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環境リスク規制の政治学的比較 その19
電気電子製品規制

関西学院大学 法学部 准教授
早川 有紀(はやかわ ゆき)様

関西学院大学 法学部
関西学院大学 教員・研究者紹介ページ
リサーチマップ:早川 有紀

【その19】電気電子製品規制

その13からその18まで、化学物質の製造・使用に対する規制について、具体的にEUのREACH規制と日本の化審法に関してお話を伺ってきました。
規制を制定する過程のストーリーはとても面白かったです。

今回は、電気電子製品に使用される化学物質に対する規制について、日本とEUの規制の成立過程を比較し、規制対象や規制方法に違いが生じた理由を考えていきたいと思います。

(関連記事)
環境リスク規制の政治学的比較 その2~環境リスク規制の日欧比較~

EUにおける電気電子機器に含まれる有害化学物質規制(RoHS指令)は、電気電子機器廃棄物(E‐Waste)の処理問題に対する規制から派生しました。

■E-Waste(電気電子機器廃棄物)問題

電気電子製品に対する化学物質規制とは電気電子機器に含まれる有害化学物質の使用に対する規制です。電気電子機器に含まれる有害化学物質の存在は以前から認識されていましたが、それらが輸出入されることによって製品が広まる一方で、廃棄された後は前処理されずに大量の廃電気電子機器の埋立てや焼却が行われていることが1980年代から問題視されるようになりました。

1989年にOECDと国連環境計画(UNEP)が中心となって作成された「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」は、有害廃棄物の国境を越える移動などを規制する枠組みや手続きを規定しました。そして、1992年に発効しました。

バーゼル条約の第7回締約国会議(COP7:2004年10月)の決議では,電気電子廃棄物の削減及び環境上適正な処理推進のためのパートナーシップが最優先課題のひとつにあげられ、それによるプロジェクトが地域ごとに開始されました。

さらに第8回締約国会議(COP8:2006年11月)ではE-Waste問題の解決に向けてのナイロビ宣言が採択されたことで国際的な取り組みが強化されていきました。

当初、日本やEUには電気電子機器廃棄物に含まれる有害化学物質に対する規制はありませんでした。
日本では、使用済み製品に対する規制として、家電リサイクル法、資源有効利用促進法、廃棄物処理法によって処理が進められていましたが、国際的な議論の高まりや、廃電気電子機器の一部が回収されずに廃棄物として埋立処分されている状況に対応する必要が生じていました。

EU各国では廃電気電子機器の約90%が前処理を行わずに埋立てや焼却され、埋立場や焼却場の環境汚染が深刻化していました。また、国ごとに法整備の状況が異なっていましたので、統一した規制を作る必要がありました。

■規制の比較

EUでは2003年に電気電子機器における特定有害物質の使用制限指令(RoHS指令)が発効しました。
日本では、2006年に資源有効利用促進法政省令改正(特にJ-Moss)が成立しました。

両方とも電気電子製品に含まれる有害化学物質に対する規制ですが、対象製品の範囲や規制方法が異なっています。RoHS指令はその後も改正されていますが、ここでは2003年に発効した通称RoHS(1)を対象として分析します。

表:制定時点における規制内容の主な相違
EU
RoHS指令(2003年)
日本
資源有効利用促進法施行令改正
(J-Moss,2006年)
規制レベル 二次法として国内法化 JIS規格が政省令に引用
対象製品 医療機器及び制御機器を除く、電気電子機器 PCなど7製品
規制の方法 対象物質の使用を原則制限 対象物質が含まれる場合は、含有マークと情報提供の義務付け

RoHS指令とJ-Mossの違いは大きく3点あります。

1)規制レベル

日本のJ-Mossでは、新たな法律を制定せずにJIS規格を政省令に組み込み、資源有効利用促進法の政省令改正という形でした。一方、EUのRoHS指令では、EU法の二次法として制定され、加盟国においても国内法が制定されました。

つまり、J-MossではJIS規格が省令に引用されることによって規制されているので、業界が主導的にその内容を決めることができます。また、違反に対しても基本的に「指導及び助言」が行われ、著しく不十分な場合に勧告、公表、命令、罰金(50万円以下)の措置とされており、是正を促すような規定となっています。

これに対しRoHS指令ではEUレベルで決まった内容が国内法によって規制され、違反した場合には加盟国ごとに定められた罰則が科されることになります。例えば、違反製品の上市に対してドイツでは罰金最大5万ユーロ、フランスでは罰金1500ユーロが課せられているなど、加盟国によって違いがありますが、懲罰的な規定となっています。

2)対象製品の範囲

J-Mossでは、パソコン、エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、衣類乾燥機という7品目が対象でしたが、RoHS指令では、医療機器及び制御機器を除くほぼすべての電気電子機器が対象になりました。

つまり、J-Mossでは一部の大型家庭用家電が対象となっただけでしたが、RoHS指令では以下の電気電子機器が対象となりました。

  • 大型家電用電気製品(冷蔵庫、洗濯機、食器洗い機、電子レンジなど)
  • 小型家電用電気製品(掃除機、アイロン、ドライヤ、時計など)
  • 情報技術・電気通信機器(パソコン、プリンタ、コピー機、電話機など)
  • 消費者用機器(ラジオ、テレビ、ビデオカメラ、楽器など)
  • 照明機器(蛍光灯、ランプなど)
  • 電気・電子工具(電気ドリル、ミシンなど)
  • 玩具・レジャー・スポーツ機器(テレビゲーム、サイクリング用品など)
  • 自動販売機(飲料自動販売機、食品自動販売機、現金自動引出機など)

小型家電だけでなく、自動販売機や、現金自動引出機も対象なんですね。対象が広いですね!

3)規制の方法

J-Mossでは対象とする6有害物質が含まれている場合に、含有マークと情報提供が義務づけられたのに対して、RoHS指令では対象とする6有害物質の使用を原則制限しました。

つまり、J-Mossでは対象物質を含有していてもマークの表示と情報提供を行えば、製品を上市してもよいのに対して、RoHS指令では対象物質を含有している製品は原則として上市できませんでした。
なお、対象となる6物質(鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、PBB、PBDE)に関しては、J-MossとRoHS指令は共通です。

このようにJ-MossとRoHS指令の内容を比較すると、規制レベル、対象製品の範囲、規制方法のいずれにおいても、日本に比べてEUで厳しい電子電機製品への化学物質規制が成立したことがわかると思います。

では、EUで厳しい規制が成立したのはなぜか、次回はRoHS規制成立の過程についてご説明します。

【参考サイト】

バーゼル条約(外務省)
製品中の有害物質に起因する環境負荷の低減方策に関する調査検討報告書(環境省)
バーゼル条約第8回締約国会議(COP8)の結果概要(環境省)


ここまでお読みいただきありがとうございます。


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