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DOWAエコジャーナル

2024.10.01 サーキュラーエコノミー ネイチャーポジティブ

バイオ燃料とは?

DOWAの取組バイオ燃料リサイクル廃棄物処理

今回は、「バイオ燃料」についてご紹介します。

■バイオ燃料とは?

バイオ燃料とは、動植物由来の燃料(化石燃料を除く)のことです。木材や農作物、有機性の廃棄物など様々な種類の原料から作られています。

化石燃料は埋蔵量に限りがあり、化石燃料を使用する事で地中に埋蔵されていた炭素がCO2として排出されるので大気中のCO2濃度が増加し、地球温暖化の原因になります。一方でバイオ燃料も使用することでCO2を排出しますが、植物の成長過程で大気中から吸収したCO2が放出されるため、大気中のCO2濃度は変わらず、カーボンニュートラルな燃料です。

■バイオ燃料の種類

バイオ燃料は主に化石燃料の代替として活用されています。一例として、以下の表のような種類のバイオ燃料が存在します。

(筆者作成)

■バイオ燃料の製造事例(DOWAグループの例)

①バイオディーゼル(BDF)製造

バイオディーゼルは、パーム油などの油脂や、使用済みの食用油(廃食用油)から製造されます。バイオディーゼル岡山(株)では廃食用油にメタノールを加えて反応させ、その後精製することでバイオディーゼルを製造しています。
以下のバイオディーゼルについての記事もご参照ください。

カタログに載らない話:使用済み食用油をリサイクルし、CO2削減に貢献!

②バイオガス

バイオガスは、食品廃棄物や下水道汚泥をメタン発酵させることによって生じたメタンガスです。バイオディーゼル岡山(株)食品リサイクル工場では、食品廃棄物等をメタン発酵させて発生したメタンガスを利用して発電事業を行っています。
以下の記事についてもご参照ください。

DOWAエコシステムとSDGsの関わり その1 ~食品廃棄物の有効利用と再生可能エネルギー創出~

③バイオコークス

バイオコークスは、バイオ固形燃料の1つで、植物や有機性の廃棄物などから作られる石炭代替燃料です。
原材料を加熱・加圧した後に冷却することで、従来のバイオマス燃料よりも高い圧縮強度や長期の燃焼時間を実現できます。

DOWAグループでは、近畿大学の井田教授との共同研究を経てバイオコークスの製造装置を導入し、本格的な開発に向けた研究を進めています。
自社グループの溶融炉でもコークスの代替試験を実施しています。

その道の人に聞く:バイオコークスの研究と未来 その1

■バイオ燃料の市場

令和5年度環境産業の市場規模推計等委託業務 環境産業の市場規模・雇用規模等に関する報告書 のデータを元に作成

バイオ燃料の市場は成長しています。環境産業の市場規模に関するデータを見ると、日本では、バイオ燃料(木質バイオマス、バイオディーゼルのみ)で1,600億円以上の市場規模となっており、グラフの通り右肩上がりで上昇しています。

また、制度上でもバイオマス活用の動きがみられます。2022年9月に閣議決定された「バイオマス活用推進基本計画(第3次)」では、2030年の目標として、バイオマスの年間産出量の約80%を利用することが記載されています。

2024年8月に閣議決定された「第五次循環型社会形成推進基本計画」では、「未利用間伐材、家畜排せつ物、下水汚泥等のバイオマスを、肥料、エネルギー等に徹底的に活用する」とされていたりと、バイオマスがますます活用されることが示唆されており、バイオマスを原料とするバイオ燃料も今まで以上に使用されると考えられます。

この記事は
DOWAエコシステム 企画室 後藤 が担当しました

2024.10.01 サーキュラーエコノミー

エコシステム岡山は、西日本最大級の自動車シュレッダーダスト処理施設です

DOWAの取組リサイクル

DOWAグループのエコシステム岡山(本社:岡山市南区、代表:川邉誠)は、使用済み自動車のシュレッダーダスト(以下、ASR)をはじめとする様々な廃棄物の焼却処理を行っています。また、焼却後の残さから有価金属を回収し、製錬材料として再資源化するマテリアルリサイクルや、焼却処理の過程で発生する蒸気を回収し、熱エネルギーとして有効活用するサーマルリサイクルを行っています。

写真左:焼却炉  右:自動車シュレッダーダスト

■自動車リサイクル制度のはじまり

現在、年間で約270万台程度のクルマが廃車されています。クルマは鉄などの有用金属から製造されているため、総重量の約80%がリサイクルされ、残りの約20%が自動車シュレッダーダスト(クルマの解体・破砕後に残るプラスチックくずなど)として、主に埋め立て処分されていました。

しかし、埋め立て処分場の不足により処理費用が高騰し、使用済み自動車の不法投棄や不適正処理の懸念が生じていました。また、カーエアコン冷媒に使用されているフロン類は、適切に処理しないと地球温暖化などに影響を与えることや、エアバッグ類は自動車解体時に専門的な技術が必要とされることなどから、これらの適正な処理に向けた、新しいクルマのリサイクルの仕組みとして2005年に自動車リサイクル法が作られました。

こうしたルールの導入により、現在では、クルマはさまざまな方法を用いて、ほぼ100%リサイクルされており、最終的に埋め立て処分される重量は、クルマ1台に対してわずか1%程度にまで減少しています。

(参考:経済産業省HP 自動車リサイクル法

■自動車シュレッダーダストについて

  1. シュレッダーダスト(SD)
    使用済み自動車や家電から有価金属などを取り除いた後、工業用シュレッダーで粉砕された破砕くずのことです。プラスチック、ゴム、残った金属など様々なものが含まれているため、マテリアルリサイクルが難しいものです。
  2. 自動車シュレッダーダスト(ASR)
    使用済自動車から発生するシュレッダーダストはASR(Automobile Shredder Residue)と呼ばれます。使用済み自動車からフロン類やエアバック類、エンジン、ドア、トランスミッションなどの部品を取り外し、残ったボディなどを破砕し、有価金属(鉄やアルミなど)を回収した後に残ったものがASRです。公益財団法人自動車リサイクル促進センターの公表資料によると、2022年度の国内ASR発生量は45万トンを超えていました。

■エコシステム岡山について

エコシステム岡山は、自動車リサイクル法が施行された2005年1月に、同和鉱業 岡山工場(現DOWAグループ岡山事業所)において操業を開始しました。現在では1日あたりASR約150t、廃液約100tを処理する能力を有し、年間稼働率90%(約330日)を維持するリサイクルを主目的とした、西日本最大級のASR処理施設です。

エコシステム岡山の焼却炉は、流動化させた高温の砂を利用して廃棄物を焼却する、「流動床式焼却炉」です。この焼却炉は、燃え残りが少なく、廃棄物がもつ熱量を有効に活用できるため、補助燃料がほとんど必要ないという特長があります。ASRを高温の砂を用いて600℃で熱分解することでプラスチックなどの可燃物を除去し、鉄・アルミニウム・ステンレス・銅の4つの有価金属を回収・リサイクルしています。

また、焼却炉を900℃程度に管理するために、化学工場などから排出される廃液を冷却液として用いることにより、無害化処理と温度コントロールの両立を実現しています。昨今では資源循環型社会構築に向けた次の一歩として、ASRに含まれる金やプラスチックを回収する研究も進めています。

写真左:回収された銅  右:回収された有価金属ストック

■エコシステム岡山のサーマルリサイクル

焼却時に発生した排ガスは、ボイラーで熱回収をした後、急冷減温塔やバグフィルターなどによって無害化処理された後に、煙突より排出しています。また、サーマルリサイクルとして熱回収した蒸気を使って、隣接するグループ会社にて発電を行っています。この電力はDOWAグループ岡山事業所内各社に供給され、事業所全体の電力使用量の85%程度をまかなっています。

写真左:無害化処理された排ガス  右:発電機
図:エコシステム岡山 焼却設備

DOWAグループの目指す姿
〜資源がめぐる真ん中に。〜

DOWAグループは各種金属の生産から高付加価値材料の製造、さらには廃棄物処理・リサイクルに至る、世界でも類を見ない独自の「循環型ビジネスモデル」を展開しています。
タグライン「資源がめぐる真ん中に。」は、「循環型ビジネスモデル」の根幹である「資源循環」を「資源をめぐらせる事業」とし、資源循環型社会の構築に向けて当社グループが中心的な役割を果たしていく意思を表しています。

2024.10.01 リスク管理 廃棄物管理

マニフェストは収集運搬業者に渡すだけでよいですか?

土壌汚染対策法

Q:マニフェストは排出時に収集運搬業者に渡すだけでよいですか?

