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環境リスク規制の政治学的比較 その1
~環境リスク規制って!?~

関西学院大学 法学部 准教授
早川 有紀(はやかわ ゆき)様

関西学院大学 法学部
関西学院大学 教員・研究者紹介ページ
リサーチマップ:早川 有紀

今回から関西学院大学法学部准教授の早川先生にお話をお聞きします。

早川先生は、環境や健康への悪影響が懸念されるものの科学的根拠が必ずしも明らかではない「環境リスク」で対象となる物質等に対しての規制が、どのような政治制度的要因によって規定されるのか、という研究課題に取り組んでおられます。

EUのサーキュラーエコノミーなどEUの政策と日本の政策は、そもそも規制に対する発想が違うのではないかと悶々としているなか、早川先生の本に出会い、是非エコジャーナルの読者の皆様にご紹介したいと思います。

【その1】環境リスク規制って!?

最初に早川先生のご経歴を教えてください。

中央大学法学部を卒業後、中央大学大学院法学研究科博士前期課程を修了しました。その後、東京大学大学院総合文化研究科博士課程を修了し、早稲田大学社会科学総合学術院助教を経て、現職である関西学院大学法学部の准教授をしています。

2021年8月からカリフォルニアのカリフォルニア大学バークレー校(UC Berkeley)で客員研究員をしています。

早川先生は法学部卒業との事ですので法律分野がご専門ですか?

法学部の政治学科に在籍しておりまして、「行政学」を教えています。これまで、公共政策がどのようにつくられ、また実施されるのかという政策過程や、行政組織や行政活動に関するルールである行政法など、政策と政治のあいだの領域を勉強していました。

政策と政治の間ですか?

高校生の時にBSEの問題がありまして、科学的に白とも黒ともはっきりしないものを規制しないといけないということが社会課題になりました。また原発の問題でも、リスクに対してどうやって規制していくのか、どういうプロセスで法律を決めていくのかに興味を持ちました。

いろいろ調べていくうちに、環境リスクや化学物質の規制など、まだ白とも黒ともはっきりしないけれど将来悪影響が出るかもしれないから今、規制しなければいけないという予防原則が面白いと思い、最初は日本のことを調べていましたが、ヨーロッパのREACH規制などが発表され、なぜヨーロッパではREACH規制のような規制ができて、なぜ日本では違う形になっているのか等、国が違っても抱えている政策課題は同じなのに、どうして異なる立法になっているのかというところに関心を持って、研究を進めてきました。

ハザード(有害性)の規制からリスクの規制へ

環境リスクに対する規制はいつごろからあるのですか?

環境リスクの規制の必要性は1980年代後半に認識されるようになってきました。
環境リスク規制とは、環境保全や不特定多数の人間の健康に直接的な悪影響を与える可能性がある一方で科学的根拠が不確定な場合に対する規制です。

ハザードに対する規制は、有害性が高いとされる科学的根拠を元に規制基準を決めます。
リスクに対する規制は、ハザードが環境中に排出されて、どの程度人や生物が暴露されるかという観点も考慮して、広範囲に影響を与える可能性があれば有害性は低くても規制的措置の対象となります。科学的根拠が十分に確立されていないこともあるので、法治行政原理の観点から規制そのものが難しくなります。

法治行政原理について教えてください。

法治行政原理とは、法律に基づいて行政が活動するという考えです。歴史的には政府(行政)と市民が権力関係にあり、行政権を乱用しようとする君主に対して国民がコントロールしようとしてきたという背景があります。もし根拠がなくても政府が規制できる、ということになれば、権力が乱用されてしまう恐れがあります。このため、法律を作る際にその根拠は重要です。

環境リスクに対する規制は、いつ頃から定められたのでしょうか?

企業活動に起因する環境リスクをいかに規制するかは、国際社会で1990年代から盛んに議論されてきました。2002年のヨハネスブルクサミットにおける行動計画で、「2020年までに化学物質を人の健康や環境への悪影響を最小化する方法で生産、使用する」という目標が定められました。これまでの化学物質の危険性のみに着目したハザードベースの管理から、環境への排出量を踏まえたリスクベースの管理へ移行する事も示されています。

2001年に採択され2004年に発効したストックホルム条約では、環境中で分解されにくく生態系に蓄積されやすいため環境中に一度環境中へ排出されると人体への悪影響が懸念される化学物質(POPs)の削減や廃絶などが目指されました。PCB等の12物質について排出削減に向けた取り組みが定められ、その後も新たな削減物質が追加されています。

2000年代初頭は、日本では自動車リサイクル法や家電リサイクル法などが成立した時期ですね。

日本における化学物質規制政策は、1960年代の公害病や健康被害への対応として整備されてきました。1967年に公害対策基本法が制定された後に相次いで規制が制定され、1973年に新たに市場に流通する化学物質の製造・使用に対する許可及び届出制度として、「化学物質の審査及び製造などの規制などに関する法律」(化学物質審査法、以下、化審法)が制定されました。化審法は、新たに市場に流入する化学物質を管理する手法として世界で初めて成立し、各国から注目されるような厳格な規制でした。

公害が契機となった要因もあるかもしれませんが、日本で世界に先駆けた規制が制定されていたなんて驚きです!

ところが、1990年代になるとヨーロッパで次々と予防に関する革新的な化学物質規制が導入されるようになりました。この化学物質規制では、環境や人間の健康に与える悪影響がある程度明らかになっているハザードを規制するというだけでなく、生じる可能性が低いと考えられるものの環境や人間の健康に悪影響を与えるおそれのある環境リスクを予防するという観点も重視されていました。

化学物質規制、電気電子製品規制、電気電子製品リサイクル規制の点から、制定段階の日本の法律とEUでの規制や指令を比較したのが以下の表です。RoHS指令はその後改正され、RoHS2 ・RoHS3に、WEEE指令はWEEE2と呼ばれていますが、この比較表は規制が制定された段階での内容を比較したものです。

表 制定段階の規制内容の主要な相違

規制の種類 日本 EU
一般化学物質規制 化審法(2009年改正)
① 対象:新規化学物質のみ(既存化学物質は優先順位付け)
② リスク評価主体:政府
③ 情報伝達義務:限定的
REACH規制(2006年)
① 対象:すべての物質対象
② リスク評価主体:企業
③ 情報伝達義務:広い
電気電子製品規制 資源有効利用促進法施行令改正(J-Moss、2006年)
① 規制レベル:JIS規格が政省令に引用
② 対象製品:PCなど7製品
③ 方法:対象物質が含まれる場合は、含有マークと情報提供の義務付け
RoHS指令(2003年)
① 規制レベル:二次法として国内法化
② 対象製品:医療機器及び制御機器を除く、電気電子機器
③ 方法:対象物質の使用を原則制限
電気電子製品リサイクル規制 家電リサイクル法(1998年)
① 対象品目:4品目
② 回収達成義務なし
③ 廃棄時のリサイクルコスト:廃棄者
WEEE指令(2003年)
① 対象品目:約90品目
② 回収達成義務有
③ 廃棄時のリサイクルコスト:企業

ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回は、制定段階の規制内容の違いについて教えて頂きます。


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