環境白書は毎年6月頃に公表される、政府の環境政策の年次報告書です。令和8年版は、2026年6月5日に閣議決定されました。今年の白書で注目されるのは、第1部のテーマに「循環経済(サーキュラーエコノミー)で日本列島を強く豊かに」が掲げられ、循環経済が中心的に取り上げられた点です。
今回は、令和8年版の内容について、循環経済に関する点を中心に解説します。
■環境白書とはどのようなものか
3つの白書を1冊にまとめた年次報告書
環境白書は、正式には「環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」といいます。環境省の説明によれば、環境白書、循環型社会白書、生物多様性白書の3つは、それぞれ法律に基づいて国会へ提出される年次報告書ですが、環境問題の全体像を分かりやすく示すため、3つを合わせて編集し、1つの白書としてまとめられています。
沿革をたどると、昭和44年に公害対策基本法に基づく「公害白書」が発表され、昭和47年に「環境白書」に改称されています。平成13年に循環型社会白書、平成21年に生物多様性白書が加わり、現在の合冊の形になりました。
(出典)環境省 令和8年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書
白書の構成
令和8年版は、大きく3つのパートで構成されています。
- 第1部 循環経済(サーキュラーエコノミー)で日本列島を強く豊かに
- 第2部 各分野の施策等に関する報告
- 施策編 令和8年度に講じようとする施策(環境の保全、循環型社会の形成、生物の多様性の保全及び持続可能な利用)
第2部以降は各分野の施策を網羅的にまとめた構成で毎年ほぼ共通していますが、第1部のテーマは年ごとに変わります。そのため、第1部にその年の重点的なテーマが取り上げられていると考えられます。
> 参考:エコペディア「サーキュラーエコノミー」
■令和8年版のテーマ ~「循環経済で日本列島を強く豊かに」~
環境保全にとどまらないテーマ設定
環境省の報道発表によれば、令和8年版のテーマ設定の背景には、次のような認識が示されています。
世界的に資源の獲得競争が激しさを増す中、天然資源への依存を低減し、再生資源を質・量・コストの面で安定的に確保していくことは、環境保全にとどまらず、経済安全保障や産業競争力、地域の持続性を確保する上でも不可欠です。
(出典)令和8年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書の公表について
つまり、循環経済が環境政策の一分野としてだけではなく、経済安全保障や産業競争力と結び付いたテーマとして第1部に据えられたことが、今年の白書の特徴と考えられます。
脱炭素との関係性
白書の第1部第1章では、資源循環の促進はライフサイクル全体での温室効果ガスの低減につながりネット・ゼロに資するだけでなく、ネイチャーポジティブの実現にも資するとして、3つの相互の連携が重要であると整理されています。
具体的な数字としては、資源循環の取組を進めることで、我が国の温室効果ガス排出量のうち約36%に相当する部門(製造業、貨物の運輸、工業プロセス、製品の使用、廃棄物等)由来の排出量の削減に貢献できると推計されている、と記載されています。
> あわせて読みたい:ネイチャーポジティブ(自然再興)とは?
■過去のテーマとの比較
第1部のテーマを過去5年分並べると、次のようになります(いずれも環境省報道発表より)。
| 年度 | 第1部のテーマ |
|---|---|
| 令和4年版 | グリーン社会の実現に向けて変える私たちの地域とライフスタイル ~私たちの変革から起こす脱炭素ドミノ~ |
| 令和5年版 | ネットゼロ、循環経済、ネイチャーポジティブ経済の統合的な実現に向けて ~環境・経済・社会の統合的向上~ |
| 令和6年版 | 自然資本充実と環境価値を通じた「新たな成長」による「ウェルビーイング/高い生活の質」の充実 ~第六次環境基本計画を踏まえ~ |
| 令和7年版 | 「新たな成長」を導く持続可能な生産と消費を実現するグリーンな経済システムの構築 |
| 令和8年版 | 循環経済(サーキュラーエコノミー)で日本列島を強く豊かに |
毎年テーマは異なりますが、3つの課題を統合的に扱う整理がよく見られます。令和5年版はネットゼロ・循環経済・ネイチャーポジティブの統合的実現そのものをテーマに掲げていました。令和6年版・令和7年版でも、課題の相互依存性を認識して自然再興・炭素中立・循環経済等の政策の統合、シナジーを図ることの重要性が紹介されています。
