な消費と生産領域
主任研究員
粟生木 千佳(あおき ちか)様

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)

2016年から2017年にかけて、「EUのCE(Circular Economy)政策」について、お伺いしたIGES(Institute for Global Environmental Strategies)の主任研究員 粟生木 千佳 様に、2020年3月11日に発表されたEU新循環経済行動計画(Circular economy action plan(europa.eu))についてお伺いします。

【その24】グローバルレベルでの取組主導(後半)

今回は、「7. グローバルレベルでの取組主導(後半)」についてお伺いします。

背景

  • プラスチックに関する世界的合意に向けた国際努力を主導し、EUのプラスチックに関するCEアプローチを世界的に促進
  • グローバルサーキュラーエコノミーアライアンスの提案
  • 知見とガバナンスギャップの同定、主要経済を含むパートナーシップイニシアティブの前進
  • “Safe Operating Space”の定義づけ実現可能性の検討と、天然資源管理に関する国際合意に向けた議論開始の検討
  • アフリカとの連携強化
  • 自由貿易協定への循環経済目的の反映
  • 二国・地域・多国間政策対話・フォーラム・環境合意等における循環経済の促進
  • 欧州グリーンディール外交・循環経済ミッションなどを通じた国際アウトリーチの強化

■プラスチックに関する世界的合意に向けた国際努力を主導し、EUのプラスチックに関するCEアプローチを世界的に促進

ここでプラスチックに関する施策が挙げられているという事は、プラスチック問題が注目されているからでしょうか?(EUとしても力を入れている事の現れなのでしょうか?)

はい、海洋プラスチック汚染問題などをはじめとして、プラスチック問題への注目は高く、各種取り組みが盛んです。EUでは、第1次CE行動計画、第2次行動計画ともに、プラスチックを優先分野としており、第1次行動計画の後、プラスチック戦略、いわゆる使い捨てプラスチック規制を策定しました。現在欧州各国でも、様々なプラスチック(特に容器包装や使い捨てプラスチック)に関する政策が策定されつつあります。

ここでは、プラスチックに関する世界的合意とありますが、これが形として現れたものが、前回少しお話した、第五回国連環境総会において採択された海洋プラスチック汚染に関する決議です。

(参考)環境省ホームページ:第5回国連環境総会再開セッション(UNEA5.2)の結果について

正式名称は、『プラスチック汚染を終わらせる:法的拘束力のある国際約束に向けて』です。一番の決定事項としては、「プラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際約束づくりに向けた交渉の場である政府間交渉委員会(INC: Intergovernmental Negotiating Committee)の設立」といえると思います。

つまり、法的拘束力のある国際的な決め事が将来つくられることが想定されているわけです。現在の決議では、主に以下の事項が国際約束に含まれるとされています。

  • 国際約束の目的
  • プラスチックの持続可能な生産と消費の促進(製品設計、環境上適正な廃棄物管理等を含む)
  • 海洋環境におけるプラスチック汚染を減らすための国内外の協調的取組の促進
  • 国別行動計画の策定、実施、更新
  • 国際約束の実施状況及び実効性に関する評価

■グローバルサーキュラーエコノミーアライアンスの提案

「循環経済及び資源効率性に関するグローバルアライアンス」は日本も参加しているのですね。

そうですね。循環経済及び資源効率性に関するグローバルアライアンス(Global Alliance for Circular Economy and Resource Efficiency:GACERE)は、2021年2月22日に発足しました。

(参考)
環境省ホームページ:循環経済及び資源効率性に関するグローバルアライアンス(Global Alliance for Circular Economy and Resource Efficiency:GACERE)
EUホームページ:Global Alliance on Circular Economy and Resource Efficiency (GACERE)

  • 目的
    循環経済及び資源の効率的利用への世界規模での公正な移行を目指す。
    各国の政策のマッピング、課題の特定、成功事例の共有。
    課題・政策的ギャップに対する調査・研究の促進。
    部門別、二国間、地域別(アフリカ循環経済アライアンス、ラテンアメリカ・カリブ海循環経済連合等)のパートナーシップの支援。
    資源管理に関する世界規模の対話を促進。
  • 参加国・機関(18か国・機関)(2021年8月時点)
    EU、日本、カナダ、ノルウェー、チリ、ペルー、コロンビア、南アフリカ、ケニア、ルワンダ、ナイジェリア、モロッコ、韓国、ニュージーランド、インド、スイス、UNEP、UNIDO