A:

マニフェストは引き渡して終わりではありません。処理が完了したかどうかを、返送されるマニフェストを通じて確認する必要があります。また、処理完了後も5年間の保管が必要になります。

■排出事業者が注意すること

[引き渡しまで]

  • マニフェストの記載ミスに注意する
    マニフェストは記載する事項が多いですが、法定記載事項もあるので記入漏れや間違いが無いように注意して、収集・運搬業者に渡す必要があります。以下の記事でも紹介していますので、ご参照ください。
    リスクのクスリ:マニフェスト記載時にミスしやすい箇所

[引き渡し後~処理完了]

  • 正しく処理されているかを確認する
    排出事業者は、運搬・処分が期間内に完了したことを、返送されるマニフェストにより確認する必要があります。マニフェストには返送期限があり、B2票、D票は90日以内(特別管理産業廃棄物は60日以内)、E票は180日以内に返送されているかどうかの確認が必要です。
    もし、期日までに返ってこなければ、都道府県に「措置内容等報告書」を提出する必要があります。
    エコペディア:措置内容等報告書

[処理完了後]

  • マニフェストを保管する
    マニフェストは、5年間の保管が必要です。A票は交付日から5年間、B2票、D票、E票は送付を受けた日から5年間です。下図の通り、排出事業者は最終的に4種類のマニフェストを保管することになります。


    図:マニフェストの流れ(直行用マニフェスト)(筆者作成)

  • 「産業廃棄物管理票交付等状況報告書」を提出する
    マニフェストの交付状況については、毎年、都道府県知事へ報告書を提出する必要があります。どのような種類の廃棄物を何t排出したのか、マニフェストを何枚交付したのか、などについて記載します。
    環境便利帳:産業廃棄物排出事業者の年度報告

■参考条文:廃棄物処理法

第十二条の三
その事業活動に伴い産業廃棄物を生ずる事業者(中間処理業者を含む。)は、その産業廃棄物(中間処理産業廃棄物を含む。第十二条の五第一項及び第二項において同じ。)の運搬又は処分を他人に委託する場合(環境省令で定める場合を除く。)には、環境省令で定めるところにより、当該委託に係る産業廃棄物の引渡しと同時に当該産業廃棄物の運搬を受託した者(当該委託が産業廃棄物の処分のみに係るものである場合にあつては、その処分を受託した者)に対し、当該委託に係る産業廃棄物の種類及び数量、運搬又は処分を受託した者の氏名又は名称その他環境省令で定める事項を記載した産業廃棄物管理票(以下単に「管理票」という。)を交付しなければならない。
(中略)
6 管理票交付者は、前三項又は第十二条の五第六項の規定による管理票の写しの送付を受けたときは、当該運搬又は処分が終了したことを当該管理票の写しにより確認し、かつ、当該管理票の写しを当該送付を受けた日から環境省令で定める期間保存しなければならない。
7 管理票交付者は、環境省令で定めるところにより、当該管理票に関する報告書を作成し、これを都道府県知事に提出しなければならない。

■おわりに

マニフェストは「運搬当日に引き渡すもの」というイメージが強いかもしれませんが、処理が完了したことを確認する必要があり、処理後も保管等の義務が課されていますので、正しい運用を心がける必要があります。

この記事は
DOWAエコシステム 企画室 後藤 が担当しました

2024.10.01 リスク管理 廃棄物管理

廃棄物を持ち込めばすぐに処理してもらえますか?

廃棄物処理

Q:廃棄物を処理したいので、処理施設へ持ちこめばすぐに処理してもらえますか?

A:

産業廃棄物の場合、事前に書面での契約等の手続きが必要だと法律で定められています。また、契約締結前には当該処理会社で処理可否を確認したり、事前の処理費用の合意が必要であることから、処理前に廃棄物の情報やサンプルの提供も必要になります。加えて、都道府県によっては行政との事前協議が必要になる場合もあります。上記の手続きを経てから排出する必要がありますので、ご注意ください。

■搬出前の手続き

①処理可否の判定

産業廃棄物処理の取引の流れ(一例)

廃棄物を適正に処理するため、事前に現地確認や廃棄物サンプルの分析が必要です。現地確認では手配する車両がきちんと排出場所に入れるかどうかや、保管状況、性状などを確認します。サンプル分析では、対象の廃棄物によって異なりますが、性状、処理に影響する元素の含有有無、他の物質と接した際の混合反応性などを分析しています。合わせて、処理に必要な薬剤量などからコストも算出しています。

現地確認・分析の結果から、処理できるかどうか・適正な処理方法はどれかを判断し、お見積りをご提示します。

②契約

廃棄物処理法では、産業廃棄物の処理前には書面で委託契約を結ぶ必要があると定められています。この契約に記載しなければならない項目として、「委託する産業廃棄物の種類及び数量」、「委託者が支払う料金」、「取り扱う際に注意すべき事項」、「性状および荷姿に関する事項」なども法律で定められていますのでご注意ください(記事下部、参考条文①に関連する法文を掲載しています)。

エコペディア|委託基準(廃棄物処理法)

③事前協議

事業所の県外へ廃棄物を搬出する場合、受け入れ先の都道府県によっては条例等で定められた事前協議も必要となる場合があります。その場合は、都道府県が定める必要書類を準備し、事前に提出するなどの手続きが必要です。

■おわりに

廃棄物処理に際しては、上記の通り法律等で排出前の手続きが定められているため、いきなり出せるわけではありません。必要な対応につきましてはご案内いたしますので、まずはご相談ください。

参考条文①:契約

[廃棄物処理法]
第十二条
(1〜5項 略)
6事業者は、前項の規定によりその産業廃棄物の運搬又は処分を委託する場合には、政令で定める基準に従わなければならない。

[廃棄物処理法施行令]
第六条の二
法第十二条第六項の政令で定める基準は、次のとおりとする。
(一~三項 略)
四 委託契約は、書面により行い、当該委託契約書には、次に掲げる事項についての条項が含まれ、かつ、環境省令で定める書面が添付されていること。
イ 委託する産業廃棄物の種類及び数量
ロ 産業廃棄物の運搬を委託するときは、運搬の最終目的地の所在地
ハ 産業廃棄物の処分又は再生を委託するときは、その処分又は再生の場所の所在地、その処分又は再生の方法及びその処分又は再生に係る施設の処理能力
ニ 産業廃棄物の処分又は再生を委託する場合において、当該産業廃棄物が法第十五条の四の五第一項の許可を受けて輸入された廃棄物であるときは、その旨
ホ 産業廃棄物の処分(最終処分(法第十二条第五項に規定する最終処分をいう。以下同じ。)を除く。)を委託するときは、当該産業廃棄物に係る最終処分の場所の所在地、最終処分の方法及び最終処分に係る施設の処理能力
ヘ その他環境省令で定める事項
五 前号に規定する委託契約書及び書面をその契約の終了の日から環境省令で定める期間保存すること。

[廃棄物処理法施行規則]
第八条の四の二
令第六条の二第四号ヘ(令第六条の十二第四号の規定によりその例によることとされる場合を含む。)の環境省令で定める事項は、次のとおりとする。
一 委託契約の有効期間
二 委託者が受託者に支払う料金
三 受託者が産業廃棄物収集運搬業又は産業廃棄物処分業の許可を受けた者である場合には、その事業の範囲
四 産業廃棄物の運搬に係る委託契約にあつては、受託者が当該委託契約に係る産業廃棄物の積替え又は保管を行う場合には、当該積替え又は保管を行う場所の所在地並びに当該場所において保管できる産業廃棄物の種類及び当該場所に係る積替えのための保管上限
五 前号の場合において、当該委託契約に係る産業廃棄物が安定型産業廃棄物であるときは、当該積替え又は保管を行う場所において他の廃棄物と混合することの許否等に関する事項
六 委託者の有する委託した産業廃棄物の適正な処理のために必要な次に掲げる事項に関する情報
イ 当該産業廃棄物の性状及び荷姿に関する事項
ロ 通常の保管状況の下での腐敗、揮発等当該産業廃棄物の性状の変化に関する事項
ハ 他の廃棄物との混合等により生ずる支障に関する事項
ニ 当該産業廃棄物が次に掲げる産業廃棄物であつて、日本産業規格C〇九五〇号に規定する含有マークが付されたものである場合には、当該含有マークの表示に関する事項
(1) 廃パーソナルコンピュータ
(2) 廃ユニット形エアコンディショナー
(3) 廃テレビジョン受信機
(4) 廃電子レンジ
(5) 廃衣類乾燥機
(6) 廃電気冷蔵庫
(7) 廃電気洗濯機
ホ 委託する産業廃棄物に石綿含有産業廃棄物、水銀使用製品産業廃棄物又は水銀含有ばいじん等が含まれる場合は、その旨
ヘ その他当該産業廃棄物を取り扱う際に注意すべき事項
七 委託契約の有効期間中に当該産業廃棄物に係る前号の情報に変更があつた場合の当該情報の伝達方法に関する事項
八 受託業務終了時の受託者の委託者への報告に関する事項
九 委託契約を解除した場合の処理されない産業廃棄物の取扱いに関する事項

参考条文②:廃棄物情報の事前通知(特別管理産業廃棄物に関して)

[廃棄物処理法施行令]
第六条の六
法第十二条の二第六項の政令で定める基準は、次のとおりとする。
一 特別管理産業廃棄物の運搬又は処分若しくは再生を委託しようとする者に対し、あらかじめ、当該委託しようとする特別管理産業廃棄物の種類、数量、性状その他の環境省令で定める事項を文書で通知すること。

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DOWAエコシステム 企画室 後藤 が担当しました

2024.09.02 リスク管理 廃棄物管理

運搬中の漏洩対策は何をすればよいですか?