令和8年版では、炭素中立、自然再興との関連性が示されているものの、循環経済が単独で前面に出ている点が特徴的です。例えば令和5年版では3つのうちの1つとして並列に扱われていた循環経済が、令和8年版では第1部4章すべてを使って扱われています。
また、文脈上の変化も見られます。例えば令和7年版はサステナブルファイナンスや環境情報開示といった「グリーンな経済システム」に焦点が当てられていました。これに対し令和8年版では、経済安全保障や産業競争力、資源の獲得競争といった言葉が良く出てきます。環境政策に加えて、産業・資源政策を踏まえて作成されていると考えられます。
■第1部の内容
第1部は4章構成です。章ごとに要点を見ていきます。
第1章 循環経済への移行加速化に向けたこれまでの経緯と背景
循環経済への移行がなぜ求められているのか、これまでの政策の流れが整理されています。
政策面では、2024年8月に第五次循環型社会形成推進基本計画が閣議決定されたこと、同年7月に「循環経済に関する関係閣僚会議」が設置され、同年12月に「循環経済(サーキュラーエコノミー)への移行加速化パッケージ」が公表されたことが紹介されています。
この閣僚会議は内閣官房長官を議長とし、環境大臣・経済産業大臣が副議長を務めるものですが、2026年3月には構成員に総務大臣、外務大臣、財務大臣が加わり、会議の下に局長級の幹事会が設置されました。そして2026年4月に「循環経済行動計画」が公表されています。
> あわせて読みたい:循環経済行動計画とは?策定の背景と企業の役割を解説
第2章 循環経済を巡る世界・我が国の状況
世界の動きとして、中国による重要鉱物の輸出管理強化と中国資源循環集団の設立、EUによる電子スクラップ等の域外輸出の厳格化や新型車両への再生プラスチック使用義務化が挙げられています。白書では、もはや一次資源(天然資源)のみならず二次資源(再生資源)の獲得競争の時代に突入している、としています。
我が国の状況については、次のような数字が示されています。
- 年間で鉄スクラップ約770万トンが海外へ輸出されている
- プラスチックは約8割が焼却・埋立て等されており、再生に回るものについても国内利用の約3倍が海外に流出しているとの統計がある
個別の課題としては、リチウムイオン電池の原料調達が特定の国に過度に依存していること、中古車の輸出台数増加による資源流出、そして不適正スクラップヤードの問題が取り上げられています。スクラップヤードについては、2017年の廃棄物処理法改正で有害使用済機器保管等届出制度が創設されたものの、制度の対象外である金属スクラップ等の不適正な保管・処理に起因する騒音や悪臭、公共用水域・土壌の汚染、火災の発生等が一部地域で報告されている、と記載されています。
> あわせて読みたい:LIB(リチウムイオンバッテリー)とは? その2 LIBに含まれる金属
第3章 循環経済への移行に向けた取組
2025年の主な取組が紹介されています。
- 自動車向け再生プラスチック市場構築のための産官学コンソーシアム(環境省が経済産業省と連携し2024年11月に立ち上げ)が、2026年3月に具体的な供給目標と工程表を含んだロードマップを公表
- 再資源化事業等高度化法(2025年11月施行)により、製造業者等の需要に応じた再生材を供給する高度な再資源化事業の創出を図る。3年間で100件以上の事業認定等が目標
- 資源循環ネットワーク形成・拠点構築に関する有識者検討会の提言が取りまとめられる。鉄・非鉄金属・プラスチック等の10種類の資源と国内2地域を対象に現状・課題を洗い出した結果、循環資源の海外流出や、再生材市場が未成熟なため必要な投資が国内で進んでいない状況が明らかになったとされている
- 「資源循環自治体フォーラム」の全国展開(2025年9月の大阪開催を皮切りに全国7地域、現地とWeb合わせて2,000名超が参加)
> あわせて読みたい:資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律が全面施行されました
第4章 循環経済行動計画に基づく今後の我が国の循環経済ビジョン
2026年4月に取りまとめられた循環経済行動計画の概略が紹介されています。本計画についてはDOWAエコジャーナルでも個別に解説していますので、ここでは白書で示された柱のうち主なものを取り上げます。
> あわせて読みたい:循環経済行動計画とは?策定の背景と企業の役割を解説
メタルリサイクル推進戦略と投資目標