これまでに2回ハイレベル会合が開催され、日本も環境大臣が登壇されていますが、GACEREでは、CEや資源効率性が、国際的によく謳われる3つの危機(気候変動、生物多様性・エコシステムサービス喪失、廃棄物・汚染)に対するソリューションであることを念頭に、専門家との議論や各国の取組の共有などがされています。

■知見とガバナンスギャップの同定、主要経済を含むパートナーシップイニシアティブの前進

知見とガバナンスギャップとは、理想と現実のギャップ、みたいな事ですか?
知っているけど、ガバナンス(統制)できていない所はどこなのかを同定して(見つけて)、パートナーイニシアチブを前進させるというような事ですか?
できていない所、ではなく、ガバナンスできていない所を同定するという視点が、面白いと思いました。

そうですね、おおよそ、そのような理解でよいと思います。CEへの移行や資源効率性の向上に関して必要な知見のうち、わかっていないこと(知見ギャップ)は何かということを同定することと、それを実施するための制度や仕組みなどのガバナンスで、必要であろうけれども実施されていないところはどこかということを同定することといえると思います。
先のプラスチック汚染決議も、ガバナンスギャップを埋めることの一つといえると思います。

「主要経済」というのは、経済の主な所という事ですか?

Major economyなのですが、経済規模の大きい地域・国という意味かなと思います。

パートナーシップとは、協力関係。イニシアチブとは、率先して物事をある方向へと導く力。と考えると、パートナーシップイニシアティブとは、「他国と協力をして、ある方向(ここではCE)へ導く」という事でしょうか?

そうですね、ここのイニチアチブは取組という訳も可能です。
明確に書いていないので、若干想像が入りますが、先のポイントとも関連するのですが、G7やG20には、CEも含む資源効率性に関するパートナーシップが設立されています。G7はG7資源効率性アライアンス、G20はG20資源効率性対話とよばれており、それぞれにおいて、CE等の優良事例の共有や、専門家や民間企業との議論、協力の方向性などが議論されています。

そういった主要経済のパートナーシップとともに、CEへの移行に向けて、それに関するイニチアチブを推進していくという意味があるのではと考えています。

(公財)地球環境戦略研究機関(IGES)が事務局を務めていらっしゃる、「循環経済パートナーシップ(J4CE)」も導いていく一環でもあるのでしょうか

そうですね。国際的なものと、国内的なもので、性質が異なるので、EUがアプローチするパートナーシップの対象にJ4CEがなっているかどうかはわかりません。ただ、逆にJ4CEから日本の取組をどんどん海外に発信していくことは重要だろうと思います。

いずれにせよ、J4CEは、官民連携で、日本経済のCE移行を推進する取り組みといえますし、日本も様々なCE移行のための取組を行っているということかと思います。

■“Safe Operating Space”の定義づけの実現可能性の検討と、天然資源管理に関する国際合意に向けた議論開始の検討

背景でご説明頂いた、“Safe Operating Space”(安全活動領域)の実現可能性を検討して、天然資源管理というのは、天然資源を使用しない方向での管理、という事だと思いますが、国際合意を形成するのを目的として、議論を開始する、という事ですか?

そうですね。先のGACERE以外で、明確な動きがEUからあったわけではないですが、国連等の様々な場で、循環経済・資源効率性に関する議論が進んでいます。
加えて、我々の資源消費・生産パターンが、気候変動や生物多様性損失に与える影響なども、それぞれの条約下で検討されていて、“Safe Operating Space”(安全活動領域)を規定する環境的な制約に対する科学的評価が進んできていると思います。

■アフリカとの連携強化

EUはアフリカに近い事もありますし、アフリカと連携していると思っていましたが、今後さらに「強化」する、という事ですか?

はい、そうですね。「より強いパートナーシップ」、「グリーン移行やCEに向けて」という表現を使ってアフリカとの連携について語っています。欧州にとって関係の深いアフリカ地域のCEや廃棄物管理の取組が未熟で、国際的な支援協力が必要であるということとともに、EUのCEアプローチ拡大またビジネスの機会という観点からも、EUにとってもアフリカにおけるCE強化ということが重要であろうと想像します。

■自由貿易協定への循環経済目的の反映

貿易協定に、CEを反映させるというのは、どういう事ですか?
障壁をなくすのが自由貿易協定ですが、CEへの対応状況やエコデザインが輸入の際の判断に影響してくるのでしょうか?