廃棄物処理

Q:廃棄物の運搬中の漏洩対策として、何を実施すればよいですか?

A:

排出事業者の皆様には、搬出前の容器の状態を確認し、漏洩のおそれが無いかをご確認いただいています。
収集運搬業者は荷台上での容器の固定や、ローリー吸引口のキャップの装着などを徹底しています。また、万が一容器から廃棄物が漏洩した場合に道路へ飛散させないように、DOWAエコシステムグループは漏洩防止シートを用いて漏洩対策をしています。

■排出事業者に実施いただくこと

漏洩対策として一番重要なことは、容器から漏洩させないことです。そのため、排出事業者の皆様には搬出前の容器の状態の確認をお願いしています。
容器の種類によっても注意する点が異なりますので、ぜひ過去の記事もご参照ください。

廃棄物をドラム缶に入れて排出する際、ドラム缶の種類は気にしなくてもよいですか?
廃棄物を入れたドラム缶が膨張しているのですが、このまま搬出していいですか?
廃棄物を入れた一斗缶に穴が開いていました。ガムテープでふさいで排出してもいいですか?
廃棄物を入れたドラム缶が汚れているのですが、問題ありますか?

■運搬業者の漏洩対策

収集運搬業者が実施する対策としては、例えば、容器を荷台の上で固定したり、ローリーの吸引口からの漏洩を防止するためのキャップの装着、また、ホース等の消耗品の劣化による漏洩を防止するために、定期的な交換などを実施しています。

■漏洩防止シートについて

ドラム缶やポリ缶等を運ぶ場合、万が一容器から廃棄物が漏洩したら、トラックの荷台から路上に漏洩してしまう可能性があります。それを防ぐため、当社では防水性の素材で作った漏洩防止シートを荷台に敷いています(下記写真の通り)。

当社が手配し、処理工場へ運搬いただいている外部の収集運搬業者も、この漏洩防止シートを使用しています。そして、装着を徹底するために漏洩防止シートの仕様や使用方法を定期的に共有しています。

この記事は
DOWAエコシステム 企画室 後藤 が担当しました

2024.09.02 国際動向

衆議院環境保全状況調査議員団および八木哲也環境副大臣がPPLiを視察されました

DOWAの取組海外ごみ事情

■衆議院環境保全状況調査議員団による視察

2024年8月1日、衆議院環境保全状況調査議員団がPT Prasadha Pamunah Limbah Industri(略称PPLi、インドネシア、ボゴール)を視察されました。

この視察は、ベトナムおよびインドネシアにおける環境保全状況等調査の一環として行われ、日本環境省・日本大使館の推薦により訪問先として選定されました。

■八木哲也環境副大臣による視察

2024年8月20日、八木哲也環境副大臣がPPLiを視察されました。

今回の視察は、8月21日に開催されたアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)第2回閣僚会合出席するためにインドネシアを訪問中の八木哲也環境副大臣が、インドネシアで活躍する日系企業を視察するという目的で実施されました。

両視察ともにPPLiの事業内容や取り組みを説明し、焼却炉と有害廃棄物の最終処分場をご見学いただきました。PPLiの特徴である収集運搬から処理まで一気通貫の対応が可能な点やコンプライアンスの遵守を確約している点、焼却炉やPCB処理施設の設置など、新たな技術の導入によりインドネシアの環境改善に大きく貢献している点などに対する理解を深めていただきました。

視察を通じて、日本企業がインドネシアに根付いて様々な制約のある廃棄物処理事業を主導していることに対し、高い評価をいただきました。

■PPLiとは

PPLiは産業廃棄物の最終処理(埋立)、焼却処理、液処理、収集運搬、PCB処理、リサイクル、土壌浄化、サイトサービス(現地処理)など、総合的に環境事業を展開しているインドネシアの会社です。

安全・信頼をモットーに、多くの日系企業、石油・ガス企業にサービスを供給しており、インドネシアの経済発展とともに、順調に事業を拡大しています。

DOWAグループは、廃棄物の適正処理や再資源化、カーボンニュートラルに向けた取り組みなど、環境・リサイクルサービスの強化を引き続き推進し、持続可能な社会の構築に貢献していきます。

畦元将吾議員(自民・環境委員会 理事:左から4人目)
伊藤忠彦議員(自民・環境委員会 理事:左から5人目)
務台俊介議員(自民・環境委員会 委員長:左から6人目)
森田俊和議員(立憲・環境委員会 理事:左から7人目)
PPLi千田社長(左から3人目)
八木哲也環境副大臣(左から4人目)
PPLi千田社長(左から3人目)

毛利 この記事は
DOWAエコシステム 企画室 毛利 が担当しました

2024.09.02 サーキュラーエコノミー

対談企画 サーキュラーエコノミーとの向き合い方 その2 ブリュッセル効果

対談

細田 衛士(ほそだ えいじ)様

東海大学副学長、政治経済学部経済学科・教授
慶應義塾大学名誉教授
中部大学理事、学事顧問、名誉教授

1993年より国税庁中央酒類審議会 新産業部会リサイクルワーキンググループ座長、1995年通商産業省産業構造審議会廃棄物小委員会委員、2000年運輸省FRP廃船の高度リサイクルシステム・プロジェクト推進委員会委員、2003年環境省政策評価委員会委員、2011年中央環境審議会委員、2011年林政審議会委員、2023年「サーキュラーエコノミーに関する産官学のパートナーシップ」事業における総会、ビジョン・ロードマップ検討ワーキンググループの委員などを歴任

早川 有紀(はやかわ ゆき)様

関西学院大学 法学部 准教授

東京大学大学院 総合文化研究科 学術研究員(2015年10月〜2016年3月)、早稲田大学 社会科学総合学術院 助教(2016年度)、関西学院大学 法学部 助教(2017〜2018年度)、カリフォルニア大学バークレー校 東アジア研究所 客員研究員(2021年8月〜2023年8月)などを歴任。関西学院大学 法学部 准教授(2019年〜)

早川

EUの研究者の中では、EUは規範的な力を生み出す原動力になっているという見方があります。また、EUが制定する規制がブリュッセル効果(ブリュッセルパワー)という形となって、つまりブリュッセル(EU)が主導する形で世界の国々に新しい基準が波及されています。

私は、2023年まで在外研究でアメリカにいましたが、アメリカではカリフォルニア州の環境規制がとても強いです。彼らには、”カリフォルニアが規制を作らずに、他のどの州がやるんだ”、というプライドみたいなものがあって、それが新しい規制を生み出す原動力の一部になっていると、政治系の研究者から聞いて、なるほどと思いました。

なぜ一部の国や地域が厳しい規制を定めていくのか、私もすごく不思議に思っていまして、それを1つのメカニズムだけで説明できるとは思えないんですが、それぞれに原動力があるのだと思います。

上田

原動力ですか?

