環境対策に取り組むすべての人へ
最新の知見を届ける情報サイト

DOWAエコジャーナル

2026.08.03 ネイチャーポジティブ

ネイチャーポジティブ(自然再興)とは?

「カーボンニュートラル」「サーキュラーエコノミー」と並んで、「ネイチャーポジティブ」という言葉を目にする機会が増えてきました。生物多様性に関する新しい世界目標を背景とする言葉です。
今回は、ネイチャーポジティブとは何か、どのような国際的な枠組みから生まれ、国内でどのような制度が整備されているのかについてご紹介します。

■ネイチャーポジティブとは

ネイチャーポジティブとは、「生物多様性の損失を止め、反転させる」という考え方を指します。環境省は、これを2030年までに生物多様性の損失を止めて回復軌道に乗せる、という目標として説明しています。

> エコペディア:ネイチャーポジティブ

「損失を止める」だけでなく、過去に失われた自然を「反転させる」、すなわち回復に向かわせるところまでを含む点が特徴です。気候変動分野の「カーボンニュートラル」が温室効果ガスの排出量と吸収量の差し引きをゼロにする概念であるのに対し、ネイチャーポジティブは生物多様性について、損失を止めたうえで回復に向かわせることを目指す目標として位置付けられています。

なお、「生物多様性」とは、生態系・種・遺伝子の多様性を指す言葉で、森林や河川、土壌、そこに生きる動植物といった自然全体の豊かさを意味します。

> エコペディア:生物多様性

■背景 ~愛知目標から昆明・モントリオール生物多様性枠組へ~

生物多様性に関する世界目標は、生物多様性条約(CBD)の締約国会議(COP)で定められてきました。

2010年に愛知県で開催されたCOP10では、「愛知目標」が採択されました。これに続く新たな世界目標として、2022年12月にカナダ・モントリオールで開催されたCOP15で採択されたのが、「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)」です。

環境省の説明によると、この枠組は、2050年ビジョン「自然と共生する世界」、2030年ミッション、2050年グローバルゴール、2030年グローバルターゲット等から構成されています。ネイチャーポジティブという考え方は、この枠組が掲げる「2030年までに生物多様性の損失を止め、反転させる」という方向性を表す言葉として広まりました。

2030年グローバルターゲットは23の行動目標(ターゲット)から成り、このうち企業の事業活動と関わりが特に深いものは、次の2つです。

ターゲット3(いわゆる30by30)

2030年までに、陸域・内陸水域と海域・沿岸域のそれぞれ少なくとも30%を保全・管理する。保全・管理の対象には、国立公園等の保護地域に加え、OECM(後述)も含まれる。

ターゲット15

事業活動による生物多様性への依存・影響、及び生物多様性に関するリスクの評価・開示を(大企業や金融機関等に)促す。

ターゲット15は、後述する企業の情報開示の動きと直接関係する目標です。

■自然資本という捉え方

ネイチャ―ポジティブの考え方の中で、よく用いられるのが「自然資本」という言葉です。

環境省・農林水産省・経済産業省・国土交通省が2024年3月に公表した「ネイチャーポジティブ経済移行戦略~自然資本に立脚した企業価値の創造~」の参考資料集では、経済活動の自然資本への依存とその損失を、社会経済の持続可能性上のリスクと位置付けています。同資料では、不適切な水資源利用や化学物質の放出等の結果として財務的損失を被った企業の事例も取り上げられています。

つまり、ネイチャーポジティブに関連する国の文書では、生物多様性・自然資本を、経済活動が依存する基盤として捉える形で整理されています。

(出典)環境省:ネイチャーポジティブ経済移行戦略 概要

■企業の情報開示 ~TNFD~

ターゲット15に示された「評価・開示」の流れを具体化する枠組みとして注目されているのが、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)です。TNFDは2023年9月に開示の枠組みに関する提言(v1.0)を公表しました。

