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環境リスク規制の政治学的比較 その2
~環境リスク規制の日欧比較~

関西学院大学 法学部 准教授
早川 有紀(はやかわ ゆき)様

関西学院大学 法学部
関西学院大学 教員・研究者紹介ページ
リサーチマップ:早川 有紀

今回は、環境リスク規制について、日本とヨーロッパとを比較するために、化学物質規制、電気電子製品規制、電気電子製品リサイクル規制について制定段階の内容での違いをお伺いします。

【その2】環境リスク規制の日欧比較

化学物質規制、電気電子製品規制、電気電子製品リサイクル規制の点から、制定段階の日本の法律とEUでの規制や指令を比較したのが以下の表です。それぞれの規制はその後見直しや改正がなされ、特にRoHS指令はRoHS2 ・RoHS3、WEEE指令はWEEE2と呼ばれていますが、この比較表は規制が制定された段階での内容を比較したものです。

表 制定段階の規制内容の主要な相違

規制の種類 日本 EU
一般化学物質規制 化審法(2009年改正)
① 対象:新規化学物質のみ(既存化学物質は優先順位付け)
② リスク評価主体:政府
③ 情報伝達義務:限定的
REACH規制(2006年)
① 対象:すべての物質対象
② リスク評価主体:企業
③ 情報伝達義務:広い
電気電子製品規制 資源有効利用促進法施行令改正(J-Moss、2006年)
① 規制レベル:JIS規格が政省令に引用
② 対象製品:PCなど7製品
③ 方法:対象物質が含まれる場合は、含有マークと情報提供の義務付け
RoHS指令(2003年)
① 規制レベル:二次法として国内法化
② 対象製品:医療機器及び制御機器を除く、電気電子機器
③ 方法:対象物質の使用を原則制限
電気電子製品リサイクル規制 家電リサイクル法(1998年)
① 対象品目:4品目
② 回収達成義務なし
③ 廃棄時のリサイクルコスト:廃棄者
WEEE指令(2003年)
① 対象品目:約90品目
② 回収達成義務有
③ 廃棄時のリサイクルコスト:企業

それぞれ説明していきます。

一般化学物質規制

規制の種類 日本 EU
一般化学物質規制 化審法2009年改
対象:新規化学物質のみ(既存化学物質は優先順位付け)
リスク評価主体:政府
情報伝達義務:限定的
REACH規制(2006年)
対象:すべての物質対象
リスク評価主体:企業
情報伝達義務:広い

REACH規制は、化学物質を扱う事業者だけではなく、化学調剤や化学成形品を扱う事業者に対しても情報を伝達する義務が課せられました。化学成形品とはたとえば、家具、衣服、自動車のような化学物質が使用されている部品や製品を指します。

REACH規制

  • 対象品
    • 化学物質(化学元素および化合物)
    • 化学調剤(2つ以上の物質からなる混合物)
    • 化学成形品(化学物質や化学調剤を用いて製造された製品)
  • 対象者
    • 製造事業者
    • 輸入事業者
  • 義務
    • 登録、許可申請、使用制限、情報伝達

化学物質や化学調剤をEU域内で製造、又は販売する場合、物質ごとの総量が年間1トン以上の場合はその物質を登録する必要があり、総量が年間10トン以上の場合、安全性について自らリスク評価を行い、化学品安全性報告書を提出する必要があります。

また、高懸念物質と呼ばれる、CMR(発がん性、変異原性、生殖毒性物質)、PBT(難分解性、生体蓄積性、毒性物質)、vPvB(きわめて難分解性、生体蓄積性の高い物質)といった、人の健康や環境に対して環境に対して非常に高いリスクがある物質が成形品に一定以上含まれる場合は届け出たり、情報伝達を行ったりする必要があります。

対象が広いと企業にとってはどのような影響があるのでしょうか?

登録を求められる化学物質の範囲が広ければ広いほど、企業にとっては化学物質の登録や情報提出などが必要になり、企業が負担するコストが増えます。

また化学物質の安全性を評価するリスク評価は、日本では政府が行いますが、EUでは企業が行います。リスクに関する安全性の情報についての立証責任を政府が負うのか、企業が負うのかという点も、大きな違いがあると言えます。

情報伝達の範囲が広いと企業はその情報管理のための新たなコストを負担しなければなりません。日本では特定化学物質と監視化学物質についてサプライチェーンへの安全情報伝達の義務が課されますが、EUでは危険と分類されるすべての物質について、サプライチェーンへの安全情報伝達義務が課されました。