早川

利益もそうですし、制度的なバックグラウンドも原動力になりえます。

細田

一方でね、私は予想が外れてショックだったのですが、イギリスがEUを離脱したじゃないですか。私はイギリスに2年間留学していまして、確かにイギリスはEUからあれこれ指示されるのは嫌いなんですが、彼らは現実的だからEU離脱はないと思っていたんです。でも、離脱しました。どこかにブリュッセルパワーに対する反発もあるんですかね。

早川

どうなんでしょう。
EUの中でも当初から、その民主主義の赤字と言って、ブリュッセルが決めて、加盟国の意思が反映されていなのではないか、という議論はずっとあって、EUの改革は様々進められてきたとは思いますが、民主主義の赤字論はまだ続いていると思います。

(参考)なぜEUとしてまとまる必要があるの?~世界の諸地域 ヨーロッパ州~(NHK for school)
EUにおける「民主主義の赤字」の解消と欧州議会の役割(児玉 昌己)(日本EU学会年報1997年1997 巻17号p. 93-119)

EUの加盟国の中には、自分たちの意思が反映されていると感じている国・グループと、反映されていないと感じているために、とても批判的な勢力とがいるので、EU内で不安定になりやすい側面はあると思います。

あと2000年代ぐらいから、市民の中で反移民感情が高まり、極右的な政党がそれぞれの国の中で出てきたりすると、EUは移民を受け入れる姿勢を持っているので、反移民が反EUと結びついて考えられるところはあるかもしれません。

でも、EUでは単一欧州議定書自体がひっくり返るとか、議定書がなくなるとは考えにくいので、意思決定のあり方を制度改革して、改善していきながら保っていくのかと思います。

細田

そういう意味では、私は、サーキュラーエコノミーというのは、EUにとっては非常にビッグイッシューであるとともにグッドイッシューだと思っているんです。
つまり、サーキュラーエコノミーはどうしてもやってかなきゃいけないことだし、別に反対する理由もそんなにはない。

早川

そうですね。
私もかつて、 EUの廃家電や廃電気電子機器の規制を研究対象としましたが、加盟国それぞれが目標を設定して、その目標をそれぞれの加盟国が達成しようとすることで実効性を担保するやり方は、その国の仕組みだったり、やり方、スタイルに合わせて、国の利害を損なわずに規制が実施できる、とてもいい仕組みだと思います。

細田

静脈面でも、EU域内で再生資源原料を集めて、リサイクルするというマーケットが大きくなれば、それだけ安定調達できるし、品質も安定してきて、規模の経済が働いて、すごく羨ましい。

日本だと、廃棄物処理法があって、一般廃棄物は市町村、産業廃棄物は都道府県が許可を出すので、隣の市や県に出入りすることも制限されるんだけど、 EUだと、ものによって違うのかもしれませんが、EU域内は国をまたげるのです。日本よりも再生資源原料を動かしやすくて、サーキュラーエコノミーを実施しやすい状況にあると思います。

EUは日本よりも業界団体の発言力がそれほど強くないから、割と強めのコンセプトや施策をどんどん出せるのかなと思うのですが、早川先生はどう思われますか。

早川

EUには、権限はありますが、お金はそれほどないんです。だから、産業政策にお金をかけられない。
環境規制は、EUの権限をうまく活用できる分野なのだと思います。
サーキュラーエコノミーを使って、産業を生み出す。

細田

これがEUがサーキュラーエコノミーに取り組む理由だという人もいるのですが、EUの物作りの位置が日本やアメリカに比べてやや下がっているので、サーキュラーエコノミーを機にサービス化やシェアリング、リペア、リファービッシュ(再整備)、 あるいはインバースマニファクチャリング(使用後の流れをあらかじめ考慮して製品を設計・製造する仕組み)とかね、そういう次の経済モデルを目指しているんじゃないかと思われるところがありますね。

早川

そういったグリーンインダストリーは、 EU的な合意形成として使われているのかなと思います。

細田

なるほど。
市民レベルではどうなんでしょうか。イギリスの一部の人や、さっきの移民問題で反対、という人はいても、経済問題で反対という人はあまりいない気がします。むしろブレキシットで、イギリスの市民が母国に帰らなければならなくなったとか、不利益を被った人はいると思います。市民レベルで見るとEUになった事は、よかったんじゃないかと思えるんです。

早川

そうですね。EUになって、とてもアンハッピーという人には確かに出会ったことはないです。最近の世論調査でも、EU市民の約7割がEUは経済的利益を守っていると考えていて、約6割がEUの将来に対して楽観的な見方をもっているようです。

(参考)Standard Eurobarometer 101 – Spring 2024

細田

以前、チェコのプラハの経済大学の大学院で教えたことがあります。25人くらいの8割が女性でした。それから出身も色々で、クロアチアから来た人もいましたね。大学院を卒業したらどうするのか聞いたら、多くの人はやっぱりドイツで働きたいと言っていました。ドイツがダメだったらオーストリア。

クロアチアから来た学生に国に帰るのか聞いたら、絶対帰りません、職がありません、と言っていました。ドイツはチェコに比べて給料が倍なんだそうです。ドイツはやっぱり超大国ですし、オーストリアもチェコから見たら大国なのでオーストリアに行きたい、という風に他の国に自由に行けて、能力があれば職が得られる環境でした。

早川

もしEUがなかったらと考えると、ヨーロッパには小国も多いので、国際的に生き残りが厳しい状況になっていたと思います。

細田

移民問題では意見が分裂しているようですが、それ以外は概ねうまくいっているし、アメリカ、日本、アジア、それからEUというポジションで、なおかつ、サーキュラーエコノミーではリーディングポジションを取って、ワールドスタンダードを取る立場にありますから、そういう意味では、EUのメリットが出せているのかなと思います。

早川

そうですね、EUが経済規模をもっているのは大きな利点ですし、そういった分野でリーディングポジションを取りに行くのはすごく納得がいきます。

■修理する権利

細田

アメリカは基本的に市場重視で、あまり市場に介入しません。
EUはどちらかというと、各国に指令や規則を出して、割と介入してくる。
日本はどちらかとその中間みたいな形だと思うんですね。

この3極の違いがとても面白い。
アメリカで資源の循環利用をしていないかというと、市場ベースで循環利用を促進していて、スチュワードシップ(機関投資家が投資先とのエンゲージメントを通じて中長期的な投資リターンの拡大を図る)も盛んだし、ニューヨーク州法で電子製品の修理する権利もできて、製品の修理に関する情報共有をしなければならないという規制もできてます。

(参考)「責任ある機関投資家」の諸原則 ≪日本版スチュワードシップ・コード≫ ~投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すために~(金融庁)

喜多川さんとの対談で聞いたのですが、アメリカでは生活のために壊れたら修理してもらわないと困る、というので修理する権利が主張されていて、一方で、EUはコンセプチュアルに、消費者としては修理する権利を有しているんだという概念に基づく権利なので、同じ修理する権利でも、見方が違って面白いですね。

(参考) 修理する権利: 米国における最近の動向(World Intellectual Property Organization (WIPO))
EU、消費者の「修理する権利」を新たに導入する指令案で政治合意[2024年02月08日](日本貿易振興機構)

上田

ドイツに駐在している先輩社員に、「ヨーロッパでは修理する権利について議論されていて、羨ましい」と話したら、「こっち(ヨーロッパ)の家電はすぐ壊れるから、そりゃ修理をしないとやってられないよ」と言われたことがあります。日本の家電と比べると、びっくりするくらいよく壊れるよと。

細田

私はイギリスに留学していた時に、例えば電池パックを4つ買って、開けてみたら1つはダメで使えないというのが、当たり前でしたから、家電のそういう感覚はよくわかります。

上田

日本も昔は直して使う習慣がありましたよね。鍋に穴があいたら、釘で穴をふさいでトントン叩いて直してくれる人がいて、直しながら使っていたものだと、祖母が言っていました。祖母は大正元年(1912年)生まれなので、100年くらい前の話になりますね。

細田

すごく面白いと思うのは、高度経済成長が1つの転機だと思うんです。
日本には、ものを大切にする、という文化があります。典型的なのは、金継ぎで、修理することに一種の美があるります。 古くなったものを捨ててしまうのではなく、エイジングがむしろ良いというわび・さびの世界は、ビンテージにも通じるところがあります。

それが高度経済成長の時に、コモディティ化されたというか、標準化されたものが普通になって、ダメになったら、はいおしまい。というパターンになりました。

それと、円は360円だったのが1971年のスミソニアン協定で308円になりました。急速に円高になったんです。さらに、1973年からは変動相場制に移行して円は上がり続けました。

図:東京市場 ドル・円 スポット 17時時点/月中平均【外国為替市況】[単位:1ドルにつき円](出典:日本銀行時系列統計データ検索サイト

1987年のニュースで、何が大変だと報道されていたかというと、1つが国鉄の民営化で、もう1つは円高です。とうとう円が150円を切って149円にまでなった。こんなに円高になってしまって日本はやっていけるんでしょうかと。でも今は、円が150円まで安くなって、日本はやっていけるのでしょうかと議論していますよね。すごく面白いことだと思います。

話を戻すと、急速に円高になり、資源をたくさん買えるようになり、しかも、需要もどんどん増えていって、欲しいものがいっぱいあって、とっかえひっかえ買い替えできちゃうという状況の中で、修理して使うというカルチャーが消えていったのは否めないな、と思います。