いくつか観点があるのではと思います。例えば、各国で発生した使用済み携帯電話をB国で集約的にリサイクルしたいとか、2次資源を海外から調達したいとか、再製造のための部品を調達したいと言った時に、各国での廃棄物判断やバーゼル条約などの決まりなどに、その移動が制約される場合があります。

自由貿易協定(Free Trade Agreement 、FTA)とは、2以上の国や地域が、関税や貿易制限的な措置を撤廃・削減することにより、ものとサービスの自由化を進め、関税などさまざまな障壁をなくして市場を統合し、自由貿易を進めることで経済成長を加速させることですので、そういったCEに資するモノの移動を円滑化するということが狙いと考えます。

■二国・地域・多国間政策対話・フォーラム・環境合意等における循環経済の促進

対話やフォーラムの場で積極的にCE推進を発信して、EUの外でもCE行動計画に参画する国・地域を増やしていくのでしょうか?

CE行動計画に参画というわけではないと思いますが、各国において、CEを推進するよう働きかけ、国際社会全体でCEを推進していく意図だと思います。

■欧州グリーンディール外交・循環経済ミッションなどを通じた国際アウトリーチの強化

「循環経済ミッション」というのは、CE行動計画を遂行すること、みたいなイメージですか?

はい、この循環経済ミッションというのは、EUの代表と、EU内の循環経済に関連する企業が各国を訪問して、関連企業や政府担当者と対話をすすめる取組で、ビジネスや協力の機会をとらえるものと思っていただいていいと思います。

(参考)EUホームページ:Circular Economy Missions to Third Countries

こちらのページの書きぶりをまとめると、

  • 循環経済ミッションは、持続可能で資源効率の高い政策を伝え、推進するために、第三国で行われる一連のハイレベルな政治・ビジネス会議
  • 欧州委員会の環境総局が主催し、欧州の機関、NGO、企業と、循環型経済への移行がもたらす機会に関心を持つ第三国の関係者との架け橋となることが目的
  • 環境分野におけるEUと第三国の機関の既存の関係を強化し、新たな関係を生み出し、環境に優しい欧州の企業、特に中小企業の海外での活動拡大を支援。
  • 具体的には、以下を進めるとしています。
    • 環境政策の分野において、EUと第三国の間の協力を拡大(協定を締結)
    • 第三国が直面する環境問題への理解促進
    • 海外でのビジネスパートナーシップを通じたグリーンソリューションを促進(欧州と現地の起業家のマッチングイベントを開催し、対象となる聴衆との意見交換を実施)

世界各国で展開されていて、2018年には日本にも横浜で開催された世界循環経済フォーラム(WCEF)の機会をとらえて、循環経済ミッションの訪問があり、対話が行われていました。
他、EUは、インド政府や中国政府とCEに関する共同宣言やMoU署名などを実施していますね。

(参考)EUホームページ:
EU and India partner for resource efficiency and circular economy
EU and China step up their cooperation on environment, water and circular economy

アウトリーチは、援助と訳されることもありますが、もう少し積極的に手を差し伸べる事を意味している様です。

アウトリーチ【outreach】《「手を差しのべること」の意》

  1. 援助が必要であるにもかかわらず、自発的に申し出をしない人々に対して、公共機関などが積極的に働きかけて支援の実現をめざすこと。医療機関が、在宅の患者や要介護者を訪問して社会生活を支援する活動など。訪問支援。
  2. 劇場や美術館などが館外で行う芸術活動。自ら劇場などに出向かない人々に対し、芸術に関心をもたせることを目的として、出張コンサートやイベントなどを行うこと。

(出典)デジタル大辞泉(Weblio)

関心を持たせるために、欧州グリーンディール外交や循環経済ミッションを行うという事でしょうか?

そうですね、EUが実施するCEのアプローチ(やり方)を、各国に理解してもらって、各国で実施してもらうよう促していくということかと理解します。

同様のやり方の方が、資源循環などは効率的に進むのかと考えますし、ビジネスを進めるうえでもやりやすい、また、将来的に国際的なルールを決めていくうえでも各国の理解が得られやすい、ということにつながっていくのではと考えます。

今回ご説明頂いて、「グローバルレベルでの取組主導」では、CEの必要性を感じていない国へのアプローチ、二国・地域・多国間政策対話・フォーラム・環境合意での働きかけ、そして、自由貿易への反映、とかなり包括的な取組を計画していると感じました。


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