さらに、REACH規制では川下から川上への用途情報の伝達の仕組みがありますので、一言で “サプライチェーンへの安全情報伝達” と言っても、EUの方が日本に比べて情報伝達の範囲が広いと言えます。

電気電子製品規制

規制の種類 日本 EU
電気電子製品規制 資源有効利用促進法施行令改正(J-Moss,2006年)
規制レベル:JIS企画が政省令に引用
対象製品:PCなど7製品
方法:対象物質が含まれる場合は、含有マークと情報提供の義務付け
RoHS指令(2003年)
規制レベル:二次法として国内法化
対象製品:医療機器及び制御機器を除く、電気電子機器
方法:対象物質の使用を原則制限

RoHS指令は、電気電子機器に使用する有害物質について事業者に制限を課す規制です。
RoHS指令はその後改正され、RoHS2 ・RoHS3と呼ばれていますが、この比較表は規制が制定された段階での内容を比較したものです。

RoHS規制

  • 対象物質
    • 鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、PBB(ポリブロモビフェニル)、PBDE(ポリブロモジフェニルエーテル)
      (現在の技術では代替物質がない場合には適用除外が認められる)
  • 対象
    • 冷蔵庫、洗濯機、掃除機などの家電から、ビデオゲームやスポーツ器具などの玩具やスポーツ用品、自動販売機など
  • 生産者の義務
    • 製品についてRoHS指令への適合性評価を実施して、製品を有償無償問わず供給(上市)する前にCEマーキングの認証を取得し、製品に「CEマーク」を貼り付け、適合性を維持し、消費者に分かりやすく情報提供を行う必要があります。

CEマーク!よく製品についているのを目にします!これですか?

そうです。
CEマーキングは、EUで販売(上市)される指定の製品がEUの基準に適合していることを表示するマークです。RoHS指令だけではなく、「機械指令」、「低電圧指令」、「医療機器指令」、「玩具安全指令」「エコデザイン指令」など 25の指令に対して必須要求事項を満たした製品にCEマークを表示する、という制度です。

規制レベルの違いはどのようなものですか?

規制内容を政府が定める場合と業界が自主的に定める場合では、一般的に政府が定める方が企業にとっての負担が大きくなります。
日本では、業界が主導的に定められるJIS規格が省令に引用されたのに対して、EUではEUレベルの規制内容が各国政府において国内法化される形式が取られました。

規制対象も、日本はパソコンなど7製品に限られるのに対し、EUでは医療機器及び制御機器を除く、ほぼすべての電気電子機器が対象になりました。

また、日本では有害物質が基準値を超えて含有されていても含有マークを表示し情報提供を行えばよいのですが、EUでは基本的に有害物質を含有する製品を販売(上市)することはできません。そこで企業は、代替物質を開発して対応する新たなコストが必要になります。

電気電子製品リサイクル規制

規制の種類 日本 EU
電気電子製品
リサイクル規制
家電リサイクル法(1998年)
対象品目:4品目
回収達成義務なし
廃棄時のリサイクルコスト:廃棄者
WEEE指令(2003年)
対象品目:約90品目
回収達成義務有
廃棄時のリサイクルコスト:企業

WEEE指令は、電気電子機器廃棄物(E-Waste)の発生抑制、再利用、リサイクルを促進することにより、電気電子機器廃棄物を減らすことを目的とし、加盟国と生産者に対して、電気電子機器廃棄物の回収、リサイクルシステムの構築、費用負担を義務付ける規則です。
WEEE指令はその後改正されWEEE2と呼ばれていますが、この比較表は規制が制定された段階での内容を比較したものです。

WEEE規制

  • 対象品
    • ほとんどすべての電気電子機器
  • 生産者の義務
    • E-Waste処理システムに個別または共同スキームによって参加して、再利用しやすい、リサイクルしやすい製品設計に努め、製品にリサイクルマークを添付したり、製品情報を消費者に対して提供したりする義務付け
    • 国民1人当たり年平均4キロの電気電子機器廃棄物の回収を義務付け
    • リサイクルコストを企業が負担

リサイクルコストを廃棄者が負担するのと企業が負担するのでは、どう違ってくるのですか?

リサイクルコストを企業が負担するという事は、企業がそのコストを製品価格にどの程度転嫁するかを決める事になりますので、企業側にコスト削減の動機が働きます。コスト削減の取り組み等側、企業の負担はより重たいものとなります。

なるほど!
比較すると、同じ目的で制定された法律や規則であっても、内容が異なっているのだと分かりました。


ここまでお読みいただきありがとうございます。
日本と比較してEUで厳しい環境リスク規制が成立した理由を考えていきます。


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