昔、あるスーパーマーケットの経営者の方が、「ワンウェイの使い捨て容器を扱い始めたのはうちです。」と言っていました。高度経済成長の時には、「ごみは文明のパラメーター」という有名な言葉がありました。どんどん使って捨てましょう、ゴミをたくさん出しましょう、それが文明的ですということですが、今では考えられません。

でも、おそらく長い日本の歴史で考えると、日本は長い間貧しかったということもありますが、使い捨ての文化は瞬間的なことで、修理して使うという気持ちは今も残っていると思います。
イギリスに留学していましたが、イギリスにも長く使うことを良しとする文化は残っていると感じました。

早川

確かに、ヨーロッパは全体的にそういった文化がありますね。アンティークの市があったり、古いものを大事にする文化があると思います。

ところで、日本は車の寿命はヨーロッパやアメリカと比較して短いんです。日本で中古車が 大事にされないのは、なぜなのか不思議に思っています。

上田

日本では新車購入後3年で車検があり、それ以降も2年ごとに車検があって、車検にはお金がかかるから、その前に車を買い換えるのがオトクなんだと聞いたことがあります。

細田

データでみると、日本の自動車の平均寿命は今非常に伸びているんです。

図:平均使用年数(出典:一般財団法人 自動車検査登録情報協会

これには、色々理由があります。
1つには、技術的な改良によって自動車の耐久性がすごく良くなりました。塗装技術が20年前と比べてすごく良くなったんです。昔はちょっと雨ざらしにしていると錆びてしまったりしましたが、それが随分よくなりました。
あと、痛みの早かったエンジンパーツも、長く持つようになりました。

もう1つには、新車購買力が下がっているという側面もあります。
日本はここ20年で所得があまり伸びていないのに、 車は新しいモデルが出て高くなっていく。給料があまり上がっていないから、新車購買力が下がっていて、中古車市場が活発になっています。ある種の中古車は非常に人気があって値段が下がらないそうです。

半導体不足で新車は納車まで時間がかかるけど中古車はすぐに手に入りやすくて、むしろちょっといいものがある、ということで中古車が人気のようですね。

アメリカはもうとことんまで乗りますね。日本の様な厳密な車検もないですし。

早川

そうですね、州によって違うと思いますが、車検は自分でもできるくらい簡単ですね。

細田

イギリスにも車検はあるんですが、日本よりはずっと簡単です。

■モノ消費、コト消費

上田

若者が最近は車を欲しがらないと聞きます。私は若くはないのですが、車は持っていません。
昔は車がファッションの一部で、かっこいい車に乗りたい(所有したい)という気持ちがあったと思うのですが、今はそういうモチベーションが減ってるのかなと思います。

細田

私は、ゼミの学生に「欲しいものがあるか」と時々聞くのですが、学生は首をひねるんです。
私の若い頃は、オーディオが欲しかった、あとタイプライター。学生の時はバチバチバチっていう、タイプライターで、その次に電動のタイプライターに変わるんだけどそれも欲しかった。それから一眼レフカメラ。車はなかなか買えなかったけど、欲しいものはいっぱいあった。
だけど、今の学生は欲しいものがないって首をひねるんですよ。

早川

スマホがあれば満足しちゃうんでしょうね。

細田

「いいね」が欲しいとかね。

上田

いいねっていう、形がないものにお金を使うというのは、資源と経済のデカップリングの実現ですね。映える写真を撮るために、あれこれ買ってしまうとデカップリングできていないことになりますが。
ネットでの投げ銭はデカップリングにつながるのではないでしょうか。

早川

投げ銭ですか?

上田

投げ銭(なげせん)は、動画のライブ配信などで、配信者に送金するシステムです。
路上でライブの演奏者にお金を置いてきたりするものの、デジタル版です。

(参考)“投げ銭”急拡大空前のブームで何が[2021年10月26日](NHK)

私の子どもが推している歌い手さんのライブ配信をちょっと覗いたら、1万円とか2万円とか、「えぇ?」と思うような金額がバンバン投げ銭されていました。投げ銭されると推しが「〇〇さん、ありがとう!」と言ってくれるので、子どもはそれがもう羨ましくてしょうがないんです。

投げ銭で1晩に1億円稼いだ人がいる、と聞いたことがありますが、実際1万円とか2万円とかずっと投げ銭されていて、すごい世界があるんだなってびっくりしました。

早川

そういう価値観ですかね。

細田

投げ銭って知らなかったけど、そういうのにお金を使うんですね。
欲しいものというのは変わっていくので、「サーキュラーエコノミーを実現する!」ということで、甚だしい努力をしなくても、資源消費がなくても満足する社会になるかもしれませんね。私たちの世代は、新品がいいと思っているけど、若い人は中古でも気にしないし。

早川

最近の若い人たちは、環境意識が高くなってきていると思います。リサイクルもそうですが、ロスに対する意識、食品ロスを減らす意識を強く持っていたりとか、環境に対する意識が変わってきていると思います。

細田

さっき、いいねが欲しいっていう話があったけど、 バーチャルな世界というのは、モノの世界ではなくて、コトの世界なんです。

コト消費は資源消費量が少ないという点ではいいのだけど、一方でお金も暗号資産とかバーチャルになっていった時に、実物がない寂しさというか懐が温かい感じとかがバーチャルの世界で消えていきますよね。

サーキュラーエコノミーって、単に資源循環を促進すればいいのではなくて、人と人とが繋がって、神戸プラスチックネクストのように、地域の交流の場とプラスチックの資源の循環がうまく重なって、人が触れ合いながら、ものを大切に使うというコンセプトだと思うんです。

(参考)神戸プラスチックネクスト

ノスタルジックなことを言っても仕方がないけれど、江戸時代から近代にかけて、我々の頃もそうだったけど、子どもが生まれたら、いとこや知り合いの誰かからおさがりをもらって着たりとかして、ものの循環と人と人との繋がりがあったような気がするんですよね。

そんな人の繋がりが切れて、バーチャルの世界だけになって、消費する資源が少なくなっても、ウェルビーング的に言うと、はたしてそれが幸せなのかって思っちゃうんです。

早川

ニュースも自分の好みのものがどんどん出てくるようになるので、不快なものに触れなくなるというか、同質的なものを寄せ付けてしまうところがあって、自分さえよければいいという考えになりそうで、ちょっと不安に感じるところがあります。

細田

本題に戻ると、EUはきっちりコンセプトを打ち出して、規則と指令を作って、ハードローに落とし込んでいって、それを各国が実施していきます。
このやり方は日本が真似できるものではないのだけど、日本はソフトローの強みがある。

本来、資源の循環はオープンな社会であるべきで、サーキュラーエコノミーも異主体が連携する必要があって、どう作り上げるかが難しいところなんだけど、日本の強みを活かせるところでもあるのではないかなって思うんですよ。

細田先生と早川先生のご対談は今回で終了です。お読みいただきありがとうございます。

2024.09.02 サーキュラーエコノミー 法律

第五次循環型社会形成推進基本計画が閣議決定されました

リサイクル

2024年8月2日、第五次循環型社会形成推進基本計画~循環経済を国家戦略に~が閣議決定されました。

この循環型社会形成推進基本計画は、循環型社会形成推進基本法に基づき、循環型社会の形成に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るために定められるものです。概ね5年毎に見直しが行われています。現行計画である第四次の基本計画は平成30年に策定されたものとなります。

(参考)第五次循環型社会形成推進基本計画の閣議決定及び意見募集(パブリックコメント) の結果について(環境省)

ポイント

今回閣議決定された計画のポイントは、サブタイトルにもあるように循環経済を国家戦略として位置付けている点です。

これは循環経済への移行が、気候変動、生物多様性の保全、環境汚染の防止等の社会的課題を解決するだけでなく、産業競争力の強化、経済安全保障、地方創生、質の高い暮らしの実現にもつながることから、重要な政策課題として捉えられているためです。そのため、政府全体の施策を取りまとめた国家戦略として本計画が位置づけられています。

なお、本計画は新たに政府に設置された「循環経済に関する関係閣僚会議」で議論され、本計画を踏まえて循環経済型社会システムへの転換のための取組を進めていくこととされています。

(参考)循環経済に関する関係閣僚会議(令和6年7月30日 首相官邸HP)

構成

本計画の構成として、最初に現状や課題、解決のための道筋(1章)が示され、その中で上記の内容についても言及されています。

前半で循環型社会形成に向けての中長期的な方向性(2章)、目指すべき将来像(3章)が示された上で、それを達成するための各主体の連携と役割(4章)及び国の取組(5章)が続き、後半で循環型社会形成のための指標と数値目標(6章)が設定されています。最後に計画の効果的実施(7章)として省庁連携等にも触れられています。