2030年に向け、鉄や永久磁石等について再生材供給目標を設定した「メタルリサイクル推進戦略」が、循環経済行動計画に位置付けられました。具体的な目標は、鉄(グリーン鉄)、アルミ、銅、永久磁石の4品目について設定されています。
(出典)内閣官房 循環経済行動計画(概要)
あわせて、金属やプラスチックの再資源化拠点の構築等に官民で約1兆円の投資を目指すこととされています。
不適正スクラップヤードへの規制強化
第2章で取り上げられた不適正スクラップヤードについて、制度改正の方向性が示されています。金属、プラスチック等の再生又は保管を行う事業に許可制を導入し、対象物品に応じた再生・保管の方法の基準を設けたうえで、基準違反には改善命令、措置命令、罰則を適用するというものです。
あわせて、環境汚染のおそれのある物品の輸出の際に環境大臣が確認する仕組みが創設されます。施行期日は、公布の日から2年6か月を超えない範囲内において政令で定める日とされています。なお、自治体へのアンケートにより全国で4,000件超の事業場が確認されたことも記載されています。
※改正法は2026年6月に公布されています
> あわせて読みたい:廃棄物処理法の改正案を解説! ~スクラップヤードへの許可制導入と排出事業者への影響~
リチウムイオン電池については、2025年10月に「リチウムイオン電池総合対策関係省庁連絡会議」が設置され、同年12月に「リチウムイオン電池総合対策パッケージ」が決定されたことが紹介されています。2030年までに、リチウムイオン電池に起因する重大火災事故ゼロを目指すとされています。
■第2部以降の内容
第2部「各分野の施策等に関する報告」は、分野ごとの施策を網羅的に整理したパートで、該当分野の全体像が紹介されています。令和8年版の第2部は以下の6章構成です。
- 地球環境の保全
- 生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する取組
- 循環型社会の形成
- 水環境、土壌環境、海洋環境、大気環境の保全・再生に関する取組
- 包括的な化学物質対策に関する取組
- 各種施策の基盤となる施策及び国際的取組に係る施策
■DOWAエコシステムの取り組み
今回の白書で取り上げられた分野には、DOWAエコシステムが取り組んでいるものが数多く含まれます。いくつかご紹介します。
金属リサイクル
DOWAグループでは、使用済み通信機器や、部品製造の際に発生するめっき端材などから、その形態や品位に応じた方法で各種金属を再生しています。
> 参考:DOWAエコシステム 資源リサイクル事業
レアアース磁石のリサイクル
白書では永久磁石について、2030年時点で国内供給される原材料の約3割をリサイクルで賄うという目標が示されています。当社はこれまで、使用済み家電製品に含まれるモーターからレアアース磁石を回収する技術の開発・実証に取り組んできましたが、2026年9月、「電動車駆動モーターを対象としたレアアース磁石リサイクル技術の実証事業」が環境省の令和8年度「国内資源循環体制構築に向けた再エネ関連製品及びベース素材の全体最適化実証事業」に採択されました。今後、廃車由来の駆動モーターの発生量増加が見込まれることから、回収対象を電動車の駆動モーターに広げて実証を行います。
> 参考:電動車駆動モーター由来のレアアース磁石リサイクル技術の実証事業が環境省の公募事業に採択
リチウムイオン電池リサイクル
製錬技術・焼却技術のノウハウを活かし、使用済みリチウムイオンバッテリー(LIB)のリサイクルに取り組んでいます。コバルト・ニッケル・リチウムなどの有用金属のリサイクルに加え、LIBに充てんされている可燃性の電解液を安全かつ多量に適正処理できる点が特徴です。
> 参考:DOWAエコシステム リチウムイオン電池リサイクル(パンフレット)
■おわりに
令和8年版環境白書は、第1部のテーマに「循環経済(サーキュラーエコノミー)で日本列島を強く豊かに」を掲げ、循環経済を経済安全保障や産業競争力と結び付けて整理しました。個々の制度や政策は、これまでにもDOWAエコジャーナルで取り上げてきたものが多く含まれていますが、それらが政府の年次報告の中でどう位置付けられたかは白書で確認できます。
DOWAエコジャーナルでは、循環経済に関連する制度や政策の動向を今後も取り上げていきます。
資源循環やリサイクルに関するお悩みは、DOWAエコシステムへご相談ください。
この記事は
DOWAエコシステム 企画室 後藤 が担当しました