TNFDは、企業と自然との関係性を評価し、開示するための枠組みです。先行する気候関連財務情報開示の枠組みであるTCFDと整合する形で設計されており、「ガバナンス」「戦略」「リスクとインパクトの管理」「指標と目標」という開示の柱立ても共通しています。気候変動に続き、自然・生物多様性が企業の情報開示の対象として扱われるようになってきています。

■国内の政策

日本国内でも、ネイチャーポジティブの実現に向けた戦略・制度が整備されています。主なものをご紹介します。

生物多様性国家戦略2023-2030(2023年3月)

GBFを受けて改定された生物多様性に関する国の基本的な戦略です。2030年ネイチャーポジティブの実現と、30by30目標が国の方針として位置付けられました。

ネイチャーポジティブ経済移行戦略(2024年3月)

環境省・農林水産省・経済産業省・国土交通省の4省庁連名で2024年3月に公表された戦略です。企業の価値創造プロセスとビジネス機会の具体例、ネイチャーポジティブ経営への移行に当たり企業が押さえるべき要素、国の施策によるバックアップを示すものとされています。

地域生物多様性増進法(2025年4月施行)

2024年4月19日に公布され、2025年4月1日に施行されました。
この法律では、企業等が行う生物多様性の維持・回復・創出に資する活動について、主務大臣が地域の生物多様性増進活動の実施に関する計画「増進活動実施計画」等を認定する制度が設けられました。法施行に伴い、それ以前から運用されてきた「自然共生サイト」制度がこの法律に基づく制度として位置付けられ、従来の保全場所を認定する制度を基礎として、より幅広く活動計画を認定する制度へと再構築されています。

■自然共生サイトと30by30

「自然共生サイト」とは、民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域を国が認定する仕組みで、環境省が2023年度から運用を開始しました。前述の地域生物多様性増進法の施行に伴い、現在は同法に基づく認定制度として運用されています。

認定された自然共生サイトのうち、国立公園等の保護地域と重複しない区域は、OECM(保護地域以外で生物多様性保全に資する区域)として国際データベースへの登録対象となります。30by30(陸と海の30%以上の保全)の達成には、保護地域の拡張だけでなく、企業の社有林、事業所の緑地、ビオトープといった民間の取組をOECMとして積み上げることが必要とされており、自然共生サイトはその受け皿となる仕組みです。

> 環境省:自然共生サイト

■3つの環境課題の関係

ネイチャーポジティブ(生物多様性)、カーボンニュートラル(気候変動)、サーキュラーエコノミー(資源循環)は、それぞれ別の目標ではありますが、相互に関連する課題でもあります。ネイチャーポジティブ経済移行戦略の参考資料集でも、これら3つの移行の関係性が整理されています。

また、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーの活動においても生物多様性は考慮されており、例えば「循環経済(サーキュラーエコノミー)への移行加速化パッケージ」では、金属リサイクルの推進が生物多様性への影響を低減するとされており、各取組がお互いに影響する点が示されています。

> 石破首相が、再生材利用の拡大や太陽光パネルリサイクル促進等の法整備を加速するよう指示(循環経済(サーキュラーエコノミー)に関する関係閣僚会議で)

■まとめ

ネイチャーポジティブは、「生物多様性の損失を止め、反転させる」という、2030年に向けた世界目標を表す言葉です。2022年採択の昆明・モントリオール生物多様性枠組を起点に、TNFDによる情報開示の枠組み、国内の生物多様性国家戦略・ネイチャーポジティブ経済移行戦略・地域生物多様性増進法・自然共生サイトといった制度が整備されてきました。

カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーと比べるとまだ馴染みの薄いテーマですが、関連する制度は着実に具体化しています。DOWAエコジャーナルでも、今後の動向を引き続き取り上げていきます。

この記事は
DOWAエコシステム 企画室 後藤 が担当しました

ACCESS RANKING

よく見られている記事

CONTACT

お問い合わせ

お問い合わせはこちら