循環型社会に関する全体像の指標(概要)

(出典:第五次循環型社会形成推進基本計画~循環経済を国家戦略に~概要

重点分野

重点分野として以下の5つが提示されており、それぞれの方向性や将来像、国の取組、指標と数値目標が上述の各章で詳しく述べられています。

基本的には循環経済への移行に関わる分野が重点分野となっていますが、その大前提となる生活環境の保全や公衆衛生の向上に資する廃棄物等の適正処理については引き続き対応が必要な分野となっています。

循環型社会に関する全体像の指標(概要)

(出典:第五次循環型社会形成推進基本計画~循環経済を国家戦略に~概要

  1. 循環型社会形成に向けた循環経済への移行による持続可能な地域と社会づくり
  2. 資源循環のための事業者間連携によるライフサイクル全体での徹底的な資源循環
  3. 多種多様な地域の循環システムの構築と地方創生の実現
  4. 資源循環・廃棄物管理基盤の強靭化と着実な適正処理・環境再生の実行
  5. 適正な国際資源循環体制の構築と循環産業の海外展開の推進

指標と数値目標

「循環型社会の全体像に関する指標」と「重点分野の達成状況を図るための指標」が指標数を絞って設定されました。

ここで、「循環型社会の全体像に関する指標」の概要は図の通りとなります。

循環型社会に関する全体像の指標(概要)

(出典:第五次循環型社会形成推進基本計画~循環経済を国家戦略に~概要

図中の1~6までの「物質フロー指標」(どれだけの資源を採取、消費、廃棄しているかの全体像を把握する)と7~10の「取組指標」(物質フロー指標では測ることができない国・事業者・国民による取組の進展度合いを計測・評価する)が設定されています。

この中で新たに追加や拡充されたものは、「物質フロー指標」として脱炭素にも資するRenewableの取組を追加した「3.再生可能資源及び循環資源の投入割合」、「取組指標」として「9.循環経済の移行に関わる部門由来の温室効果ガス排出量」と「10.カーボンフットプリントを除いたエコロジカルフットプリント」の3つであり、気候変動や生物多様性との関連を評価するものです。

注)エコロジカルフットプリントは、第5次環境基本計画の点検の際に利用された中環審総合政策部会資料 指標候補データ集 p2,p5
考え方はWWF_ecofoot_190717(footprintnetwork.org)を参考。

循環型社会に関する全体像の指標(概要)

(出典:第五次循環型社会形成推進基本計画~循環経済を国家戦略に~概要

特に、「循環型社会ビジネスの市場規模」については政府の成長戦略フォローアップ工程表(令和3年6月閣議決定)の、達成すべき成果目標(KPI)にもなっている重要な指標であり、目標として2030年度には80兆円以上(現状約50兆円)が設定されています。

循環型社会に関する全体像の指標(概要)

(出典:第五次循環型社会形成推進基本計画~循環経済を国家戦略に~概要

国の取組み

特に国の取組のポイントは図の通りです。
「地方創生・質の高い暮らし」と「産業競争力強化・経済安全保障」に資する様々な取組みが「カーボンニュートラル・ネイチャーポジティブ」の環境面にも貢献することが示されています。また、政府全体で一体的に取組むことで循環経済への移行を実現するとしています。

国の取組みのポイント

(出典:第五次循環型社会形成推進基本計画~循環経済を国家戦略に~概要

この図の中にある「再資源化事業等高度化法」(資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律)は、脱炭素化と再生資源の質と量の確保等の取組みを一体的に促進するために2024年5月29日に公布されました。

生活環境の保全に支障がないことを前提とした上で、廃棄物処理法の処理業や施設設置許可等に手続の特例を設けるなど、資源循環の促進に向けて大胆な措置が講じられています。今後、政省令や告示が策定される予定です。

(参考)「資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律案」が閣議決定されました | 法規と条例 | DOWAエコジャーナル

最後に

循環経済への移行は、気候変動、生物多様性の保全、環境汚染の防止等の社会的課題を解決するだけでなく、産業競争力の強化、経済安全保障、地方創生、質の高い暮らしの実現にも貢献するものです。

企業に対して持続可能なビジネスモデルの構築を促すものであるため、企業への影響は小さくないと考えますが、ビジネスチャンスと捉え、国や自治体、事業者がお互い連携して取組むことによって循環型社会を構築し、持続可能な社会の実現に貢献できればと思います。

この記事は
DOWAエコシステム 環境ソリューション室 山野 が担当しました

2024.08.01 国際動向

バンクーバーとその周辺地域における環境への取り組み

海外ごみ事情

「しまった、買い物袋を忘れた……」
これは、バンクーバー市民にとっては、今や大事(おおごと)です。
なぜなら、お店ではレジ袋を利用できないどころか、売られてさえいないから。

これは、2040年までに廃棄物ゼロという目標を掲げた運動の一環で、2022年1月1日から施行された『使い捨てカップと買い物袋に関する条例』によるもの。
レジ袋が一斉に使用禁止となりました。

*使い捨てカップに関する条例は、2023年5月1日に無効となっています。
(編集者注:課金によるごみ削減に効果がないとされたため)

この条例により、マイバッグを忘れると、以下のような選択が迫られます。

写真:アジア系スーパーT&Tのエコバッグ
  1. 買い物を諦める
  2. 手で持ち帰る
  3. ダンボール箱をもらう(コストコ以外では稀)
  4. 店舗で売られているエコバッグを買う

*相場1袋1~2ドル、売られていない場合もあり

こういった条例に疎い筆者は、当初戸惑い、「袋切れかな」と思っていました。ただ、人間慣れればなんとかなるもので、今ではエコバッグを携帯する習慣がすっかり身についています。たまに忘れると、携帯を忘れた時と同レベルで「しまった、どうしよう」と痛手になるくらい欠かせないものになっています。

このようにカナダ全域を含め、バンクーバーでも様々な環境への取り組みが積極的に導入されつつあります。

■アースデイ

カナダで環境のことを考える時に思い浮かぶのが、『アースデイ』と言われるもの。
簡単に言えば、地球に関することをそれぞれが意識し、それぞれができることをする日。

この歴史は意外に古く1970年にまで遡り、アメリカの上院議員G・ネルソンが、4月22日を『Earth Day(アースデイ)』にすると宣言、学生の協力を得て地球への関心を表現するイベントを行ったのがきっかけとなり始まりました。

*ちなみに、4月22日という日には何のゆかりもなく、何でもない日をわざと選んだ、と言われています。

この運動は20年後に世界的規模にまでなり、バンクーバーのあるブリティッシュコロンビア州でもアースデイにちなんだ様々なイベントが行われています。

というわけで、ブリティッシュコロンビア州における市民参加型『アースデイイベント』の一部を以下に紹介します。

■非営利団体Evergreen主催:

植樹イベント『アース・デイ・バンクーバー・セレブレーション』
2009年4月18日バンクーバー市内ジェリコ・ビーチ・パークにて3,000本の苗木を植樹。

−Evergreenについて

トロントを拠点に、都市の緑化を図るなどの活動をしている非営利団体。
彼らの所有するコミュニティ環境センター『エバーグリーンブリックワークス』では、環境に対する最先端の実践的な技術を研究し、訪問者にデモンストレーションを行っています。

■非営利団体アースデイ・カナダ主催:

『植樹リレー』
アースデイ50周年となる2020年にスタート。カナダの各都市が参加し、毎月22日に最低50本の木を植えるという誓約を宣言。翌月22日は次の都市というように、毎月順番にバトンを渡していき、これが2025年まで続けられる予定です。

■ノースバンクーバー市主催:

『外来植物ヒマラヤバルサムの除去』
2023年7月15日自然環境を健全に保つため、生態系に影響のある外来植物を除去するイベントを行います。

■慈善団体City Farmer Society主催:

『ガイド付きツアー』
2023年3月1日~11月24日都市における食料の栽培、食品廃棄物の堆肥化などについてデモンストレーションを行います。

−City Farmer Societyについて

City(都市)とFarmer(農家)は、互いが結びつきそうにない言葉ですが、それを結びつけたのがこのCity Farmer Society。
その名の通り、『都市で農家(食料の栽培)をする』という意味です。
この活動が始まったのは1978年。バンクーバーが食料栽培に適した気候であることを鑑み、エネルギー消費の節約をするために食料自給を普及させる試みをしています。

■その他地域や施設におけるアースデイイベント:

