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環境リスク規制の政治学的比較 その16
REACH規制の背景

関西学院大学 法学部 准教授
早川 有紀(はやかわ ゆき)様

関西学院大学 法学部
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リサーチマップ:早川 有紀

【その16】REACH規制の背景

前回、化審法の2009年改正に至る経緯について教えて頂きました。そうするとEUはどうしてREACHという厳しい規制が成立したのかが気になります。

■EUでの規制強化の始まり

EUの化学物質規制は1960年代以降、3つの指令と1つの規制、すなわち危険物質指令(Directive 1999/45/EC)、既存化学物質規則(Regulation EECNo793/93)、調剤指令(Regulation EEC No793/93)、新規化学物質指令(Directive 1999/45/EC)によって構成されてきました。

危険物質指令は成立当初、危険物質の表示などを義務付けるのみで使用について規制する内容ではありませんでしたので、1970年代半ばから、イギリス、フランス、デンマークは化学産業に対して使用する前に新たな物質について試験することを求める規制立法を行っていました。

1979年に危険物質指令が改正され、市場に出る前に化学物質の安全性を確認する仕組みが形成されましたが、化学物質規制について規制が細分化されて別々に見直されたので、法体系の複雑化が進みました。

1986年の単一欧州議定書発効以前は加盟国ごとの環境規制が主でしたので、基本的に加盟国ごとに化学物質政策が進められていて、以下のような問題点がありました。

  • 制度が複雑すぎる
    指令は、加盟国が実施手法を独自に定めますので、加盟国間で化学物質規制のあり方が異なり制度が複雑になっていました。
  • 既存化学物質に対する規制が不十分
    1981年の危険物質指令の改正によって、新規化学物質と既存化学物質が分けられましたが、約10万の既存化学物質は規制されない状態でした。
    1993年の既存化学物質規則によって既存化学物質に対する規制ができましたが、管理レベルは新規化学物質より低いものでした。

つまり、マーストリヒト条約以降は、予防原則に基づくべきという考え方が示されていましたが、化学物質政策には適用されていませんでした。このため、欧州委員会、一部の加盟国、環境NGOによって化学物質規制における予防レベルが不十分である点が指摘されていました。

規制強化を求める声があったのですね

この時期に加盟国の中で見直しの推進力を担っていたのは、ヨーロッパ域内で最も厳しい化学物質規制を有していたスウェーデンです。スウェーデンは危険物質を扱う製品の製造事業者に対する規制を1962年に開始し、1969年の環境保護法で環境に害があるすべての行為に対する企業への立証責任の転換が行われました。

また、1973年には環境にやさしい代替物質を用いることを求める物質原則が法に組み込まれ、さらに1985年の化学製品法ではすべての化学製品に対する環境と公衆衛生に対する環境評価を事業者に課し、1994年には世界で初めて水銀の拡散を禁止しました。

どうしてスウェーデンではそんなに厳しい規制が成立したのですか?

人間の健康と健康保護に対する政治的な支持と、国内の化学産業の規模が比較的小さいという経済的な背景があったことが影響していると思います。

スウェーデンは1995年にEUに加盟した後、1998年からEUレベルでの共通の化学物質管理とリスク評価についてイニシアチブを取り始めました。そして、オーストリア、デンマーク、フィンランド、オランダといった環境規制に積極的な加盟国や、環境保護や消費者保護のNGOによって支持されました。

■そして欧州委員会での議論へ

EU理事会における、より広範で抜本的な解決を求める声を受けて、1998年11月に欧州委員会が化学物質政策の課題などを示しました(European Commission, 1998:ENDS,1998d)。

この中では、既存の4つの指令と規則の内容について再検討を行い、それぞれの規制の課題を示しました。また、加盟国間の規制が域内市場にとってバリアにならないような、人間の健康と環境を保護する高いレベルの規制の必要性があるとして、なかでもハザードの特定・リスク評価・リスク管理の区別と立証責任、既存化学物質への対応が重要な点としました。

1999年5月に加盟国各国の環境大臣によるEUの化学物質政策の欠点を批判する共同声明が出され、同年6月のEU理事会において化学物質政策を見直す正式答申がまとめられました。

EU理事会の要請を受けた欧州委員会は、環境総局のイニシアチブによって化学物質の見直し案がまとめられ、2001年2月に欧州委員会はREACH規則の原型となる「将来の化学物質政策のための戦略に関する白書」を示しました。

「将来の化学物質政策のための戦略に関する白書」はどのような内容だったのですか?

新規化学物質と既存化学物質の区別をなくし、予防原則に基づいて市場に流通するすべての化学物質についてリスク評価を行うという、「ノーデータ、ノーマーケット」の原則を採用するもので、従来の規制方針を大きく転換させる内容でした。
具体的には、

  • 生産量1トン以上のすべての化学物質についてリスク評価を含む様々な情報をデータベースに登録することを企業に義務付け
  • データの作成と評価、その物質の用途におけるリスク評価の責任を企業に移行するという、立証責任の転換
  • 化学物質の製造や輸入を行う化学メーカーのような川上ユーザーだけでなく、最終製品を作る組み立て製品メーカーのような川下ユーザーに対しても安全性評価の責任を負って用途や暴露量について情報提供を義務付け

など、産業界が規制当局に提出すべき情報が幅広く、企業の説明責任を重くする内容でした。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


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