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環境リスク規制の政治学的比較 その13
化学物質の製造・使用に対する規制 ~日本とEUの比較~

関西学院大学 法学部 准教授
早川 有紀(はやかわ ゆき)様

関西学院大学 法学部
関西学院大学 教員・研究者紹介ページ
リサーチマップ:早川 有紀

【その13】化学物質の製造・使用に対する規制 ~日本とEUの比較~

製造・使用段階の化学物質規制とは、規制当局が化学物質を輸入、製造、使用する企業に対して、化学物質の登録やその物質の安全性情報、使用方法などに関する情報提供を行うための届出を求める制度のことです。

直接的規制手段として1970年代から行われてきましたが、1990年代以降は環境リスクの問題に対応するために国際的な規制目標が共有されたことなどを背景に、各国では事業者負担の範囲を拡大し、規制を強化する傾向にありました。

しかし、日本の化審法の2009年改正内容と、EUで2006年に成立したREACH規則では、「既存化学物質」規制についての企業の説明責任の程度が異なります。

「既存化学物質」とは既にあった化学物質ということですか?

規制が制定される前から市場に流通していた化学物質のことで、具体的には、日本では1973年以前、EUでは1981年以前から流通していた物質を指します。

日本では、約20,000物質ある既存化学物質に対するリスク評価(審査・点検)は、1973年から2009年までの間に約1600物質程度しか進んでいませんでした。EUでも約100,000物質の既存化学物質が存在する状況で、これらの既存化学物質をどのように規制するかは先進諸国共通の政策課題でした。

既存物質の20,000物質中の1600物質ということは8%ですので、残りの92%はリスク評価ができていなかったのですね。この政策課題に対する規制が、日本の化審法2009年改正と、EUのREACH規則ということでしょうか

そうです。
化審法の2009年改正と、EUのREACH規則の違いを以下に挙げます。

  1. 登録が求められる化学物質の範囲
  2. リスク評価の主体
  3. サプライチェーンにおける事業者の情報伝達義務
化審法2009年改正 REACH規則
登録が求められる化学物質の範囲
  • 新規化学物質のみ
  • 既存化学物質は段階的に登録する優先評価型
  • 全ての物質
  • 既存化学物質も含める網羅型
リスク評価の主体 政府 事業者
サプライチェーンにおける事業者の情報伝達義務 限定的 広い

【参考記事】
環境リスク規制の政治学的比較 その1 ~環境リスク規制って!?~
環境リスク規制の政治学的比較 その2 ~環境リスク規制の日欧比較~

日本とEUでは産業や社会状況が異なるので、規制の内容が異なったのではないのですか?

その視点は重要です。EUのREACH規制と日本の化審法2009年改正を比較した場合に、例えば、日本はEUに比べて中小企業が占める割合が多く対応できないといった論点や、EUは域内の貿易が多い一方で日本は輸出が多いので激しい国際競争力の観点から日本では厳しい規制がかけられない、といった論点が挙げられます。

■中小企業の割合

改正当時の中小企業の占める割合を確認をすると、日本は96.9%、EUは95.5%と大きな違いはありませんでした。

なお、日本における中小企業の定義は、従業員300人以下、または資本金3億円以下(中小企業基本法第2条1項)で、EUにおける中小企業(Small and Medium Enterprises)は、従業員250人以下、かつ売上5,000万ユーロ以下、またはバランスシート4,300万ユーロ以下(2003/361/EC)を指します。

■化学製品の輸出額

また以下のグラフで「化学製品に関する出荷額に占める輸出額」を示していますが、1990年代半ばから、日本もEUも化学製品の輸出力を高めていることが分かります。

さらに、日本もEUも共に、1990年代後半以降、環境リスクに対する予防的審査・規制が進められてきたという点だけでなく、化学物質規制に直接関係するような事故や事件が生じていない、という点でも共通しています。

それなのにどうして規制内容が異なってくるのか、次回以降、日本とEUの制定過程について確認していきたいと思います。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


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