植物に関することばかりでなく、アースデイにはミュージックイベントや、学校単位でアースデイをテーマにした授業を行ったりと、人々が積極的に『地球について考える』機会を設けています。

この写真は、バンクーバー市内の小学校でアースデイに作成された『地球』。
この他にも学生は、植物の育て方、環境の大切さなど地球や自然、環境の大切さを、毎年4月22日に授業で学ぶことになります。

カナダ国民はこのようにして、生活の中で必ず地球や自然環境について触れることになります。

■都市の緑化と周辺住民のコミュニティ活性化、および土地所有者を全てウィンウィンにする活動

上の写真は、バンクーバーのとある区画に設置されたコミュニティガーデンと言われるガーデンスペースで、『コミュニティガーデンビルダーズ』により運営されています。

空き地の所有者が期間限定で地元の人々に食物の栽培をさせるためのスペースを提供することで、街を緑化し、自給自足を促進させ、土地所有者は固定資産税などの負担が軽減され、且つ利用する者同士のコミュニティ活性化が叶うという、まさに誰もがウィンウィンとなる画期的な取り組みを行っています。

以上、ブリティッシュコロンビア州バンクーバーには、自然環境に向き合い、実際に行動に移す積極性があり、そしてそのアイデアを受け入れる寛容性もあることから、カナダで3番目に大きい都市でありながら、街の緑化を保つ美しい都市となっています。

【参考資料】

Community Garden Buildersホームページ
Services

この記事は
カナダBC州在住のフリーライター MW が担当しました

2024.08.01 サーキュラーエコノミー

対談企画 サーキュラーエコノミーとの向き合い方 その1 ソフトローとハードロー

対談

前回まで、喜多川様とのご対談をお届けしましたが、今回は、関西学院大学の早川先生とのご対談をお届けします。

ちょうどエコジャーナルの「その道の人に聞く」のコーナーで、早川先生に、日本とEU の環境規制が成立するプロセスの違いについて教えて頂き、日本とEUでは歴史や立法の仕組みが違う、ということを知りました。

一方で、先日の細田先生と早川様のご対談の中でも、日本はソフトローのような自主規制的なものも実効性がある、という話をされていたり、細田先生が環境政策のソフトローについて分類されているのを拝見しまして、これをテーマにご対談いただきたいと思った次第です。

(参考)循環経済における自主的取り組み【ソフトロー】の役割(その2)
(NPO法人 国際環境経済研究所)

細田 衛士(ほそだ えいじ)様

東海大学副学長、政治経済学部経済学科・教授
慶應義塾大学名誉教授
中部大学理事、学事顧問、名誉教授

1993年より国税庁中央酒類審議会 新産業部会リサイクルワーキンググループ座長、1995年通商産業省産業構造審議会廃棄物小委員会委員、2000年運輸省FRP廃船の高度リサイクルシステム・プロジェクト推進委員会委員、2003年環境省政策評価委員会委員、2011年中央環境審議会委員、2011年林政審議会委員、2023年「サーキュラーエコノミーに関する産官学のパートナーシップ」事業における総会、ビジョン・ロードマップ検討ワーキンググループの委員などを歴任

早川 有紀(はやかわ ゆき)様

関西学院大学 法学部 准教授

東京大学大学院 総合文化研究科 学術研究員(2015年10月〜2016年3月)、早稲田大学 社会科学総合学術院 助教(2016年度)、関西学院大学 法学部 助教(2017〜2018年度)、カリフォルニア大学バークレー校 東アジア研究所 客員研究員(2021年8月〜2023年8月)などを歴任。関西学院大学 法学部 准教授(2019年〜)

早川

私は 元々政治学の出身で、 EUでは、日本で考えられないような厳しい規制が成立しているところに関心を持ち、日本とEUの化学物質規制について研究していました。
先生の論文や御著書はとてもわかりやすく書かれているので、リサイクルに関心がある学生や、地域の循環型経済に関心を持っている学生にお勧めしています。

細田

恐縮です。関西学院大学はいかがですか。

早川

関西学院大学は兵庫県にあり神戸にも大阪にもアクセスしやすい場所です。駅からは少し距離がありますが、キャンパスがとても綺麗で、いいところです。

■色々なソフトロー

細田

先ほど紹介のあった、『循環経済における自主的取り組み【ソフトロー】の役割』では、ハードローは、国や自治体による強制力によって執行が担保された法規範で、ソフトローは、そのような強制力がないけれども、人々の行動を一定の方向に制約づける非法規範、として分類しました。といっても、ハードロー的なソフトロー(すなわち拘束力の強いソフトロー)もあるしソフトロー的なハードロー(すなわち拘束力の弱いハードロー)もあるし、成り立ちもそれぞれ違うので、色々あります。

例えば、公害防止協定をご存知のことと思いますが、日本には22万くらいあると言われています。

上田

確か、公害防止協定は、地域の生活環境の保全を目的としたもので、事業活動や事故による公害を未然に防止するため、地方自治体と事業者の間で締結するもので、法令による規制基準を補完したり、地域に応じた協定値が設定されたりと、具体的な公害対策が示されます。

(出典)寺浦 康子“公害防止協定の法的効力とその活用── 最高裁平成 21年 7月10日第二小法廷判”, 環境管理│2013年1月号│Vol.49 No.1

細田

公害防止協定は企業が自治体と結ぶもので、自主的なものですが協定の内容は大気汚染防止法や水質汚濁防止法の内容より厳しいんです。そんな公害防止協定をなぜ企業が結んだのかというと、公害が顕在化した当時の社会の雰囲気の中で、そうせざるを得なかった、という事情があったと思います。

一方で、国が音頭を取って作ったソフトローの典型例は自動車の分野ですね。「使用済み自動車リサイクル・イニシアチブ」は、自動車リサイクル法が成立する前にできたもので、このイニシアチブを下敷きにして自動車リサイクル法ができました。国も参画した面白い形のソフトローです。

詳細行動規定型に分類したのですが、共有範囲が限定的で規範内容が詳細なものもあります。「鉄鋼スラグガイドライン」は、業界が率先して作ったもので、内容は非常に細かく規定されています。

法律あるいは条例つまり国会などの議会で決めた以外のもので、イニシアチブが民間にあればソフトローとして位置づけて、さらに対象別でも分類したのですが、ソフトローの中にも、渋々作ったものや、こうしないとダメだよねというように国の指導が入ったものや、業界が率先して作ったものなど、色々な成り立ちのものがあります。

早川

法律の分野だと、誰が設定するかによってソフトローかハードローかに分類されます。政府が主体となって作られたものがハードローで、業界が主導して作られたものがソフトローと分類されますので、対象で分類する見方はすごく新鮮でした。民間が主導的に関与したものの方が、バリエーションが豊富ですね。

細田

家電製品協会による家電製品の製品アセスメントマニュアルガイドライン等は割と細かくできていて、家電リサイクル法を補完する形になっています。

(参考)家電製品協会ウエッブサイト

日本はEUみたいに、REACHのような大がかりな化学物質規制を始めたり、電池規則にELV規則にと規制をどんどん作っていくやり方ではないですが、日本のやり方は割とフレキシブルに対応していると思います。

早川

日本は業界がきちんとまとまっているのがすごいと思っています。
EUは国によって環境に対する取り組み方が違っています。

一般的に北欧諸国やドイツなどの国はとても一生懸命だけど、南の方の国はそこまで環境第一でもない、という感じで、国によってスタンスが全然違います。
でも、日本は業界の意識がとても高いし、自主的に動く真面目さがあります。それがいいところでもあるし、逆に真面目すぎるかもしれないと思えるところもあります。

ヨーロッパは、「これは長期的な目標だから 今すぐ守れなくてもいいんだ」、と直接的には言いませんが、“長期的にこういう風に取り組んでいこう”と打ち出します。

日本は目標が出来たら、必ず到達できるよう、すぐに守らなければならないという意識が高い。逆に守れないかもしれない長期的目標は立てにくい。だからこそ、日本では自主的な取り組みというのがすごくうまく機能するんだろうなと思います。

細田

確かに、EUは2030年にこういうことをやりますよとか、方向性を見せてくれるから、 そういう意味でアクセプタブル、受け入れやすいと思います。それでも嫌だという人もいるかもしれないけどね。

日本は、みんなに、「いい?」「いいですね」、「大丈夫?」「大丈夫ね」と確認して、みんな大丈夫ならやりましょうという感じで進めていって、施行日からきっちり実施されます。

EUではなかなかそうはいきませんが、方向性は非常に明確に見せてくれます。概念設定において、なぜやるのか、どういう経済を作るのか、雇用力を保つんだ、競争力をつけるんだとか、ちゃんと書いてあります。「ほんまかいな、これは出来ないんじゃないか」、と思うものがあったり、「ああいいね、その通りだよね」と思えるものがあったりで、読みごたえがあって面白いんですよ。

日本の霞ヶ関のペーパーは、「そうだよね、確かにそうだよね」って、内容が正確だけど面白くないんですね。みんなが合意した内容だから、仕方がないですけどね。

早川

そうですね。日本は確実にできる内容がきちんとルールになっていくスタイルなので、EUとは進め方が全然違います。
EUの場合は環境にものすごく熱心な国やアクターがリーダーシップをとっているのですが、日本の企業は横を見る文化があるんでしょうか。

細田

そうだと思います。だから、家電とか自動車とかの審議会で、業界代表者の言うことが捉えどころがなくて、よくわからない、ということがよくありました。A社さんはこう言っていて、B社さんはそう言っていない、と最大公約数を持ってくるから、やる気があるのかないのかよくわからない。ただ、最後はまとめてくれる、やるとなったらきちんとやる、というのは日本の業界の強みですね。

早川

それと、国や地域、あるいは時代によって、ソフトローとハードローの組み合わせ方は変わりますね。
日本はソフトローが機能する土壌がきちんとあると思うのですが、例えば環境を重視しない国だと、ソフトローがうまく機能しないところもありますね。

細田

そうですね。社会の仕組みが違うので単に良い・悪いと比べても意味がないですよね。発展経路が違った結果として今の状態があるので、この長い歴史の中でどうなってきたのかを見ないといけません。比較というのは難しいですね。
比較する際にポイントになるのは、合意形成がどういう風になされてきたのか、だと思うんですね。

そんな昔の事と思われるかもしれないけど、日本の近世まで遡って考えると、江戸時代は封建性社会といえども、江戸幕府は庶民のことをすごく注意深く見ていて、 ある程度のお目こぼしもあった。だから、『仮名手本忠臣蔵』(かなでほんちゅうしんぐら)は、幕府への反逆とも取れるんだけど、このぐらいならいいなって、目をつぶっていたから、上演できていた。

(参考)仮名手本忠臣蔵
通称『忠臣蔵』。赤穂事件を題材とした人形浄瑠璃と歌舞伎の演目のひとつ

そういうのを 押さえつけて失敗したのが、寛政の改革で松平定信が民衆から総スカンを食いましたし、水野忠邦もそうでした。
江戸時代は上位下達で厳しく統治していたように思われていますが、意外と日本のお上は庶民のことを考えていたと思います。
それは今も活きていて、審議会などで官庁とやり取りをする機会は多くありましたが、裁判所や霞が関の官庁は、庶民は何を考えているのかを見ていると思います。

もちろん西欧も市民を見て政治をするんだけれど、個の世界での民主主義であって、市民社会の中で意見が集約されるという感じですね。日本はそういった個がベースとなった民主主義とは別の、社会的雰囲気を見るという合意形成の仕方があると思います。

西洋は社会的雰囲気を見るという事はできないから、個の社会を優先して民主主義の経済社会を作らないといけません。

だから、日本でソフトローが働くというのは、業界あるいは業界団体が、社会的雰囲気や、世間の批判的な意見も見ながら、空気を読みながら、1つの規範を自分たちで作り上げるっていうのがあったんじゃないかな。

上田

日本は島国で、外から敵が攻めてくる事があまりなかったので、日本の中で協調して物事を進めていくことがメリットになったけど、中国やヨーロッパはどんどん敵が攻めてきて、国内で空気を読んでいても外から攻められたら元も子もないので、個が強くなる必要があった、という話しを聞いたことがあります。

細田

それもあるでしょうね。
あとは近世になる時、封建国家から市民社会に移る時に、彼らは革命を起こして王様の首を切ったんですね。ドイツはちょっと違ったけど、最後にカイザーは追放された。そういうドラスティックな、個の確立をベースとする社会と、“みんな一生懸命に”という和の関係性の中で合意していくことをベースとする社会というのは、大きく違う。

個の独立というのは、もちろん日本でも大事にしないといけないんだけど、西欧社会をスタンダードというか模範として社会問題を考えるのは、日本人にとってはハッピーなのだろうか。日本は西欧とは少し違った形で解決することができるんじゃないかと思います。

■新しいかたち

早川

日本は横を見ながら調和しながら進めていく社会ではありますが、海外の企業が日本に進出してきたり、経団連に入らない企業があったり、近年は業界団体がかつてほど1枚岩になりきれていないようにもみえるのですが、いかがですか。

細田

そうですね、そういう面はありますが、一方で、 新しい業界というか団体ができてきています。例えばプラスチックだとCLOMAという団体が平成30年に設立されました。

(参考)クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス(英文名:Japan Clean Ocean Material Alliance 略称「CLOMA」)

CLOMAは従来の業界団体ではなく、そういうプラスチック容器を作る人、使う人、 運ぶ人みたいに、異業種が集まってプラスチック廃棄物の問題を解決しましょう、という団体です。

他には、行政も参加した団体、というのもあります。
例えばSDGs未来都市は市町村が主体となって実施するのですが、他者と協力しないとできないので地域の学校や企業などとアライアンスを組むんですよ。飛騨高山とか非常に盛んな自治体があります。

こういう異主体が組み合わさった 一種のソフトローの担い手みたいな団体が、今後もっとできていくと思っています。従来の業界のいい面を使いながら、日本独自のアライアンスみたいなスタイルがCEには非常にフィットすると思いますね。
法律で全部を規定するのは難しいので、例えば、アライアンスを組んでソフトローだけでやりましょうみたいなスタイルも、新しい経済のあり方として十分あり得るんじゃないかな。

早川

地域社会の中で異なるアクターが結びついて、社会課題を解決するというスタイルは、ヨーロッパやアメリカでも見られます。日本でもそういう可能性があって、今後それが増えていきそうなのは、なるほど、今の時代にマッチしたスタイルなんだなと思いました。

細田

例えば、食品ロスも、かつては年間600万トン以上あったんですが、最近は500万トンを切るほどの勢いなのです(令和4年度推計、農林水産省)

(出典)食品ロス及びリサイクルをめぐる情勢(農林水産省)

市町村が住民と協力しながら、例えば3010運動みたいに、「食品ロスをなくすために、会合があったら初めの30分は食べましょう、真ん中の時間は話しをして、最後の10分は自席に戻って食べましょう」と、様々な主体、例えばレストランやホテルなどで活動していて、うまくいってるところもあります。市町村によりますが。

(参考)3010(さんまるいちまる)運動は、宴会の時の食品ロスを減らすためのキャンペーンです。乾杯からの30分間とお開き前の10分間は自分の席で料理を楽しみ、食べ残しを減らそうと呼び掛けることから「3010運動」と名付けられました。

(出典)3010運動って?(エコジン、環境省)

■コンセプトメイキング

細田

日本は西欧とは少し違った形で社会課題を解決することができると思う一方で、EUはすごいと思う所もあります。

EUは、規範を作るのがすごく上手です。コンセプトを打ち出して、体系性もある。CEでも、本当にできるかどうかは別として、新しい経済で雇用を作り出すんだと打ち出しています。コンセプトとして間違いではないと思うんだけど、実際は難しくて簡単ではない。だけど、彼らはバラ色の絵を描いて、そこに規則を当てはめて、全体のコンセプトを作っていくというのが非常にうまいと思うんです。

それと比較すると、日本の規制はパッチワークの様に思えます。
行政学を専門とされる先生からは、どのように見えていますか?

早川

確かにIPP(統合製品政策)戦略とかグリーンディールとか色々なコンセプトが打ち出されていて、 先行して走っている規制に並行して後からくっつけていったものが、最終的にうまく 1つの仕組みの中に収まっていると思います。

どうやっているのか、よくわからないようなところもありますが、EUは、全然違う利害を持っている国を、1つの目標に向かわせなければいけない、「単一市場」というのがすごく大きな力になっています。

環境に対して積極的な国、先進的に取り組んでいる国、そうでない国、 そこまで熱心ではない国など様々な国が、1つの目標に向かっていくためには、みんなでハッピーになるような仕組みを描かなければいけない。新しい市場や雇用を作り出すとか、規制によって、外から入ってくる製品に厳しい規制を遵守させつつ、ヨーロッパで製造する商品の価値を高めるといった意識も持っていると思います。

あと、北欧諸国のような環境に対して意識の高い国や欧州委員会を中心に、規範をみんなで作らなければいけない、EUが世界の国々をリードしていくんだ、という思いを持っていて、それが反映されるようなものになっている、という面はあると思います。

ここまでお読みいただきありがとうございます。